番外 僕の今世とは…
今回から、第三幕に突入します。第三幕は、主人公達の前世の世界が、舞台となっております。簡潔に言えば、主人公の過去の世界(現代日本)での出来事となりますね。乙女ゲームに入る前に、どうしても必要なお話として、第三幕は前世編としております。
行き成り、番外編から始まります。とある人物の視点となります。
僕には、前世の記憶がある。生まれた時から、ぼんやりとした記憶はあったのだが、最近更にはっきりして来た。幼い頃は、この記憶が何なのか、さっぱり分からなかった。ただ…何となく、違和感を感じていた。あまりにも違い過ぎる記憶に、僕の頭の中は…いつも混乱していた。それでも、僕は慎重派のタイプみたいで、前世の記憶で…失敗をしたことは、なかった。誰にも…親にもバレないよう、十分に気を付けていた。
僕はそれなりの家の子供であったから、忙しい両親の代わりに、僕の世話をしてくれる人間が、大勢居る。だから、不自由は感じたことはないし、寂しさを感じたこともない。両親も何かと電話をしてくれたり、無理をしてでも、誕生日には帰宅してくれたり、プレゼントを海外から送ってくることもあったりした。愛情はそれなりに示してくれている。僕は現世では三男なので、家を継ぐ必要もないし、結構自由にさせてもらっている。前世は跡継ぎでもあったから、勉強は大変だったけど。
現世の勉強も、前世とは比べようがないくらいに…難しいけれど、現世の勉強は…とても楽しいと思っている。前世とは違って、文明が進んでいるんだよね。色々と興味が尽きないよ、本当に。
最近になって漸く、僕には前世があったんだ、と気が付いた。それも、この世界の知識のお陰である。この世界では本当に、色んな情報が得られるからね。僕は、前世の世界があることを、本から学んだんだよ。所謂、小説や漫画本であるのだが。後は、テレビでも見たのかな。新聞とかにも、そういう記事が載っていたかなあ。それに…インターネットもだよ!…これは、実に便利だね。本当に、この世界は…凄いなあ。聞いていた通りだよ。誰に聞いたのかは、実は…覚えていないけれど。まだ、思い出せないだけだと思う。
こういう世界だと…少しでも話を聞いていたお陰で、役に立ったかな。僕は早速、前世の情報を集め出した。そしてここは、僕のいた世界とは…別の世界で、異世界なのだと知ったのだ。この世界の人間からすれば、僕の世界が異世界だと言うだろうが、僕にとってはこちらの世界が異世界だよ。それに、この世界の人々も現実には、異世界の存在を信じてはいなかった。空想の世界と思っている。その辺りは、前世でも…同じなのかな?…但し、前世では、『前世』という認識もないけれど。
そんな毎日を、僕は満喫していた。毎日が楽しくて仕方がなかった。前世には存在しないものばかりで、本当に飽きることがないのだ。僕は前世のことよりも、今の生活を過ごすことに全力を注いでいた。現世に僕が生まれた意味を、全く考えていなかった。何も……。
そうして過ごしていた、ある日。僕の両親が、僕の8歳の誕生日にと、玩具をプレゼントしてくれた。初めて見る玩具にも拘らず、何故か…知っているような気がしていた。両親の話に依ると、これは…有名な玩具関係の会社が発売した物で、今現在は爆発的に人気が出ているらしい。僕があまりにも、子供らしい玩具を欲しがらないので、これなら喜ぶかもしれない…とプレゼントしてくれて。
折角、両親が用意してくれたのだからと、早速遊んでみると、とても興味深い仕様であった。これは子供ではなくても、大人でも遊べそうな玩具だと…。実際に若い女性にも人気があるというし、高校生ぐらいの女子も遊んでいるらしく、一部の店舗では売り切れになっているそうだ。なるほど。これは、話に聞いていた通りだなあ。…あれっ?…誰の…何の話なのだろうか?…まあ、いいか。
僕は夢中になって、暇を見つけては、この玩具で毎日遊んでいた。本当に楽しくて仕方がない。何かを忘れているような…気がしたけど、どうしても思い出せない。無理して思い出そうとはせず、自然に思い出せばいいと、簡単に捉えていたのだ。後で…後悔するとは知らずに…。
僕の家は、それなりのお金持ちであり、親の会社の関係のパーティに、参加することもある。最近の僕は…参加する度に、無意識に誰かを探していた。誰を探しているのか、分からないのに…。誰を探したいのか、どうしても思い出せないのに…。探しているのは、僕と同じくらいの子供、若しくは…年下の子供だとは、理解していても。顔も年齢も名前も…全て分からない、そんな誰かを探していた…。
それなのに…不思議だった。パーティでは、子供同士も紹介されたりするのだが。紹介される度に、僕が探している子ではない、そう…思うのだ。何の根拠もないと言うのに、何故だか…違うと思うのである。…何故だろう?
一体…誰を、探しているのだろう?…結局、今まで僕が探している子は、まだ…見つかっていないのだ。学校でも、それと無く探してみたのだが、まだ見つからないのであった。僕の探したい子は、何処に居るのだろう?
僕は既に、小学校に通っていた。勿論、私学の学校である。男女共学の学校であるから、探している子がまだ男子なのか、女子なのかも分からなくて、両方から探している。一応、小学校から高校まで一貫校であり、その子がそれなりの家の子供ならば、この学校に通っている可能性もある。しかし、もしも…その子が、一般庶民に転生しているのならば、きっと簡単には会えないのだろう。
…そうだ。きっと…間違いない。多分…僕が探している子は、前世で一緒に居た知り合いなのだろう。きっと…僕にとっては、大切な友達だったに違いない。現世でも、会えたら良いなあ…。
抑々、僕が探すその子は…この世界に、転生をしているのだろうか?…この世界に転生をしていないのならば、探しても…意味がない、と思う。それなのに探してしまうのは、何か…確信めいたものでも、あるのだろうか?
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最近の僕は、両親から貰った玩具の会社に、興味を持っている。…いや、厳密に言れば、その会社で働く社員の子供に。しかし、僕の両親がそれなりの人物であっても、行き成り玩具の会社の人間を、いくら何でも紹介してほしいとは、言えなくて。況してや、社員の子供を紹介してとは…。何故だか気になって、仕方がない。多分、前世の出来事に関係ありそうだけど、肝心な出来事が思い出せない。思い出したい人物のことも、モヤが掛かったみたいに、はっきりしなくて。まるで…故意に、思い出せなくされたみたいに。
いつの間にか、僕は…小学5年生になっていた。探している人物は、まだ見つからない。もう諦めるしかないのか、と思っていた頃。今年も、新1年生を確認する。僕は今年からは、生徒会に入っている。家柄で教師から選ばれた、ほぼ強制的なものである。僕の家は、大手不動産関係の経営者一族である。遅かれ早かれ、選ばれていた筈だ。今年からは、1年生を見に行かなくとも、名簿を見て確認することが出来る。気になる名前や家柄を見つけたら、直接確認に行けば…良いだろう、と。
生徒会の役員の仕事に託けて、早速名簿を確認すると…。気になる名前を…見つけた。名前を見つけた途端に、目がそこから放せなくなる。早速家柄も確認し、間違いないと…確信を持つ。間違いなく…この子だ、と…。
逸る気持ちを何とか抑え、翌日の朝早くに学校に登校し、新1年生の下駄箱を確認しておく。本人が登校して来るのを、空き教室の窓から覗いて、ジッと…待つことにしたのだった。
それは…案外と早く、その機会がやって来た。目的の人物がやって来るのを見た途端、下駄箱を再度確認するまでもなく、その子が…誰なのか、気付いてしまったのだ、僕は。そうだった…。僕が会いたかったのは、あの子なんだ…と。姿形も全く異なるのに、容姿は…似ても似つかない、別人なのに。歩き方や仕草で、確信してしまう程に。容姿が重なって見えたのだ。あの子と同一人物なのだ…と。
僕は、どうして…忘れていたのだろう?…こんなにも…会いたかったのに。はっきりと思い出せなかったのは、何故だろう?…前世では、どんな形でもいいから、あの子に会いたい…と願ったのは、僕だったのに。あの子にまた来世でも会おうと、約束していたのに。僕は…今までずっと、思い出すことが出来なくて。どれだけの時間を、無駄にしたのか…。
あの子が下駄箱から離れて行く。今の僕は、この教室から出て行くことは、出来ななくて。あの子は、僕のことを…覚えていない。現世のあの子は、前世で巡り合ったあの子とは、少し違うのだ。あの子で在って…あの子ではない筈だ。これは本来ならば、僕が望んだことである。僕が進んで望んだ、運命であった。
現世でも、あの子に会えるのならば…本望だ。元々、そういう運命なのだった筈だから…。会えただけでも、感謝すべきなのだろう。それでも、あの子が覚えていないことは、寂しいけれど…。きっと、あの時のあの子は、同じ思いだったに違いない。そう思うと、この運命が…正しかったのか、よく分からなくなりそうだ。
これを切っ掛けに、僕は…全ての前世の記憶を、思い出した。僕の過去の全てを。これから…僕のすべきことを。今後の僕が進む道を。これで、僕は…やりたかったことが出来る。現世に生まれて来た意味も、漸く知ることが出来たのだ。
後は…あの子と、どうやって知り合いになるかが、問題である。知り合いになる方法は、分かっているけれど、それをどうやって実行するかが、今一ピンと来ない。僕はもう5年生で、あの子はまだ7歳にもなっていなくて。まだ学校に通い始めたばかりで、僕との接点が…全くないんだよ。どう声を掛ければ、良いんだよ…。
…ああ。前世は良かったなあ。簡単に知り合えて。僕は唯、君と友達になりさえすれば良かったのだ。でも、現世は…全く接点がないなんて。知り合う方法が分かっていても、今が何も接点がないのに、どうやって…接点を持てば、良いんだよ…。
今回、分かる人には分かる…という形で、『とある人物』の名前は、伏せさせていただきます。今後の展開に向けて、この段階ではまだボンヤリとさせた方が、良いと考えて…。
※前世編でのご注意…前世のある人物達は、前世と現世では、立場や家族環境が異なることから、多少の表向きの性格が変化しております。本音の部分では同じ考えですので、人物の性格の違いはあるということで、大目に見ていただくようお願い致します。
※第三幕が始まりました。読んでいただき、ありがとうございます。
今後もよろしくお願い致します。