番外 僕達の友情
今回は番外編ですので、他の人物の視点です。
前半と今班の視点の人物が、別の人物となり、異なっています。
前半は、会話が多めとなりました。
「…リョー。君は、何か…悩みがあるんじゃないのかい?…僕で良ければ、何でも相談に乗るよ?」
「…大したことでは…ないよ。ただ…夢を、見ただけだよ。ほんの…少し、寝不足になっているだけさ。心配してくれて、ありがとう。」
「もしかして、それって…前世に関する事なのかな?…そうだとしたら、僕にも相談してほしい。少しは、力になれると思うよ?」
「…っ!?………。何故…それを……。」
「…やっぱり…そうだったのか…。少し前から…いいや、だいぶ前から…悩んでいたよね?…様子がおかしいことには、気が付いていたよ。」
「…まさか、トキ、君も……そうなのか?」
「いいや。僕は…残念ながら、前世の記憶持ちではないようだ…。何だか、僕だけ…除け者にされた、気分だよ。実は…他にも何人か、君と同様の人物達が、存在しているんだ。然も、全員が…君の知り合いだよ。」
「…!?……まさか……?!」
「そのまさかだよ。その中には、君の弟であるエイジも、含まれているからね。僕が一番最初に気付いた人は、カノンだった…。彼女を守る意味も含めて、彼女と…婚約したんだ。ちょっと、強引だったけどね…。彼女がすんなりと納得してくれて、良かったよ…。」
「…はあ!?……エイジが?……カノン嬢も?…まさか、お前…彼女の許可を得ずに、婚約を発表したのか?………ウソだろ?」
「いいや。全て…本当のことだよ。エイジが、君と同じ前世の記憶保持者であるのは、カノンを通して…聞いている。カノンが…何か違うとは、初めて会った当初から分かっていたんだ。念の為に、僕にだけは何でも話してくれるように、他の人間には言わないように、僕が仕向けて置いたから、カノンのご両親も気が付かれていない、と思う。彼女が5歳になった後に、見たという夢の話を聞いて…直ぐに、彼女が…前世の記憶保持者だと分かったんだよ。…リョー、君は…僕の家が、そういう前世持ちを監視する家柄であることは、知っているのかい?」
「…ああ。知っているよ。父から聞かされている。これでも、僕は…あの家の嫡男だからね。そうか…。カノン嬢も…なんだ…。そうじゃあ、君は…父親には、絶対に言えない立場だな…。君がどれだけ、彼女を大切に思っているかは、僕もずっと見て来たからね、よく理解しているつもりだよ。これでも…君とは、大の親友だと思っているんだからね。」
「…そうなんだ。僕は…カノンが、前世の記憶保持者であることは、誰にも知られたくない。特に、王家と僕の両親には…ね。当然だが知られれば、彼女の立場がどうなるか…分からない。ただ…僕の妹も、最近になって同じく、前世保持者だと判明したんだよ。流石に両親も、滅多な行動には出ないだろうけれど……。」
「……はあ?!…ユイ嬢も……なのか?…これは一体、どうなっているんだ?」
「僕も、そう思うよ。後は、リナ嬢もそうみたいだよ。カノンから、そう聞かされている。僕が知っているだけでも、君を含めて…5人もいる。」
「………。」
今日、僕はリョーの家を訪問していた。名目として、リョーの家に遊びに来たことになっている。僕ら2人は、リョーの部屋でお茶を飲んでいた。僕の従者も彼の従者も、今は…席を外させている。いつものことでもあり、誰も不振に思わなかったし、僕らが何を話しているかも、聞かれる恐れはない。そういうことで、僕も堂々と、前世の記憶保持者の話が出来るのである。
僕は元々、リョーを問い質すつもりで、今日はこの家…サンドル侯爵家を訪れていた。彼が意外に簡単に、夢の話をしてくれて…助かったよ。それに、いつもは慎重であるリョーも、他にも存在する…とか、自分の知り合いである…とか話されて、相当に動揺したらしい。「もしかしたら、エイジも…」と、疑ってはいたんだろうな…。エイジは、かなり荒れていた時期があったから、何か前世の言葉を口走ってしまったのだろう。同じ前世の世界に居たならば、リョーも理解出来る訳で。
エイジもだと断言すれば、流石に…動揺しているようではあるが、やはり薄々は、気付いていたような感じだな…。カノンもだと断言した方が、驚いていたかな…。しかし、彼女との婚約が、僕の意志だけで通したのが、あの会話だけでバレたようだな…。…侮れないなあ。サンドル侯爵家の跡取りの素質が、十分にあるリョーには…。同じ血を継ぐ弟のエイジとは、大違いだ。油断していたら、あっという間に形勢が逆転するだろう。僕の親友で、心底…良かったと思うよ。
彼は、僕の家の本来の役割も、よく把握していた。本来ならば、僕には絶対にバレたくないだろう。だが、僕も…そういう教育も受けている。前世の記憶保持者の見分けが、簡単につくように、と。それでも、僕が…これ程簡単に気付ける理由は、カノンの存在が…凄く大きいと、思っている。
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今世の僕は、『リョルジュ・サンドル』という名のサンドル侯爵家の長男だ。
友人や仲の良い知り合いからは、愛称として『リョー』と、呼ばれている。
9月生まれの僕は、今年の誕生会は迎えていないので、今はまだ9歳であった。
7月生まれのエイジが、今月に誕生会をすることになっていた。僕の家であるサンドル侯爵家は、騎士の家系でもあり、僕らの父であるサンドル侯爵は、騎士団の第一部隊の団長をしていた程の人物でもあった。
第一部隊と言えば、この国では王家の人間を傍で守護する、誉れ高い職業である。
要するに、花形の職業なのである。その代わり、リスクも高いという職業でもあったが。普段は、王家の人間を守る為、普段はお城で働いており、王族の一番近くで守っている部隊である。紛争などが起きた場合は、王族を命を懸けて守らなければならず、もしも…王族を守れなかった場合などは、自らの死を以って償うという、責任の厳しく問われる立場でもある。しかし…それでも、第一部隊に配属されることは、騎士にとっては…大変な名誉なことでもあるのだ。
王族を守る職務の為、滅多に家に戻ることも出来ず、エイジが生まれて暫くしてから、父は毎日家族と会えるとして、騎士団の見習いを中心とした、育成の職務に転職したのだ。若い者を立派な騎士にするのだが、その当時はあまり、騎士の教育が上手く行っていなかった。その為、父にそういう話が、舞い込んで来たのである。父は見かけによらず、案外と家族思いであった為、喜んで転職したという訳で…。この職務ならば、余程の事がない限りは、王宮から帰宅出来ないとか、紛争などの中心に巻き込まれるとかは、ないだろう。これで毎日、家族と顔を合わせられるようになった。無論、花形の職業から離れるのは、寂しそうであったのだが。
サンドル侯爵家では、最終的に第一部隊に配属されるのは、当たり前でもあった。寧ろ、配属されないまま騎士を終えることは、我が家では勘当ものの扱いだと、父にそう聞かされていた。当然の如く、僕達兄弟にだけ特別に、父は厳しく接して来たのだ。理屈では分かっていても、父の教育があまりにも厳し過ぎて、当主になる勉強も受けていた僕は、当主教育を受けないエイジに嫉妬し、一時期は心が荒んでしまっていた。
エイジも5歳から厳しく教育されていると、後から知ることになる。次男だからこそ、騎士として生活して行く為の教育、だったらしい。僕は当主になる為、第一部隊に配属されなくとも許さるようだが、弟は将来は絶対に、第一部隊に配属されなければならないのだ。勘当ものの扱いは、当主以外の第二子以降のことであった。現実に僕の祖先は、殆どが第一部隊に配属されている。父はそれだけ、僕達息子に期待しているのだろう。
エイジには、僕以上に厳しい騎士の稽古を、父自身が教えていた。僕は2年近く、その事実に全く気付かず、エイジにも辛く当たってしまった。僕は…兄失格だな。本当に僕は、何を…見ていたのだろう。その後直ぐ…僕も父と和解し、エイジには僕も指導していたのだが、父からの教えで…つい、弟に厳しく指導してしまって。僕達兄妹の関係は…余計に拗れ、今ではすっかり…エイジに嫌われてしまったようである。…はあ~。僕は…何をしているのだろう。僕自身が、父の厳しい教えで…荒んでいたのに。僕までが、厳しく指導して…どうするんだよ…。
エイジに嫌われたまま、更に2年近く経っていた。エイジは騎士団の養成所では、何もないように振舞ってはいるが、家では…かなり反抗的である。僕や父とも自分からは話掛けないし、母やリナ嬢や友人達には、当たり散らしていたという話だ。完全に、父と僕の所為だよな…。父は…ああ見えて、家族思いの良い父親なんだ。ただ単に、愛情表現が下手過ぎるだけなのだ。あの厳しい訓練は、僕ら兄弟が、将来的に困らない為の盾のつもり、なんだろうな…。
僕ら息子には…そういう気遣いより、もっと口に出して接して欲しかったかな…。サンドル侯爵家は優秀なのだと、世間に見せびらかす必要が、多少あるかもしれないが、僕達が歪んだまま成長してしまったら、意味がないだろうに。家族が皆バラバラになって、不幸せになったかもしれない。父は、自分もされていた教育だったから、自分が悔しくて頑張ったから…と、僕らのことも同様に考えたようだが…。
普段は、父に逆らわない大人しい母が、怒涛の怒りを纏って父を叱ったのは、もう少し先の話である。この時の父は…全く歯が立たず、『母は強し』ということわざを思い出すことになるとは、まだこの時の僕らは…知る由もなかったのだ……。
前半は、トキの視点で、後半は、リョーの視点となっております。
これで、リョーも転生者であるのが、確実となりました。トキと仲良しという関係です。
後半はリョーから見た、今世の家族関係です。やはり、いつの時代も『母は強し』ということですね。