20話 この2年間の間に
いつも通り、主人公視点です。
前回の続きとして、2年半ほどの間にあった出来事を中心に、語っています。
この2年間には、王家でもお子様が誕生されました。シャンデリー王国第一王子となられるお子様が、ご誕生されましたのよ。シャンデリー王国・国王陛下には、王妃様との間に第一王女様を授かられておりますが、それから実に7年もの間、お世継ぎがご誕生されなかったのです。この国はまだ一夫多妻制の国でして、国王陛下は今後も王妃は1人だけとする、とご発言されておられます。その為、ご自分だけではなく、「貴族も国民達も同様にせよ。」と、一夫一妻制度を掲げられておられるのです。お手本を示されると言いますよりも、国王陛下が王妃様を溺愛されておられる、というのが事実なのでしょう。そういう噂を、よく耳に致しますもの。
第一王子こと殿下は、シャンデリー王国第一継承者候補であり、皇太子となられるご予定です。殿下はわたくしの弟と同い年であり、3月生まれで1か月お早くご誕生されました。やっと今月、2歳になられたばかりですわ。この国でのこのぐらいのお子様は、流行り病などによりお亡くなりになる場合も多く、立太子されるのは5歳のお誕生会を迎えられてから、と決められておりますのよ。
無事に5歳になりますと、ある程度死亡率が低くなることから、貴族の女児は婚約者が決められることが多いのです。男児の場合には状況に由り婚約者が決定致しますので、一概に年齢は決まっておりません。嫡子でない男性などは、親が決めずに恋愛結婚もあり得るのです。トキ様のように、将来が重職に就かれる男性は、嫡子でなくとも婚約者が早めに決定されますわね。トキ様は嫡子であり将来は有望ですから、お早くお決めになる必要がございましたのよ。
トキ様のお相手にならば、他にも候補者がおられるはずですが、公爵夫人となり宰相の妻となるのならば、誰でもいいという訳には参りませんもの。そういう事項もご考慮された上で、トキ様のご両親はわたくしをと望まれたのでしょう。
政略結婚となるとはいえ、幼馴染という立場は、婚約として有効な手段の1つなのですわ。王立学園に入学するまでは、親同士の繋がりの上で信頼関係を見つけることになりますのよ。
そしてこの2年間には、トキ様の妹のユイ様が、正式にご婚約されましたのよ。
カラバルカス侯爵家の嫡子でもあられる、ハオーミル様と正式に婚約したとして、ユイ様の5歳のお誕生会で公表されたのです。ハオーミル様は通称として『ハオ』様と呼ばれておられます。ハオ様には複雑なご事情がございまして、カラバルカス侯爵家の嫡子でありながら、不遇な対応を受けられていると専らの評判ですのよ。
見兼ねたラドクール公爵様が、ハオ様にユイ様を嫁がせるということで、ハオ様を邪険に扱う義母に現実を見させた、というご事情があるそうですわ。ハオ様のお母君は、ハオ様を出産された後に急変され、既にお亡くなりになられております。
その後、前世で言うところのお見合いで、カラバルカス侯爵様が後妻となる今の夫人と婚姻されたのですが、侯爵様が前妻を愛していらしたという理由もあり、後妻の夫人とは折り合いが悪いというお話です。
そういう理由もございまして、カラバルカス侯爵夫人は、ハオ様のことを目の敵のように思われており、ハオ様にはこと冷たくお当たりになるそうですのよ。
夫人は男児をお2人儲けられており、ハオ様とその弟君達とは仲が良いとのことですわ。ユイ様とハオ様はまだ、ぎこちないご関係ではございますが、将来は仲のよいご夫婦になられることでしょう。
ユイ様は王家を覗く貴族の中では、一番高貴の家柄のご令嬢ではございますが、それを態度には一切出されないお方ですのよ。お元気良く華やかなタイプではございますけれども、身分をひけらかすようなお方ではないのです。とても思いやりのあるお方なのですのよ。ハオ様のことも、ユイ様は理解されておられますし、今後はハオ様のお義母様には口出しされないように、なさるでしょうね。
これらのハオ様の情報は、わたくしのお母様情報に依るものですわ。わたくしの母は何とも社交がお上手なお方でして、色々なお話をお知りになられておりますわ。
カラバルカス侯爵夫人は一見、上手く社交をされておられるご様子ですが、ハオ様のお話になる度に、他の貴族達が気付くほどに不機嫌なご様子が見えたり、と明らかに嫌っておられると、貴族中に知れ渡っているそうですのよ。カラバルカス侯爵様も、夫人やハオ様達お子様を気になさっておられ、口下手なりにお伝えされているそうですが、夫人には…上手く伝わっていない様ですのね…。
前世の世界でも異世界の世界でも、どの時代でもどこに存在しようとも。
家族との人間関係が一番難解である、ということなのでしょうか?
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「それで、エイジは…前世の記憶保持者で、間違いないんだよね?」
「はい。リナからお聞きする限りでは、間違いございませんわ。リナが嘘を吐く理由もございませんし、勘違いするということもあり得ませんわ。わたくしも信じがたくて、リナに色々と探っていただきましたのよ。ですから…自信を持って言えますのよ。」
「そうか…。僕が知るだけでも、カノとリナ嬢とエイジの3人。それに…他にも居そうなんだよ。僕達の時代に、これだけの前世記憶保持者が集まっているのは、どうしたものなのだろうか?…何らかの意味が、あったりするのだろうか?…それとも偶々、こういう偶然が重なっただけ…なのだろうか?」
「本当に…不思議な現象ですわ。何か…この世界に、異常なことでも起こる、前触れなのかしら?…それよりも、まだ他にも存在すると仰られましたけれど、何か心当たりが…お有りなのですか」
「そうだね…。まだきちんと確信した訳でもないし、本人に確認を取った訳でもないんだが。リョーも…何となくそんな気がする。時々、僕が知らない言葉を使っているからね。それに…ユイも。」
「えっ?!リョー様が…ですか?……ユイ様も?」
「…うん。最近、ユイも…僕が理解出来ない言葉を、使う時があって…。」
「…ええっ?!…ユイ様が……。ユイ様も、わたくしが使うような言葉を、使われるのですの?」
「それもあるんだけど…。ユイの心の中には僕以外の…兄がいるみたいなんだよ。偶に…間違えられているというか……。」
「………。」
エイジが転生者であると判断して、トキ様にご相談しようと思いましたのよ。
エイジ本人に自覚がございませんので、このままでは転生者とバレてしまいます。早めに手を打たなければ…。本当に、エイジは…手が掛かりますこと!
早速、トキ様にご相談致しましたのですが、他にも転生者がいるかもしれないと、トキ様が含みのある言い方をされまして。今までは数人しかいない、とされておりましたのに、わたくしと同時期に3人もおりますのよ。更に…存在するかもしれないとは、どういうことなのでしょうか?…リョー様もユイ様も…転生者なのでしたら、何を意味するのでしょうね?
ユイ様の心の中には、もう1人のお兄様がいらっしゃる?…それは、前世でのお兄様…ということでしょうか?…混乱されたユイ様が、トキ様と前世のお兄様と重ねて見ておられると…。トキ様=ユイ様の前世のお兄様、とは限りませんもの。
前世で兄妹であり、今世でも同じく兄妹である、そういう現象は無理かと思われますわね。それに、トキ様には前世の記憶はないご様子ですものね。
「…それにね、もう1つ…気掛かりなことがあるんだよ。もしかしたらだけど、ユイの婚約者になったハオも、前世の記憶保持者…かもしれないんだ…。まだ彼については、はっきりと断言は出来ないけどね…。」
「………。」
…はいぃ~?!…わたくしは思わずという感じで、両手を自分の口元に当てて、音を立てて立ち上がってしまいましたわ。遠くで待機していると思われる、我が家のメイド達が見ておりましたら、「お嬢様。ラドクール公爵家のご令息の前で、はしたない行為でしたよ。」と、注意されてしまいますでしょうね…。わたくし専属のララは、こういう礼儀作法には厳しいのですのよ。彼女自身がサリィム子爵家の令嬢ということもございまして、実家が貧しくとも最低限の貴族の教育を受けておりますのよ。ララは常にわたくしの令嬢の作法を、観察しては注意を促して参りますのよ。滅多に叱られるわたくしではございませんけれども、それでも時々こういう動揺した時になど、しっかりとララからお説教されるのですわ。
「カノ…ごめんね。君には、余計な心配を掛けてしまったようだ。僕も、ユイの件では…冷静になりきれなくてね…。前世の記憶保持者と思われる人物が、後から後から増えて来るし、僕の妹であるユイまでがと思うと、どうしたらいいのか、分からなくなって来るんだよ。まだ幸いにも、父には知られていないようだけど。」
「………。」
…はあ~。トキ様はそうお話されると、大きく溜息を吐かれましたのよ。
心底疲れて…おいでなのですね。わたくしも、トキ様に掛けるお言葉を、すっかり失くしてしまっておりましたわ。エイジの兄であるリョー様は、トキ様にとっては大事なご友人でしょう。公爵家のトキ様には、公私共にご信頼できるご友人は、ほんの一握りの方々でしょう。そのご友人と自分の妹が、転生者かもしれない。
そして婚約者もとなりますと、頭の痛いお話ですものね…。
わたくしは、トキ様の心中をお察し致しまして、そっと溜息を吐いたのでした。
後半は、トキとのお茶会をしながらも、前世の転生者かもしれない人達についても、語られます。
報告の内容は書け終えました。近いうちに、先にエイジが転生者かも、と分かった辺りについても書きたいと思います。