28話 懐かしさと寂しさと…
いつも通り、主人公視点です。
副タイトル的には、後半部分の方ですね。
前世の記憶保持者は、最悪の場合として、王家にもバレてしまえば、例え公爵様と言えども、ユイ様でさえ監視の対象になる、と言っても過言ではないでしょう。前世の記憶保持者=転生者は、この世界にとっては…そのぐらい、厄介な存在なのですわ。この世界と前世の世界が、同じような世界であったならば、そう問題ではなかったことでしょう。
しかし、この世界と前世の世界は、全く違い過ぎました。然も、誰も全く知らない異世界なのです。前世の記憶を持っているわたくしは、この世界が異世界だと思っておりましたが、この世界から前世の世界を見れば、同じように異世界なのですよね。異世界何て存在していない、と思っている人間にとっては、途轍もなく魅力的な情報が含まれているのです。
この世界の方が、前世よりも進んだ文明であったなら、過去を明らかにするみたいに、他の世界を研究対象とする感じ、となることでしょう。しかし、その反対の場合、つまり…この世界の方が文明が遅れている場合は、より進んだ文明を取り入れようと、画策することになるでしょう。そして、どちらとも違い、全く同じような世界であったならば、研究や画策ではなく、友好に接しようとコンタクトを取ろうとするかもしれません。
兎に角、この2つの世界の関係が、異世界であるという以上、ある程度の興味は持たれることは、間違いことでしょう。それでも、対等であればまだ良いのです。
わたくし達も転生ではなく、何らかの転移とかで、元の世界にも簡単に戻れるとかなら、まだ良いのです。これなら、対等でなくなった時には、直ぐに逃げられますからね。しかし、わたくし達は転生であり、もう戻ることは出来ないし、ここが今のわたくし達の居場所なのですのよ。逃げ場が…一切ないのです。
友好にコンタクトを取ろうと思うならば、まだマシな対応だと思いますわ。
しかし、実際にコンタクトなんて、取れそうにありません。転生である以上、前世の世界は、わたくし達の過去の世界なのですからね。そうなると…研究か画策ということになりますが、この世界の方が遅れている訳ですから、研究はないでしょうね…。つまり、残るは…画策ということに、なりますかしら。
実際に過去には、転生者達の世界の技術を取り入れようと、転生者も暗躍したといいますし、この世界の人々も、転生者の技術を取り合おうとしたとも、トキ様から
聞いております。つまり、前世の進んだ文明を取り入れたいとは、思っているようなのですが。この世界の人間は、楽して新しい文明を手に入れようとしか、思っていないのかしらね?わたくしが調べたところに依りますと、この国というかこの世界は、もう数千年もの間、全くというほどに文明が進んでおりません。
数千年もの間、このような時代がずっと続いている、ということですね。
その長い間には、隣国と戦争もあったり、同盟も組んだり、この国自体でも戦争が起こって、王家の人間の血筋が変わったり、と色々あることは…ありますが。
しかし、前世の世界のように中世時代が終わって、次の時代が来るということもなく、ただ戦争で勝った人物がまた自分の血筋の王家を作る、という同じような繰り返ししかして来なかった、という感じでした。これでは、文明が進むほどの次の時代が、いつまで経っても来る筈がないですわ。
この異世界…進歩なさ過ぎです。これでは、まるでゲームで作った世界のように、ただ単に…繰り返すだけなのですね。リセットが出来ないというのに…。
本当にゲームの世界なら良いでしょうが、現実の世界だと言いますのに、余りにも他力本願のような気がいたします。この世界では、努力してもっと良い暮らしを、と思わないのでしょうか?
別に王族や貴族が古いとか、言うつもりはありません。前世の世界でも、ヨーロッパなどでは貴族制も王制も残っておりますし、何も王制を全て否定する訳でもないのです。しかし、それでも前世と同じくらい時代が続いているようなのに、これ以上何も進展していない文明とは、何か寂しい気がしますわね。…まあ、確かに前世の世界では、文明が発達し過ぎて環境問題が深刻でしたから、この世界も進み過ぎれば同じ道を辿ることでしょう。
何か…外的要素がある、という気がするのですよね?…わたくしの唯の勘のようなものですが、前世では結構な確率で当たっておりましたのよ。…何故か、この異世界では働きませんけれども。…トキ様がおられるからかしら?…わたくし、トキ様とご一緒におりますと、特に最近は…勘が働きませんのよ。トキ様も勘が良いお方ですから、先に彼の勘が、働いてしまっておられるとか…?…それとも、これも…外的要因だったりするのかも…。
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今日は久しぶりに、エイジにお会い致しました。あれから2年半ほどの間には、数えるほどしかお会いしておりません。リナとは頻繁にお会い致しますが、エイジとは以前より接点が無くなりましたわ。わたくしが正式にトキ様の婚約者となりましたから、エイジのご両親が諌められたらしくて。何しろあの頃は、お互いのお屋敷を行ったり来たりしておりましたもの。時には…リナが来られなくとも、エイジだけが遊びに来られたことも…。勿論わたくしは、エイジとリナが婚約者同士ですので、わたくしは以前から、ご遠慮しておりましたけれど…。
それにしても…エイジは、リナの婚約者であるという自覚が、全くございませんでしたわ。わたくしに正式な婚約者がいなくとも、貴族の常識としまして、婚約者の同伴なしで、その親友の女性のお屋敷には、本来ならば…訪問致しませんことよ。有り得ないことでしたわ。今までは…まだ子供ということで、見逃せた部分もあったのでしょう。それでも、正式な婚約者の出来たわたくしに対して、もう以前のような訪問は見逃されませんわね。
エイジのご両親が諌められたのは、彼自身がまだ、理解出来ていなかったのかもしれません。勿論、会うだけのきちんとした理由があるならば、婚約云々は関係ありませんわ。実際に、彼のお父様のご用事で、エイジがわたくしの父を尋ねに、我が家に来られたのですもの。
「…やあ…カノン。久しぶり…。この前会ったのは、半年以上も前になるよな。カノンは…元気だったか?」
「…ええ。お久しぶりですわ、エイジ。わたくしは、この通り…元気でしてよ。あなたは、お元気でしたの?…何だか、とっても…落ち着かれましたのね?」
「…ああ。俺も…元気だったよ。一応は、正式な騎士見習いになったんだ。騎士は、礼儀作法とかも厳しいんだよ……。」
そういう訳で、父が来られるまで、わたくしがお話相手として、久しぶりにお顔を合わせましたのよ。…驚きましたわ。少し見ない間に、悪ガキとしかイメージのなかったお人が、以前よりも…ずっと落ち着いておりましたのよ。顔付きも…だいぶ凛々しくなり、もう既にイケメン騎士になられつつありますわ。…そうですのね。騎士見習いになられたから、お行儀も良くなられましたのね。確かに、騎士は王家の人間にお仕え致しますので、礼儀作法が出来ませんと、王族にはお仕え出来なくなりますのよ。要するに、騎士失格となりますの。荒くれ者もいる兵士とは違い、この国の騎士は基本的に貴族でなければ、中々就職出来ないという職業ですわ。
例えますと、兵士は貴族が雇う、前世で言うところの警備会社から個人が雇った警備員で、騎士は王家と契約する、前世で言うところの国家公務員の警察官(若しくはSP)、と言う感じでしょうか。こういう考え方をするわたくしは、既に大分、前世の記憶に感化されておりますわ。でも、こう考えられるのも、悪くないのです。特にリナとは、盛り上がりますのよ。2人共前世の記憶持ちですので。
「リナから聞いたんだが、カノンも…前世の記憶があるって、本当か?」
「…ええ。わたくしも、前世からの転生者ですわ。わたくしは、8歳頃までの記憶を持っておりますのよ。これは、リナも同様だというお話ですわね。エイジは…どうなのですの?」
「ああ、俺も似たようなものだよ。やっと最近慣れて来て、夢にも慣れて来たんだよ。夢は…リナが言うように、前世で……姉ちゃ…姉貴がいたんだ…。年子の姉だったから、いつもケンカばかりしていたんだ。夢でその姉貴が出て来て、最初の頃は…今の兄さんとダブってしまって…。正直、頭がグチャグチャだったよ。それなのに、父上や兄さんに厳しいこと言われて、リナにも当たっちまった…。リナにも色々言われてから、やっと分かったんだ。父上や兄さんは、態と俺に厳しくしていたって。でもそれは、俺を大事にしてくれてるから、俺の未来の為だったんだ。
それで漸く、前世でも俺とよくケンカした姉がいたって、思い出せたんだ。確かによくケンカはしたけど、よく一緒に遊んでもいたんだ。…そんな姉でも…もう会えないと思うと……。懐かしい夢だけど、本当にあった出来事だった…と思う。」
エイジが確かめるように、わたくしに前世の記憶があるのかを、訊いて来られましたのよ。エイジが前世の記憶を思い出されてからは、わたくし達は初めて再会致しましたのね。わたくしはエイジに、どこまで記憶が戻っておられるのか、逆にお訊き致しましたわ。エイジは、わたくしの意図に気が付かれたようでして、落ち着いた調子で簡潔に語ってくれました。
少し寂しそうなお顔で、時々辛そうにして…。特に…前世のお姉様を…語る度に。
今世の家族との確執が辛かったというお話よりも、前世のお姉様と二度と会えないということに……。
前半は、カノンが、前世と今世のことについて、語っているものとなります。
後半は、久しぶりに主人公がエイジと会った、というお話になりますね。
エイジの過去が語られます。乙女ゲームの立場で言えば、エイジの悩みは解決したようです。