62話 貴方の揺るがない決意
今回の前半は花南音視点、後半は第三者の視点に代わります。
前回とは反対に、前半は花南音の方が、男性2人を困惑させるお話でしょうか…。
その後はわたくしが正式に、キャラクターデザインも担当致しますことになりまして、トキ君と碧琉さんのお2人から、細かいキャラクターの指示をいただいております。何故かお2人はゲームキャラ達には、思いの外相当な思い入れがございますようですわ。この人物はこういう性格で、この人物はこういう服装をして…と、そこまで設定が必要なのでしょうか…と思いますほどに、微妙な部分までご指摘いただいておりますわ。
確かに、これを外部に発注致しますと、言葉の行き違いや考え方の違いで、色々と問題が生じそうですわね。わたくしがイラストも描けて、良かったですわ。設定集の纏めをしておりましたわたくし、正解でしたのね?…わたくしにはこれくらいのことしか、お仕事が残っておりませんでしたもの。まさかこういう形で、ゲームへの参加が出来ますとは、わたくし本人も予想だに…致しませんでしたのよ。
何にせよ、わたくしは後悔することだけは、嫌ですのよ。ですから何に関しても、結果的に自分が撒いた種だと思うことに、しておりますわ。後悔だけはしないように、前向きに生きて参りましたのよ。それだけは、わたくしの拘りなのでしてよ。
それに致しましても、どうしてここまで拘られるのでしょうね。まるで、何処かで拝見されて来られたようですわ。わたくしが他の提案を致しました時も、お2人共に頑として、首を縦にお振りになられませんでしたのよ。わたくしが口をお出してはいけない、何かがあるようなそういう雰囲気も、ございましたのよ。あのキャラ達には、モデルでもおられますのかしらね…。
「…うん。この人物については、これでOKだ。この人物の性格は、遊び人という設定にして。」
「……おいっ!?…遊び人とは、どういう扱いだよ。この人物は、愛していた人を失い、繊細なんだよ。もうどうでもいい…と、人生を半分諦めているんだよ。」
「…それ、結果的には同じでしょうが…。それに、自分のことでもないのに、ムキにならないでください。」
「…お前なあ!…この人物は、俺達より年上なんだから、もう少し敬意を払う扱いをだなあ………」
「いや、今は居ない人物ですし、それは…必要ないでしょう。」
「…あの、この人物キャラ達には何処かに、モデルになられるお方がいらっしゃるのですの?…それとも、お2人の好みなのかしら?」
「…いや。そういう訳では…ないからね。…そうですよね、碧琉さん?」
「…いや、別にそういう訳でも………時流。自分が困る立場になった途端に、俺に振るなよ……」
…あらっ?…同性同士ということもありまして、お2人はいつの間にそれほどに、仲良くなられたのかしら…。少々、羨ましい気分ですわね。わたくしだけ女性ということで、仲間外れな気分です…。わたくしが正式に父の会社に入社致します頃には、この部署にも女性社員が増えておりますかしら…。
言い争いのようなことをされておられますお2人に、ジト目で見つめておりましたわたくし。お2人がとても慌てたご様子で、否定されておられますが、わたくしは無視を決め込みましたわ。偶には…わたくしも、拗ねたい気分なんですのよ。
「……花南音、怒らないで…。別に、花南音を除け者にしているのでは、ないんだよ。特に決まったモデルも居ないし、これらの人物には少なくとも、僕の好みは入っていないからね。これは、他のゲームを色々と参考にした時に、イメージが出来上がったんだよ。登場人物には決まった傾向があるらしく、こういう人物はこういう性格だとか、参考にしただけだよ。ただ…それだけだよ。…信じてほしい。」
「俺も一応、現実に居る人物を参考にはしたが…。時流と同様、特にこの人があの登場人物のモデルだ、ということではないよ…。」
「………。」
「花南音、ごめんね?…僕がきちんと説明しなかったばかりに、不愉快な気持ちにさせたよね…。僕が…悪かった。本当にごめん……」
「…お嬢さん、申し訳ない…。俺も上手くフォローしなかったし、お嬢さんには嫌な思いをさせたかもな…。本当に申し訳ない……。」
「……もう、お2人共。わたくし、そこまで怒っておりませんわ。ですから、もう宜しいのです。それよりもお2人は、わたくしにお気遣いはなさらず。」
「「……………」」
お2人共に、特に決まったモデルは居ないと仰られますが、わたくしにはそうは思えません。どう考えましても、あのように細かい設定は変ですもの…。わたくしの納得しておりません様子に、頭を下げて謝られますけれど、わたくしはつい強めの口調で突っ撥ねましたのよ。中学生だからと、子供扱いされたくありません。これ以上…。
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「いやあ、参ったな…。彼女は意外なところで、鋭いんだな…。」
「…以前から彼女は、割と鋭いですよ?…特に、自分の事情が全く絡まない部分では。そういうところはあまり、以前と変わらなくて。」
「…ふうん。そうなのか…。しかし、今のその言い方では、以前とは違う部分もある、と言いたいみたいだな。」
「ええ、まあ…。中身は同じ人間だとしても、時代や場所などの色々な条件が異なれば、多少の違いはあるかと思いますよ。多分、僕も貴方も何か異なっている部分があると、そう思いますよ。」
「…ふうん、そうなのかな…。それなのにお前は、彼女を探してまで追いかけているのか。俺は昔を思い出しても、相手のことはよく覚えていないけどな…。」
「…僕の場合、貴方とは違うので。僕は以前に彼女と、約束をしています。今の彼女は覚えていませんが、僕は憶えていますよ。彼女が何も覚えていなくても、僕自身は悲しいと思わない。況してや、寂しいとも思わない。僕は彼女を、忘れることが出来ない。何があろうとも、どれだけ時間が経とうとも、僕は忘れない…。」
「……昔何があったのかは知らないが、あまり自分を責めるなよ。お前だけが悪い訳では、ない筈だ。責めるだけが、すべきことではない。もうお前も、自由になるべきではないだろうか。彼女が覚えていないのならば、お前も彼女だけに拘る必要は、ないだろう。」
「確かに、僕自身が悪いのでは、ないかもしれない…。あの頃の僕は、何もしてあげられなかったからこそ、神に誓いました。彼女の約束とは、別のことを。僕の本音は、僕の力で彼女を幸せにすることです。もう二度とああいう出来事が、起こらないように…と。僕が常に傍に居て、二度と同様な事が起こらないように、見守りたい。碧琉さん…。貴方と言えど、彼女に関することには一切、口を挟まないでいただきたい…。僕は彼女のことでは、手を抜くことはないので。」
「…はあ~。分かった…。お前自身の問題には今後一切、口を出さないように気を付けよう…。しかし、俺自身に関係することならば、盛大に口を出すからな。」
彼女が帰宅した後、会社の開発室に2人になった途端、年配の男性が年下の青年に話し掛ける。例の彼女のことについて、である。彼女の性格が昔と違っていたことに、男性は本心から驚いていた。それに対し、青年の方はよく知っているとばかりに、特に驚いている様子はなかった。それどころか、彼女のことならば全てを知り尽くしている、とでも言いたげであった。
今も尚、彼女に拘っているようだな…。いや、彼女しか目に入らない、ということだろうな…。
そういう男性も、自分の過去を振り返って見る。実は昔のことは、それほど覚えていなかった。昔の男性は、誰かを好きになっていたのか、それすらあまり覚えていなかった。思い出そうとしても、それ以上は思い出せなくて、もしかしたら自分にはそれほど大切な思い出はなかったのでは、とも思っている。
それなのに、青年はよく覚えていたよな…。彼女が覚えていないと知りつつ、彼女だけを追い掛けて。別に誰でも良いのではないかと、彼女である必要はないだろうに…と、そう思って本人に訊いてみたが……。
青年は彼女と何らかの約束をしており、自分は覚えているという理由から、一方的に約束を守ろうとしているらしい。彼女が覚えていなくても、それで満足しているという雰囲気だ。自分で幸せにしたい、自分が常に隣に居て見守りたいと、そう思っているようだ。昔に何かが遭ったらしいと思わせぶりな口ぶりで、二度とそういう事態にさせないと、強調していた青年は…。
自分に口出しするな…と、警告して来た。彼女のことでは、今後一切の出来事に目を瞑れ…と、男性のアドバイスを全面的に拒否して。
青年が自らを責めているようだったので、それならば彼女を開放するという方法もある、そう思った男性は、やんわりと助言しただけだ。彼女が覚えていないのに、約束を彼だけが守る義理はないと、そう思ったからもある。また、青年が彼女に逢いたかっただけであれば、意味もなく彼女を縛り付けている、そう思うのは俺だけではないと…。彼女を開放しても良いのでは…と、そういう意味を込めて助言したのに。
青年は完全に拒絶した。彼女に何もしてあげられなかった青年は、心から後悔をする所為で矛盾する行動を取っていると、男性はそう思っていたけれど。如何やら想像以上に、青年には彼女が大切だったらしい。青年は苦虫を噛み下したような、何とも言えない表情をしながらも、眉間に思い切り皺を寄せ。酷く悲し気な顔で、それなのに怒りを抱えた声で、自分達のことには一切触れるなと、釘を刺し……。
自分だけはいつまでも永久に、覚えているのだと…。来世に生まれ変わっても、絶対に覚えているんだと…。そう言いたいが如く…。
男性は重い溜息を漏らし、諾と返答するより他に方法はなく…。そして青年に敵意を持つ気はない男性もまた、自分を巻き込む場合は容赦なく邪魔をすると、一応は忠告に止め相手にも譲歩させ、年上の威厳を保ったのであった……。
時流と碧琉の会話について行けず、花南音は仲間外れにされたような気分に。男性陣は実際に隠し事をしているので、花南音のご機嫌取りをしても、誤魔化せませんでしたけれど…。