47話 貴方のいない学校で
前世・花南音視点となります。
前回の会話からの続きとなっています。
「ですから、お父上の会社のことは、あまりお気になさらなくとも、宜しいのですわ。一部のお人は気になさいますけれども、一時期よりは言動に出されるお人達も、おられませんのよ。」
「相応の対応でしたわね。松園らしいと言えば、そうでしょうけれど。他の私学では考えられないことでしょう。わたくしも入学当時は、相当言われましたのよ。花南音が別格なだけですわ。」
「………。」
「あまり深く考え過ぎない方が、よろしくてよ。この松園は、寄付を沢山してくださり、また気品のある生徒を求めておられますわ。」
新入生の蒼唯さんは、お家柄が中小企業だと気にされておられますが、麻乃も自分が入学出来たのだからと、フォローされますので、わたくしも寄付が重要だというお話をお伝え致しましたのよ。この話には、お2人共納得されたご様子ですわね。
あと一押しでしょうか?…虐めなどはございませんわ、とわたくしがファロー致しましたのに、麻乃が余計なことを…仰られますもの。相応の対応などと大げさに仰るものですから、蒼唯さんが気後れされてしまいましたわ。それに…わたくし、別格などではございませんわよ?
麻乃のお言葉は兎も角と致しまして、気品のある生徒を求めるのは、松園の信念からなのですわ。その後、何とか笑顔になられた蒼唯さんからは、「私の事は、宜しければ…『蒼』と呼んでください。幼馴染からも、そう呼ばれていますので…。」と、ご信頼のお言葉をいただけたようでして、心から嬉しく思いましたのよ。
後で詳細にお伺いしたお話に依りますと、名倉物産という会社をお父様が経営されており、所謂わたくし達と同じく、社長令嬢でしたのね。彼女にはお兄様がお2人いらして、ご兄弟妹の中では一番の甘えん坊の末っ子…だそうですわ。
麻乃とのご関係は幼馴染ではなく、お知り合い程度よりも親しくされている、という関係だそうですわ。まだ幼いの頃にご出席されたパーティで、何となく仲良くなられたようでして。親御さんの会社のお付き合いで、お2人共パーティには仕方なくご出席されていらしたようですし、気が合った…ということでしょうか。
わたくしとトキ君の出会いとは、全く異なりますけれども、ご関係と致しましては似たようなもの…なのかしら。わたくし達の場合、一方的にトキ君がお知り合いになられた、という気が…。「どうやってお知り合いに、なられましたの?」とご質問されましても、上手くご説明を致しかねます…。
この松園中学には、幼馴染のお人が通われておられるそうでして、そのお人の紹介でしたのね。麻乃のことではないご様子ですから、何方のことなのでしょうね?…わたくしも存じ上げておりますかしら?
「私の家とお隣の家が『日高 恭典』君でして、私の幼馴染なのですよ。実は前の小学校で、私は…意地悪をされていて…。虐めまでではないけれど、地味に痛い嫌味を…頻繁に言われていました。『お嬢様なら、これは出来るでしょう?』とか『お嬢様なら、私達とは違うでしょう?』とか、言われていたんです。私はあまり気にしないように、してました。でも、幼馴染にはバレて…。それで両親にもバレたんですよ。中学からはこの学校に通うようにと、両親だけでなく…彼の両親にも勧められて。それでも、私が受かる訳がないと軽く考えていたので、正直…合格して戸惑っています…。」
蒼唯さんが、幼馴染のことを語られます途中で、よく見知ったお名前が出て参りました。…日高君とは…お隣のクラスの?…金髪に染めていらした、目立つお人…ですわよね…。一時期、小中学校では知らないお人がおられない程に、話題になられたお人ですわ。
「…まあ。それは災難でしたのね?…誰にでも身の丈に合う学校がある、ということかしらね。お隣のクラスの日高君が、蒼唯さんの幼馴染なのですね。彼は有名な日本舞踊のお家柄の息子さん、でしたかしら…。確か去年までは、金髪に髪を染めておられましたけれども、あれは…どういう意味なのかを、蒼さんはご存じなのですの?」
「………。」
「……花南音。それを今…聞かれますの……。」
突然、日舞の跡継ぎとあろう者が、何故に金髪に染めたのかという理由で、物議を醸し出された訳ですわ。わたくし個人的には、彼個人にあまり興味を待ち合わせておりませんでしたので、日舞の家系ともあろうお人が、髪を染めるなど言語道断だとは、感じでおりました以外は。彼ご本人と個人的には面識もございませんし、同じクラスにもならず、全く接点はございません。
…ですか、蒼唯さんのお知り合いでしたら、蒼唯さんの為にも、ハッキリとさせねば参りませんわね…。そういう決意でお尋ね致しましたのに、クラス中がシ~ンとなってしまいましたわ。どうやらクラスの皆さま、聞き耳を立てておいでのご様子です。お行儀が悪いですわ、皆様…。
蒼唯さんはこれ以上ない程に目を見開かれ、麻乃はギョッとされたお顔で。それ程に…深刻なお話ですの?…わたくしが首をちょこんと傾げてみますと、蒼唯さんが「…ふふふ。」と笑い出され、「花南音らしいですわね…。今更になって、聞かれるのですものね。」と麻乃が苦笑され。
失礼ですわね、麻乃…。貴方も、他のお人のことは申し上げられませんわよ。日高君の金髪の件は、貴方も絶対にご興味なかったでしょうに…。
****************************
「花南音さんは、真っ直ぐなお人なのですね。少し考え方が、ズレていらっしゃる気はしますが…。花南音さんと知り合えて、良かったです…。実は、『ノリ』から聞かされていたんです。花南音さんは名家の家柄でも、威張ったり嫌みを言ったりされなくて、その上礼儀作法は完璧だと…。本当に、彼から聞いていた通りのお人ですね。」
「そうなのですわ。花南音は、いつでもこの調子なのですわ。わたくしも他の人のことは言えませんが、こういう部分がなければ、花南音は完璧ですのに、本当に惜しいお人ですのよ。」
「…麻乃。それは、どういう意味ですの?…麻乃こそ、わたくしから拝見致しましたら、十分に変わったお人ですわよ。」
「はい、はい。わたくしが変わっておりますのは、家族も知っておりましてよ。ですから、わたくしはそれで良いのですわ。」
「…ふふふ、羨ましい…。お2人は、とても仲が良いのですね。」
蒼唯さん…。わたくし、そんなにも…ズレた考え方をしておりますかしら?…わたくし的には、麻乃よりはいくらかマシかと、思っておりましたのに…。一体、何処がどうズレておりますのか、自分では分かりませんわ。
麻乃に余計な一言を頂戴致しましたので、麻乃に意趣返しを致しましたけれども、家族にも知られておりますから今更ですよ、という含みを持たせてご返答されましたわ。麻乃のこういうところは潔ぎ良くて、わたくしも好感が持てますのよ。
わたくし達の言い合いを、当初は呆然と見つめておられた蒼唯さんも、もう既に慣れて来られたという雰囲気かしら…。とても仲が良いと仰られますと、何か…引っ掛かりますけれど。
「『ノリ』のことでしたら、私も…事情は一応、知ってます。」
…のりのこと?…とは、何のことでしょうか…という風に、わたくしは首を傾げておりました。麻乃も眉を顰めておられます。
「あっ、その…今話題に上った、幼馴染のことです。彼の下の名前が『恭典』なので、普段から『ノリ』の愛称で呼んでいて、つい癖で呼んでしまって…。」
「まあ、まあ…。ふふっ…。以前から思っておりましたことですが、貴方達は幼馴染というよりも、恋人同士みたいですわね。仲が宜しくて、羨ましいですわ。」
「…えっ!?…い、いえ…。そんなことは、ないですっ!」
蒼唯さんが仰られるには、幼馴染の日高君の愛称でしたのですね。わたくし達の不審がる表情に気付かれ、慌てて早口で幼馴染のことなのだと、ご説明されるのでした…。この特殊な呼び方は、とても仲の良い証拠ですのね…?
また、麻乃は……。今度は、蒼唯さんを揶揄われておられますのよ。揶揄われた蒼唯さんは、真っ赤になられたお顔で、大慌てで両手をブンブンと音が聞こえそうな程に振り回されながら、否定なさっておられますが…。その否定は、麻乃には逆効果ですのよ…。その証拠に、面白いことを見つけられた時の麻乃のお顔になられ、ニヤリと微笑まれておられますもの。ああ、これは…。麻乃の恋愛話好きのスイッチが、入ってしまわれましたのね…。
「もしかして、あの金髪にされたのも、蒼唯さんに関係あることなのかしら?」
「…っ!………。い、いえ、そうではないと、思います……。」
…あら~。麻乃の好奇心のスイッチを更に、押されましたわね…。蒼唯さん、お気の毒ですわ…。否定すれば否定するほど、麻乃の恋愛関連スイッチは、留まることをしりませんのよ。麻乃自身には恋愛経験もなく、今までに何方かとお付き合いされてませんし、お好きな殿方もおられません。恋愛小説・恋愛漫画・恋愛アニメ、将又…恋愛ドラマ、そして…乙女ゲームの数々を読破中、若しくは攻略中なのでしてよ。それらから仕入れた情報を元に、恋愛の匂いを嗅ぎ取られるのです。本当に麻乃の方が、別格だと思いましてよ…。
「それでは、別の理由がございますの?」
「…え…ええ。ノリは…あの頃、日舞に不満があったようで…。その時、日舞を辞めると言われ、あのようなことを…。両親への抵抗もあったのだと、思います。今は…落ち着いたようです。」
「…ふふっ。では、そういうことに…しておきましょう。」
「………。」
蒼唯さんが感じられたものとは、本当は違う…と麻乃は嗅ぎ取られたようですわ。わたくしも時折、麻乃の餌食になりますの。麻乃と友人となられた以上は、蒼唯さんも…諦めなさってね?
花南音は、蒼唯のことを、本人に話し掛けたりする時は『蒼さん』と呼び、本人に呼び掛けていない時は、『蒼唯さん』としています。
麻乃江は、『蒼唯さん』呼びのみとなります。今までもそう呼んでいましたので。
また、新しい人物の名前が出て来ています。彼は…次回、登場予定です。