42話 貴方と従姉の攻防戦
前世・花南音視点となります。
3年間の間に起きた出来事と、3年後に起きたことが混在しています。
「初めまして。わたくし、名を『遠田 杏里紗』と申します。松園小学校2年生ですの。ここに居ります『乃木 花南音』とは、母同士が姉妹でして、従姉妹の関係に当たりますの。カノは…母親を亡くしたばかりでして、わたくしは彼女の母親代わりで、姉でもあり親友でもありますのよ。失礼ですが…八代先輩は、最近カノに、親しくされているとお聞きし、こうして保護者としてご挨拶させていただきたく、参りましたのよ。わたくしのカノが、いつも…お世話になりますわね。」
「…丁寧なご挨拶、ありがとう。知っているだけど、僕は『八代 時流』です。松園小学校5年生。君の話は、花南音ちゃんからもよく聞いているよ。実の姉のような…大事な従姉が居ると、聞いていたから知っているよ。」
「…まあ!カノがそんなことを?!…嬉しいですわ。カノとは姉妹のように育ちましたの。叔母さまは、お身体がか弱いお方でしたから、カノは…よく我が家にもお泊りしていましたの。」
「…そうなんだね?…本当に、聞いていた以上に仲が良過ぎて、何だか…妬けるなあ。でも、そんなに仲が良いなら、花南音ちゃんの秘密とか、知らない事なんてないんだろうね?」
「…ええ。そうですとも!…わたくしとカノの間に、秘密など…ありません!」
杏里紗ちゃんに、「ちゃんとご紹介してくださいな」と言われましたので、我が家にてお2人の引き合わせを致しましたのよ。でも…何故か、お2人のご様子の雲行きが、怪しくなって参りましたわ。杏里紗ちゃんが…トキ君に対して、いやに挑戦的と申しますか、何と申しますか…。杏里紗ちゃんの口調には、どこか刺々しい感じが含まれておりまして。彼女にしては…珍しいことなのですが。自分より年上のお人に、特に何の理由もなく、歯向かうような…非常識な人では、ないのです…。一体、どうされましたの?
そして、トキ君までも…戦闘モード発動で。彼も、やや挑戦的な言い方をされているような…。トキ君は、嫌み的な刺々しい雰囲気が感じられ、杏里紗ちゃんも思い切り、嫌みの応酬をされておられまして。トキ君は一応、やんわりした口調ですし、お顔も満面の笑顔でして…。これは『売り言葉に買い言葉』的な状態なのでは、と思うのは…わたくしだけ?…何となく…怖い雰囲気が……。背筋が…ブルっと震えそうなくらいに。
「…そうなんだね?…羨ましいなあ。因みに、僕も…仲間に入れてくれないだろうか?…僕も、彼女が心配なんだよね…。」
「まあ…。おほほ……。ご冗談を…。八代様って、見掛けによらず…面白いお方なのですわね?」
「いえいえ。僕はこういう時に、冗談なんて言わないよ。勿論、真面目なお話なんだからね。それに…面白い人は、遠田さんの方じゃないのかな?…ふふっ。」
どうして…このようなやり取りに、なっておられますの?…先程よりもわたくしの周囲の空気が、凍り付いたような気が…。我が家のリビングの温度も下がり、冷気となってこの部屋に漂っておりまして。会話が弾むほどに、段々と険悪な雰囲気が強くなるような…。何故に…このようなことに……。
お2人の遣り取りを、直ぐ真横で見つめる…わたくしとしましては、冷や汗がだらだらと流れ出て来るような、わたくしが…何か悪いことをしたような、そのような気分になっておりますわ。お2人って、犬猿の仲…なのかしら?…初めてお会いした時から気に入らない奴だ…とか、お2人は…それに該当する例なのでしょうか?
しかし、何かの物語のお話の中では、そういう男女の出会いが恋に繋がる…と、物語の中で書かれていたような…。…う~む。どちらかと申しますと、ライバル関係のように思えるのですが…。例え、それが正解と致しましても、何に対してのライバルかは…分かり兼ねますわね。
これが、杏里紗ちゃんとトキ君、お2人の初顔合わせでしたのよ。まるで、戦闘をされているような、将又、攻防戦を繰り広げられているような、わたくしにとりましては…とても複雑で、お2人にとっては最悪の出会いでしたわね。何故に、こうなられたのでしょうね…。後々になりましても、3年経た今になりましても、正直申しまして…理解出来ません。
お2人を仲介したわたくしは、どうすれば…宜しかったのでしょう。何方か、わたくしに正解を…教えてくださいませ………(泣)。
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このような最悪な出会いとなられた、杏里紗ちゃんとトキ君ですが、3年も経ちますと、あの頃が懐かしかったと言うくらいに、お2人の仲は…改善されて行きました。今ではお2人共、ごく普通の対応をされておられます。但し、最悪な出会いだった男女が恋に落ちる、という劇的な展開は、全く見られませんでしたけれど。いえ、わたくしが恋愛に疎い為に、気付いていないという訳では、ありませんわ。お2人共、お互いに恋愛感情を持たれていない…と、いうだけでして。
今では杏里紗ちゃんも、トキ君の存在をお認めになられ、逆にトキ様も杏里紗ちゃんを受け入れられ、という雰囲気なのですわ。何気に時々、共存関係と見られる行動をなさっておられますし、出会った当初よりは断然に、仲良くなられたご様子でして、わたくしも心の底から安心しておりますわ。
お2人が共存関係と申しますのは、わたくしに関する出来事に、何か関与をされているご様子がありまして、そう結論致しましたのよ。特に最近、トキ君が中学生になられてからは、彼の同級生と思われる女子生徒達が、わたくしに嫌みを言う為に態々、小学部まで来られた折には、杏里紗ちゃんが速攻でトキ君に告げ口(一体、彼女は何処で見ていらしたのかしら?)をされまして。トキ君も何かを杏里紗ちゃんと、こそこそとご相談されておられましたのよ。
…ええ。決して色恋のお話ではない…と、わたくしにも…十分に理解出来ましたのよ。何故なのかと申しますと、お2人共…とても悪そうなお顔を、されておられましたもの。決して……あれは、色恋事では…ないですわ。
そうして後日、その女子生徒の(リーダー的な)1人とバッタリと、とあるお店にて偶然にお会い致しましたわ。その女子生徒は、わたくしと目が合いました途端、ビクッと身体を振るわせるように驚かれ。パッと目を逸らされ、とても慌てたご様子で、わたくしの前から去って行かれて。…え~と、これは。どう…見ましても、わたくしに怯えられたご様子でしたわ。もしかして、お2人の仕業なのでは…。
その女子生徒と初めてお会いした時、「八代様に媚びを振っているお子様は、貴方ね。何を勘違いしているの?」と、因縁をつけられましたの。何か勘違いされておられるのは、貴方様の方では…とわたくしは思いましたので、完全に無視させていただきましたわ。お相手は中学生の生徒ですが、どうやら…わたくしのことを、ご存じないようですね。八代グループとは比べ物になりませんけれど、それでも我が家は乃木グループですし、わたくしの従姉妹の家柄は、あの遠田家なのですわ。
わたくし、我が家より上位のお家柄は、完璧に把握しておりますのよ。その家柄のご家族までも。全ての関係者を。わたくし、記憶力は良いのです。自ら名乗られましたけれど、あのお方は…そのわたくしの記憶に、全くかすりも致しませんわね。つまり…我が家よりも、下位のお家柄ですのね。そのようなお方に、わたくしは何を申されましても、痛くも痒くもございません。
トキ君のお家の八代グループや、我が家より上位の家柄の関係者に、ご忠告されました場合は、「わたくはそのようなつもりはございませんが、そうお思いになられたのでしたら、大変申し訳ありません。」と、わたくしもお詫び致しましたわね。それ以外の場合、「余計なお世話です。」と申し上げたいですわ。わたくしとしてはトキ様に対し、そういうつもりは一切ございませんし、我が家を貶めるようなご発言は、止めていただきたいですわね。
松園小学校から通われておられた生徒ならば、わたくしを知らぬ者はおりません。あの例の女子中学生は、中等部から松園に入学されたのですね。松園中学校では、中学からの入学を募集しておらず、中学受験も表向きは…受け付けておりません。ですが、松園に入りたいと(特にご両親が)希望される子息令嬢も多く、例外的に1クラス分のみ、特別に申し込む権利を得た希望者が、中学受験を許可されておりまして。
ところが最近、このように中学受験で入学された生徒が、不祥事を起こすことも多くて、来年からはもう少し厳しくしようか…と、学長や理事長が話し合いをされておられるそうでして。遠田家は、松園の理事長の関係者なのですわ。わたくしに嫌みや虐めなどされますと、理事長にご連絡が入りますのよ。当然ながら松園から、他の学校に転校するように…と、申し渡されることになりますわ。幼稚園から御一緒の生徒さん達は皆さん、ご存じのことですわね。
理事長自ら、入学時にそう…ご忠告されますよ、それとなく…ですが。はっきりとは…申されておられませんが。わたくしとしては、複雑な気分でして。家柄で判断されたくは…ないのですが、こういう位置にいるからこそ、仕方のないことでも…ございまして…。伯父様も伯母様も、わたくしのことを大切に思ってくださるからだと、わたくし…存じておりますもの…。
わたくしは将来、乃木家のトップに立つ予定なのですから、致し方のないことですわね。但し、あの中学生のような、身分など外見だけで判断する人間には、なりたくはございませんので、十分に気を付けますわ。反面教師として。
今回は、この3年間にあった出来事だけではなく、3年経った現在も書くことが出来ました。
副タイトル通りに、花南音の保護者的な杏里紗と、花南音と仲良くなりたい時流、との闘いです。