34話 魔法の解除方法
いつも通り、主人公視点です。
29話後半からの内容が続いています。
全体的に会話が多めです。後半にはトキが……行動します!
「僕も…例の白紙の本は、魔法が掛けられたらしいとしか、判断が出来なかったんだよ。今は、魔法が使える者がいない。だから、強制的に解除する方法は、今のところ…見付かっていない。当然、何が基準で魔法が掛かっているかも、何をもって条件が満たされて解除となるのかも、全く分からないんだ。もしかしたら、王家の現王…若しくは、宰相である僕の父に話を聞けば、解除の方法自体は…解除の条件は、ハッキリするかもしれない。しかし、それは…こちらも、手の内を話すこととなる訳で、絶対に相談は出来ない…。」
魔法が使えた世界から、魔法が無くなった世界は、何かと不都合なこともありますのね…。中身が全て白紙だった本は、何らかの魔法が掛かっており、それが魔法が使えた世界では当たり前として、読めないように魔法を掛けたのでしょう。
ところが、魔法が全滅してしまい、その前に魔法が掛けられた本は、何かの条件が揃わなければ、魔法が解除できなくなってしまった。現在その条件を知っている人間はおらず、知っていると思われる人物は、国王様か宰相様ぐらいだと。
転生者が国に管理されるかもしれない、と思われる状況で、魔法の解除方法を尋ねることは出来ません。いくら…わたくし達が、貴族らしく感情を読み取られないとしても、人生経験値が多い国王様と宰相様に、わたくし達子供が勝るとは、思えませんもの…。
「僕も、自分の家系の秘密も出してでも、これからも君達に協力して行くつもりだよ。だから…君達も包み隠さずに、今後も前世の情報を提供してほしい。これは君達自身にも有益な事項であり、僕にとっても前世の記憶保持者を、強制的に管理せずとも把握出来る、という利点がある。僕も…王家の親族として、今までの王家主体の体勢を、変えて行きたいんだよ。今までは、あまりにも王家に都合が良過ぎたからね。…可能ならば、カノン達が暮らしていたような平等な世界に、誰もが平等である国に、いずれ…なって行ってほしいと思う。」
トキ様がこのように、ご自分の理想のようなものを語られるなんて…。珍しいことなのです。然もそれが、わたくし達の世界をと、平等であることを望んでもらえるなどとは。トキ様の家柄は、貴族の中で最も最高位でありますのに。
貴族制が無くなっても良いと思われるのは、わたくし達前世の者から言わせていただければ、嬉しいことですわね。ただ、理想と実現は異なるものですから、トキ様が宰相に就かれたとしても、直ぐにどうこうなるものでもなく、もっともっと時代が経ってからになることでしょう。
「僕も…君達の前世の世界に、唯の庶民でも良いから、生まれたかったよ。」
「そういうけどな、前世の世界を知っていると、こういう身分の社会に生きていると、案外違いを比べてしまって、生きにくいものなんだよ。僕も前世の記憶が戻る前は、これが当たり前だと思って、過ごして来たけどね…。思い出してからは、この生活が辛く感じる時も…あるんだよ。」
「オレも…兄上と同じ気持ちだよ。前世の姉とケンカした方が、マシだと…思ったし、前世に戻りたくなる時がある……。」
「わたくしも…偶に、物凄~く帰りたくなってしまいます………。」
「わたくしも…ですわ……。今のお兄様は大好きですけれども、前のお兄ちゃんも大好きだったと……。そう気が付いてしまってからは、時々…帰りたくなりますのよ……。」
トキ様が思わずというように、僕も転生者になりたかったと、ポツリと吐露されますと、リョー様を始めとして、エイジ、リナ、ユイ様も…転生者であることの矛盾や辛さを、吐露されたのです。皆様も、懐かしいと思うと同時に、昔に帰りたいと思ってしまわれるのですね?…しかし、わたくしは………。わたくしも…前世に帰りたい、と思う気持ちはあるのです。ただ…それ以上に、わたくしは、あの母の姿を拝見するのが、辛いのでして。前世に戻れば、何れ母とは死に分かれると、もうわかっておりますから…。母に会いたいと思うと同時に、死に分かれるくらいならば会いたくない、と思ってしまっているのです…。
わたくしが何も言わないのが気に掛かるのか、皆様の視線がわたくしに刺さって参ります。ユイ様が遠慮がちに「…カノンお姉様?」と、声を掛けてくださるのですが、わたくしは石のように固まってしまったかの如く、全く身動きが取れません。
いつもは鈍いエイジまでもが、わたくしの様子が何処かおかしいのに、気が付いたご様子ですし、わたくしは……平静ではないのでしょう。
突然誰かに手を取られまして、わたくしを立ち上がらせました。そして、わたくしの肩を抱くようにして身体を支えられ、足早に何処かへ歩き出すように、仕向けられたのでした。「暫く…席を外すよ。」と、皆様には声を掛けられてから。
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皆様のいらっしゃる場所から、わたくしを連れ出されたのは、トキ様でしたわ。本日はお茶会と称しまして、サンドル侯爵家のガーデニングハウスにて、転生者の皆様が勢揃いしておりました。トキ様がこの集まりの主催者のようなものですが、流石に…ラドクール公爵家では、転生者のお話をするのは、危険過ぎますものね?
ですから、そういう意味では一番安心な、サンドル侯爵家に白羽の矢が立ちましたのよ。サンドル侯爵様は、主に昼間はご不在ですし、サンドル侯爵夫人も、あまり細かいことに拘らないお方のようですもの。
わたくしの家であるアルバーニ侯爵家も、そういう意味では、ララという目利きが利くメイドがおりますし。ミリィだけでしたら、色々と誤魔化しが利くのですけれども、ララには一切の誤魔化しが、利きませんもの。トキ様とユイ様だけ、そしてリナだけでしたら、何とかなりますわ。しかしながら、流石に転生者全員となりますと、ララもこのメンバーに対して、疑問が湧くことでしょう。何故に、エイジだけではなく、リョー様まで来られるのかと。そうなのです。わたくしの家に集まる理由が…ないのです。
そういう訳で、サンドル侯爵家しかありませんでしたのよ。トキ様もそれはよく理解されており、当初からリョー様に、頼み込まれたようでした。そう…でしたわ。
本日は、リョー様とエイジが、婚約者を含めた仲の良いメンバーを集めて、兄と弟が仲直りしたという意味の、お祝いのお茶会なのですのよ。実は…ここ何年かは、兄であるリョー様と弟であるエイジが、仲違いをされておられましたのよ。
初めはリョー様が弟に対して、この後は入れ替わるように、エイジが兄に対して、という感じで。それは、ちょっとした誤解から始まったものでしたが、ご本人達にとりましては、大きな壁となっとおりました。
それが、ここ半年ほどで、前世の記憶を思い出したことにより、お互いに転生者であることも分かり、リョー様もエイジも、仲直りされる切っ掛けが掴めたのです。
リナのお陰でもあるのですが。彼女がエイジにご忠告されましたからこそ、エイジも自分の非を認め、兄であるリョー様に、やっと謝ることが出来たようなのです。彼らは、この世界では実の兄弟ですが、前世では赤の他人のようでして、その所為もありましたのか、前よりも仲が良い兄弟に戻っておられます。
お互いに血が繋がった、もう一方の相手とは…もう会えないと、悟ったからなのでしょう。わたくしもそう思うからこそ、尚更に弟が可愛く感じておりますもの。
それは…きっと、リナもトキ様もユイ様も…同じことが、言えますでしょうね?
それはさて置き、トキ様はわたくしの肩を抱いたまま、そのお茶会会場から立ち去りまして、まるで我が家のように移動されます。ガーデニングハウス(=前世で言うところの温室みたいなもの、ですわ。)から出た所に、この家の従者が立っておりましたが、トキ様が出て行かれても、何も言われませんでした。トキ様の従者も来ておりますけれど、他で待機しているようでして、ここには居りませんでしたし、そう言いましたら、わたくしの従者も来ておりますのに、ここには居りませんわね?…何処で、待機しているのかしら?
わたくしはトキ様に連れられて、何処に行くのかしら…と不思議に思いながらも、黙って歩いておりました。そして辿り着いた先には、沢山の綺麗な花々が咲き乱れる庭園が、ございましたのよ。トキ様は何も仰られませんので、わたくしは見上げるようにして、トキ様のお顔を覗き込みました。トキ様は…苦しそうなお顔をされておられまして。何故…そのように、悲しそうな…苦しそうな…お顔を、されていらっしゃるの?……わたくしは、彼に話し掛けようと致しまして…。
その時、唐突にトキ様に、初めて…抱き締められたのです。思い切り…ぎゅっと。
苦しいくらいにとても強い力で。わたくしの顔は、トキ様の丁度…胸辺りに押し付けられまして。…え~と、これは…どういう状況なのでしょう……?
「……トキ様?……どうされたのですの?」
「…カノン。こういう時は…泣きたければ、思う存分に…泣いていいんだよ?…君が…我慢する必要なんて、全く…ないんだよ。この場所ならば、僕の他には…誰も居ないから、我慢なんてしなくても…いい。」
「……っ!?………。わたくし……は………。」
わたくしは…トキ様のこの言葉に、時間が止まったような…気が致しましたわ。…わたくしは漸く…理解したのです。…ずっと、泣きそうになっていたのだと……。
引き続き、転生者が集まって…のPart6となります。
魔法についての解除方法が、あるのかどうかという流れになっております。
前半の終わり頃から、後半にかけては、トキに連れ出されたカノンとの2人の遣り取りです。次回に続きます…。