表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命の転生劇 ~乙女ゲームの世界へようこそ~  作者: 無乃海
第五幕 『乙女ゲームを開始します!』編
117/117

86話 毎日一緒に通学しよう

 漸く第五幕の本編が、開始となります。前回の初回は、番外編から開始となりましたが、これからゲーム本題へと、ストーリーが進む予定です。

 「おはよう、カノン。今日、王立学園に入学するとは…。こうして月日が過ぎるのは、本当に早かったなあ…」

 「…ふふっ、あなたったら。感傷に浸るのは、まだ早過ぎますわよ。」


到頭、王立学園に入学する時が、やって参りました。愈々ゲームの舞台に、踏み込みます日が…。わたくし同様に前世の記憶を持たれた、心強い親友達と共に。今までも色々ありましたが、わたくしには嬉しい誤算もございます。


 「おはようございます、お父様、お母様。王立学園の生徒として、恥じることのない立派な淑女として、精一杯努力して参ります。」


わたくしを一目見るなり、涙ぐまれるお父様。常におっとりなお母様は、呆れ気味に苦笑されておられます。わたくしは努めて冷静に、行ってきますと両親へ挨拶したのですが……


わたくしの親友リナも、彼女の婚約者エイジも、そして…前世の親友・蒼も、わたくしと同じ学年なのですから、何とかなりますわね。それに、誰よりも心強い味方である婚約者トキ様も、学園にはご在学されておられますもの。後は…もう1人、彼女もいらしたら…と思うことも、時折ございましたけれども。


それでも、エイジの兄君であるリョー様も、トキ様と同じ学年におられ、カルテン国の姫君であられる、リア様も彼らと同学年なのですわ。わたくしにとってはこれ以上の不安な要素など、これっぽっちもございませんわね…?


 「カノンはもう、一人前の淑女なのだな。父親として甘える姿が愛らしく、昨日のことのように思い出すのに…」

 「入学という素晴らしい門出の日に、何を今から悲観なさるのやら。これでは娘達が嫁ぐ時、()()()()()()()()()()ね。カノン、入学おめでとう。貴方の幸せを、母はいつでも祈っておりましてよ。」

 「…入学おめでとう、カノン。もし学園で何か問題が起きた時は、直ぐ私に言うように!」

 「…お父様、お母様。ありがとうございます…」


まるで子離れする子供を、引き留めるかのように、悲観なさる父に母はジトっとした目を、向けられておられます。母の視線に恐れをなして、母が祝う言葉に続き、父も祝いの言葉をくださって。父親に報告するような何か問題とは、一体学園で何が起きるとでも、思われているのでしょうね?


……前世の学校では、イジメという問題がございましたけれども、この世界でも同じようなことが、起きるのでしょうね。それぐらいのことでしたら、わたくしでも大丈夫ですのに……


疑問に思いつつ、わたくしは心に留め置き(丸っとスルー)致します。今の父が前世の父に何気(なにげ)に重なると、最近になって思う時も多々ありますが、何処の世界の父親も似ていると、言えそうな気が致します。()()()()()()()心配性、という一面では。


さて、朝食を済ませたわたくしは、一度部屋に戻って登校する準備に、取り掛かります。手提げバッグに筆記用具を入れ、王立学園の制服に着替えましょう。制服と申してましても、前世とは全く違います。前世の制服は、学校が許可した生地で作られた、見た目は全く同じものでした。


しかし、カルテン国王立学園の制服は、全く別の制服とも言えますわね。基本的な規則さえ守れているならば、高級生地を使用して製作しても、制服の見た目が多少なりとも違えども、特に問題ではございません。


ですからわたくしも侯爵令嬢らしく、それなりの高級な生地を(もち)いた、制服を作製しております。王立学園は貴族しか通えませんが、主に男爵家や子爵家の中には、庶民同等かそれ以下の貧しい生活で、日々の暮らしに困る子息の方々も、若干おられることでしょう。


わたくしの婚約者は、父が宰相という王族に連なる公爵令息で、公爵家に恥を掻かせるわけにも参りません。制服といえども身なりに気を配り、高位貴族らしく優雅に振る舞う必要が、ございます。一応これでも前世では、社長令嬢という身の上でしたわけで、こういう生活にも慣れておりますわ。


 「カノ、おはよう。今日からは一緒に、学園に行こう。」

 「…………」


いざ、入学式へ参ります。発展した前世の便利な乗り物と違い、我が侯爵家の所持する馬車に乗り、学園に通うこととなります。ふとこうした時、電車やバスや自家用車が、時々恋しくなりますわ。物思いに耽りつつも、屋敷のエントランスの方へ向かうと……


 「突然迎えに来たこと、もしかして…怒ってる?…誰かと一緒に行く、約束をしたとかじゃないよね?…それとも、僕と一緒に()()()()()()()()…?」


入学当日から何の連絡もなく、お迎えにいらした我が婚約者殿に、わたくしは目を見張ります。どうして…と思いつつも、頭の中では別の想いに、囚われておりました。制服姿に見とれたなどと、絶対に…申し上げたくなくて。男子の制服がこうも異なるとは、今日初めて存じ上げました…。





 

   ****************************






 「…おはようございます、トキ様。別に…怒ってなど、おりません。入学式当日に迎えに来てくださると、よもや存じ上げませんでしたので。他の(かた)とは、特にお約束しておりません。わたくしが貴方と行きたくないと、何故にそのような意地悪なことを、仰いまして?」


我が屋敷の玄関ホール(エントランス)では、既にトキ様が佇んでおられました。学生服を着こなすトキ様の姿が、前世で学生服を着用した時琉(ときる)さんと重なり、わたくしは驚きで足を止めてしまったのです。一瞬だけ、前世に戻ったかの如く。


流石は公爵家と言えるような、高級生地で作られた制服を、ビシっと着こなす我が婚約者殿。わたくしの瞳はつい、彼の姿に釘付けられたようですわ。僅か数秒のことでしょうが、彼から見たわたくしの姿は、彼を歓迎していない様子に、見られたようでした。


 「…トキ様。一体何時(いつ)から此方(こちら)で、お待ちになっていらしたの?」

 「…うん?…いや、それほど待っていないのだが…」

 「…あの、差し出がましいことなのですが…。実は…もう既に1時間は、待っていらしたかと…。先程までは馬車の中で、お待ちになっていらしたご様子で…」

 「……えっ?!…それほどの早朝に、どうしてお迎えにいらしたの?…まだ学園の門でさえ、開いていませんでしょうに…」


わたくしも彼のご様子から、何となく理解しておりました。それでも何時(いつ)からと問えば、如何(いか)にも10分か15分しか、待っていないという口振りでしたのに、我が屋敷の護衛に言わせれば、実際には少なくとも1時間は…と、明らかに困惑した様子でしたのよ。前世ならば早朝でも、門が開いたかもしれませんが。


王立学園では早朝の部活動など、ございません。貴族は朝早く起床しても、ゆっくりまったりと支度する(ゆえ)に、遅刻間際に登校する生徒が、殆どなのですわ。ですから、今から学園に出掛けるのが、丁度良い頃合いでしょうか。


 「…いいや。単に待っていたというよりは、()()()()()()()迎えに来た、というところが本音なんだよ。だから、カノは悪くない。勝手に迎えに来た僕が、全面的に悪いんだ。」

 「……トキ様………」


わたくしは返す言葉を失い、彼から何気なく目を逸らします。トキ様とご一緒に通学しようなどとは、微塵も考えておりませんでした。そう言えば前世でも、時琉さんが何かと理由を付け、彼の専用運転手付きの自家用車で、送迎してくださったことも、ございましたわね…と遠い目を致します。


婚約者を迎えに行くという、発想さえ至らなかったわたくしは、ちょっとだけ申し訳ないことをした、という気分になりましたのよ。彼が時琉さんの記憶をお持ちでしたなら、「君は…本心では僕の愛を、信じてなかったのか…?」などと、落胆なさったふりをしてわたくしの心を、揺さぶられたことでしょう。今の貴方に前世の記憶がなくても、つい身構えてしまいましたけれど……


 「もし一緒に行くのが嫌でなかったら、迎えに来た僕の意思を汲み、我が公爵家の馬車で行こう。」

 「…ええ、承知致しました。では…トキ様、よろしくお願い致します。」


婚約者と共に通学するなど、ちょっぴり恥ずかしい気も致します。トキ様のご厚意に甘え、相乗りさせていただきます。公爵家の馬車にはわたくし用に、お茶セットも用意されていたりと、()()()()()()()でしたわ。


 「カルテン国に保冷する技術はなくとも、何故か保温する技術などは、存在しておりますのね…」

 「そうだね。他の世界からの転生者達が、苦心して発明したらしい。今後も君の前世で使用された、便利な物が発明されていくだろうね…」

 「…そうだと良いですわね。わたくしも何か、協力できないかしら…」


よく見れば『魔法瓶』と、形状は似た外観でありながら、そっくりではありませんけれど、長時間保温される模様です。価格がもう少し抑えられれば、庶民にも手が出るようになるはず。それにしても…前世で高級車が買える、高値とは。


当然ながら貴族も、何個も購入できません。カルテン国の中で最も高貴で、王族の血を引くラドクール公爵家だからこそ、これほど貴重な保温製品を、何個も購入されていらっしゃるのです。流石、現王妃様のご実家と言えますかしら。


わたくしが嫌がっていると、まるで子犬の耳と尻尾を垂れ下げ、しょんぼりなさっておられたトキ様も、馬車の中では始終ニコニコと、狼犬のような大型犬が尻尾を振るかの如く、私に微笑んでくださいます。トキ様から向けられる笑顔には、この上なく特上の甘さであり、どこまでも…激甘で。


 「僕で良ければ、喜んで協力する。僕がカノを全面的に、フェローしよう。」

 「…ふふっ。これ以上わたくしを、甘やかさないでくださいませ……」

 「う~ん、それは無理かな…。それよりも…やっと、カノと一緒にいられると思うと、凄く嬉しいよ。僕にとって最後の1年は、カノと一緒にいられる時間でも、あるからね。これからは毎日、少しでも長く君と一緒に過ごしたい。だから、カノも…協力してくれないか?…僕との思い出作りを、ね……」

 「……()()()()()()、狡いですわ!」

 第五幕の本編としては、改めて今回開始致しました。開始早々から、甘々な2人の様子が見られますので、ご注意を…。現世のトキも、前世の『時琉』に程近い言葉使いに、なってきました。もう既にカノンは、前世の『花南音』ですが。


一緒に登校したくて、朝早くから侯爵家で待機する、トキ。制服姿のトキに、一瞬見惚れていたカノン。如何やら彼も、他の生徒と一線を画した、微妙にデザインを変えた制服を着用…? その真相は…次回へ?


次回へと続きます。次回には、学園に着くかな…?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ