31話 魔法の有無
いつも通り、主人公視点です。
29話後半からの続きで、転生者達が集まって……というお話です。
今回は、魔法に関してのお話になります。
「ところで、折角皆が集まったことだから、前世のことをもう少し、詳しく聞かせてほしいかな?…前世では、魔法というものが、存在しているのだろうか?」
サンドル侯爵家に集まっておられる皆様は、わたくしを含めて、前世のご自分の自己紹介を致しましたところです。どうやら、この場にいらっしゃる転生者全員が、同じ世界の同じ国の同じ時代に、生きておられました…のだと考えられましたわ。今世と同じような年齢差で…。要するに、同世代と考えられるという結果でした。
わたくし達はもう…それで、満足しておりましたけれども、トキ様には気掛かりな事項があるご様子でしたのね。前世のことをもう少し詳しく知りたい、と仰ってみえますのよ。特に魔法の存在を、気にされておられたのですね?
魔法のことは、以前にわたくしが、夢の中で魔法少女を見た…とお話したことが、関係しておりますのでしょう。その時のわたくしは、その魔法少女が作られたものかどうかを、理解が出来ませんでしたので。しかしながら、今現在では…それは、テレビで拝見致しました…と、前世の人間が作った物語の登場人物…だと、わたくしも理解出来ておりますのよ。ですが、あれから…トキ様とは、その話題をする機会もなく、わたくしは忘れておりましたのよ。
トキ様はずっと、気にされておられたのかもしれません。きっと、彼のことですから、この世界に…魔法が存在するかどうかは、もう調べ終わられている、ことなのでしょうね…。そのお話の前振りなのかもしれません。
「…魔法?…前世に、魔法があるかどうかって?…トキがどうして、魔法を気にするのか分からないけれど、前世には魔法は…全く存在しない。」
「そうなんだね…。以前に、カノンが夢で見た…と話していたことが、あるのだが…。魔法少女とか…言っていたんだが…。」
「…お兄様。それは、もしかして…テレビで見られた、のでは…ないかしら?」
「……てれび?…それは……何?」
「…ああ!…テレビだ!テレビなら、魔法もののアニメとか、アイドルが実写版の魔女っ娘とか、魔法ものの映画とか、色々とやっていたよな!」
「そうそう!わたくしも…魔女っ子もののアニメとか、毎週欠かさずに見ていましたわ!子供の頃はもう、楽しみでしたのよ。」
「…まあ!リナ様もそうなのですね?…わたくしも…美少女が戦隊を組んで、戦うシリーズものを、毎週楽しみにして見ておりましたわ!」
トキ様の疑問に、リョー様が魔法がないことをお答えされます。やはりトキ様は、ずっと前にわたくしがお話したことを、気にされておられたご様子でしたのね…。前世には魔法の存在はなく、物語として作られた想像上でのもの、という事実でしたのよ。わたくしも最近になって、漸く思い出したことでしたのよ。前世のわたくしは、俗物的な内容の物には、テレビも本も全く興味がございませんでしたのよ。偶々知り合いが見ていた、と記憶していただけでしたので…。
再び疑問を呈したトキ様に、今度はユイ様がお答えされます。テレビで見たのではないのか、と。当然ながら、転生者ではないトキ様には、テレビをご存じの筈がございません。エイジが思い出されたかのように、大声を出されましたので、彼が説明するのかと思いきや…。魔法物のお話だけ…でしたわね。リナやユイ様までも、参戦されて…。主にリナとエイジとユイ様の3人が、盛り上がられます。…まあ。あらあら……。
「…あにめ?…あいどる?…じっしゃばん?……えいが?……まじょっこ?……せんたい?……しりーず???」
盛り上がる3名の会話の内容から、トキ様がお1人で、ご自分が今までに全く、耳にされたことのない言葉を拾い上げられ、ブツブツと声に出されては、頻りに首を傾げられておられます。無理も…ありませんわ。転生者でもないトキ様には、全く聞き覚えの無いものなのですから。例え、転生者であったとしましても、他の異世界の記憶でしたら、わたくし達の前世と同じ世界ではない限り、お話には付いていけませんわね…。わたくし達が、同じ世界・同じ国の・同じ時代の転生者であるのは、抑々…偶然であるのか、それとも必然であるのか……。
リナ達お3人は、まだ魔法少女の話題に盛り上がっており、トキ様が彼女達の言葉に戸惑われていることにも、気付かれておりません。リョー様も、エイジ達に呆れながらも、楽しそうに聞かれているご様子です。前世が…とても懐かしく、また…ご自分の前世のお話が通じることで、転生者が自分だけ…という漠然とした不安が消え、然も…知り合いが前世の仲間達で、心強いと思われていることでしょう。
今は、仕方ありませんわね。少しの間ぐらい、お見逃して差し上げましょうか…。
わたくしは苦笑した後、皆様から意識を外して切り替えまして、トキ様の疑問を解決させていただきます。トキ様の疑問には、なるべく全てにお答え致す努力を、精一杯のわたくしで分かる範囲のお答を、致しましたのですわ。この世界にはない物ばかりでしたから、少々ご説明に手間取りましたけれども…。それでも…何とか、トキ様には十分に理解していただけたようでして。わたくしの役目も無事に終了致しましたわね…。
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流石にわたくしが傍らで、トキ様にご説明させていただく内に、皆様の方も徐々に現実に戻られたようですわ。いつの間にか…わたくしとトキ様とのやり取りを、お顔を引き攣らせられて、聞いておられたようでした。如何やら…わたくしの説明を聞かれて、自分達の出番はないと、黙されておられたようですのよ。わたくし…何か…やらかしましたのかしら?…そう思わざるしかないような、雰囲気でしたのよ…。今度は…皆様が、苦笑されておられます。
わたくし、そんなにも難しい言葉を、発しておりませんでしたけれど…?
そうお伝えしますと、将来の経営者としての立場から、テレビが映る仕組み、アニメや映画等の思惑なども、ついつい…業界の裏側的な事項まで、一般人は語らない内容までも…語ってしまっておりましたわ。いけない…。わたくしの…悪い癖でしてよ…。以前の…前世のいつものクセで、経営者側の見方から物事を捉えておりましたのよ…。いくら…前世では、これが当たり前だとしましても、子供らしくありませんでしたわ…。
本来ならば、転生者以外には、余計に混乱する内容でしたのに、トキ様のご理解がお早くて、それにより難しいと思われる原理からのお話も、中途半端なご説明よりも、作られた切っ掛けや成り立ちなどの方が、彼にはより理解しやすかったとのことでしたのよ…。他の転生者の皆様には、堅苦し過ぎて難解な内容でしても、トキ様が理解されるのでしたら、わたくしもこちらの方が、説明し甲斐がございましたわね。この際、子供らしさは…今更、捨てましょうか…。
「なるほど…。君達の前世の世界は、かなり高度な技術が発展しているのだね?とても…興味深いよ…。僕が…僕だけが、前世の記憶がない、転生者でないのが…心底悔やまれるよ。僕も…来世があるというのなら、是非にも行ってみたいと思うよ。自分自身の目で見て、自分自身の身体で…体験してみたいな……。」
トキ様がこのように仰られるのは、非常に珍しいことですわ。わたくし達の前世を受け入れられたとしましても、ご自分がどうこうということは、別に考えられていらっしゃるほど、慎重なお方ですのに。ご自分が不確かな情報を…体験したいなどとは、簡単に仰らないお方なのです。信じておられる事柄と、その信じられる事柄に委ねるのは、彼にとっては…別の意味になる為ですわ。
そういうピュアなトキ様をお見かけしたのは、わたくしも…初めてのことですわね…。生まれて初めて、年齢そのもののトキ様を、拝見致しましたわね。目を輝かせて語られる、今の彼のお気持ちは、10歳の少年らしくて可愛らしく、わたくしも心の底から嬉しくなりましたわ。偶には…トキ様も、心から楽しまれることも、ご必要ですもの…。
「以前…カノンは、この世界に魔法の存在があるかどうか、知りたかったよね?あれから、色々と調べたよ。結論から話すと、今のこの世界には、何処の国にも…魔法は存在しないようだ。ただ…あまり交流のない国が、魔法の存在を隠している…という可能性は、なくはないけどね…。」
「…魔法の存在……。今のこの世界には、ない?…それならば、過去には魔法が存在したのか?」
「…よく分かったね。リョーの言う通りだよ。実は…この世界には、過去に…魔法があった時代がある。過去と言っても、もう何百年も前らしいけどね…。今ではすっかり魔法は廃れてしまい、この世から完全に消えた…とされているけれど。」
トキ様は、わたくしの疑問を見事に、解決してくださいましたわ。しかし…気になる言葉が、トキ様の発言から出て参りましたわね…。わたくしがご質問するより先に、わたくしの疑問に思うことを、リョー様が訊いてくださいます。そう、まるで過去には魔法が存在したと、思わせぶりのトキ様の言い方に。そして、その通りに魔法は、過去には存在したようでして。
何故…魔法は、廃れてしまったのでしょう?…魔法が廃れるなど、何かが…不足な事態が、起こったとでも…言いたげな、トキ様のお言葉ですが。トキ様は…何をご存じなのでしょうか?…その辺りにも、何か…事情でもございますのかしら?
引き続き、転生者が集まるという内容のPart3となります。
以前にカノンが出した話題が、今回のお話の中心となっています。
魔法について、暫く語られることとなります。次回も、まだまだ続きます。