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運命の転生劇 ~乙女ゲームの世界へようこそ~  作者: 無乃海
第三幕 『転生する前のお話 ~前世での日常~ 』 編
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60話 貴方の囲いの中で

 今回も引き続き、第三者の視点ですが、時流視点に近い形式を取っています。


前回からの続きとなるお話です。

 「…貴方様には、礼儀作法のご向上を、ご進言申し上げ致します。」


顔色も全く変えずに、そうキッパリと言い切る花南音の言葉には、時流は苦笑するしかなかった。相変わらず彼女は、礼儀作法とかの方が気になるんだな…と。確かに彼女の礼儀作法に関しては、完璧とあるとしか言いようがない。どこにお嫁に出されたとしても、十分に通用するレベルだろう。例え、それが…()()()()()()()()()()()()()…。


遠い目をしつつ、時流はそう考えていた。そして昔に…あの頃に、王族に同じ年頃の王子でも存在していれば、彼女は婚約者にされていたかもしれない。そのぐらい彼女は、あの頃も完璧だったのだから…。


先程、割り込んだ女性に激高した時流は、その女の鼻っ柱を完膚なきまでへし折ろうとして、壁ドン体勢を自ら解除した。彼女を守るのは自分だとばかりに、その女にこの上なく冷徹な冷たい態度を取る。漸く…花南音は、時流からの壁ドンを抜け出し、普段の冷静さを取り戻す。そして、これは同じ令嬢として見過ごせないと、主に親切心から出た言葉であり、彼女なりの優しさからこのように発言したのであった。


逆に言われた立場の女には、彼女のその真意が伝わらなかったようで、自らが貶めようとした少女に、ギャフンとやり込められた形となり、ポカンと大きく口を開け呆然としていた。斜め上の花南音の説教に、付いていかなかったようである。


それに対して花南音は首をちょこんと傾げ、何をそのように驚いているのか…とでも言うように、不思議そうだ。自らが高慢ちきの女を叩き潰したことには、気付いていない様子だ。


言われた当初、唖然としていた例の女は、彼女の口調や仕草など、自分とは決定的な違いを見つけ、時流の言葉にも納得し始めていた。八代様の仰られる通り、この少女は唯の少女ではないのだと…。自分よりも上位の家系のお嬢様なのだと、漸く理解するに至った訳で…。花南音からの言葉も、自分に逆らうなという忠告だと、思い込んでいた。


上位の身分で礼儀作法も完璧なお嬢様に、大した礼儀の作法も知らない身分だと、礼儀知らずな発言をしたのだと、お嬢様らしく強烈に抗議されたと思い込み。もう修正も効かないほど彼女の機嫌を損ね、八代様の怒りも買ったのだと…。


時流に睨まれ冷たい視線で見つめられた女は、「…失礼します。」と震えた声で何とか発言した後、目をうつろにさせふらふらした足取りで、その場から去って行くのであった。その姿を見守りつつ、花南音はほう~と息を吐く。時流も自らの額を片手で押さえ、「…花南音。不愉快な気分にさせて、ごめんね…。」と溜息を吐きつつも、彼女に謝って来た。


花南音の立場から言えば、時流が何故謝るのか…理解出来ないことだろう。時流の立場から言えば、今の無礼な女の行動は時流にも一縷の原因があると、責任を感じていた。大学でほぼ毎日付きまとわれ、あまりにも女性がしつこく、最近では完全に無視していたのに…。女は一方的にしゃべり捲るだけでも満足していたし、彼も無視の方が楽だと思っていたのだが、如何やら…対応を間違っていたようだ。


それに、この女を追い払ったとしても、また別の女が寄って来るだけ…という状況もあり、彼としては切りがなくて…。まさか…休日まで周りを彷徨(うろつ)かれ、個室状態に近いこの場所までズカズカ入って来るとは、時流も予想不可能だった訳で…。


「僕に付きまとうな。」と、きちんと対処していれば良かったと、思わずにはいられない…。昔から女性の扱いには困惑していたが、此方の()()()()()()()()()()よな。この国には明確な身分差もないし、今回のように家柄の差は存在していても、向こうがそれを気にしなければ、使えない手でもある。まだこうして一派市民でないのは、相手に付け込まれる可能性も低くて、良かったけれども。身分平等というのも、案外と不便なのだなあ…。


…う~む。国や世界が違うと、こうも変わるものなのかな?…昔に彼女が話していた通り、厄介なのだね、此処は…。だけど僕は、運が良い。花南音とも家柄的には問題なく、彼女は気付いていないけれども、彼女自ら商売の才覚を現わしており、彼女自身の価値も高く評価されている。僕という存在がいるので、手を出そうとはして来ないけれど、彼女に取り入りたい人間は沢山存在している。


花南音から試作品の感想を集める為とは言え、時流が知らない人間と彼女が会うとなれば、こうして彼女の元まで飛んで行くことになる。それ程彼女は時流にとっては、()()()()()()()()()()()()()なのだから。


今回は…碧琉さんで良かったよ…。他の人物だったらと想像するだけで、血相を変えた僕は、どういう言動に出るだろうか…という程に、自分を見失うことだろう。






    ****************************






 時流は花南音に、そういう邪心を持つ人間を近寄らせたくない。同性も異性も…である。特に男性が近づくのは、誰に限らず嫌なのだ。知り合いである碧琉でさえも、彼女と2人っきりで話をしたのかと思えば、腹の中が黒くなる。時流自身、自分が優しいだけの人間ではない…と、自らよく理解していた。


本心から彼が優しくするのは、花南音と彼女の周りの人間と、自分が心を許す一部の人間だけだった。それさえも彼女の敵に回るというならば、自分の身内さえも敵と見なす覚悟を持つほどに、花南音だけは特別だ。彼女の為なら全ての人類を、いや…()()()()()()()()()()、怖くないだろう。


彼女の従姉(いとこ)や親友には敵視され、また彼自身も敵視していたこともある。彼女の周りには、自分自身より彼女を優先する輩が多く、それだけ彼女が皆に好かれ、人間的に好かれている証拠でもあったが、時流には全く面白くない。彼が彼女を独占したくとも、周りの人間も独占したがるのは同じで、彼は…協力関係を申し出たことで、大勢の人間が其々の立場から、彼女を見守っている。人の好意に昔から疎い彼女は、今も何も気付かない。自社の会社のパーティに社長令嬢として出席しないのは、厄介な虫が付かない為の防御策として、周りが反対していたからだ。


父親と彼女の伯母とその娘が結託し、最近では更にプラスされ、時流と彼女の伯母の息子(花南音の従姉弟(いとこ))が参戦していた。特に末っ子が一時期、時流に複雑な心境を持ち反抗していたが、ここ数年で時流の存在を認めてくれていた。大事な姉を盗られた弟…という気持ちも、あったようで。但し、時流が存在しなければ、恋人になりたいという気持ちも芽生えていたかも、しれないが…。


最低でも5人に結託され、花南音が出席したいと本気で願えども、絶対に無理な筈だろう。麻乃に頼んで出席した花南音は、ある意味…正解なのである。実は…麻乃も保護者側におり、本来は断るべきところを、蒼唯や麻乃の姉に諭された麻乃が下りたことなど、花南音が知る由もなく…。親友も、時流に協力していた側だった。蒼唯としては花南音も心配だが、そういう過保護な麻乃も心配したのは、本人達の知る由もなくて…。


 「この場合、トキ君には…何の落ち度も、ございませんことよ?…あのお人の礼儀作法につきましては、どうしようもございませんでしたから。」

 「………。」


謝って来た時流に対し、軽く首を傾げる花南音は不思議そうな表情をしつつ、的外れの返答を返して来る。時流はあまりに逸れた内容に、脱力した。


いや、彼女がこういう事情に疎いことは、十分に知っているつもりだが、僕が謝る内容とは論点がずれている…。仕事の話ならば物凄く理解が早いのに、何故…こうなるのだろうか?…何となく…前よりも、酷くなった気がするし…。昔の方が、察しが良かったかもしれない…。


それも仕方がない。今の彼女は、そういう面を補助する母親を失い、父親を助ける為にと仕事だけを考え、生きて来た。母親との約束も勘違いしており、感情の一部が欠けていたりする。母親の入退院時の頃から既に、偽りの感情を無意識に纏っていた。母親を心配させたくないという、強い気持ちから…。これは…母親にしか、気付けない感情だろう。その母親も同様に、体調の変化を夫と娘に悟られないように、気丈に振る舞っていた状態だったので、見抜けなかったのだろう。


偶然が幾つか重なり、()()()()()()()()()()()。だからもう既に、これが彼女自身の本来の姿とも言える。今の花南音に、昔の状態に…素に戻れと言われても、何のことやら理解できないことだろう。無意識の言動でこうなったので、これが自分であると理解している彼女には…。


その彼女も明らかに、時流からの壁ドンには戸惑う。いつも以上に彼を、意識してもいた。真っ赤に顔を赤らめた彼女はとても愛らしく、戸惑う姿が子リスのように可愛くて、ついつい永遠に眺めていたいと思っていた。会社ではいくら2人っきりの職場だとしても、彼女の父親の会社でいちゃつこうとは、時流も思わない。いくら彼女の父親に、婿()()()()()()()()()()()()()…。彼女が神聖に思う会社では…。


時流は…溜息を()きたくなる。花南音は既に落ち着き、先程の恥じらう様子はもう見られない。折角やっとの思いで、良い雰囲気に持って行こうとしたのに…と、彼女には見せられない苦虫を嚙み潰したような顔で。あの無知女の後処理を含めた対策を、どう処理すべきかと頭の中で計算する、時流は。


「今後は誰も、二度と花南音に手出しさせない。」と、心の中で誓いつつも、自分を意識してもらえるように、彼女にも猛アピールすることを決意して…。そうしなければ…いつか、絶対に後悔するだろうから。


 「…花南音。今後は僕も諸々アピールするから、覚悟して。」

 「………」


時流がそう言いながら、真っ直ぐに花南音を見つめて、花南音は…。何をアピールされますのかしら…と考えていたのは、言うまでもない……。

 花南音と時流の遣り取りが続きますが、会話は殆どない状態です。


新キャラ(?)、いえ…モブキャラは今回で、完全にドロップアウトしました。前回の補足として、女性の退場するシ~ンを描いただけですが。文中にある『彼女の父親に婿として認められた』という部分がありますが、特に認められたと思っている訳ではなく、例えとして時流がそう思った…という感じですね。


これで、やっと区切りがつきました。

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