45話 貴方への想い
前世・花南音視点となります。前半は、前回の会話の続きからです。
後半は、また別の日(後日)となります。
「…ええ。勿論ですわ。トキ君には、いつもお世話になっておりますもの。ですから、わたくしで出来ることがありますのなら、何でもして差し上げたいと思っておりますの。トキ君は…わたくしにとって、大切なお人なのですもの。」
このようにわたくしが発言しました途端に、ノンお姉様はもうそれはそれは、お花が開いた瞬間のような、満面の笑顔になられて、一瞬こちらの方が目が眩みそうになりましたわ。ノンお姉様の笑顔が…眩しいです。これでは、周りの男子生徒は、ノンお姉様の魅力的な笑顔に、惑わされておられることでしょうね?
「花南音ちゃんは、時流君のことを…大切に思っておられるのねっ!」
「はい。そうですわね。トキ君には、いつも我が社の新しい取り組みを、提案していただいておりますもの。お陰で、我が社の社員達も、大いにやる気を出して頑張っておりますわ。わたくしも、心より感謝をしておりますのよ。」
「……新しい取り組み……提案……感謝……。」
「はい。そうなのです。本当に感謝の気持ちで一杯ですのよ。ですから、日頃の感謝とお礼を含めまして、何かわたくしに出来ることはないかと、そう思っておりましたのよ。そう思うタイミングで、トキ君が何か…悩みを持っておられるご様子を、お見受け致しまして…。わたくしが、お助け出来ないものかと…。」
「………。」
当初はとてもキラキラした表情で、とても嬉しそうにされておられたノンお姉様でしたが、わたくしの語りが進むにつれ、何故かお顔を…引き攣らせておいでのご様子でして。…あらっ?…わたくし…何かおかしなことでも、申し上げましたのかしら?…不思議に思いながらも、わたくしは引き続きお話掛けまして。
「そこでお伺いしたいのですが、ノンお姉様も妹が欲しかった…のですの?」
「…えっ?!…わたくしが…妹が欲しかった?…それはまあ…そうね。花南音ちゃんもような妹ならば、欲しいかも…。それが、どうされましたの?」
「やはり…そうなのですね?…でしたら、トキ君も同じなのですね…。」
「…時流君が同じとは…?」
「トキ君も…妹が欲しかったのですね?…いつもわたくしのことを、必要以上に心配してくださって、わたくしを大切にしてくださっているお気持ちが、伝わって参りますので。妹として、見守っていてくださったのですね…。わたくしも…トキ君やノンお姉様のことは、実の兄と姉のようにお慕いしておりますわ。」
「………。」
ノンお姉様に、妹が欲しいのかどうか…とご確認致しましたら、わたくしみたいな妹が欲しかったと、わたくしに気を遣って言ってくださいますのよ。…ふふふっ。例え話だと分かっておりましても、お慕いしておりますお人から、そう伝えていただけるのは嬉しいですわね。トキ君も、ノンお姉様と同じお気持ちで、わたくしに接してくださっていたのですね。わたくしには兄弟姉妹がおりませんから、一気に兄と姉が大勢出来たような気に、なってしまいますわ。
「わたくしが……姉で、トキ君が…兄……。」
「ええ、そうですわ。……あの、ご迷惑…でしょうか?」
「……っ!……。ち、違いますっ!…決して、迷惑とかでは…ありませんっ!…寧ろ、わたくしは実の姉のように思ってくださって、本当に嬉しいですのよ。…ですが、時流君は違うでしょうが……。」
「…えっ?…トキ君は、ご迷惑なのかしら?」
「…い、いえ、そういうことではなく……。わたくしから申し上げる事では…。でも………。」
「……???」
ノンお姉様は暫く、唖然とされたご表情でして、姉と兄の扱いに戸惑われたご様子で、小さく呟かれておられます。…ご迷惑でしたのかしら?…不安に思い、そうお尋ねすれば、今度は物凄く慌てたご様子で、否定なされますのよ。しかし、トキ君が違うとは…どう言う意味なのでしょうか?…お姉様から申し上げなれないとは、余計に意味が分かり兼ねます…。わたくしがこてんと首を傾げておりますと、やっと落ち着かれたのか、彼女はふう~と息を吐かれたのです。どうされたのかしら?
「…花南音ちゃん。例え時流君がどう思っていらしても、あなたは今のままで良いと思いましてよ。兄としか思えなくとも、それでも良いので、彼とは距離を置かれないよう、お願いしますね。せめて、彼のことを嫌わないであげて…くださいませ…。花南音ちゃんに嫌われたり、距離を置かれたりする方が、ショックを受けますわ。今のままでお願いしますね?」
「…はい。(何のことやら、よく分かりませんが…。)了承致しました。こういうことでしたら、大丈夫です。トキ君に嫌われることになりましても、わたくしは恩を感じておりますし、わたくしからは絶対に…嫌いにはなりませんもの。」
****************************
その数日後、いつものように、我が家に皆様が集まっておられますと、我が家の使用人が慌てた様子で、客間に駆け込んで来ます。出社された父から、開発室の方でトラブルが起きたので、至急来てほしいとのご連絡でして。取り敢えず、父の電話に取り次いでいただくと、開発室にあった筈の資料や見本が幾つか失なった、というお話でしたわ。
我が社の一大事…ですわね。客間に戻り皆様にご説明致しまして。父から至急出社ようにと、連絡があった事。その内容が、わたくしが関わる部署で起きたトラブルである事。そして、わたくしが解決する必要がある事。その為に、今から会社へ出向くこととなった事。以上を、わたくしは皆様にお伝えしたのです。
これに対して皆様は、理解を示してくださり、わたくしが帰宅するまでは、我が家で待ってくださると、仰られますのよ…。いつ戻って来れるかも、皆様がご帰宅されるまでに、戻って来られるかどうかも、全く見当も付きませんのに…。
「それと、花南音は忘れているみたいだけど、君が行く必要があるのなら、僕も行く必要があるんだよ。当然、僕も行くからね。僕は、カノを手伝っているのだから、僕が出社しないというのも、おかしいよね?…だから、僕も行く必要があると思う。花南音が必要ないと言っても、絶対に僕も行くよ。僕はもう…君と同じ開発室のメンバーなんだと、いい加減に理解してほしいかな…。」
…ううっ。トキ君からそのように仰られてしまいますと、拒否は不可能でしてよ。ですが……宜しいのでしょうか?…トキ君にも、皆様のお言葉にも甘えてしまっても。使用人達に、お帰りの時間やお客様へのご対応を、よくよく…お願い致しまして、トキ君と共に我が家を飛び出すように、外出致しましたわ。(わたくし専属の車にて出掛けます。)
「カノ、大丈夫だよ。直ぐに見つかる筈だ。」
車に乗り込んだ後、父からお聞きした内容を、トキ君にお伝え致しますと、わたくしを宥めるかように、優しい言葉を掛けてくださいます。わたくしの手をギュッと握られて…。きっと…わたくしの顔色が、優れなかった所為ですわ。平静を装っておりますつもりでも、自分でも落ち着かない気分なのは、分かっておりますもの。部外者は入れない筈ですけれども、だからと申しまして…安心は出来ませんのよ。開発室に行ってみないことには、埒が明きませんわね…。
漸く会社に到着しまして、慌てて入口のゲートを通り抜け、開発室へと急ぎます。我が社では、こういうセキュリティの開発もしておりまして、専門のセキュリティ会社の機械にプラス、我が社独自の技術が導入されておりますのよ。まだまだ我が社だけでは、完璧なものを製作するのは不可能ではありますが、将来的には自社のソフトだけで、セキュリティ強化する予定なのですわ。
開発室に駆け付けて中に入りますと、開発室の社員達が、待ってましたとばかりに出迎えてくれます。詳しいお話をお聞きし、本来の保管されている場所や、この部屋の中全てを確認して回ります。どうやら…保管の仕方に、不手際があった模様ですね…。今年入社したばかりの新入社員が、我が社が外注している掃除会社に、開発室の掃除も許可してしまった模様です。
幸いにも無くなった資料や見本は、既に発売しているものですし、商標登録されております。似た物は作れるかもしれませんが、無くなった資料などは一部ですし、これだけでは完璧な商品を作ることは、不可能だと…思われます。それにあれは、他の会社から提携を受けた物ですので、単独販売は難しいかと…。要するに、よく分からない人間が、持ち出したと考えられます。
外注の掃除会社に、他社製品の情報を盗むスパイが、潜り込んだ可能性も出て参りましたわね…。実は…外注の掃除会社は、うちの乃木グループの子会社なので、本格的に調査すれば、直ぐに犯人が分かりそうですが、資料と見本は既に、外部へ持ち出された可能性も…ございますかしら…。
さて、どう致しましょうか…。そう大した被害ではない…と思われますけれども、一社員と致しましては、あれもこれも…貴重な資料でして、是非とも後世に残したい資料でしたのよ。
社員には冷静に対処するように、上司から指示を出してもらい、わたくしは開発室の代表者して社長室に向かいます。トキ君もついて来られますが…。彼に内容を聞かれても、今更困る事情はございません。父には可能性も含めてご報告し、今後どう対応するかをご相談しておりますと、何時の間にか隣の秘書室におられたトキ君が、社長室に戻って来られますと、「花南音。後は、僕に任せて。」と仰られて。八代グループのご協力が、得られる模様です。…ええっ?!…宜しいのですの?
この時ばかりは、彼の存在を改めて思い知らされますわね。彼もまだ中学生の子供ですのに、侮れないお人…ですわね。……あら?…先程から、彼に呼び捨てにされてます?!………何時の間に。
前半では、花南音が野乃歌を振り回しております。それに対し後半では、花南音・父の会社で事件(?)が起こり、時流がグイグイと…迫って来られまして…。
はてさて、彼の本心とは………。