37話 貴方との馴れ初め
前世編の主人公である、花南音視点となります。
前回の続き…となります。
「僕は…将来、玩具を作る会社に入りたいんだ。僕は今まで…玩具に、あまり興味がなくて。でも…この玩具には、物凄く興味が湧いたんだよ。これを考えた人物が君だと、おも…知った時には、僕より年下の君に…協力したいって、本気で思った。だから…僕にもアイデアを出させてほしい。是非とも、君のお父上の会社で僕のアイデアも、使ってほしいんだ。」
「………。」
…え~と。何から…突っ込みましたら、良いのでしょう…?…仮にも…他の企業に繋がる人物を、我が社の商品に関わらせることにも、八代グループという大きな背景がある人物を、我が社の商品に利用することにも、将又…社員でもない人物を、我が社に関わらせるということにも……。
これが…わたくしの長年の友人であり、友人でなくとも…前から知っていた知人、という間柄でしたら、まあ…百歩譲って…有りなのかも、しれませんが。しかし…八代様とは、今日…然も今さっき、お会いしたばかりなのですわ。これは…自分を売り込みたい、ということなのでしょうか?…それとも、何か…複雑なご事情でもお有りで、背負い込んでみえるのでしょうか?…わたくしがこの年齢で…しっかりしておりましても、然るべき会社経営の道を歩んでおりましても、目の前の彼の言い分には、心底…理解が出来ませんわ。
彼が自分の会社ではなく、我が社にアイデアを出すということは、敵に塩を送るようなものであり、もしかしましたら…ご自分のご両親に、損害を与えてしまうことに、なり兼ねません。企業の分野は全く異なりますが、それでも…勝手にわたくしが、了承する訳にも参りませんわ。ですが、お相手の身分等を考えますと、ここでわたくしが断るというのも、筋が通りません。…ふう~。…どう致しましょう。
「今すぐには…ご返答致しかねます。」と、取り敢えず申し出まして、猶予をいただきましたの。八代様とお話を始めましてから、随分と時間が経って参りました。このままでは…他の生徒達が登校して来て、却って…目立ってしまいますものね。それにわたくし、日直のお仕事中ですのに、まだ花瓶のお水換えしか、しておりません。生徒が登校する前にしなければいけない事が、ございましてよ。
「本当に…急だったよね。…ごめんね。でも、この機会を失ったら…僕は………もう、話し掛けられないかも…しれなかったから……。」
切羽詰まったご様子で、八代様が仰られます。…何故、今日を逃せば、話し掛けられなくなるのでしょう?…わたくしがいつも誰かに囲まれているほど、人気があるとかでしたら、分かるのですが。わたくしの周りには、殆ど人がおりませんわよ?それとも、八代様が…なのですか?…それなら…十分に理解出来ますわね。
わたくしは改めて、彼をマジマジと見つめました。彼は少し動揺されたのか、頬がほんのりと赤くなられましたが。確かにこれは…モテますわね?…わたくし達が通う松園小学校は、制服が決まっておりまして。ですから、男女の違いはありますけれど、生徒は全員同じ服装ですわ。男子はブレザーとの上下セットでして、女子はセーラー服の上下のような服装ですの。中学や高校も微妙には異なりますものの、大きな仕様の違いはございません。ですから、制服を見れば、一目で松園の生徒と分かってしまいますわね。
目の前の彼こと八代様も、例に漏れずに、制服を着こなされておりました。もう既にこのお年で、見目麗しい美少年です。今まで生きて来まして、ここまでの美少年は、わたくしも初めてお会いしましたかしら?…わたくしの身の周りにも、それなりにお顔の整った方々はおられますが、彼は…それ以上の美形でして。唯、わたくしは別に特には…どうなのかとは、感じませんけれど。
「一応、こちらからもご連絡出来ますように、クラスをお聞きしても?」
「…あっ!…そうだったね、ごめんね…。僕は、5年1組だよ。花南音…ちゃんも……1組だったよね?」
「……っ!………はい………。」
行き成り…『ちゃん』付けされましたわ…。大人の方々からは、よくそう呼ばれておりますが、わたくしは子供同士のお付き合いは、杏里紗ちゃんの一家ぐらいですので、このぐらいの異性との交流は、生まれて初めてなのです。クラスメイトの男子生徒からは、『乃木さん』と呼ばれます。年上の男子生徒からも…基本は苗字でしたし、下の名前で『ちゃん』付けされて呼ばれるのは、生まれて初めてでして。お会いしたばかりの彼に、下の名前で呼ばれるとは…。
彼が恥ずかしそう、わたくしを呼ばれるものですから、わたくしも何だか…恥ずかしくなってしまいます。顔に熱が集まっている…とわたくしが感じた途端に、八代様は…何故かとても嬉しそうに、微笑まれて。…ううっ。笑顔に…目が潰れそうですわ…。安易に…微笑まないでくださいませ…。
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その後、八代様は…父の会社に、突撃されて来られました。あまりお待たせする訳にはいかないと、思っていた矢先に…。父とはお仕事の都合で、家でも会社でもすれ違っておりましたので、仕方がありませんのよ。先日まで父は、海外出張中でしたので。流石にお電話では、お話しできるような内容では、ございませんでしたもの。ですから、本日父が帰宅される予定でしたので、ご相談したいと申し上げていたところでしたのよ。
ところが、父が帰国して会社に戻っていらした頃に、八代様も…父を訪ねて来られたのです。わたくしがお話申し上げる前に…。間に合いません…でしたわ。父を訪ねて来た人物が、例え子供であったとしても、名刺までご用意されて、その名刺には八代グループの名が堂々と入っていれば、その八代の御曹司と分かった以上、父に伺う前には追い返すことなど、出来る訳がございませんわね。それに、我が社は子供を対象にした玩具を扱っておりますから、一般人の子供と言えども、丁寧な対応で接待は致しておりますのよ。流石に…社長には、取り告げませんけれど。
わたくしは父に、「後で…ご相談したいことがありますの。」と、お伝えしているところでしたのよ。父の秘書が、「社長に…御面会をされたいと仰るお方が、お見えなのですが……。八代グループの…御曹司である、ご子息のようでして。」と、名刺を父に差し出して。…ああ。間に合いません…でしたのね。そう…思いましたのよ。間違いなく、あの時のことですわね?
「…八代グループの御曹司?…八代グループの社長には、お会いしたことがあるが…。特に…親しい関係ではない…。」
これに対し父は、繁々と…秘書から渡された名刺を眺めながらも、考え込んでおられるご様子で。やはり、あまり親しくは…ございませんのね。ですが…お会いしない訳には、行かないでしょう。出来ましたら、わたくしのお話を聞いていただいてからの方が、良かったのですが…。もう…遅すぎですわね。父は、この社長室にお通しするように…と、指示を出されまして。
わたくしも、ここに居ても…よろしいかしら?…父にアイコンタクトを取りましたら、何故か…父が苦虫を嚙み潰したような、変なお顔をされまして。…何でしょうか、その表情は…?…どういう意味が…含まれておられるのかしら?
「わたくしが居りました方が…お話が早い、と思いましてよ。」
「……っ!…………。」
父が…ハッキリされませんでしたので、わたくしの方から…居た方が良いと、助言を申し出たのです。わたくしが最初にお話を受けたのですから、わたくし本人がこの場におりました方が良いでしょう。ところが、父は何故か…とても驚いたようなお顔になられて、口を金魚のように…パクパクとされて。言葉が何も出て来ないご様子でしたが…。わたくしから言わせていただけば、何を…そんなに驚かれておられるのか、全く理解できませんわ。
秘書に案内され、八代様が社長室に入って来られます。わたくしを見られて、一瞬驚いたお顔をされますが、直ぐに切り替えられ、父に丁寧なご挨拶をされました。
「乃木社長、お久しぶりです。突然の訪問を許していただき、ありがとうございます。」
「……ああ。久しぶりだね、時流君…。」
その後、わたくしの方を振り向かれ、「この前は突然過ぎて、驚かせてしまったよね。」と、笑顔で話し掛けられます。その時の父のお顔が、ヤバ過ぎましたわ…。何ですの…そのお顔は?…お父さま…お願いですから、その馬鹿みたいに呆けたお顔は、止めてくださいませ…。お客様の御前でしてよ。
「先ず改めまして、突然お尋ねしたことを、お詫び申し上げます。以前、社長に初めて…お会い致しました時に、ご挨拶させていただきましたが、覚えておられますでしょうか?」
「…ああ。…あの時のことだったら、覚えているよ。我が社の玩具について…お褒めいただいて、私も…嬉しかったからね。」
「あの時…お話したことは、僕の心からの気持ちです。僕は三男ですから、家を継ぐ資格もありませんし、この会社の玩具に興味を惹かれ、将来は此処に就職出来たら…とまで、思っておりますが、大人になるまで…待てない、とも思ったのでして。僕の両親は、僕がすることには基本的に、納得してくれておりますし、今回の件も…了承を得ております。ですから、僕の家に情報が漏れることも、絶対にありません。これは…僕の意志であり、両親にも証明をしていただきました。」
八代様は、先ず父に当然の訪問を詫びられ、それから本題に入られます。父とは、面識がございますのね。そして、ご自分の気持ちを語られ、父には…ある書類を差し出されたのです。それは、彼のご両親が署名された、文書でしたのよ…。
主人公の前世・花南音側の事情です。
花南音と4歳年上の幼馴染・時流との出会い編、でもあります。
グイグイと、自分アピールをしてくる時流に、花南音も…タジタジです。
それに…花南音の父も、どこか様子が変ですね…。
※副タイトルは、この時点では…あまり深く考えないでくださいませ。