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運命の転生劇 ~乙女ゲームの世界へようこそ~  作者: 無乃海
第二幕 『乙女ゲームが始まる一歩手前』 編
42/117

番外 僕の婚約者

 番外編ですので、とある人物の視点となります。


29話後半からの続く内容の、その裏側となっています。

 僕の正式な婚約者となったカノンは、外見もとても可愛らしいけれど、中身もとても愛くるしい少女だと思う。性格はとても穏やかで、感情の起伏も貴族だからというよりも元から少ない方で、頭脳は天才というほどの才女であり、可愛い姿には似合わないぐらいの、大人っぽい中身を持っている彼女。


初めて出会ってから、もう8年も経つんだね。初めて会った時から、年齢と付き合わない程の、大人っぽい仕草や物の考え方をする彼女は…。明らかに僕の周りに纏わりついた少女達とは、何もかも異なっていた。異質だというぐらいに、全く違っていた彼女。それでも、一目会った時から、何かを彼女に感じていた僕は。


両親の意志とは別に、彼女に会いたいと思い、何かと都合をつけては彼女に会いに行った。どうしても会えない時は、手紙を頻繁に交換して。少しでも暇な時間が作れれば、必ずという程…彼女と会う時間に回して。


時には、僕の妹であるユイをダシに使ってでも。彼女に会う為にならば…と、何としてでも時間を割いていたのだ。まるで…長い間、()()()()()()()()にでも会うかの如く……。彼女には…そんな不思議な縁を、感じていたのである。何故だろう?


僕には…前世の記憶もないのに。前世の記憶保持者の話は、僕が5歳になったのを機に、父から聞かされていた。この世界には、異世界からの記憶を持つという人間が、稀に数人ぐらい現れることがあるのだと。


そう父から聞かされて、一番に頭に浮かんだのが、カノンの姿であった。以前からカノンは何処か大人び過ぎていると、感じていたのだ。僕が5歳の時には、カノンは3歳になっていたけれど、その頃にはもう彼女は、色々と違和感があり過ぎた。彼女は貴族として、もう既に礼儀作法も完璧であったのだが、時々彼女自身も混乱するらしく、この世界の礼儀とは異なる行動が、稀に見られた。


この国の礼ではなく、お辞儀という変わった礼をしたり、言葉使いも偶に、この国には存在しないような言葉を話したり、彼女には違和感というか、異分子のような存在に感じられた。それが父の言葉で、辻褄が全て合ったような気が…したのだ。


…ああ。彼女は…きっと…前世の記憶保持者なのだ…。ピタリと何かの枠にでも、嵌った気がしたぐらいに。多分、間違いないだろう。だとすれば、父にバレるのは不味いと感じた。父に、そういう者との接触がなかったか、聞かれてしまったが、咄嗟に嘘を吐いて誤魔化した。父にバレたら、いくら僕の婚約者候補と言えども、王家の監視対象になってしまうかもしれない。


彼女のことで王家に干渉されなくないし、彼女を監視されたくなかった。…僕が。僕も…彼女を監視するような立場に、なりたくない。だからこそ、父にも誰にも、例え彼女のご両親と言えども、彼女が前世の記憶保持者であるとは、バレてはいけない。だからこそ、僕がちゃんとフォローしなければ…。僕がしっかりと守ってあげなくては…。僕が彼女の盾となるのだと、そう決意して。


それから色々とあって、彼女が完全に記憶が戻り始めたのが、5歳の時。僕は7歳になっていた。7歳にもなれば、僕もそれなりに自分の意見が通るようになった。だから…彼女の婚約者になる。そう決意してからの僕の行動は、早かったと思う。


彼女の5歳の誕生会に間に合うようにと、正式な婚約者になる為の画策を、僕はしていた。父にも、カノンから良い返事をもらったと嘘を()き、彼女のご両親にも、同じく嘘を()いたのだ。そうまでして、()()()()()()()()()を得たのだ。


カノンは驚いたようだったけれど、彼女は元々顔に表情が全く出ない人物で、誰にもバレることはなかった。貴族の子女らしいと言えばそうだけど、多分これは、前世の彼女と繋がっているからだと思われた。彼女は元々が前世で、こういう大人びた性格であり、またそういう環境に居たのだろう…。彼女から聞いた話では、彼女の母親は病気がちで、どうやら彼女を置いて、死の世界へ旅立つらしい。長生きが出来ないだろうと、彼女は淡々と語っていた。…過去のこととして。


感情を殺しているような気がするのは、彼女の母親の死が、前世の彼女に影響を残しているのだろう。きっと…彼女は、前世でもこうやって、大人びて過ごして来たに違いない。感情を失くしたフリをして。何も感じないようにして。父親の会社とやらを手伝って、父を助けていた彼女は、自分が泣くことをずっと我慢して来たのだろうね…。遣る瀬無い気分である。…僕にはどうして、前世の記憶がないのだろう…。僕は…どうして、彼女の前世の世界に、生まれなかったのだろう。


…彼女の傍に、僕が…存在しなかったのだろうと思うと、自分自身に…吐き気がしてくるようで。前世の僕は、()()()()()()のだろうか……と。







    ****************************






 その後、暫くしてから、カノンだけではなく、リナ嬢も前世の記憶保持者だと分かった。その後は次々と。エイジもそうだと分かり、何と…僕の妹のユイまでが、前世の記憶を持っていた。そして…僕の友人のリョーまでも。…()()()()()


僕だけが…そういう記憶がないのだ。流石に、偶然というにはあまりにも似た記憶を持っていて、前世で何か関係があったのか…と思うぐらいに。カノンの為にも、彼らの存在も絶対にバレてはいけない。今更バレたら、尚更カノンの立場も、彼女を庇っていた僕の立場も危うくなりそうだ。僕の立場が危うくなれば、彼女を守れなく…なってしまう。


そうならない為にと、彼らを全員集めて、今後の為の話し合いをすることにした。カノンには、両親がユイを監視することはない、と話してあるが、あの父ならば…王家の為にと、ユイも監禁するかもしれないと、俺は疑っている。絶対にならないとは言えないからね…。それ程…父は、王家には忠誠を捧げている。だから、僕も断言出来ないでいる。


僕は今のところ、王家に忠誠を捧げる相手は、まだいない。だからこそ、こういう行動が出来るのかもしれない。王家には僕と同じ年の王女がいらっしゃるけれど、僕とは従妹に当たる人物で、関係は良好である。彼女は何れ政略結婚として、他国に嫁ぐ予定だ。王女は僕に似たところがあり、お互いに従兄妹以上の感情を持ってはいない。第一王位継承権の王子は、まだ幼い子供である。だから、忠誠心を捧げる王族は、今の僕にはいないことに感謝した。


そうして今日、カノン以外の前世の記憶保持者が、全員集まった。話を聞くと、この場にいる僕以外の全員が、同じ異世界の同じ国の同じ時代で生きていたようだ。つまり、何処かで会ったことがあるかもしれない、ということである。


しかし、カノン以外の前世持ち(=彼女達の世界では、『転生者』と呼ぶ)の4人は、この世界で言うところの庶民であった。カノンが前世でもお嬢様なのは、普段のカノンを見れば…よく分かる。妹のユイは…庶民だった。前世では、僕とは異なる別の兄が居たという。ちょっと…ショックかな。


エイジには姉がいたし、リョーには妹がいたらしい。5人は、知り合いではなかった…ようである。但し、カノンが作ったという玩具(おもちゃ)は、かれらの唯一の共通点のようである。凄いんだな…カノンは。前世でも、頑張っていたのだろうな。この世界にも、木で作られたちょっとした玩具はあるが、彼らの話に出て来た玩具は、高度過ぎだと…思うな。それをカノンが発明したなんて、カノンは少し…いやだいぶ、頑張り過ぎていると思う…。前世では、彼女を労ってくれる人物は、他に存在したのだろうか?


だとしても、嫌だと思ってしまった…。彼女を支えた人間が、他にいたとしたら、僕でないのが…嫌だと思ってしまって。僕は…前世には、存在していないというのに。それでも…僕以外の誰かが、彼女に手を差し伸べるのが、許せなくて。勿論、彼女に対しての感情ではなく、彼女に()()()()()()()()()の方に、嫉妬したんだ。自分がいない世界にまで、僕は…そう思っている。僕は…何て、心の狭い人間なのだろうか……。


 「…僕も、君達の前世の世界に、(唯の庶民でも良いから…)生まれたかったなあ…。」


そう僕が言った言葉を切っ掛けに、彼らは皆…転生者ならではの悩みを、告げて来る。要するに、僕だけが転生者でないことに、僕に同情…若しくは、僕を慰めようとしてくれているのだろう。しかし、皆は…感傷的になり過ぎたみたいだ…。前世に戻りたいとか言い出したのを、聞いていたカノンは、自分の気持ちに蓋をしていた感情を、思い出してしまったようである。


彼女が、前世に戻りたいという感情を持てば、嫌でも…やがて記憶の中で亡くなる予定の母親を、嫌という程に意識してしまったのか…。母親がいなくなる過去よりも、母親がいる今世の方が良い、という感情もあるだろう。しかし、過去と今世の母親は、別人でもあり。


何となく…彼女が、泣きそうな顔に思えた。…そうだ。彼女は…きっと、ずっと泣いていないに違いない。彼女の性格からすれば、父親を心配させないように、泣き顔を見せなかっただろう。ここでも、人前では…泣けないに違いない。それに…僕も、彼女の泣き顔は()()()()()()()()()()()()。だから、この場から彼女を連れ出して。誰も居ない、花が咲き乱れた庭に連れ出して。


「…カノン。こういう時は…泣いていいんだよ?…この場所ならば、僕の他には…誰も居ないから、君が…我慢なんてしなくても、良いんだよ…。」


そう彼女に言えば。彼女は…今にも、泣きそうな表情になっていた。後は…時間が解決してくれることだろう。

 転生者が集まるという内容の、トキ視点からの裏側になっています。


トキが、婚約者のカノンのこと、転生者達が集まった裏側も、語ります。

案外と、トキは…執着系タイプの疑惑が…?!


※今回にて、第二幕は終了致しまして、次回からは第三幕が始まります。

 …と言いたいところですが、その前に1話追加して、幕間のお話と、第二幕の

 登場人物一覧を投稿予定です。

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