46話 貴方には追いつかず…
今回の副タイトルは、あまりタイトルと内容は関係ありません。もうお気づきだと思われますが、単に『貴方』という文字を使用したくて、という理由から来ています。つまり、第三幕では番外編以外は、全ての副タイトルに入る予定です。
番外編は別として、あれから数年経ったという設定です。今回も、前世・花南音視点となります。
あれから…あっという間に、松園小学校を卒業致しまして中学生となりました。月日が経つのは、実に早いものですね。中学生ともなりますと、今までとは違いまして、恋愛事に関する会話が彼方此方から聞こえて参ります。わたくし達の周りでも、男子に恋する女子生徒や、女子に恋する男子生徒のお姿も、お見掛けするようになりましたわ。
松園中学校へと進学致しますわたくしには、一学年上に従姉妹の杏里紗ちゃんがおられます。残念ながら、トキ君とノンお姉様は、既にご卒業されてしまいました。今はお2人共、松園高校に通われておられます。小学校と中学校はお隣同士でしたので、通学途中でもお会いすることは出来ましたけれども、松園高校の校舎は別の場所にございますので、学校で毎日お会いすることは出来なくなりましたのよ。
松園高校は、交通の便の良い場所に建てられております。しかし、どちらに致しましても、お金持ちの子息子女ばかりが通っておりますので、一般的な交通手段は利用致しません。ご自宅の送迎用の専用車で、登校されるのですわ。逆に交通渋滞が起こりまして、不便だったり致しますのよ。
一般的な私学の学校は、高校からは一般市民の生徒さんも、受け入れておられますが、この松園高校に限り門が開かれておりません。ある程度の裕福な家柄で、その上それなりのお家柄でございませんと、高校受験も出来ないのですわ。色々と警備上で問題があるそうで、授業も一般家庭では受け入れられない、将来の経営者としての心得のような授業も、ございますのよ。
その為、一般市民の受験は受けつけておりません。上を目指すお人を育てる学校ではなく、既に上の立場にいる者を育てる学校、なのですわ。ですから、通っている生徒数も多くはなく、クラス数も2クラスしかございません。お家の都合で途中で転校されますと、この分を補なうだけの補充しかされません。過去には、中学から3クラスにと増やした時期もあったようですけれど、その分…問題児が増えたようでして、2クラスに戻されたそうですわ。何年も同じお顔触ればかりですし、融通も利きやすい点もございまして、わたくしには大変助かりますわね。
今年は、中学から少数の新しい生徒さんが、ご入学されましたわ。そうでしたわ。わたくしのクラスにも、入って来られましたのよ、男女お1人ずつ。皆さんも興味津々という雰囲気で、男子はその新入生男子を、女子はその新入生女子を取り囲む形となりましたのよ。男子の新入生は明るいお人でして、数分でこのクラスに馴染まれたご様子でしたわ。
それに対して女子の新入生は、恥ずかしそうにしておいででしたわ。クラスの女子生徒に囲まれて、とても困っておられるご様子でしたのよ。麻乃が彼女に、声を掛けられるまでは。麻乃はおっとりした口調で、彼女に話し掛けられまして。
「…まあ。蒼唯さん…ですわよね?…お久しぶりですわ。暫くお会いしておりませんでしたけれども、お元気でしたかしら?」
「……!……。あっ、麻乃江さん…。お久しぶりです…。麻乃江さんも、松園中学に通われておられるのですね…。良かったです…。顔見知りのお人が他にお見えで、安心致しました…。」
お2人は以前から、お知り合いのご様子です。わたくしは未だに、我が社が主催するパーティですら、出席したことがございません。ですから、この学校以外に通学されておられるお人とは、お知り合いになる機会が…全くございませんのよ。
本来でしたならば、わたくしは疾うの昔に我が社主催のパーティには、社長であられる父と共に、社長令嬢として出席しなくてはなりません。遅くともそろそろ、中学生になります機会に、他の取引会社のパーティにも出席し、自分の顔を売らなければなりません。それなのに、父も伯母夫妻も杏里紗ちゃんまでも、親戚中が大反対されますのよ。わたくしが何か遣らかしそうにでも、見えますのかしら…。
わたくしは人見知りではございませんし、あがり症ということでもございません。特に病弱という訳でもございませんし、礼儀作法に問題があり令嬢らしくない…と言う訳でも、ございませんのに。そうして反対されるのは、実は…父だけではございせんわ。何故か最近は、トキ君も大反対されますのよ。
「花南音。君が出席するまでも、ない。僕が代わりに顔を出しておくから、心配は無用だよ。」と、仰られまして。…どう言う意味なのでしょうね?…トキ君のお顔を売られても、わたくしの顔を覚えては…いただけませんわ。その上、つい先日は…杏里紗ちゃんの弟のライ君までもが、反対されるようになられて。わたくし、それほどに…頼りなく見えますの?
トキ君も杏里紗ちゃんも、わたくしには…途轍もなく甘いのですわ。唯、ライ君の反対には少々、ショックでしたわ…。5歳も年下の彼に…反対されるとは、予想外です…。御年8歳のお子様であるライ君は、既にご出席されていらっしゃる…と、申しますのに。13歳のわたくしが、何故か…反対されておりますのよ。
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「初めまして。わたくし、『乃木 花南音』と申します。松園には、小学校から通っております。父は、乃木グループ『乃木・トイ・コーポレーション』の代表ですの。わたくしも、父の跡を継ぐ為、修行中の身ですわ。どうか…わたくしのことは、『花南音』とお気軽にお呼びくださいませ。」
「………。あの…私は、『名倉 蒼唯』です。3月まで地元の公立小学校に通っていました。色々と面倒な事もあったので、松園に通う…知り合いの伝手を使い、受験したら…。偶然でしょうけど、合格しまして…。」
「まあ。そうなのですのね。松園では、お家柄のこともございますから、偶然ではなく必然だと思いましてよ。」
「………。」
新入生の女子生徒さんは、麻乃のお知り合いでしたので、現在は麻乃の親友でもあるわたくしも、ご挨拶致しましたのよ。とても緊張されている、ご様子ですのね。受験の際には面接もございまして、今回合格されたということは、ある程度の家柄のお嬢様だと認められたのでしてよ。そういう意味で申し上げますと、彼女のお顔が青褪められ…。
「花南音は蒼唯さんのことを、本気で褒めておられますのよ。彼女は、裏表のない誠実なお人ですわ。唯…既にこの歳で、親の会社に人生を賭けておられます、変わったお人ですけれど。」
「まあ。麻乃こそ、褒めないでくださいませ…ね?」
「いえいえ。単に褒めるだけでは、ございませんのよ?」
透かさず、麻乃がフェローしてくださいます。ですが…何故か、褒められております気が致しませんわ。敢えて、褒めていただきありがとう、という意味を含めますけれども、麻乃も嫌みな意味を含めて来られます。
「………。」
わたくし達の嫌みの応酬に、蒼唯さんは…ついて来られない、というご様子です。別に本気で、皮肉の応酬はしておりませんのよ。麻乃とは小学生の頃からのお付き合いですものね。実は、何でも言い合える仲ですのよ、わたくし達は。こういう遣り取りも、何時ものことでしてよ。
『鈴宮 麻乃江』というのが、麻乃のフルネームです。新興系で歴史も浅く、近年になって急成長した企業、『鈴宮カンパニー』の社長令嬢なのですわ。祖父の時代に会社を創られ、父の代で急成長させた…という会社ですのよ。彼女が松園小学校に入学された当時、由緒正しい家系ではないと、悪く仰られる生徒さん達も、何人かおられましたわね。麻乃は、おっとりとした温和な性格でして、全く気にされてもおられませんでしたが。
ちょっとした切っ掛けで、わたくしと麻乃で意気投合致しまして、その後は学校でも共に過ごしておりますわ。何時からか、彼女の家柄を悪く仰るお人も、おられなくなりましたわね。「花南音のお陰で、見下されなくなりましたわ。」と、麻乃からは何故か…感謝されますけれども。わたくし…何もしておりませんわ。
そうお伝えしても、「花南音はある意味、変なお人ですわね…。」と、麻乃の言い分には理解不能ですわ。そのお言葉をそっくり、麻乃にお返し致します。わたくしから申し上げれば、麻乃の方が…変ですわよ。
麻乃は 歴とした大手企業の社長令嬢ですが、わたくし達令嬢が拝見しない類 のテレビドラマやネットの動画、それから漫画・アニメまで、幅広く見られておられます。それに、乙女ゲームとかにも…嵌っていらっしゃる、とか…。見た目は何処からどう拝見しましても、完璧なお嬢様ですのに、中身は…わたくし達とは、何処か異なるご様子なのでして。わたくしも、上手くご説明が出来ませんけれども。
周囲の環境の問題だったと、麻乃は仰られますけれど、何が環境の問題なのかは、お伺いしておりません。長いお付き合いではございますが、麻乃のこういうところは、未だに…わたくし、よく理解出来ておりません…。
「あ、あの…私の父は、中小企業の会社を経営していて、本来はこの松園には通う資格がありません。ですが、推薦してくださった方の息子さんが、この学校に通われているので、もしかしたら学校側も、断りづらかったのかも……。」
「まあ…。そのようなことは、決してございませんわ。この松園では、篩い落とすと決定されましたら、絶対に何があろうとそうされますのよ。一概に家柄だけで決定された…と、いう訳ではございませんわ。そうでなければ、わたくしも松園に通っておりませんもの。」
「そうですわ。紹介してくださるお人の影響も、あるかもしれませんけれど、松園に信頼された…ということですわ。要は、松園に寄付が出来るかどうかが、重要課題でしてよ。」
なるほど…。麻乃の応えは、的確です。多分…その通りですわね。わたくしの家も多大な寄付をしておりますから、重々承知しておりましてよ。……ふっ。(※目を細めて遠くを眺めつつ)
今回からは、花南音が漸く中学生になりました。
新キャラが2人登場しました。1人は小学校からの親友、もう1人はこれから親友になる、という位置づけのキャラ達です。
※副タイトルの『貴方』は、誰から見たかに依っては、その都度対象が異なるかもしれません。(大抵は主人公→ の筈ですが。)