43話 貴方の従妹の突撃
前世・花南音視点となります。
3年が経ち、花南音が小学4年生、時流が中学2年生に、なりました。
あれから…3年も経ったある日。突然、松園小学校の迎えの車の前で、とある人物に突撃をされました。そのお人は、この松園の中学ではなくて、別の系列の中学校に通われていらっしゃるらしく、この日お会いするのが、初めてでしたのよ。
「…まあ、まあっ!…とっても愛らしいお嬢様ですこと!…時流君ったら、本当に隅に置けないわね…。確か…乃木グループのお嬢様ですわよね?」
「……はい。わたくしは確かに、乃木グループである社長の娘ですが、あの…ご無礼を承知で申し上げ致しますが、どちら様でしょうか?」
「…!…。まあっ!…礼儀作法に厳しいとお聞きしておりましたが、遠田家ともご親戚というだけは、ございますわね?…あらっ!…わたくし、名乗るのを忘れておりました。『槇野 野乃歌』と申します。『八代 時流』とは、従兄妹の関係となりますの。わたくしったら、何という無作法を…。…ああ、わたくしのことを、嫌いにならないで…くださいませね?」
「………。」
…え〜と。まるで…弾丸のように、早口で迫って来られる槇野様。槇野家も、八代グループの一族であることは、有名なのでして。お互いにお会いするのは、初めてではございますが、トキ君と同じ年頃の槇野家のお嬢様がいらっしゃるのは、存じ上げておりました。しかし、あまりにも…急過ぎる出来事に、わたくしはただ…呆然としておりましたわ。
「…はあ~。早速…暴走したんだね、野乃は…。カノが驚くから、あまり困らせないでくれないかな?…カノは君と違って、マイペースなんだよ。」
わたくしがタジタジになり、この後どうお答え致すべきかと、内心で首を傾げておりました時、槇野様の背後から、声変わり中と思われる、男子生徒のお声が掛かりましたのよ。槇野様は勢いよく振り替えられ、わたくしもハッとしたように、顔を上げました。そこには、トキ君が…立っておみえでして。戸惑っておりますわたくしを、助けてくださったようですわ。
「時流君…。もうっ!…あなたが、教えてくださらなかったのですよ。わたくしは、何度も何度も何度もっ!…お会いしたいと…申し上げましたわ。…本当に…狡いですわね…。こんなにも愛らしいお人と、ご自分だけ仲良くしておられるなどとは…。わたくし、納得出来ませんことよっ!」
「……はあ〜。これだから野乃には、紹介したくなかったんだよ…。」
トキ君がお声を掛けられたと知られると、槇野様はご自分の従兄であられる彼に、不満を捲し上げられましたわ。如何やら彼が、わたくしを紹介したくないと、渋られたご様子なのでして。…え〜と。槇野様は、中々に…癖のあるお人のようですわね…。「時流君のケチ!」と、槇野様が文句をつけられれば、「この暴走娘が…」と、トキ君は小声でブツブツと呟かれたり…。わたくしは、ただ…苦笑しておりますけれど。
「槇野様、わたくしのことを知っていらっしゃるとお見受け致しますが、改めてご挨拶させていただきますね。わたくしは、『乃木 花南音』と申します。現在、松園小学校に通う4年生ですわ。トキ君とは3年前から、親しくさせていただいております。父は、乃木グループの『乃木・トイ・コーポレーション』の社長をしております。わたくしも、父の跡を継ぐ為、修行中の身ですわ。槇野様、どうか…わたくしのことは、『花南音』とお呼びくださいませ。」
「まあ!…早速ですから、『花南音ちゃん』とお呼びしても宜しくて?…わたくしのことも、是非とも『野乃歌』と下の名前で呼んでくださいな。…あっ!それとも…よろしければ、『ノン』と呼んでいただくのもいいわね?…『ノン』という呼び名は、わたくしの学校での愛称ですのよ。」
「…まあ。とても…愛らしい愛称でございますね?…では、『ノンお姉様』と…お呼びさせていただいても?」
「……っ!……嬉しいっ!…是非とも、そう呼んでくださって!」
トキ君のお陰で、漸く落ち着きましたわ、わたくし…。丁度お2人のお話が、途切れた頃を見計らいまして、今度はわたくしの方から、槇野様には…改めて自己紹介を致しましたわ。それから「お気軽に呼んでください」という意味を込めまして、下の名前で呼んでいただくよう、お願い致しましたのよ。槇野様には、好意を感じられても、敵意は全く感じられません。ですから、わたくしも初対面にも拘らず、好意をお持ち致しましたのよ。
その意味にお気づきになられたノンお姉様は、とても嬉しそうに…ぱあっと笑顔になられまして、ご自分も下の名前でと言われます。そして、ふと思い出されたという風に、学校での愛称でも良い…と仰いまして。きっと…この愛称が、気に入っておられますのね?
あまりにも愛らしい愛称でしたので、そちらの愛称で呼ばせていただくことに、致しましたわ。年上のお人なので、ちゃん付けは失礼かと思いまして、お姉様とつけさせていただいたのですが、彼女は本当に嬉しそうに、顔を綻ばされておられまして…。…ふふふ。ノン様は…本当に、真っ直ぐな性質のお人なのですね?
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『槇野 野乃歌』様は、八代グループの一族の中では、一番下の家格の家柄となられます。トキ君と同じ中学2年生でして、女子のみが通う私学に、小学校から入学されておられます。現在はその系列の一貫校である、中学に通われておられるそうですわ。要するに、トキ君が通っておられ、わたくしが進学予定の松園中学ではなく、他校に通学されている、ということになりますね。
その中学校では、『ノン』という愛称で、親しまれておられる…と。因みにトキ君は、『野乃』と呼ばれておられます。お2人は従兄妹の関係となりますが、トキ君は…4月生まれですから、誕生日は彼の方がお早いようですわ。何度かご一緒に、誕生日のお祝いを致しましたので、わたくしも存じておりますわ。それに…トキ君には、杏里紗ちゃんとご一緒に、わたくしの誕生日もお祝いしてくださっているのですよ。出会ってからは…毎年、3年間は。
ノンお姉様は、とてもお綺麗で大人っぽい美人さんでして、もう既に色っぽい雰囲気のご容姿なのですわ。性格は逆に、その見掛けを裏切りまして、かなり子供っぽいところのある、お茶目なお姉様ですわね。トキ君のお話を簡潔にご要約致しますと、彼女は幼い頃から落ち着きがなく、好き嫌いが激しいお人とのことでしたわ。要するに…彼女は、人間に対しての好みと言いますか、相性と言いますかが、非常に厳しい基準があるそうでして。
わたくしのことは…お会いする前から、何故かお気に召されていたそうで、突然の訪問を受ける程、熱心なご挨拶をしていただきましたが、お気に召されないタイプのお人に対しては、シビアなご対応を…冷たい態度を、取られるそうなのですわ。
わたくしのことにつきましては、不思議なことに思いますものの、彼女とは仲良くさせていただいて、とても光栄に思いましてよ。ノンお姉様と、わたくしがお呼びさせていただくことに、ご自分が末っ子ということで、「花南音ちゃんから、お姉様呼びしてもらえて、嬉しいっ!」と、とても喜んでくださいますわ。
彼女の外見は、トキ君と横に並びましても、従兄妹だとお聞き致しますと、なるほどと納得するぐらいには、よく似てお見えですのよ。トキ君もそうですが彼女も、外国人の血が混じっていらっしゃるのが、よく分かりますくらいには、目鼻立ちがすっきりとしており、髪の色も明るい茶髪ですのよ。実際に八代グループには、何代か以前に外国人と結婚されたお人が、何名かおられるとお聞きしておりますし、お2人揃ってその血を濃く、受け継がれておられるようですわね。
乃木グループの関係者は、全員日本人となりますから、わたくしは生粋の日本人ですわ。この身長が低いのも、日本人特有のものでしょう。わたくし自身は、自分の年齢の平均身長よりも、かなり低いだけではなく、また容姿も幼い雰囲気でして、常日頃から年齢よりも幼く扱われてしまいますのよ。
わたくしとは反対に、トキ君もノンお姉様も、背は平均身長よりも高く、大人っぽいご容姿ですから、とても…中学2年生には、お見えになりません…。高校生だと偽っても、通じそうで…。ふふふっ…。
わたくしの従姉の杏里紗ちゃんは、年齢通りの女の子にお見えですから、お2人はその杏里紗ちゃんよりも、大人っぽいということでして。本当に…羨ましいです。杏里紗ちゃんもお人形さんみたいに綺麗なご容姿ですが、ノンお姉様は異国のお人形という感じのお綺麗さでしょうか…。わたくしにも可愛い…と仰ってくださるお人もおられますけれども、どちらかと申しますと、わたくしの場合は…ペットのような動物に、例えられているのでは…ないでしょうか?…例えば、子犬や子猫やウサギ、他にもハムスターなどの小動物、という気がしてなりませんのよ…。
ノンお姉様ご本人からお聞きしたお話なのですが、彼女の可愛らしさに、幼い頃に誘拐されかけた事があり、一応は未遂で終わったものの、それ以降は…大人の男性が苦手となられたご様子です。女子校に入学されたのは、そういう事情がございましたのね。
それでも、彼女は天真爛漫なお人ですのよ。わたくしは真逆の質ですし、とても惹かれてしまいます。トキ君を通してお近づきになれまして、光栄に存じましてよ。最近のわたくしは、クラスメイトとも仲良く過ごしておりますし、わたくしの日常は…とても充実しておりますわ。
こういう事実を、リア 充と申しますのね?…そうだと致しますならば、わたくしはとても恵まれておりますのね?…天国のお母様、わたくしは幸せに暮らしておりますわ。これからも、お母様にご心配をお掛けしないよう、頑張ります!
花南音:小学4年生、杏里紗:小学5年生、時流:中学2年生となりました。
初登場キャラ『野乃歌』が、登場しています。第3幕の番外編の方も、新キャラが登場しますが、まだ誰かは…秘密にしたいと思います。前世編は、現世編にも絡む人物が登場していますので、誰が誰の前世とか考えていただいたりして、楽しんでいただけると、筆者も嬉しい限りです。
【補足】本文中で、花南音が自分は愛玩動物的な…と語っておりますが、本人がそういう自分のことには無頓着というだけで、ちゃんと令嬢として(杏里紗や野乃歌や時流に)好意を持たれておりますし、容姿も本人が否定する程ではなく、決して悪くはありませんので、ご注意を。