48話 貴方が行動する理由
前世・花南音視点となります。一応、前回とは同一日となります。
前回の予告通り、新キャラ登場です。
「…あら、まあ。日高君では、ないですか…。早速、幼馴染が心配で、ご様子を見に来られましたの?」
「…えっ?!……鈴宮さん。…そういう訳では、ないけど……。」
まだ学校に慣れておられない、蒼唯さんを案内致しましょう…ということとなり、教室から連れ出し廊下を歩いておりました。恋愛脳になられた麻乃は、あわよくば日高君と遭遇させようと、企まれたご様子でして…。ご心配をされておられた日高君は、わたくし達の教室周辺を、彷徨かれていたようですわね…。
案の定と申しますか…麻乃の思い通りに、事が進んでおりますわ。…恋愛脳、恐るべし…ですね。日高君は麻乃の問いかけに、明らかに困惑されておられましたわ。まさか、日頃は大人しめのマイペースの麻乃から、このような会話を持ち掛けられるとは、夢にも思われておられないでしょう…。
日高君の麻乃へのご返答に、どこか煮え切らないものを感じました、わたくしは。少々イラつきまして、この際ですから…とわたくしも、別の意味でご参戦をさせていただきますわ。
「日舞がお嫌になられたのでしたら、正直にご両親に打ち明けるべきですわね。若しくは、ご両親としっかり向き会われてから、ご自分の正直なお気持ちを伝えられるべきでしたわ。あまりにも急な奇天烈なことをされるのは、避けられるべきですわ。周りの皆さんが、とてもご心配されますもの。日高君が髪を染められた理由について、毎日のように議論されておられましたわ。」
「「「………。」」」
「先程、蒼さんからお伺い致しましたので、余計なお節介だと思いつつも、わたくしからも助言させていただきますわ。ご両親はご健在なのですから、今のうちから向き合うべきなのです。後悔してからでは、遅いのでしてよ…。」
「「………。」」
「…ふふふっ。そうですわよね…。花南音の仰る通りですわよ。後悔先に立たずと申しますから、日高君は少々…ご配慮が足りませんでしたわね。」
先ず、彼のなさるべきだった行動を提示し、あまりにも奇抜な行動を取られたことを、理解していただくことに致しました。更にこの愚かな行動で、大勢のお人にご心配やご迷惑をお掛けされたかを、述べさせていただきます。わたくしが既に出来ない事実を踏まえ、もう一言を最後に付け加え致しまして。
呆気に取られたご様子の無言のお2人に対し、麻乃が心底可笑しいという風に笑みながらも、わたくしの意見に賛成してくださいます。そう…正に後悔先に立たずなのですわ。
冷静となり、周りをよくよく観察致しますと、蒼唯さんも日高君も目を大きく見開かれ、信じられないものを見られたかのようでして。少々言い過ぎてしまった感もございますが、今のわたくしは、平常運転ではございませんでしたので。麻乃も、彼が配慮を怠られたと同意されましたので、わたくしは後悔致しておりませんわ。ですが、蒼さんもご一緒におられたことは、すっかりと忘れておりましたけれど。お節介過ぎたのかも、しれません…。
わたくし達の直ぐお隣で、唐突に「ふふふ。」と笑い出されたのは…。意外にも、蒼唯さんでしたわ…。わたくしが首をちょこんと傾げますと、蒼さんは再び笑い出されますのよ。わたくし、何かおかしなことを申し上げましたかしら…。何故か麻乃が肩を竦めるようにされてから、溜息を吐かれて。…麻乃さん、何か仰りたいことがございまして?
ここで漸く、日高君のターンのご様子です。最近、我が社の新しい玩具を開発する為に、カードゲームとやらを研究しております。別にカードゲームを作りたい訳ではございませんが、他の企業の商品を研究しておりましたら、麻乃からこういう言葉も教えていただきまして。持つべきものは良き友、と申しますものね。そういう意味で麻乃には、とても感謝しておりますのよ。
「参ったな…。まさか乃木さんからこういう風に、正論で指摘される日が来ようとは、夢にも思っていなかった…。乃木さんがこういう時、冗談を言う人ではないとは知っていたけど…。確かに日舞のことに関しては、乃木さんの言う通りかもしれない…。唯…俺はあの時、複雑な心境だったんだよ…。察してもらえると、有難いんだけど。」
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「…あら、まあっ!…やはり、そういうことですのね…。勿論、わたくしはお察し致しますわよ。それは、お辛かったでしょうね?」
「……っ!………」
「「…???」」
日高君のご返答は、日舞以外にも何か抱えておられる、と言いたげな口調をされました。これに対して麻乃は、食いつくようにして満面の笑顔で、日高君が仰ろうとした全ての意味を理解した、と言いたげな口調で話し掛けられます。
わたくしはよく意味が理解出来ず、内心で首を傾げておりましたわ。蒼唯さんも口には出されないものの、わたくしと同じ立場のご様子でして、キョトンとされておられます。唯お1人だけ、麻乃は理解出来たご様子でしたが、当の日高君は眉をピクピクされておられて…。あらっ?…麻乃のお得意な…恋愛脳関係なのかしら?
「…え~と、乃木さんも鈴宮さんも、見た目とは全く違う人だよね…。勘違いしないでほしいんだけど、馬鹿にしたんじゃないよ。でも2人共、ある意味では…興味をそそられるかな…。八代先輩が惹かれる気持ちが、分かった気がする。」
「…日高君とは同じクラスになりませんでしたから、そこまで軽いお人だとは、存じ上げませんでしたわ。」
「あら、あら…。浮気は…いけませんわよ、日高君。」
「…ノリ。あなた、まさか………。」
日高君が唐突な形で、わたくしと麻乃にお話を振られますが、主にわたくしに…という感じでしたわ。わたくしにしっかりと焦点を合わせられ、わたくしの方を向いて仰ったのですもの…。決して巫山戯ておられるのでは、ないのでしょうけれど、微妙なニュアンスを含ませて、わたくしに興味を持ったと思わせるような言葉を、安易に仰られるのはいかがなものでしょうか…。
そして、何故この状況で…トキ君のお名前が登場させるのか、正直申しまして意味が分かりませんわ。日高君流の冗談なのでしょうか…。今のわたくしには、笑えませんけれども。大勢の生徒さんが行き交う廊下で、このような冗談は…今後止めていただきたいですわね。ですからわたくし、皮肉って差し上げましたのよ。
わたくしの返しにクスっと笑われた麻乃も、浮気はダメですよ…と皮肉られます。まあ…彼女は、冗談のようですが。蒼唯さんは目を細められ、日高君を疑われるような素振りをされますが、口元は僅かに笑っておられますよね…。親しい間柄の関係では、こういうお顔をされますのね?…蒼さん、可愛いっ!
「……っ、いや、違うから!…そう言う意味じゃないよ…。興味に尽きない人だなあ…と、思っただけだよ…。信じてくれ、蒼…。」
「ノリはモテるのですから、安易に勘違いさせるような言葉を、言ってはいけないのよ。それに、花南音さんに失礼だわ。もう少し話す言葉に気を付けてくれないと、私も…嫌いになるからね?」
「……ご、ごめんね…。これからは気を付けるから、許してよ、蒼…。乃木さんと鈴宮さんにも失礼なことを言って、悪かった…。許してもらえるかな?」
あら、あら…。軽いノリの日高君も、蒼唯さんのお言葉には弱いみたい…。麻乃が仰っていた通り、お2人はとても仲良しさんなのですね。すっかり先程までの元気をなくされ、悄気られてしまった日高君。わたくし達にも謝られましたわ。別に、怒っておりませんでしたのに。ああいう冗談は、こういう人の目のある場所で申し上げることでは、ございませんものね…。それにわたくしも、自分が風変わりな存在であることは、認めておりましたもの…。麻乃も同じく…。
「ええ。まあ…蒼さんの仰られる通り、気を付けていただくならば………」
「ダメだよ。異性の話す言葉を、そのまま受けては。」
取り敢えず、了承致しましたという言葉を、わたくしが代表で述べますと。何故かわたくし達の後方から、聞き覚えのあるお声が聞こえて参りまして。…えっ?!…此処には既に、存在されない筈のお人の声でして…。一瞬、時間が止まったかの如く、わたくしの思考もストップ致しましたわ。わたくしは、恐る恐る…後ろをゆっくりと、振り返りまして…。
其処には、わたくしがよくご存じのお人が、わたくし達の直ぐ後ろに立っておられました。わたくしと目が合った途端、にっこりと笑顔で返されるお人は…。勿論、トキ君でしたわ…。何故、此処にいらっしゃるの?…もう既に、卒業されておられますのに。それよりも今、わたくしの言葉を一刀両断に、切り捨てられました?
「トキ君……。」
「今日は、高校の授業が早く終わったから、カノを迎えに来た。カノと一緒に、トイコーポに行こうと思って。こういう時、同じ一貫校だと便利だね。僕がこの中学の卒業生で、今も同じ高校に通っていると教師陣も知っているから、直ぐ中に通してもらえたよ。」
トイコーポとは、わたくしの父の会社『乃木・トイ・コーポレーション』の略ですわ。会社名が長過ぎて鬱陶しいので、社内での社員達共通の略称…となっておりますのよ。トキ君もすっかりと、我が社の社員らしくなられましたわね。今日は何故に、学校まで迎えに来られたのでしょう…。
「高校から直接向かわれた方が、お早いですわ。中学まで来られましては、完全に遠回りですもの。出勤に態々ご一緒されるのは、おかしいですわ…。わたくしももう中学生ですのよ…。」
「そうだね。分かってる…。分かっているから、迎えに来た。僕が迎えに来たくて…が、理由の1つかな…。」
……はい?…分かっておられるのに、迎えに来られたと仰られ、わたくしは何も考えられなくなり、ショート寸前でしたのよ……。
蒼唯の幼馴染が登場しました。彼に説教をする花南音と、彼を揶揄う麻乃…。ちょっとした彼の反撃は、蒼唯によって自滅しました…。
【補足】
社長令嬢と言っても蒼唯の家は、本来ならばこの学校に入れる資格がある程の家柄ではありません。幼馴染である日高家が、全面的に保証をするとしており、また彼女の両親も寄付が出来る余裕があるそう、と学校側に判断されたお陰で、入学出来ました。