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運命の転生劇 ~乙女ゲームの世界へようこそ~  作者: 無乃海
第二幕 『乙女ゲームが始まる一歩手前』 編
41/117

35話 ご機嫌な婚約者

 いつも通り、主人公視点です。


29話後半からの続きで、転生者達の集まって……。

 「…カノン。君は、泣いて良いんだよ。我慢する必要なんて、ないんだよ。」


そう言ってくださった…トキ様に。わたくしは漸く、自分の心の底に仕舞い込んで封じていた、心情に気が付きましたの。わたくしは、泣きたくとも泣けないような状況に、自分自身で自分の気持ちに、()()()()()()()ようでした。何故…わたくしが、ここまで泣くことを我慢したのかは、いえ…泣けなかったのかは、それは…。わたくしの前世に、事情が…ありますのよ。


わたくしは、前世の母親とある約束を…交わしておりました。今後も泣かないで、常に前を向いて歩んで行くように、と。前世の母親とからすれば、幼いわたくしの為を思っての励ましの言葉でしたのね…。「あの子は、とても敏い子だね。」と、親族や知人から言われるわたくしも、あの頃はまだまだ幼く、(ただ)の子供でしか…なかったのでして。母との約束はわたくしには、これもまた1つの思い出となり、母との記憶に結び付いてしまっていたのでしょう。ですから、その約束を破ることには、わたくしの()()()()()()()()()()を、1つ…消してしまうと、無意識に思いこんだことかもしれません。約束を守ることは、最早わたくしの思い出なのですわ。


何時の日にか、お母さまが仰っておられた、「何時(いつ)何処(どこ)かで、貴方とは…転生して再会する日がくるかもしれませんね?」と笑いながら、冗談を仰っておられました言葉を、信じている訳ではございません。それでも…いつの日にか、また再びお母さまとお会い出来る日を、期待してはおりますのよ。


あの時のお母さまに、前世の記憶があるとは思いません。前世の母は、案外と夢見る少女のようなお方でしたし、そのまま大人になられたお人…でしたのよ。

普段から、恋愛小説をお読みになられたり、その恋愛小説を現実に当て嵌めておられたり、という母には、前世の父も苦笑されておられましたわ。入院する度に、夢見る少女に戻られて行かれるご様子は、わたくしも拝見していて、辛いものがございましたわね…。


お母さまに少しでも近付きたいと、まだ5歳の子供でありながらも、わたくしは必死に理解したいと、恋愛小説を読みましたわ。(いず)れ、違う意味で役に立とは、その時は…思いませんでしたけれど。お陰で、恋愛音痴になったような気が…。


わたくしの父親は会社の社長でしたし、父の親族も母の親族も皆、それなりの企業の社会的責任を担うような、お立場の方々でしたわね…。従姉(いとこ)杏里紗(ありさ)ちゃんは、遠田家(とおだけ)の血筋となりますので、わたくしの父の家系の乃木家(のぎけ)よりも、上位クラスのお家柄でしたし。但し… 杏里紗ちゃんとすぐ下の弟は、「わたくし達の立場を交換出来たら、良いですのに。」と、よく仰られておりましたのよ。あのお2人はそのぐらい、遠田家の家系に窮屈さを感じておられましたので。


わたくしも杏里紗ちゃんご姉弟も、幼稚園から同じ系列の私学の学校に、ずっと共に通っておりましたわね。学校でもわたくし達は上位の家柄扱いで、わたくしには本当の意味でのお友達は、少なかったように感じます。現在7歳の時点では記憶もまだ、8歳までしか思い出せておらず、今世のようなご友人がおりましたかは、正直言いまして…分かりませんのよ。


思い出の中には、1歳年上の従姉の杏里紗ちゃんだけが、わたくしの側にずっと居てくださるのですわ。寂しいという気持ちは、正直言いまして、あまり感じておちませんでした、と思っておりますのよ。そしてごく最近、わたくしの夢の中では、母が…天国へと旅立たれたのでした…。それでも、それほどの悲しみを感じておりませんのは、「カノには、わたくしが付いておりますわ!」と、夢の続きで仰った杏里紗ちゃんの言葉が、わたくしの心に響いたからなのでしょう。


トキ様にはまだ、前世の母が亡くなった事実を、お伝えしておりません。わたくしの心の中の整理がついておらず、また杏里紗ちゃんの励ましの言葉で、元気に前向きになれましたもの。ですから、トキ様にお話することで、また…後転するのが怖かったのですわ。せめて、転生者全員が集まってから、その後に落ち着いてから…という、気持ちでしたのよ…。


トキ様が転生者ではないことに、()()()()()()()()()()()というのに、わたくしはトキ様のお気持ちにも気付かずに、前世の母の死で頭が一杯一杯でしたのね…。

わたくしは…今後、どうすべきなのでしょう……。






    ****************************






 トキ様の寂しげなお顔に、皆様も彼を励まそうとされたのですが、皆様の言葉に過剰に反応したのは、わたくしの心の方でした…。わたくしだけが…前世に戻りたいとも、言えない状況に陥っておりました。今…思いましたならば、わたくしは母の死を受け入れていると、()()()()()()()()、納得した気になっておりましたようでして。杏里紗ちゃんの言葉に救われてはおりますけれども、それでも…母親を失うショックは、それ以上だったようですわ…。


わたくしの心は…氷のように、固まってしまったかのようでした。トキ様は、そのようなわたくしの気持ちに、気付かれてしまったのですね…。わたくしが泣くことが出来ないのだと…。前世の母との約束はまだ、お話したことはございませんでしたのに。本当にトキ様には…敵いませんのね、わたくしは。


この世界でも、暫く泣いていないわたくしは、泣き方も忘れてしまったように、声を上げずに唯々(ただただ)…涙を零しただけでした。それでも…トキ様の衣服が、すっかり濡れそぼる頃には、わたくしの気持ちは晴れまして。次第に涙が流れなくなり、わたくしの涙は漸く枯れたのです。わたくしの心の中がすっかり落ち着き始めますと、今度は…この体勢が、彼に寄り掛かったままだと…思い出し。いくら…トキ様が、思い切り抱き締められていた…と致しましても、もう涙も枯れましたというのに、今も…抱き締められたままの体勢だったのです…。


…え~と。どうしたら…宜しいのでしょうか…?…トキ様が全く…腕の力を緩めてくださらないの…。わたくしは…どうするべきなのでしょう?…段々と覚醒して行く意識に、わたくしの顔は…真っ赤になりそうで。先程までとは異なる理由で、困惑しておりますわ…。


勇気を出しまして、モゾモゾと身動ぎ致しますけれど、トキ様の反応はなく…。

わたくしは…顔に、熱が集まってくるのが分かりましたけれども、おずおずと顔を上げまして、トキ様の顔を見上げましたのよ。……うっ。彼の…翠色の瞳が、わたくしの碧眼とピタリと合いまして。どうやら…頭の天辺(てっぺん)から、見つめられておられたようでした…。……え~と。泣いている姿を、ずっと見られておられましたの?何とも無しに…兎に角、恥ずかしいですわ…。


彼は…視線を外すこともなく、わたくしの瞳の中に映る何かを、覗き込まれているかのようで、物凄く…居た堪れなくなりましたわ…。わたくしは負けを認め、目線を自分から外して視線を逸らそうと、あちらこちらに目が泳いでおりました。

そうでもしませんと、トキ様の視線を目にしてしまいそうで。


…クスッ…クスクス…。頭上から笑う声が聞こえます…。まだ少年らしさが残る、可愛らしい声で。……笑わないでくださいませ。真剣に…困っておりますよ、わたくしは。前世の世界であれば兎も角も、現世では幼いとは言えども、男女の子供でも抱き合うなど、有り得ない事態ですのよ。トキ様も…知っておられるくせに…。婚約者同士でなければ、幼児の年齢であっても「責任を取れ!」と、女子側の親が乗り込む場合もございましてよ。現世でのわたくしは、前世以上に箱入りのお嬢様ですのよ。慣れている理由がございません。いえ…前世でも、慣れておりませんけれど。前世もお嬢様でしたので。多分……。


 「カノの顔が…赤くなっているね。君が…ここまで動揺するのは、珍しいなあ。ふふふっ、これは…思ったよりも、効き目があったのかなあ。」


わたくしが動揺をしておりますのは、バレバレのご様子ですわ…。…ききめ?…何の…利き目?…それとも…効き目?…どちらにしても、何のことやら…分かり兼ねますわ。首を軽く傾げておりますと、「カノは…()()()()()()()よ。」と、仰られて…。何だか、納得が…出来兼ねますわ……。


やけに機嫌が良くなられたトキ様は、にこにこと満面の笑顔を浮かべられ、とても嬉しそうにされておられます。…はて?…何か…良いことでも、ございましたのでしょうか?…思い当たる節がございませんわ。トキ様は、普段から温厚なお人ですけれども、それとは…違うと言いますか、何と言いますか……。燥いでいらっしゃる…という雰囲気で。何がそのように、彼のテンションを上げられたのでしょうねえ。彼のことが時々、よく分からなくなりそうですわ。


 「本当はまだここに居たいけれど、そういう訳にも…いかないよなあ。…ふう。まあ、()()()()()()()()()()からねえ。良しとするかあ…。ここで時間を潰してしまったようだし、カノが大丈夫なら、そろそろ…戻ろうか?」


そう言えば…そうでしたわ。わたくしが泣いている間、他の皆様を放って置かれている状態なのでしたわ。あらっ?…いつの間にか、トキ様の拘束も解けておりましたわね…。何か…納得出来かねない言葉を、仰った気も致しましたが…。

そういう場合ではございませんわね。急ぎ…戻りましょう。


漸く皆様の元に戻りましたら、やはりある程度、時間が経っておりましたわね…。リナやリョー様に、すっかり…揶揄われてしまいましたわ。ユイ様には、何か期待を込めた目線を送られまして…。エイジは…面白くなさそうなお顔で。…あらら。何か、誤解を生んでしまったような…。


…トキ様。あの、そのご機嫌ぶりは、止めてくださいませ…。

皆様に…トンデモナイ誤解を、受けましてよ……。

 29話後半からの続きで、転生者達の集まって… Part7となります。


魔法についての話は中断となり、今はトキに連れ出された庭園での遣り取りです。

前回のトキの行動で、まだ2人きりです…。戸惑うカノン&ご機嫌なトキで…。

魔法に関する話し合いは、今回で終了です。次回は、番外編の予定。


※第2幕の本編は、これで終了となります。次回からは、番外編や登場人物などを 予定しております。それが終わり次第、第3幕に突入予定です。

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