49話 貴方 対 わたくしの親友
前世・花南音視点となります。
学校の授業後のお話です。前回からの続きとなってます。
「分かっていて、いや、分かっているからこそ僕が来たくて、態と…花南音を迎えに来たんだよ。」
「………はい?」
…いえ、いえ。仰っておられる…意味が、全く分かりません。正確に申し上げますと、仰られる内容は分かっております。正確には…理解しがたい、という意味ですわ。特に、態と来られた…という部分が理解しがたくて、わたくしの頭が追い付きません。何故…このように目立つ行動を、されますの?
「…あら、まあっ!…八代様には、お初にお目に掛かります。花南音からも、また花南音とのことにつきましても、お噂は予々伺っておりましたが、こうやって直接お話をさせていただくのは、初めてでしたわ。本当に…仲睦まじいのですね…。羨ましい…ですわあ。」
…あら?…珍しいことも、ございますのね?…麻乃はどのような時でも、あまり感情を表されないお人ですのに。今の麻乃は何となく、普段とは異なっておられるように感じます…。何だか嫌みっぽいと申しますか、お相手を煽っていらっしゃるような…。トキ君に対して何か、含みを持っていらっしゃる?
「…ふっ。君が、花南音の仲の良いお友達である、麻乃さんかな?…確か近年、大手に発展した鈴宮カンパニーの社長令嬢だよね。噂では、長女である姉君は中々のやり手で活動的なご令嬢に対し、妹君はお淑やかなご令嬢らしい少女だと、お伺いしていたけれど、噂とは…あまり当てにならないね。」
…ひえっ!?…トキ君も何となく、普段とは違われている気が致します…。麻乃の感情を出された表情とは異なり、常にお隣で拝見致しておりますわたくしも、背筋が冷たくなるようなほどに、感じられましたわ…。トキ様まで…どうされましたのでしょうか?…わたくしの唯の勘違いでは…なさそうです。蒼唯さんも日高君までも、すぐ傍で固まっておられましたわ…。
「…うふふっ。お淑やかなんて、大袈裟です。八代コンツェルンや乃木・トイ・コーポレーションと、歴史の浅い我が家の鈴宮カンパニーなどとは、比べものになりません。お2人共、歴史あるお家柄のご令息ご令嬢ですもの。わたくしの令嬢としての振る舞いなど、大したものでもございませんわ。それにも拘らず、花南音には大変良くしていただいておりますのよ。わたくし、果報者なのですわ。」
「…なるほどね。君は…見掛けとは違って、とてもしっかりしたお嬢様だね。…そういうお嬢さんが友人ならば、花南音のことは…安心して任せられそうだよ。」
「…まあ、ふふ…。そう仰ってくださいますと、わたくしも嬉しゅうございますわ。花南音とは偶然にも気が合いましたのよ。彼女のことはわたくしなりに、色々と…心配しておりましてよ。」
「そうなんだ…。鈴宮さんも色々と、心配してくれているんだね…。君のように本気で心配してくれている人が、花南音の隣に居てくれると、何時でも安心していられるよ。鈴宮さん、ありがとう。」
「…いえ、いえ。八代様からのお礼のお言葉は、特に不要ですわ。八代様からお礼など、恐縮してしまいます…。これは…わたくしの意思で、自らそうしておりますので、八代様のお手を煩わせることには、恐れ入りますわ。」
「いやいや…。鈴宮さんにはこれを機会にして、きちんとお礼を言って置かなければ、僕の気が済まないよ。だから、君はあまり気にしたくても、良いんだよ。」
「まあ…。有難いお言葉ですわ。八代様も案外と、抜け目のないお人ですのね。ふふふふっ…。」
…え〜と。これは一体、何の茶番劇なのでしょうね…。いいえ、わたくしにはそう見えたというだけ…なのですわ。ですが、麻乃のご様子もトキ君のご様子も、見た目通りには、また言葉通りには…受け取ってはいけないような、そういう気が致しますのよ…。どう捉えましても…わたくしには、麻乃対トキ君の図に見えましたもの。何となくトゲトゲしい雰囲気とか、殺気のような冷気が漂っておりますとか、お2人の目がバチバチと火花を散らしておられるのが、分かりましたのよ…。
蒼唯さんも日高君も暫くの間、お2人共唖然とされておられます。漸く我に返られたご様子となり、蒼唯さんがわたくしの耳元に、そっと囁くような小声で話し掛けられて来られまして。
「……あの、花南音さん。あのお人が、八代コンツェルンのご関係者のようですが、そのような凄いお人と花南音さんは、お知り合いなのですか?」
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「…ええ。彼は、八代コンツェルンのトップに当たる社長のご令息でして、わたくしの父の会社の事業に興味を持ってくださり、既に数年前から我が社の仕事に、携わっておられます。わたくしも父に協力を申し出ておりますが、彼はそのわたくしの仕事を、補佐してくださっておられますのよ。」
「………。仕事…。協力…。補佐…。あ、あの…お2人は、もうお仕事を…されてますの?」
「ええ、そうですわね。わたくしの父は、少々頼りないお人なのですわ。わたくしの母は既に亡くなりましたので、父とは二人三脚のように協力して参りました。我が社は幸いのことに、玩具関連の会社でして、メインの顧客はお子様となりますわ。ですから同じ子供として、わたくしの意見も参考に取り入れられます。トキ君は父とお知り合いになられた時に、わたくしがしておりますことを、偶然お知りになられたそうですわ。是非とも協力したい…と、申し出されたのでして…。」
「……兎に角、お2人とも凄いですね…。私には、真似できません…。」
「いえ…特に大したことは、しておりません。通常ならば、まだ子供であるわたくし達が、仕事に参加させてくださるどころか、意見も取り入れてくださらないことは、十分に理解しておりますわ。わたくしの事情は、この松園では知られておりますが、学校以外では一切内密にしております。蒼さんもご家族の皆さんには、学校以外の事情は…他言無用で、お願い致しますわ。」
「はい、勿論ですわ。家族にも誰にも言いません。」
蒼唯さんのお家柄では、八代コンツェルンのトップや、八代グループのお家柄のお人のことは、お会いする機会もなく、ご存じないご様子でした。彼女にとっては、今迄にお見掛けしたこともない為、トキ君が八代コンツェルンのトップの社長令息というお話を聞かれましても、今一ピンと来られていない雰囲気でしたわ。
蒼唯さんとは反対に日高君のご反応は、流石に名門と言われておられる、日本舞踊の代表のお家柄だけは…ございますわね。日舞で有名な日高家の跡取りである日高君は、家柄的にも幅広いお付き合いがございますのでしょう。その上に日高君は、この松園には小学校から通っておられますので、トキ君のことは元々ご存じの筈ですわ。わたくしとトキ君との間柄も、ご存じのことでしょうね。一時期はかなり噂されましたようですし、麻乃も杏里紗ちゃんもそう仰っておられましたもの…。
実際に日高君は、あまり驚かれたご様子はされておられませんでした。先程、唖然とされていらした時とは異なり、始終落ち着かれておられます。わたくしと蒼唯さんとのお話の遣り取りよりも、トキ君の麻乃の口喧嘩のような遣り取りに、気を取られている模様でして。蒼唯さんもわたくしも、周りに聞こえないようにと十分に気を付け、小声で会話しておりましたので、日高君だけではなく、周りの生徒さん達にも聞こえなかった模様です。まあ、皆さんは…麻乃達の方へ、聞き耳を立てておられるご様子ですけれども…。
「花南音はわたくしにとっても、大切な大親友の1人なのですわ。八代様から頼まれなくとも、わたくしが力になるつもりでおりましてよ。彼女に何かございましたら、わたくし…後悔致しますわ。ですから、八代様は…わたくしとは別に、彼女のお力になってくださいませ…。その為でしたらわたくしも、八代様へのご協力は惜しみませんわ。反対に、わたくしにもご協力していただきますけれども…。」
「そうだね…。そういうことならば、そうさせてもらうよ。」
…あらあらっ?…何時の間に、仲直り(?)されたのでしょうか…。先程の冷気が嘘のように、吹雪いているような寒さが消えておりましたわ。ですが、この短時間に一体、何が起こりましたのかしら…。つい先程まで、凍る程の寒さでしたというのに…。わたくしと蒼唯さんがコソコソと会話しております間に、どういう心境の変化を起こされたのでしょうね…。不思議なことも、ございますのね…。
それでも、何かが起きたのでしても、お2人が仲良くされることは、喜ばしいことですわ。わたくしの大の親友である麻乃と、わたくしの父の会社に…最早なくてはならない存在となられたトキ君は。今更、お2人のどちらかと縁を切るなどとは、絶対に考えられませんもの。どちらかだけを選ぶという選択肢は、わたくしの心の中には…有り得ません。お2人がわたくしのことで仲違いされるのも、揉めておられるのも、わたくしにとっては悲しい出来事なのですわ。ですから本当に、心よりホッと致しましたのよ。抑々何が原因でしたのか、わたくしには今も理解が出来ません…。どのような時も穏やかな麻乃と、誰にでも笑顔で優しい態度のトキ君が、あのように攻撃的な雰囲気になられるなどとは、誰が考えられたことでしょう?
こうしてお2人は完全に和解され、こちらを振り向かれたトキ君が、にっこりと微笑まれます。麻乃はすっかり、普段の表情を取り戻され、蒼唯さんと日高君ににこやかに話し掛けられて。本当にあれは、何でしたの…。
「さて、話もきちんと付いたことだし、後は…帰るだけだ。カノの帰る用意が出来次第、一緒に帰ろうか。」
そう仰るトキ君は、満面の笑顔で言い切られ…。最早、ご一緒しない…というわたくしの意見は、ございませんのね…。
突如、中学校に現れた時流と、麻乃江の対決(?)です。どちらも中々退きませんでしたが、いつの間にか解決したことになっています。(花南音の中では)
一応、当人同士の間では、協力し合うということで、折り合いをつけた模様…。
【補足事項】
時流と麻乃江の2人は、今迄は色々あって対面しておらず、挨拶さえしていませんでした。(時流も麻乃江もお互いに興味がなかったので。)今回、漸く初顔合わせとなり、お互いにライバル認定して対峙することに…。