33話 稀代の魔術師
いつも通り、主人公視点です。
29話後半からの続き、となっています。
全体的に会話が多めです。特に、トキの会話が長い…。
「そして、魔法が無くなった最もの理由として、とある魔術師の仕業で戦争にも何か関わっている…と言われているらしい。その魔術師は、その当時の稀代の魔術師と呼ばれており、その魔術師本人が自ら、この世界の魔法を全て消滅させる為、世界中を巻き込んだ戦争を起こすように仕向けた、…と伝えられているんだよ。」
トキ様が語られた内容には、わたくし達には何とも言い難いほどの衝撃でしたわ。
当時の稀代の魔術師…とまで呼ばれたお方が、何故そのような愚かなことを、されたのでしょうか?…その所為で、今ではすっかり…魔法が消えてしまった、と言いますのに。本当に世界の全ての魔法を、消そうとされたのでしたら、何故…?
この場にいる皆様も、何とも言えないようなお顔をされて、何かを考え込んでおられます。魔法が今も実存し続けていたならば、何かと便利だったのでは…とは、思いますけれども、そういう考えが…魔術師には不快だっだのかもしれませんね…。今世のわたくし達は元々、魔法のない国に住んでいた、という記憶がございますから、その点では魔法が無くとも、特には…何も不都合はございませんが…。
それでも、残念には思いますけれども……。
魔法に恵まれておられた、稀代の魔術師さんは。トキ様が調べられた限りでは、成人した男性の魔術師だったそうです。彼は…自分の魔法を、持て余して…おられたのでしょうか?…あまりにも…大きすぎる加護を持って生まれて、孤独であったのかもしれませんね…。それとも…今後、自分以上の稀代の魔術師が現れることに、我慢がならなかったほど、自分自身に酔い痴れており、その傲慢さを持って…成し得たのでしょうか?……これだけの情報では、分かり兼ねますわね…。
何か理由がございましても、戦争を引き起こす…というやり方には、納得が出来ないものがございますわね…。それに、それらが事実だとも、はっきりとした確証が得られておりません。人為的ではないことを、祈りたい気分ですけれど…。
いくら…過去のこととは言えども、後味が悪過ぎますもの…。
「本当に、それは…唯の噂だったのか?…本当のことだと言うならば、一体…何が原因で、魔法を全滅させようとしたんだろうなあ…。」
リョー様が呟くように、疑問を口に出されます。トキ様が語る500年前のお話には、色々と訳アリの事情が含まれているのもあり、大体の難しい事情は、リョー様が問い質してくださいますのよ。
「実は、その辺の事情は、詳しく記載されていない。この国にとっては、いや、この世界にとっては、不都合な事情も…含まれているんだと思う。1つだけ…気になる本があったのだけれど、その本は…前ページが白紙だったんだ…。王家の図書室の地下に眠っていたにも拘らず、白紙であることは…有り得ないと思うんだよ。要するにこれは、余程の秘密事項なのではないか、と思われるんだ…。何か良からぬことが…書かれている、という気がするんだよ。」
リョー様の呟きに対して、トキ様が知る範囲でお答えしてくださいますが、これ以上の事情は分かりませんでしたわ。この場の重い雰囲気が、更に重くなりましたわね…。それにしても…白紙の本?…如何にも、何か隠している…と言いたげな、中身が真っ新な本とは。
前世があるわたくしの頭に、真っ先に浮かんだ言葉は、『炙り出し』でしたわ。
炙り出しで書かれたもの、ではないかと…。この国にこの世界に、そのような趣向があったかどうかは、疑問に…思いましたのよ。ですから、何かが違う気も、致しますのよ。魔法が存在する国・世界であったのですから、いくら魔法が全滅したからと言えども、何か違う形で読めないようにされている、そう考えるのが…普通ではないでしょうか。
「それって…もしかしたら、炙り出しとかではないのですか?」
「…あ、それっ!オレも、そう考えてた!」
「実は…わたくしも……。」
「…うん。僕も考えたけど、…違うような気がするんだよね…。…カノン嬢も、どちらかと言えば、そう思っているんじゃないのかい?」
「…はい。この世界は、魔法が存在した世界ですので、炙り出しの技術はなかったのでは、ないかと…。もっと違う形で、文字を見えないようにしたのでは、と…思っておりますわ。」
前世の記憶がある皆様は、炙り出しを思い出されたようですね。前世では、学校の授業で行う程、ポピュラーなやり方でしたもの。ですが、それでは…誰かに、炙り出しに気が付かれた時点で、誰にでも見られてしまうというリスクが、大き過ぎますのよ。特に国家機密となる事項を、炙り出しでは…不安過ぎますわね…。
先ず…それよりも、炙り出しがこの世界では、通用するのかどうかもありまして。
「………。あぶりだし…?あぶりだしの…ぎじゅつ…?…何だい?…それは?」
炙り出しは、この世界には…やはり、存在しないようですわね…。炙り出しにつきましては、リョー様が学校の教師のように、トキ様に丁寧にご説明されておられしたわ。その傍らでは、「この世界に…炙り出しって、存在しないのですね?」と、言い出されたリナ達のお3方が、がっくりと肩を落とされておられましたが。
一方のトキ様は、キラキラと目を輝かせられて、リョー様のご説明に耳を傾けておられます。「そんなことが…出来るのかあ…。」と、年相応のお顔をされて。
…ふふふっ。今のトキ様を拝見しておりましたら、前世の幼馴染を思い出してしまいましたわ。…でも、あらっ?…幼馴染のことは…何故なのか、ぼんやりしておりまして…。今、思い出せたと思いましたのに…。どういうお人でした…かしら?
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「前世の『炙り出し』という技術は、簡単で便利そうだよね?…早速、後で試してみるとしよう。」
トキ様は満足げに仰いますけれど、炙り出しは…子供の遊びの延長ですが…。
公然の秘密事項ですのよ。今回のように、国家機密の秘密事項には、使えませんからね?……そこを…お間違えのないように、してくださいませね?
そう付け加えて置きましょうか、どうしましょうかと、考えておりますと。何故かそこで、わたくしを見つめられまして。まさか…と思いますけれども、わたくしへのお手紙とかに、試されるおつもりでは…ございませんわよね?……これは、されるおつもりのご様子でしょうから、後で…わたくしからも、念の為にご忠告を申し上げときましょうか…。
「さて。君達が言う『炙り出し』は、この国の人間は誰も知らないと思う。多分この世界中では、誰も…。カノンが言っていた通り、この世界では魔法が存在した国だから、少なくとも500年前までは、何でもかんでも魔法で補っていたと思われる。例の白紙の本も、魔法が掛かっているんだと思うよ。これは僕の推測でしかないけれど、あれは…最後の魔法かもしれない。先程、個人の魔法の種類に依っては、魔法薬も作れることもある、と話したよね。…例の白紙の本に、文字が見えないように魔法を掛けた…というよりも、文字を読めない人間には見えなくなるようにした、という魔法なのかもしれない。以前にはあったんだよ。その文字を読む資格がないと、読めないように出来るという魔法が…。」
「…つまり、例の本には…何らかの魔法が掛けられている、と?」
「逆に僕には、魔法しか…考えられないんだ……。」
この世界には、『炙り出し』を知っている人間は、いないのですね…。わたくしが考えておりました通り、魔法が掛けられている可能性が高いと、トキ様も考えておられましたのよ。魔法世界が終了する直前に、誰かが…最後に掛けた魔法、だと。
リョー様は、半信半疑で問い掛けられます。トキ様が強く、それしか考えられないと仰られますと、シ~ンと静まり返ります。誰も…異論は、言えないようでした。
「もう…僕らの時代の人間は、魔法が完全に使えないけれど、それでも魔法かどうかを感知する能力は、一部の人間には残っているんだ。本当は内緒なんだけど。
僕の家系は…感知能力が、まだ微かに残っているんだよ。例の本には…その魔法の痕跡が、感じられたんだ……。だから、直ぐに…魔法だと気が付けた。それ以外にも、魔法のことは王家に言い伝えられており、王家を親族に持つ僕の家は、どういう魔法があったかを教えられている。ユイは…いずれ、結婚して嫁ぐことになるのもあり、敢えて知らされていないけど。僕は嫡男で当主になる以前に、宰相になるかもしれないし、知らないままでは困るからね…。」
トキ様の家系の事情が含まれた内容に、リョー様も僅かに驚かれていらっしゃいます。わたくしも…少々ではなく、それなりに戸惑っておりますのよ。正式な婚約者となりました時期から、何も問題がなければ、ラドクール公爵家に嫁ぐことになりますわ。それでも…宜しかったのかしら?……関係のないリナと、エイジとリョー様ご兄弟も知ってしまわれても、大丈夫なのかしら?……今更ですが。
「魔法が掛かった本は、自然に…解けることは、ないのかなあ?…魔法は魔法でしか、解けない…とか?」
「エイジも、良いところに気が付いたね?…本来ならば、魔法は魔法でしか解けない。今は…魔法が全滅している。僕も、感知が精々みたいだよ。地下とはいえ、あの王家の図書館にある時点で、故意に保管してあるとしか、言いようがないんだよねえ。何の目的でとなれば、何か基準を満たした人物が現れたら、それとも、条件を満たすことが出来れば、魔法は完全に解けるか、一時的に解除されるかの、どちらかでは…ないだろうか?」
引き続き、転生者が集まるという内容のPart5となります。
魔法について、稀代の魔術師の話が出て来ました。
白紙の本が登場したので、炙り出しも1つの案として出しました。
最終的には、炙り出しでは炙られたら秘密にならないので、魔法を掛けられた本となりましたが。後もう少しだけ、続く予定です。
※『魔法がない世界』として今まで書いていますが、過去に『魔法があった世界』
である為、魔法の話自体はこれからも、ちょくちょく出て来ると思います。
『魔法がない世界』設定は、一貫して変更する気はありません。今後に魔法が
使えるようになるとか、魔法を使用する者が現れるとかは、多分…ないかと…。