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運命の転生劇 ~乙女ゲームの世界へようこそ~  作者: 無乃海
第四幕 『乙女ゲームの始まる直前』編
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幕間7 夢が正夢となる頃に…

 第四章、本編終了後の番外編です。今回はまた、別の人物視点となりそう…

 わたくしは幼少期の頃から、不思議な夢を見続けておりました。末子として家族から可愛がられ、超が付くほどわが儘に育ったわたくしは、お嬢様学校に通う裕福な家のお嬢様で。とある理由から、他人(ひと)に苦手意識を持つわたくしは、特に異性と真面に会話もできないのです。


 「野乃(のの)はもう少し、落ち着きなよ。もっと信頼できる友人を、作りなよ。」


夢の中のわたくしが心を許せたのは、家族とごく数人の知り合いのみで、その中に含まれる同い年の従兄(いとこ)は、わたくしに会う度に何故か、お節介な言葉を掛けられますのよ。誕生日がほんの少し早い従兄は、まるで年の離れた()()()()()()()()()、ご心配くださって……


 「実兄(あに)でもなければ同い年ですし、要らぬお世話ですわ!」


わたくしは本気で従兄に張り合い、ツンデレな態度を取っておりました。従兄は苦笑しつつ聞き流され、大人な対応でさらりと受け流され、わたくしが勝てた試しなど、ございません。


昔から大人びた様子の従兄でしたが、物心ついた時からずっと誰かを、探しておられました。彼自身が何方(どなた)を探しておられるか、理解されておられないという、異常な状況でしたわ。幼いわたくしでさえ、一度も出逢ったことのない人物を、探すことなど有り得ないと、疑問に思っておりました。


 「やっと…見つけた。僕の探していた、彼女だ…。間違いない…」

 「…えっ?…貴方が探しておられたお方が、見つかりましたの?」


わたくし達が小学生の高学年に、進級致しました頃。従兄の不可解な行動が、目に付くようになりましたわ。彼の父親が経営する系列会社ではなく、何の関連もないと思われる企業に、従兄が出入りなさるなんて…。何の理由もなく、行動を起こされていらっしゃるはずも、ないのです。幼少期から的確な判断力を持たれ、意味のない言動をなされたことは、()()()()()()()()()()からね。


「…小学生?…高学年?…どういう意味かしら?」と、現実のわたくしは疑問に思いながらも、無意識に受け入れましたわ。理解できないとしながらも、夢の中では何となく納得できまして……


 「…まあ!…漸くお相手が、見つかりましたのね?…是非とも従兄妹(いとこ)のわたくしにも、ご紹介くださいませ!」

 「…野乃、君には紹介したくない。いつもは他人(ひと)()り好みするくせに、こんな時だけ会わせろなんて、嫌だよ。単なる君の好奇心で、彼女に余計な不安を与えたくないんだよ、僕は…」


従兄が何年も探しておられ、条件に当て嵌まるお相手を、わたくしもお会いしたくなるほどに、興味津々でしたのよ。紹介してほしいとお願いしたところ、従兄からきっぱり断わられてしまいましたわ。わたくしの心中を読まれたような、鋭いご指摘に冷や汗が止まりません……


わたくしには親しい友人が、数人しかおりません。わたくしがまだ幼い頃、見ず知らぬ者に誘拐されかけましたのよ。未だに見知らぬ他人(ひと)が恐ろしく、昔からの顔馴染みであろうとも、心から打ち解けられることも、ないままに。


「あまりに自分好みで、可愛いかったから」という、身勝手な理由で誘拐しようとした、初めて会った男を…。思い出す度に恐怖が蘇り、身体中の震えが止まることは、未だございません。初対面の相手は勿論、同性も異性も大人も子供も、裏のある性格や行動をなされば、警戒の対象となりましてよ。


何もご存じない方々は、わたくしの単なる我が儘から、他人(ひと)を選り好みする冷徹な人物だと、噂をなさっていることでしょう。誘拐が未遂であったと申しましても、我が家の不名誉な噂になり兼ねないと、表沙汰に致しませんでしたから、多くの方はご存じありませんわね…。


 「今はまだ、紹介できない。繊細で生真面目の人、()()()()()()()()…」

 「…では、いつまでお待ち致しましたら、ご紹介してくださるのかしら?」

 「…そうだね。少なくとも…僕達が中学に進学して、落ち着いたら…かな?」


その後も只管待ち続けましたのに、一向にご紹介してくださらず。貴方がそういう態度でしたら、わたくしも勝手にさせていただくわ…と、決意致します。()のお方を、待ち伏せ致しますわ!


 「…何て愛らしいのかしら?…従兄も、隅に置けないですわ。」


わたくしも同じ小学校に、通学すれば良かったと、後悔致しましたわ。身分も礼儀作法も、何もかもが完璧で。従兄との婚約話を推し進めたいほど、申し分のないお相手ですわ。完全に人を信じきれないわたくしも、彼女の美しい心根の輝きには、純粋に惹かれていきましたのよ。


 「君は弾丸の如く、突っ走る癖がある。彼女に迷惑を掛けるだろ?…それに君に紹介したら、彼女と過ごす僕の時間まで、減ってしまうじゃないか…」






    ****************************






 「…私の愛するノン。今日この子は、我が家の養子となった。君より1つ年下だから、色々教えてやってほしい。」


これは夢ではなく、現実のお話です。ファルマーズ伯爵家当主こと、実のお父様から義弟(おとうと)ができたと告げられた、わたくしのその時の心境は、複雑なものでしたわ。伯爵家に家族が増えると、とんでもないお言葉をいただきましたもの。お父様に愛人がおられたと知り、裏切られた想いでしたわ。


父から紹介された義弟(おとうと)は、この国ではあまり見かけない、赤髪黒眼の色を持った子供で、わたくしと同じ年頃ですのに、ガリガリに痩せ細っておりました。どこか既視感を感じつつ、同情するほどに。


彼はハッと驚いた後、わたくしの顔を見るなり、気を失い倒れたのです。儚くなられたお母様に、わたくしは顔がよく似ておりますし、怯えられたようで。母に似たつり目が睨むように見えると、昔から同年代の子供達からは、恐れられていましたもの。自分でももうすっかり、慣れましたわ……


 「義弟(おとうと)を…怖がらせたようです。申し訳ございません、お父様…」

 「…うん?…ノンが何故、謝るんだい?…()()()()()()()だろう?」

 「わたくしのつり目が、彼を睨んだと思わせたのでしょう…」

 「……ノンは何故、そう思うのかな?」

 「…彼があまりに痩せ過ぎで、同情してジッと見つめてしまい…。それが却って逆効果に、なりましたのね…」

 「…う~む、それは……。倒れた理由ならば、別の原因だと思うが……」


わたくしの所為で…と反省していますと、父も執事もメイド達も皆が、何とも言えない空気を纏われます。まるで今のわたくしの姿は幼気(いたいけ)だと、憐み溢れる視線を向けられましたのよ。…ええっ?…これ如何(いか)に…?


その後、目を覚まされた男の子は、わたくしより1歳下とは思えぬ、堂々とした言動をなさるような、大人びた少年でしたわ。わたくしの方が怖がらせないように、ビクビク致しましてよ。倒れる前と後で、彼の纏う雰囲気がどこか変化した風に、思われましたけれど。わたくしの気のせい…でしょうか?


 「……わたくしの義弟(おとうと)なのですから、『ノン』と気楽に呼んでちょうだい。貴方を…『タキ』と呼んで、良いかしら…?」

 「…勿論です、お義姉(ねえ)様さま。僕も『ノン姉様』と、お呼びしても…?」

 「…も、勿論ですわよっ!…タキが元気になりましたら、わたくしが屋敷の中を案内して、さしあげますわ。」


彼がわたくしを恐れる様子もなく、初体面のわたくしを実の姉のように、接しようとしてくださいます。タキの笑顔がとても眩しくて、わたくしは嬉しさのあまり、飛び跳ねながら大きな声を出し、無作法をしてしまいましたけれど。


あれから、わたくしとタキは本当の姉弟らしく、仲良しになりました。もし本当に彼が、父と愛人との間の子供であろうと、わたくしはもう何も気に致しませんわ。タキが誰の子であろうとも、わたくしの義弟(おとうと)であるという事実には、変わりはございませんものね。


こうして数年間、勘違いをし続けたわたくし。偶然、真相を知るまでは。我が伯爵家の遠縁に当たる、ダンルック男爵当主とその愛人との間に、生まれた三男であることを。彼が男爵家で、どういう仕打ちを受けたかを。


 「…タキは、お父様の愛人の子では、ないんですの?」

 「……っ、君は私を疑っていたの?…実の娘に疑われるとは、悲しいな…」

 「…うっ。申し訳ございません、お父様。突然連れていらしたので、他の可能性を見い出せず…」

 「タキ達母子は男爵家で、酷い虐待を受けていた。君の母親がいれば、相談していたところだが、一刻も早く助け出す為にとばかり、君がまだ幼いからという理由で、()()()()()()()()()な。…ノン、本当にすまない。私は父親失格だ…」

 「…そんな風に、仰らないで!…お父様はお仕事で留守がちですし、お母様が天に召された頃はわたくしも、寂しい想いを致しましたが、義弟(おとうと)のタキがいらしてからというのも、ちっとも寂しくありません。わたくしに義弟(おとうと)を与えてくださって、心から感謝を申し上げたいですわ。」


父の浮気容疑(?)も晴れ、タキとは従姉弟(いとこ)であると判明し、わたくしがタキを憎む理由は、完全に消えました。これからは存分に義弟(おとうと)を溺愛致します!…夢の中でのわたくしがどうであれ、わたくしは幸いにも別の道を、歩んでおります。例え単なる夢でなくとも、未来はわたくし自身が切り開いてみせますわ。


…わたくしの見る夢が、正夢となる可能性がございまして?…いいえ、既に色々と異なっておりますし、決して夢の通りにはさせませんわ。この世界は今を生きる、わたくしの世界です。従兄(あなた)は全て、お見通しでしたの?…それとも、従兄(あなた)でさえ知らぬ真相が、まだ隠されていますの?


問い質したくとも、貴方はもう此処にはおられません。だからこそ余計に、貴方の姿を探してしまいます。()()()()()()()()()()…と、微かに期待して。


 「…姉上はもっと、落ち付かれるべきでしょう…」


最近は義弟(おとうと)から、お小言をされますのよ。いささか生意気な我が義弟(おとうと)を、五月蠅く思いつつもその反面で、未だか弱き義弟(おとうと)と溺愛気味のわたくしは、正真正銘のブラコンなのかも、しれません……

 今回のストーリーは、前回の新キャラ『タキローズ』と、関わりがあると思われる人物、『ノン』視点となります。彼女のフルネームは明かさず、暈しています。第五章からは本格的に、登場することになるかと…。


今回もゲーム情報となる真相が、ポロポロ出ています。第五章に入る前に、あと数人の視点を交えて、番外編を書こうと思っています。



※第四章『乙女ゲームが始まる直前編』は、番外編で終了となります。あと数話で第四章を終了する予定です。第五章まで、暫くお待ち願いたいと思います。


※『運命の転生劇 ~乙女ゲームの世界へようこそ~』は、暫らく休載とさせていただきます。休載後に、第五章を開始する予定となります。

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