29話 お友達とのひと時
いつも通り、主人公視点です。前半と後半は、別の日時です。
今回は、転生者達の集まって…という流れになっています。
「本日は、お招きありがとうございます。今日のお茶会を、とても楽しみにしておりましたのよ。」
「…いえ。こちらこそ…来ていただき、ありがとうございます。わたくしも…楽しみにしておりました…。」
わたくしがご挨拶を申し上げますと、控えめな口調で遠慮がちに、ご返答をされるアリー様。今日は、アリー様のお屋敷であるテオドール侯爵家に、お茶会にお呼ばれ致しましたのよ。アリー様とは、わたくしの5歳のお誕生会で、初めてお会い致しましたわ。あれから、アリー様のお誕生会にも毎年ご招待していただき、こうして時々お茶会を開いては、お互いの屋敷を行き来させていただくような間柄と、なりましたのよ。
ただ…彼女はとても、人見知りの恥ずかしがり屋さんでして、アリー様とのお茶会は、わたくしとリナだけという、この3人でのお茶会なのですわ。それにアリー様には、まだ決まったご婚約者がおられませんので、わたくし達の婚約者も、お呼びすることは出来兼ねておりますのよ。
本日は、リナが風邪をひいてしまわれまして、わたくしだけが参りましたのよ。
それでも、アリー様はモジモジとされており、わたくしとの会話も…どちらかと言いますと、わたくしが1人でお話しているような状態です。アリー様は、わたくし達より1歳年上で、今は8歳になられました。リナも申しておられますが、何となく守って差し上げたいような、妹みたいな雰囲気のお方なのでしてよ。
アリー様がお知りになられましたら、この上なく失礼なことでしょうが、それほどに…お可愛らしいお方なのですの。アリー様のお誕生会には、あれから2回ご招待いただきました。アリー様のお誕生会には、大人の方が多くて、子供達と言いましたら、わたくし達ぐらいですわね。以前は他にもたくさんの子供達が、出席なされていたご様子ですが。
以前のテオドール侯爵家は、ナムバード公爵家の一派だったそうでして。その流れの派閥の一派をご招待されていらした模様です。しかし、アリー様はその一派の子供達に馴染めず、またテオドール侯爵様も、ナムバード公爵様のお考えにはついて行けず、我が家のお父様に誘われて、今は中立派でいらっしゃるのですわ。
わたくしが唐突にトキ様の婚約者となりまして、それまで中立派であった我が家のアルバーニ侯爵家も、ラドクール公爵家の一派側になりましたのよ。テオドール侯爵家も、ラドクール公爵様の一派寄りの中立派、ということになりますかしら?
ナムバード公爵家から、自分の一派になるように強要され、一時期はナムバード公爵家の一派だったそうですが、ナムバード公爵家の次女である『カミーナ』様に、アリー様が嫌がらせをされており、アリー様の5歳のお誕生会で、アリー様が恥を掻かされたと…聞いております。アリー様の状況をお知りになったテオドール侯爵様が、ナムバード公爵家一派から、漸く離脱される決心をなされたのでした。
ナムバード公爵家の『カミーナ』様は、とても我が儘だと有名なのですのよ。
アリー様の為にも、ナムバード公爵家から手が切れて、本当に良かったですわね。
ナムバード公爵家とは異なり、ラドクール公爵様も一派の方々も、自分の一派になるようになどと強要なさいません。強要されておりましたら、疾っくにわたくしの婚約が、決まっておりましたでしょう。ラドクール公爵様と我が父アルバーニ侯爵が、いくらご友人であると申しましても、身分ではラドクール公爵様の方が上位なのですから、強要されれば…断ることなど、不可能なのです。
元々人見知りであったアリー様は、余計に貴族の子息・子女達との関係が、怖くなられてしまったようですわ。テオドール侯爵様はそういう理由もあり、ご婚約を無理強いされたくないのでしょう。候補のお方は何人かおられても、アリー様が怖がられるうちは、当分は無理だとご判断されたそうですわ。今は、先ず第1段階としまして、わたくしとリナ以外にも、同性代の女子と仲良くなっていただき、次に第2段階と致しまして、ご子息ともお友達になられる、という徐々に段階を踏んで行きましょう、ということですのよ。
アリー様とは前世のお話は、今のところは…しておりません。彼女が転生者かどうかは、まだ…判断出来兼ねる状況なのです。彼女の今のお悩みは、専ら友人関係という感じですから、わたくし達で宜しければ、何時でもご協力いたしますわ…と、この2年程の間は…頻繁に、お会いしておりますのよ。
わたくしもリナも前世から、あまり…人見知りとは、申し上げられない状況でしたので、人見知りというものが…今一、よく理解出来兼ねておりますわ。アリー様に的確な助言をさせていただくことも、出来ないのですわ。トキ様にもご相談致しましたら、的確なアドバイスをいただきましたわ。
「そういう性格は…彼女次第でもあるんだよね?…但し、見てる立場の人も辛いけれど、これは…自分で何とかするしかないんだよ。ただ側に居て、見守ってあげるだけでも、本人には心強いと思うよ。」
なるほど…。そういう方法もございますのね?…わたくし…陰ながら、見守りさせていただきますわ!
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「前世で…子供の時に、とても気に入っておりました、よく遊んだ玩具がありましたわ。つい先日、遊んでいる夢を見てしまいましたのよ。思い出した途端に懐かしくて、また遊びたくなりましたわ。」
「リナのお気に入りの玩具とは、どうようなものでしたの?」
「…え~と、動物の赤ちゃんを育てるという、ミニ育成ゲームのような玩具でしたわ。色々な動物から選べて、わたくしは…コアラの赤ちゃんを育てておりましたわね…。毎日餌をあげたり、散歩に連れて行ったり、お世話するものでしたのよ。学校に持って行って、先生に叱られたこともありましたわ…。」
「…あっ!…分かった!…オレも一時期は、遊んだよ!…玩具の名前は忘れたけど、オレは…ライオンを育ててたよ!」
「…ああ。そういうのが、あったね…。僕も…玩具の名称は思い出せないが、僕は…象の子供を育てていたよ。」
本日、前世の記憶保持者が全員、勢揃いしております。リョー様も前世の記憶保持者と、確実に判明致しましたので、サンドル侯爵家にて今後の作戦会議をすることと、なりましたのよ。元々、全員が知り合いですので自己紹介もなく、前世の雑談へとお話が移っております。これは、転生者全員の時代背景を知る為、でもございますのよ。
リナが前世の玩具を語り出されましたので、わたくしが気になって、何の玩具なのかをお聞きしまして。……あらっ?…その玩具は…もしかして……。リナは、可愛い系がお好きだとは存じておりますが、コアラを選ばれたのですね?…今度は、エイジが反応をされます。エイジは、百獣の王であるライオンでしたのね?
男の子達には特に、ライオンが圧倒的に人気でしたわね…。リョー様は…象でしたのね?…リョー様も、同じ年代なのでしょうか?
「…わたくしも、遊んだ覚えがありますわ。確か…パンダを…わたくしは、育てておりましたのよ。」
「…まあ!…ユイ様も…ですのね?…カノンは、どうでしたの?」
「わたくしは、全ての動物の赤ちゃんを、育てておりましてよ。ゲームを作った技術者が、先ず…最初にわたくしに、ゲームをテストさせるのですもの。ゲームに不具合がないかの確認作業を、わたくしが担っておりましたわ。」
「「「「………。」」」」
ユイ様は暫く考え込まれてから、漸く思い出したというように、お話に参加されました。ユイ様は…パンダでしたのね?…パンダも子供に限らず、男女問わずに人気がございましたわ。皆様のお話を伺い、わたくしはこのゲームで遊んだという、お客様を間近で拝見致しまして、感激しておりました。こういう生の声は、わたくし達作製側の人間には、貴重なご意見を賜る機会なのでしてよ。過去のことでは、ございますけれども…。
お話に加わらないわたくしに、リナがお話を振ってくださいますので、正直にお答え致します。わたくし、ゲーム開発時での確認担当者でしたのよ。他に試す子供がおりませんでしたし、まだ販売する段階まで、行っておりませんでしたので。
発売が正式に決定致しましたならば、親しい知り合いに試してもらうことも、可能なのですわ。わたくしは、その前の販売目的で開発した段階で、テストしておりました。あれは、わたくしの父の会社の商品でした。会社の技術者達も、わたくしを社長の娘というよりも、1人の社員のように扱ってくださっていたのです。
わたくしの返答は、皆様のご期待には沿えなかったようでして。トキ様を除く全員が、呆気に取られたというようなお顔を、されておられました。…え~と。申し訳ございませんわ。わたくしだけ…立場が、異なるのは…寂しいですわね…。
「………。カノンは…玩具会社の関係者の…子供でしたの…?」
「ええ、まあ。そうですわね。このミニゲームに関しては、わたくしが作りましたと言いますか、わたくしのアイデアを基に作られた、玩具ですのよ。わたくしの父の会社の商品になりましたので、わたくし自らが責任を持って、1番初めに…問題がないのかをチェックしておりました。」
「「「「………。」」」」
「…ええっ!…玩具やゲームで有名だった、あの会社の社長令嬢が…カノン、でしたの?」
「ええ。わたくしの前世は、玩具会社の社長である、乃木家の1人娘ですわ…。改めまして…皆様、前世とは申しましても、わたくし共の会社の商品を手に取っていただき、またご愛用いただきまして、まことにありがとうございます。」
前半は、カノンとアリーのお茶会風景です。今のところ、アリーが転生者かどうかは…不明です。
後半は、転生者一同がサンドル家に集まって、今後の対策をする為への話し合い、というところですね。会話が多めです。何せ、転生者が既に主人公を含めて、5名もおりますので。次回へ続きます。