24話 婚約者の妹
いつも通り、主人公視点です。
副タイトル通り、婚約者の妹との遣り取りになります。
早速次の日に、わたくしはユイ様にお手紙を出しましたの。わたくしの家の執事が一度預かりまして、アルバーニ侯爵家の下働きの従者が、ラドクール公爵家まで届けに参りまして、ユイ様からのお返事は、逆にラドクール公爵家の従者が届けてくれるのです。この国には、郵便という配達事業がございませんから、その家の従者が届けるか、若しくは、丁度当主若しくは執事が訪問する序ででもあれば、その者が届けることもあるようです。
そして肝心なユイ様からのお手紙には、今日は都合が悪いとのことで、明日にでもアルバーニ侯爵家に訪問したい、とのご返事でしたわ。早速、了承のお手紙をお出し致しまして、メイド達に明日のお茶会の準備をしてもらいます。明日はわたくしのお部屋でお茶会をしたいと、ララにも伝えておきましょう。
次の日、お茶会の時間となりました。ユイ様は時間ピッタリに来られましたわ。
ユイ様は、公爵家のご令嬢らしいドレスを着られており、とても似合っておられますわね。ピンク系の淡い色の今年流行しているドレスでしょう。わたくしには似合う以前に、より幼く見えてしまう為、ララやミリィが絶対に選ばない色ですわ。
「カノンお姉様。今日はお招きしていただきまして、ありがとうございます。お兄様ではなく、わたくしだけを呼んでくださるなんて、とても嬉しいです。」
「ユイ様。ようこそ、お出でくださいましたわ。ゆっくりと、なさっていってくださいませ。いつもはトキ様がいらっしゃるので、話せないこともありますから、今日は女子同士でしかお話出来ないことを、たくさんお話致しましょう?」
「確かに…。お兄様がお出でになると、出来なくなるお話も、たくさんありますものね?…嬉しいですわ。お姉様と2人で、そういうお話が出来るなんて。わたくし、お姉様にお訊きしたいことや、ご相談したいことが、沢山ございますのよ。」
「…まあ。それは、大変ですわ。何を訊かれてしまうのかしら?…わたくしが答えられます範囲なら、良いのですけれども…。ユイ様、お手柔らかにお願い致しますね?…うふふふ。」
「…まあ、お姉様ったら。カノンお姉様にお答え出来ないものなど、ありませんわ。それに…今日お訊きしたいことは、逆にお姉様にしかお答え出来ない内容なのですわ。…ふふふ。お兄様にはいつも、お話を逸らされてしまいますから、今日は楽しみにしていたのですのよ。…うふふ。」
「…え〜と。何となく…嫌な予感が、致しましてよ?…わたくしにも拒否する権利は、当然ございますわよ?…わたくしも、ユイ様にお訊きしたいことがありますから、条件次第では交換条件で、お願いしますわ。…ふふっ。」
ユイ様はわたくしのことを、いつもお姉様と呼んでくださいますの。わたくしが、彼女のお兄様である、トキ様の婚約者でもございますから、そう呼んでくださるもありますわね。実際には、トキ様と正式な婚約前からずっと、わたくしのことを…お姉様と、親しみを込めて呼んでくださっておりますのよ。
「まあ!…今日はお姉様のお部屋で、お茶会なのですね?…お姉様のお部屋には、初めて入らせていただきましたましたけれど、とても趣味のいいお部屋ですのね?……素敵ですわ〜。」
「そうかしら?…褒めてくださって、ありがとうございます。…ふふふっ。」
そうして、ララとミリィがお茶の用意をしてから、2人は部屋を出て行きました。わたくしとユイ様は紅茶を飲みながら、差し障りのないお話から徐々に、お互いの核心のお話をして行きます。
「カノンお姉様。実は…わたくしに、婚約のお話が来ておりますの。それで…お兄様と婚約されているお姉様に、婚約した後にお相手の方とどう過ごされておられるのかを、お聞きしたいのですの。」
「…まあ。ユイ様もご婚約されますのね?……婚約後のお話?…例えば、お茶会の時の婚約者との関わり方について、とかでしょうか?」
「ええ!そうなのです。正式な夜会はまだまだですので、夜会のエスコートはまだありませんし、…ならば、後はどう過ごしておられるのかと、思いまして。」
なるほど…。ユイ様へのご婚約のお申し込みが、既に殺到されていらっしゃるのですのね?…その為、ユイ様の婚約者を早めに決めた方が良いと、ラドクール公爵ご夫妻はお考えのご様子なのでしょう。わたくしも5歳のお誕生会で、トキ様と正式な婚約を結んでおりますから、5歳のお誕生会を既に終えられたユイ様は、決して遅いということではありませんわね。
ラドクール公爵家のユイ様のご婚約とのことですから、お相手の方は少なくとも伯爵家以上のお家柄の令息、とお見受け致します。
さてさて、ユイ様の婚約のお相手は、何方が射止められるのでしょうか?
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わたくしが分かる限りの婚約者とのお付き合いを、ユイ様にお話しております。前世風に簡単にご説明すれば、14歳以下は未成年ですので、夜会には出席できません。夜会以外ですと、お茶会が主に婚約者との語らいの時間、ということになりますわね。他には、毎年のお互いのお誕生会が、婚約者にエスコートしていただくことになる、大事な機会でしょうか?
お茶会以外にも、お互いの領地に行くなど行き来されたり、領地が遠い場合には、お手紙を頻繁に出し合ったりされることも、婚約者としてお互いに歩み寄ること、それがとても大事なのです。婚約者と言えども、所詮元は他人なのですから、お相手の性格や趣味など諸々のことを、出来るだけ理解し合うことが、結果的に結婚した後も上手く行くこととなるでしょう。
わたくしはまだ未成年ですから、本来ならこのような事を、知っている訳がございません。ですが前世でも今世でも、何故か…母親から、そう説明されましたのよ。前世のお母さまは、この世に残して行くわたくし(5歳頃)を心配してでしょうし、今世のお母様も、同じようなお話を婚約後のわたくしにされたのですわ。
まあ、こちらの世界では、婚約=結婚のようなものですから、今からお話しても、早過ぎるというものではないのでしょうね。
ユイ様にはそのお母様達からの教えを、今世風の言葉でお伝えした次第です。
ユイ様はご納得されまして、申し込まれておられる方々から厳選して、お会いしてから決められるとのことでしたわ。ラドクール公爵夫妻も恋愛結婚されたそうですから、ユイ様にもなるべく恋愛結婚させたいと、お思いのようですのよ。
トキ様の場合も一応は、トキ様の意志で決められておりますので、恋愛に近い政略結婚というものになるようですが。
トキ様も、まだ本物の恋愛かどうか分かりませんし、わたくしもまだ本物の恋というものを知りません。これがお互いに恋に発展することが出来ましたら、その時こそ…恋愛結婚と言えるかもしれませんね?
トキ様も、わたくしを大事に思ってくださいますが、それが恋とはまだ言い切れませんし、わたくしもトキ様をお慕いしてはおりますけれども、同様にそれが恋かどうかは…まだ分からないのです。どんなにしっかりしているとは言いましても、まだわたくし達は10歳にも満たない、子供なのですし…。
前世で例えましたら、未成年どころか小学生なのですもの。わたくしとリナとエイジが小学1年生で、トキ様とリョー様が小学3年生、そしてユイ様は園児ですわ。その頃の恋ならば、初恋ということになりますかしら?…そのまま大人になっても初恋が実るのは、前世では殆どないと言われておりましたわ。前世での初恋は実らないもの、という言葉も存在したぐらいです。
ユイ様のお相手は、今はまだ決定されておられませんけれど、ユイ様が幸せになれるようなお方であればと、わたくしも心より願っておりますわ。前世とは違って、この世界では一生涯の結婚相手になる、ということでもございますし…。
トキ様の妹であるユイ様は、わたくしにとっても…実の妹のようなお方、なのですものね。
お話しております間、わたくしはユイ様のご様子を、具に観察しておりました。
これはトキ様が、ユイ様は前世の記憶保持者ではないか、と疑っておられたからですわ。トキ様からそうお聞きしておりましたから、わたくし自身でもユイ様を観察することで、転生者の兆しが見られるかどうかを、わたくしの目で確認したかったのですのよ。その結果、トキ様の仰ることには一理あると、確認した次第です。
わたくしの目から見ましても、ユイ様は…転生者の可能性が十分にある、という結果が出ましたのよ。ユイ様は侯爵家のご令嬢ですから、言葉使いも厳しく躾けられておられます。一見、今までと全くお変わりないご様子なのですが、若干の言葉使いの乱れがございますわね…。前世でのお嬢様でしたら、十分に通る言葉使いかと思われるのですが、この国の貴族の言葉使いとしては、今のユイ様の言葉使いは、不適格な部分も見られます。特にユイ様は、侯爵家のお嬢様ですので。
貴族と言えども、身分が低くなる程、貧乏である程、貴族としての教育が行き届いておられない、そういうお家柄もあるようでして。男爵家とか子爵家、もしくは商人のご家庭でしたら仕方がない、とみられる部分もございますわね。公爵家や侯爵家そして伯爵家では、通らない理屈でもございますわ。これは…本当にユイ様も、前世記憶保持者の可能性が高くなりましたわね?
さて…どうやってお話を、切り出しましょうか…?…やはり、前世の記憶はございますか?……と真正面から責めましょうか?
それとも…過去の夢を見ませんでしたか?……と問い掛け致しましょうか?
カノンがユイとお茶会をしております。転生者かどうかを確認し、自分達の仲間にする為に、カノンが暗躍するお話です。エイジは、彼の婚約者であるリナが仲間にしましたからね。今度はカノンの番ということで…。




