26話 似た者兄妹
いつも通り、主人公視点です。
前回の続きですが、婚約者の妹とのお茶会は、前半までとなります。
「そうなのですね…。ユイ様には、前世にもお兄様が…いらしたのね?…少し不器用な、それでいて妹思いの、飾らないお兄様だったのですね?…ユイ様は、前世でも今世でも、良いお兄様で恵まれてお出でですわね。わたくしは…前世では、兄弟姉妹に恵まれず1人っ子でしたので、羨ましい限りですわ。」
「…まあ。カノンお姉様は、前世では1人っ子でいらしたのね?…兄弟は居れば居るで、煩わしいことも多いのですが、1人っ子では…兄弟ゲンカさえ出来ませんものね?…(兄弟とかがいると、)ままならないこともありますけれども、それでも…兄が居てくれて良かったと思いますわ。但し、わたくしは、1人っ子には逆になってみたいと、密かに憧れておりましたわ。」
「…うふふふ。ないもの強請りは、お互い様ですのね?…わたくしは、今世で願いが叶いましたから、それでもう…いいのです。」
「わたくしはできましたら、姉がほしかったのです。でも…今世で、姉も同然なカノンお姉様に出会えましたから、もう既に心残りはありませんのよ。」
あれから、ユイ様が夢で見られたという過去の出来事を、お話していただきましたわ。羨ましいことに、ユイ様には此方にも彼方にも、お兄様がいらっしゃたようですのよ。わたくしが羨ましいと感じておりましたように、ユイ様も同様に1人っ子を羨ましく思われたそうですわ。…ふふふ。お互い様でしたのね。今世ではわたくしの念願が叶いまして、弟が出来ましたもの。わたくしが自慢するようにそう言いますと、わたくしを姉として慕ってくださっておられると、ユイ様が嬉しいことを仰ってくださって。わたくしも、ユイ様を実の妹のように思っておりますからね。今世でお会い出来た運命に、感謝しておりますのよ。
お父君が転生者の監視をされていることを、ユイ様にも申し上げますと、とても驚かれておられます。トキ様が仰られたように、公爵様が自分の娘であるユイ様を、どうこうされることはないでしょうが、これほど前世の記憶保持者がおりますと、ケジメの為にユイ様にも加減なさらない可能性も、ないとは言えません。
念のためにバレませんようにと、十分気をつけていただくように、ご説明致しましたのよ。わたくしのことでは、トキ様にご相談に乗っていただいておりますと、彼女にもお伝えしましたわ。ユイ様のお兄様は、この件に関して知ってみえますし、全面的にわたくし達のお味方なのですよ、と教えて差し上げたかったのです。
「…まあ。お兄様も…ご存じなのですね。本当にお兄様は、転生者では…ないのですよね?…にも拘らず、カノンお姉様のご相談を受けておられると、いうことでしょうか?…お兄様って、案外とマメなお人でしたのね…。」
リナも同じような疑問を、抱いておりましたわ。妹のユイ様にまで、違う意味で…感心されておられます。転生者でもないトキ様が、誰よりもいち早く気がつかれ、相談に乗ってくださったことは、ただの彼の善意のお気持ちからなのですわ。
わたくしを庇う為に、婚約までしてくださったというのに、何となくリナもユイ様も…呆れておられます…?…まあ、この件に関しましては、誰にもお話しておりませんので、お2人共…誤解されたのかもしれませんね。ですが、わたくしが恥ずかし過ぎまして、リナにもユイ様にも敢えて、内緒とさせていただきましたのよ。
これ以上お話したところで、トキ様のお気持ちを、別の違う意味に取られてしまいそうで、わたくしからはお話出来兼ねましたのよ。これ以上、トキ様のご好意を利用するような事態には、したくありませんもの。そう言いますと、自分に都合の良い詭弁に、聞こえるかもしれませんけれども…。
「今世のお兄様は、もう少しドンと構えてお見えになるかと、思っておりましたのに、意外にも細やかに動かれておられましたのね。前世の兄と今世のお兄様は、全く正反対のタイプであると、わたくしも信じておりましたが、何だかんだで…似た者同士なのかもしれませんわ。今世のお兄様も…カノンお姉様には、敵いませんのね?…わたくし、良いことを知りましたわ。…うふふふふふ。」
…あらっ?…ユイ様が…ちょっぴり、腹黒的な気配を放たれておられますわね…。やはり…ご兄妹ですのね。自己完結されるところなど、よく似ておられます。
これは、兄であるトキ様と、いいご勝負なのかもしれません。ユイ様はもう少し、感情的になられる部分が多いお方だと、わたくしは勘違いしておりましたわね。中々侮れないお方のようですわ。
その後も、彼女の分かる範囲で前世のお話をお聞きし、わたくしからも色々とお話を致しまして、その後にユイ様は公爵家に帰って行かれたのです。
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「そうか…。やはり、ユイも…前世の記憶保持者だったか……。」
今日は、我がアルバーニ侯爵家には、トキ様がいらしておられます。ユイ様のことをご報告する為に、わたくしがお茶会としてお呼びしたのです。予めトキ様が、予想されておられたことではございますが、やはりそうだとお聞きすれば、兄として戸惑っておられるご様子が、見られます。まあ、そうなりますわね…。
世の中には、こうして理屈では割り切れないことが、多々あるのですから…。
「お兄様であるトキ様がお味方であることは、ユイ様にもご説明致しましたし、お父君で在られるラドクール公爵が、転生者を監視するお役目を担ってみえることも、お伝え致しましたわ。その上で、ユイ様には、わたくし達と共に行動されることを、ご承知いただいております。転生者達が皆固まっておりますれば、そう簡単に監視側も手を出せないでしょう。それでも、やはりバレない方がよろしいでしょうから、ユイ様にも十分に気を付けられますよう、ご忠告させてもらいましたわ。トキ様も、ユイ様のフォローをお願い致します。」
「…分かった。ありがとう、カノン。ユイのことは、本当に助かったよ。多分、僕がどれだけ訊いたところで、ユイは本当の話はしなかったと思うし…。カノンがいてくれて、良かったよ。それに、ユイも転生者と分かったお陰で、両親はこれでもう、転生者には手が出せなくなったと思うよ。自分の娘だけ、特別扱いなんて出来ない人達だからね?…もし…バレたとしても、黙認してくれるはずだ。」
それなら良いのですが……。最悪の場合として、王家にもバレてしまえば、例え公爵様と言えども、ユイ様でさえ監視の対象になってしまうかも、しれないのですよね…。それぐらい、前世の記憶保持者=転生者は、この世界にとっては厄介な存在なのですもの。この世界と前世の世界が、同じような世界であったならば、そう問題ではなかったことでしょうが…。
「ユイのことを心から心配してくれて、ありがとう。あの父上のことだから、もし気が付いていたとしても、絶対に王家に漏れるような失敗はしないよ。だから、そのことについては、何も心配しなくていい。でもね、君達が…カノン達が大っぴらに動くことの方が、リスクが高いからね。少しでも何か気になることがあれば、動く前に先ず僕を通してくれると、ありがたい。僕もカノンのことは気に掛けているけど、流石にリナ嬢やエイジのことまでは、詳しい状況が入って来ないしね。」
「トキ様…。ご心配してくださって、ありがとうございます。婚約者として、気に掛けてくださるのは嬉しいのですが、これ以上のご負担は申し訳ないのです…。わたくし達にも出来ることがございましたら、教えてくださるだけでも助かりますわ。後は、わたくし達で…自分達で、出来ることは致します。」
「…いや、婚約者だから…というつもりじゃないんだけど…。決して、それだけじゃないんだよね……。兎に角、僕には前世の記憶がないからって、仲間外れに…しないでくれないかな?」
「 …えっ?! ………。いいえ、仲間外れなど……。そういうつもりでは…ございませんのよ。わたくしはただ…トキ様には、これ以上のご迷惑を…お掛けしたくないのです。婚約者になってくださっただけでも、守られておりますのに……。」
「………。う~ん。これは……。カノンがこういうことに鈍いのは、僕も気が付いていたんだけど、ここまでとは…ね…。それとも…僕がそういう対象に入ってないだけ、という気もするけれど……。まあ…どちらにしろ、僕の頑張り次第もあるのかなあ~。」
「???」
「……うん。全く分かってないっていう、顔を…してるね?…まあ、カノンらしいから、今はそれでもいいよ。僕も今は、これ以上は望んでいないからね。」
「………。」
トキ様からユイ様のことで、お礼を言われたわたくしは、彼がまた必要以上にわたくしをご心配なさっていると、感じましたのよ。ですから、これ以上のご負担をお掛けしまいと、妥協案を申し出た訳でして。簡単に言いますと、最低限の情報をいただければ、自分達で協力して調べます、と言いたかったのです。勿論、無理はせぬように、派手な動きは控えますが。ところが…トキ様は、何か勘違いを…されたようでして、ご自分が仲間外れにされていると、申されたのですのよ。…ええっ!何故に…そう思われたのでしょうか?
わたくしが必死に弁解した返答に対し、トキ様がブツブツ呟かれては、何かとんでもない言葉を吐かれておられます。…え~と。仰っている…意味が分かりません。
…トキ様はこれ以上、一体何を…頑張られるのでしょうか?…もう既に、完璧な貴公子様だと思うのですけれども、これって…わたくしの所為なのですの?
前半は、前回からの続きで、カノンがユイとお茶会の様子となります。
後半は、その後日での、カノンとトキのお茶会の様子です。
ちょっぴり…ピンク色の背景となっておりますが…。
頭が良過ぎて、人の感情を読み取るのが苦手な主人公…。
トキが、『カノ』ではなく、再び『カノン』呼びをしていますが、トキが口説く時の状況により、使い分ける形となります。