25話 あなたも転生者?
いつも通り、主人公視点です。
前回の続きで、婚約者の妹とのお茶会が続いています。
ユイ様の外見は、背も同じ年頃の子供達よりも高くて、わたくしよりも身長が高いのです。わたくしの身長が低過ぎなのですが。リナよりは少し低いぐらいで、容姿も大人びた雰囲気です。顔立ちはトキ様にそっくりというほど、似ておられますわ。トキ様と同じ金髪と、お父君と同じグレーの瞳の比較的多い色素を持たれてはいるものの、もう既にこの年齢でかなりの美少女ですのよ。
金髪のさらさらストレートヘアーで、肌は透明感のあるモチモチな白い肌ですわ。そしていつもわたくしを、にこにこと満面の笑顔で迎えてくださるのですのよ。
鼻もスッと高めで、前世風に言うのならば、ハーフっぽい私に比べますと、完璧な外国人という雰囲気です。わたくしの淡い金髪とは違って、光に当たった金髪の髪は、トキ様と同様にとても美しく輝き、思わず見とれてしまいますわ。
今日のユイ様は、淡いピンクのドレスなのですが、彼女は濃い色のドレスも着こなされておりますわ。金色の髪と白い肌には、原色のドレスもとてもお似合いなのですのよ。寧ろ、淡い色よりも濃い色の方が、よりお似合いだと思いましてよ。
前世の日本とは異なり、髪型も年齢によって、一通りの型が決まっておりますし、特に女性は子供の頃より、長く伸ばすと決まっておりますのよ。ただ最近では、トキ様のお話からしますと、前世の記憶保持者によって、女性でも大人になって、親から独立さえすれば、好きな髪の長さにしても良いという風潮が、出て来ているようですが。
まだ実際には、髪を短く切る女性は少ないものの、庶民にはそういう傾向があるようなのです。一昔は流行は上位貴族から、と言われておりましたが、今現在では、庶民から流行という雰囲気も見られます。勿論、庶民と貴族では、生活そのものがまだまだ違っておりますから、流行とは言えども…共通する物に関しての一部、という感じなのでしょうか?
流石に、貴族の女性が髪を短く切るのは、単に失恋という事柄よりも、結婚出来ない理由があるとか、修道院に入ることとなったとか、あまり縁起の良いものではございません。その為、髪を短く切る髪型にとされるお方は、貴族では未だどなたも現れておられません。貴族の常識のあるお方ほど、抵抗があるからでしょうね?
ですから、少なくともこの国では、女性の殆どはロングヘアであり、髪型も然程皆様変わらず、似たような髪型をされておられます。後は、年齢や既婚などで、落ち着いた髪型をされる、というぐらいでしょうか。ただ同じような髪型でも、身分が高くなるほどに、若しくはお金持ちになるほどに、髪飾りなどのアクセサリーにお金を掛け、皆様とは一味違う髪型に仕上げるのですのよ。
これこそが貴族の楽しみでもあり、また貴族ならではの嗜み、といった感じなのですよね。その点、庶民にはあまりお金を掛けられない、という悩みがありましたからでしょうか?髪を短く切った髪型は、斬新なお洒落と捉えられたようなのです。
庶民の女性は貴族の女性とは異なり、女性も身体を使ってお仕事をすることも多いですし、だから尚更、髪型を短くすることは、お仕事がしやすくなるとか、身体を清潔に保ちやすいとか、色々と利点も一致したということでしょう。
貴族の女性は、身体を張ったお仕事はしませんからね。殆どは命令をするだけで、従者やメイドが実行致します。逆に、これらを全て貴族女性が行うことは、従者やメイドのお仕事を奪ってしまうことにもなり兼ねませんから、仕方がない面もあるのですけれど…。決して、楽をしてお仕事をしたいとか、お金があるから何でも命令したいとか、そういう単純な問題ではないのです。
お話が脱線してしまいましたが、そういう理由もありまして、わたくしもリナもユイ様も、ロングヘアですわ。リナは天パーのようでして、ロングヘアを維持するのは、毎朝メイド達が格闘してくれていると、リナ本人から聞いておりますわ。
天パーは前世に限らず、大変そうです…。
この国には、美容院どころか美容師自体がおりませんので、天パーをストレートには出来ませんし、そういう技術もありません。わたくし達のように、転生者が今世に増えて参りましたならば、そういう技術も…今後考えられるかもしれませんが。現状が不便だと思わなければ、いつまで経っても現状が変われませんものね。
そこには…転生者の存在も、時には必要なのかもしれませんね?
前世でも、わたくしが生きていた時代となるまでに、試行錯誤があって技術が進んで来たとお聞きしていますから、前世の中世に近い…この世界では、後100年以上の年月は掛かるかもしれませんね?
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「…ユイ様。大切なお話がございます。その前にユイ様に、お伺いしたい事項などが…いくつかございます。」
「はい、カノンお姉様。何でもお聞きくださいませ。」
ユイ様に漸く、例の件をお訊きする決心を致しまして、改めましてわたくしは居住まいを正し、彼女に問い掛けましたのよ。ユイ様も同様に姿勢を正されて、何だか少し緊張した面持ちで、お返事されまして。わたくしも、緊張して参りましたわ。
「ユイ様は…最近、過去の現実…と思われるような夢を、見られておられますでしょうか?…『前世』という言葉に、何か思い当たる節はお有りですか?」
「…えっ!?……前世…の夢………。」
わたくしは単刀直入に切り出しました。その方が、お相手の方の本音が見られますもの。そして…それは、良い意味で正解でしたわ。ユイ様は訊かれた当初は、意味が分からないという風に、キョトンとされましたけれども、徐々に目を大きく開かれ、物凄く驚いたお顔をされておられますもの。これは…前世という言葉を、知っておられますわね?…もしも、前世の言葉の意味が真に理解できないならば、まず驚くよりも意味が分からないと、首を傾げられる筈ですわ。やはり…トキ様の予感が当たられた、ということでしょう。前世の言葉が混じり、言葉使いが乱れられているご様子ですわね。
仕方がありません。前世の記憶が少しでも戻りますと、これまでどんなに礼儀作法が完璧だと致しましても、前世の記憶と混じってしまい、何処から何処までが此方の記憶で、何処から何処までが彼方の記憶なのかが、曖昧になってしまうのです。わたくしが既に経験しておりますし、リナもこの意見に同意しておりましたわ。
前世の記憶を取り戻すことには、そのぐらいリスクが伴うことなのでしょう。
「…何故…それを………。」
ユイ様はかなり動揺されていらっしゃるご様子でして、驚いておられたお顔から、今は…お顔の色が真っ青になられておられます。トキ様とは違って、ユイ様は案外と、真っ直ぐな性格をされていらっしゃいますのね。この場合のトキ様でしたら、きっと全く慌てられずに、上手く誤魔化されたことでしょう。何よりも、前世の記憶を取り戻された所為で、前世の性格に引き摺られていらっしゃる所為かも、しれませんが。
リナの場合も…実は、そういう傾向が現れておりますと、ご本人より申告されましたわ。リナの前世は、一般市民だったそうでして。わたくしは前世もそれなりのお嬢様でしたので、わたくし自身はそう変わっていないつもりでございましたが、それでも…彼方と此方では色々と事情が異なりするし、自分でも気づかぬうちに、言動が変化しておりますかも…知れませんね…。
そう言いましたら、エイジのことでは詳しく聞いておりません。今度、お茶会でお会いしましたら、前世はどういう環境でいらしたのか、ぜひにも問い質してみたいですわ。ユイ様も彼方の世界では、どういう環境でしたのか…気になりますわ。
前世でもお知り合いでした、という可能性もあるかもしれませんもの。
「ユイ様。わたくしは、あなた様の味方ですわ。前世の記憶かもしれないということでしたら、他にもお仲間がおりましたよ。どうかお気軽になられて、ご自分で分かる範囲で良いですから、お話くださいませ。わたくしで宜しければ何時でも、ご相談に乗らせていただきますわ。」
「………。カノンお姉様、わたくし…どうしたらよいのか…。5歳のお誕生日を迎えてから、突如として…過去というか、その…前世というか…の夢を、よく見るようになりましたの。でも初めのうちは、わたくし…何の夢なのかが理解出来なくて。今も混乱しておりまして、どれが現実でどれが夢なのか、分からない時もあるのです…。あの夢が…わたくしの過去だったとは、今は何となく感じておりましたが、前世かどうかは…自分でも、まだ…納得しておりませんの。お姉様、わたくしは…どうしたら良いのでしょう?」
「ユイ様。実はわたくしも、最初の頃は同様でしたわ。リナも同様に仰られておりますの。ですから、思い出せる内容だけでも、教えてくださいませ。」
「…えっ!?…カノンお姉様も?!…それに…リナ様も…ですか?」
「ええ。他にも居らっしゃるご様子ですから、ご安心なさってくださいませ。」
「…まあ!…他にも…いらっしゃるのですのね。何だか…ホッと致しましたわ。このような不思議なことが起こるのは、わたくし1人だけかと…思っておりましたもの。とても心細かったのですけれど、お姉様もリナ様もとお聞きして、気力までが抜けてしまった感じですわ……。」
先程までの緊張が無くなり、ユイ様は本当に気が抜けてしまったご様子で、テーブルに突っ伏されまして…。…あらあらっ……。ユイ様、お行儀がお悪いですわ…。
こちらが…本来のユイ様なのですね。気を抜いてくださるのは、わたくしを信頼されてのことですもの。信頼していただけて…嬉しいですわ。
前回からの続きで、カノンがユイとお茶会の様子となります。
愈々、転生者かどうかの核心の部分に、入っています。
ユイも転生者と分かり、これで4人になりました。