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運命の転生劇 ~乙女ゲームの世界へようこそ~  作者: 無乃海
第四幕 『乙女ゲームの始まる直前』編
112/116

幕間9 眠れる獅子を起こす時

 今回も同様に、本編終了後の番外編となります。今回は、誰かな…

 「マノン。今日から貴方は、わたくしの友人でしてよ。」


同じ年頃の令嬢に友人と言われて、少女は涙が出そうなほど嬉しくなる。生まれて初めてできた友人に、自分の秘密を打ち明けたいと、思ったぐらいだ。実際はそうなる前に僅か数日で、少女の純真な気持ちが反故(ほご)された。令嬢が全く別の意味で使用したと、知ったからだ。


 「友人という立場を、得たいのでしょう?…でしたらマノンが、率先して誠意をお見せなさいな。」

 「ノンシェル様の仰る通り、貴方自ら証明なさって?」

 「ノンシェル様の友人ならば、当然のこと。」


令嬢の考える『友達』とは、自らが頂点に立つ派閥の中で、自らに都合の良い立場の者を、示すらしい。()()()()()()()()()、自らより下と見下した。同じ伯爵令嬢として身分差も特にないが、さる公爵令嬢と特別懇意だというだけで、権力を笠に振りかざす。友人とされる他のご令嬢達も、またそれを見習うように。


 「……はい、ノンシェル様…」


当時は少女も逆らう勇気はなく、()(すべ)がないと受け入れた。例え最初から油断させた上で、令嬢の言いなりとなる取り巻きに、するつもりだったとしても。少なくともあの時までは、半端諦めていた。


月日は流れ、マノンが6歳の時。彼女の婚約候補として、イリューシー伯爵家親子と初めて顔を合わせた。この国の貴族子息や貴族令嬢は、大体5~6歳頃に婚約者を決められる。彼女もまた、同じく。


 「初めまして。ガクロン・イリューシーと申します。」

 「…は、初めまして…マ、マノン・レイシャームと…も、申します…」

 「…えっと、マノン嬢。互いに…名前で、呼びませんか?」

 「…ふぇっ?!……あ、は…はい!…ガ、ガクロン様…」


有り難いことにマノンの両親は、彼女の意思を尊重してくれて、無理に婚約を進めることもない。正式な婚約手続きは踏まず、飽くまで単なる婚約者候補としつつ、正式な婚約者と同じ扱いを受ける、という優遇をされて。


レイシャーム伯爵家は同じ伯爵家の中では、特に身分上何の問題もなく、零落れてもいない。寧ろこの国の全体での地位は、中の少し上をキープしている。では何故()の令嬢が、差別的な発言や態度を取るのか?…それは偏に、レイシャーム伯爵に全く欲がない、というのも一理あるだろう。


 「俺には遠慮しなくて、いいからな。俺は君を…あんな風に、無視するつもりはないのだから…」


両家の親達が話す間は、子供同士で仲良く遊ぶようにと、イリューシー伯爵家の庭に追い出された。ガクロンが案内する形で庭に出たものの、暫く無言でいた2人。庭の中程まで来て漸く、彼が話しかけてきた。


如何(どう)やら彼も親達の前では、猫かぶりしていたようだ。同年代の異性と初めて会ったし、他の男子達と比較するつもりもないが、彼のぶっきら棒な口調や素っ気ない態度を、ちょっとだけ怖く感じる。実際に彼は、同世代の子女達から怖がられることも、多々あったのだから。


 「……あんな風に……無視…?」

 「…あっ、それは……」


但し、優しさを上手く表現できないのだと、彼女は感想を抱いた。自分に向ける瞳は穏やかで、温かみのあるものだ。不器用だけど優しい人と感じつつ、一瞬何を言われたのか分からず、キョトンと首を傾げる。


マノンがオウム返しで呟くのも、無理はない。あんな風に無視するつもりはない…とは、具体的にはどういうことなのか、と…。彼の告げた言葉の意味が、分からない。ガクロンもまた、酷く動揺していた。まるで()()()()()()()()()感じるのは、何故だろうかと……


 「それより…できれば、『ガク』と呼んでくれ。それと…君を、『マノ』と呼んでもいいだろうか?」

 「……は、はいっ!…勿論です……」


ガクロンは誤魔化そうと、愛称呼びを提案した。親しい間柄であれば、特別な愛称で各々を呼び合ったりするものだ。ガクロンにとっては他にも、大切な何かを思い起こさせた。どうした訳か、目の前の初めて会った少女に、愛称で呼んでほしいと切実に願う。自分も彼女を、愛称で呼びたいと思った。


婚約したも同然とはいえ、初対面で愛称呼びを許可され、マノンは驚いて何度か目を瞬く。政略的な婚約だというのに、恋人同士と勘違いしそうな場面にも拘らず、彼女の心は他に気を取られていた。彼が呼んだ愛称に、心臓が止まりかけていなければ、恋に落ちたかもしれないが。


…今までに一度も呼ばれた覚えもなく、初めて呼ばれた愛称ですのに、どうしてわたくしはこれほどに、動揺しておりますの?…何故だか胸を締め付けられる気が、致します……


胸がこれほどに締め付けられたことなど、今までになかった。新しい愛称で呼ばれただけで、涙が出そうだ。無性に()()()()()()()()()()。大事な何かを失った今、もう二度と取り戻せないとでも、知らしめられたかの如く……






    ****************************






 「ごめんなさい、マノン!…わたくし、間違っておりましたわ。我が儘なわたくしは、封印致します!」


勢いよく頭を下げ、ノンシェルは謝罪を口にする。謝罪された側は、困惑する様子を見せていた。彼女は今まで好き放題してきたし、今更反省した態度を取っても、警戒されて当然だ。


ところが最近、一人娘の彼女に義弟(おとうと)ができた。それを切っ掛けに、父親に見捨てられるかもしれないと思い、心を入れ替えることにしたというのが、彼女の言い分である。実際は彼女自身に、()()()()()()()()()起きたことで、別人のようになったと言えるかもしれない。


 「何故貴方が、ガクロン様の婚約者になられたの?!…彼との婚約は、わたくしが先でしたのよ。ガクロン様を、返しなさい!」


マノンとガクロンが初顔せをした後、彼は頻繁にマノンに会いに来ては、交流が続いていた。表向きは婚約者なので、頻繁に交流してもおかしくはない。実際は正式に婚約しておらず、保留のままなのだけれど……


そんなある日、ノンシェルは前触れもなく、レイシャーム家を訪れた。2人がお茶をしているところに、行き成り現れて声を張り上げる。まるで自分が彼の正式な元婚約者で、自分の所有物かの如く返せと、息巻いた。彼を本気で慕っていたなら良いが、マノンとの婚約が気に食わないだけでは?


 「……ノンシェル様。それは…わたくしの一存では、決められませんので…」

 「貴方は、わたくしの友人ではなくて?…友人の婚約者を奪うなど、裏切り行為も同然でしてよ!」


あまりに酷い言われようだが、マノンは誠実に応えようとした。一方、早口で捲し立てるノンシェルは、怒りが収まらない様子だ。瞳にはマノンだけを捉え、直ぐ傍の彼は映していないらしい。だからこそ、これほどの独占欲を丸出しで、怒りをぶつけてくるのだろう。


 「…ノンシェル嬢。君は単なる俺の婚約者候補で、()()()()()()()()()一度もないぞ。それも随分前に、白紙になったが?」


趣味や話題が合わずとも、物静かなマノンといる方が、ガクロンからすれば好ましく思えた。貴族令嬢達は彼の容姿や家柄に惹かれるが、彼女は彼自身を否定せず見るので、非常に気持ちが凪ぐ。逆に自己都合のみで、一方的に振り回すノンシェルには、一時も気が休まることはなかった。


 「…ガクロン様?…どうして、此方に……」

 「どうしても何も、俺はほぼ毎日のように、来ているんだ。今も君が俺に気付かずに、いただけのことだ。君と違い…マノンと居ると、落ち着くからな。」

 「……そんな風に仰るなど、酷過ぎます…」


彼は冷めた瞳を、ノンシェルに向けた。普段より低く冷たい声音で、彼女の全てを拒絶する。その時、マノンの中で何かが、弾けた気がした。彼を嫌いではないし、特に好いてもいない。それでも……


 「…酷いと申されるなら、ノンシェル様も同様です。もしわたくしが魔法を使えましたら、貴方をお人形のように操りましてよ。貴方が絶望し嫌悪なさる行為を、仕向けたいですわね。その時も同じく、『酷い』と仰いますかしら?」


普段と何ら変わらなく見えるも、普段とは全く違う。彼女の怒りは、沸点を超えたらしい。マノンは()も穏やかな顔で、加害者を被害者にすり替えて、加害者自らが苦痛となるような例えを、挙げた。()()()()鹿()()()()()()相手が、牙を剥いたことに動揺して。


 「…なっ!?……あ、貴方!…頭が、おかしくなられたの!?」

 「いいえ、至って正気です。寧ろ、貴方のお陰ですわね。わたくしでお人形遊びを、なさっておられたのでしょう?」

 「……ひっ!!…………」


遂に壊れたのかとでも、ノンシェルが非難するものの、こうなったのは全て自ら仕出かした報いだと、マノンは満面の笑顔で皮肉った。被害者である彼女が、もしも仕返しをしたとしても、文句を言う権利はないと取れる、発言で。


穏やかな人も本気で怒れば、恐ろしい存在へと激変するのだと、本気で身の危険を感じていた。疾うの昔に魔法が廃れようとも、今のマノンならば本気で復讐しようと、禁術を会得してでもノンシェルを呪うかもしれない。古代でも禁術とされた、黒魔術を使役でもしたら…と不安になる。


恐怖で震えるノンシェルを、ガクロンの指示で自宅へと帰らせた。彼のちょっとした悪戯心から、如何(いか)にも呪術を匂わせた紙を、持たせる形で。実際は呪術でも何でもなく、現代で言うところの単なる占いだ。


 「今日のマノは、実に頼もしいな。俺が出る幕は、なかったし…。普段の大人しい君も可愛いが、今日の君はそれ以上に…素敵だった。俺を庇ってくれるなんて、実に頼もしいよな…」

 「…ううっ!…わたくしすっかり、我を忘れてしまって…」


ノンシェルが去った庭は、静まり返っている。先程と真逆の真摯な瞳、温かみのある笑みを向けられて、マノンは漸く正気に戻った。何故か彼に、囚われた気もしつつ。彼の思惑に気付いたとして、彼の興味を惹いてしまったなら、既に何もかも遅しか。それでも…逃げたい一心で無意識に、見て見ぬふりをし続けた。

 今回は、前回の新キャラ『ガク』と、関係のある人物の話となります。第三者視点となりました。今回の人物は、新キャラではありますが……


今明かせる情報としては、乙女ゲームと現実とは別設定、ということだけ。それ以上は、ご想像にお任せ致します。



※今回も番外編に関する補足を、『無乃海の小部屋』にて書く予定。更新が遅れた理由なども、其方にてご報告させていただきます。

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