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運命の転生劇 ~乙女ゲームの世界へようこそ~  作者: 無乃海
第四幕 『乙女ゲームの始まる直前』編
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幕間5 溜息と期待の狭間に…

 今回から暫く、番外編となります。今回は、とある人物視点で……

 これは、とある貴族家で起きた、とある出来事である。とは言え…別に何か事件が起きたわけでもなく、重大な問題が起きてもいない。その家の令嬢に劇的な変化が、起きたというだけのことで……


 「…ふう~、最悪ですわね。悪役令嬢に、目をつけられるなんて…。やはり此処は例の、あの乙女ゲームとやらの世界、なのでしょうか?」


見目麗しいご令嬢は、盛大に溜息を吐きつつ独り()ちる。貴族と思われる部屋の中では、部屋の主らしき人物しかおらず、一人で自問自答していた。もし他の誰かが聞いていれば、あまりに途方もない内容に、気の弱い令嬢は気が触れたようだと、噂するかもしれない。


 「…確か、『運命の夢』がどうとか…でしたかしら?…はっきりとしたタイトルは覚えておりませんが、『乃木・トイ・コーポレーション』がゲーム分野に、初めて進出した時に発売されたという、初の乙女ゲームでしたわね…」


前世の彼女はゲームに興味がなく、誰かに頼まれ一度だけゲームをした、という程度であった。確かにその時、設定が面白いとは思ったものの、ゲーム自体にはそれほど魅力を感じず、寧ろゲームを進めて行くうちに、屡々ついていけないと思うような、矛盾もあったりして…。


 「ゲーム付属の設定集を拝見しました時、実在する国のお話みたいだと、とても惹かれた気が致します。実際にゲームを進行していくうちに、登場キャラ達の振舞いには、疑問を持ちましたわ。特にヒロインの振舞いは、貴族令嬢からかけ離れ過ぎており、礼儀知らずどころか恥でしかありません。それなのに…天真爛漫と仰る攻略対象達は、どれほど()()()()()()のでしょう…?」


前世の頃から彼女は、それが不思議に思えてならなかったが、今の世界の彼女もその気持ちは、変わらずである。…否、寧ろ更に矛盾を、感じていたかもしれない。あれを天真爛漫と表現するならば、悪役令嬢達があまりに不憫すぎると、同情していたような気もする。


 「態とそういう設定に、なさったの?…それとも偶然、そういう設定になされたのか。……いいえ、それは…違いますわよね?…あのお方が()()()()()()()()時点で、単なる偶然ではございませんわね…。あのお方が偶然を装うことはあれ、気が付かぬはずもないわ。あの真っ黒で腹黒いお方は、そういう方でしたもの…」


令嬢が指す『真っ黒で腹黒いお方』が、もし今の独り言を聞いたなら、気を悪くすると思うところだろうが、令嬢が信じる通りの人物であれば、逆に正解だと認めて不敵に笑うことだろう。


 「…わたくしは乙女ゲームの世界に、転生したと言うべきかしら?…それとも単にゲームと似た世界に、転生したのかしらね?…ですが、ゲームに登場した聞き覚えのある人物が、何人か現実におられますものね…」


乙女ゲームの設定や展開を、全て覚えているわけではなく、何人かはゲームキャラと同姓同名だと、思い出しただけである。ヒロインはまだ居なくとも、攻略対象や悪役令嬢、またサポートキャラがいて…。彼女は最近漸く、それらを思い出した。既に出会った友人達の中には、ゲームに登場していた者達がいる、と。そして自らもまた、ゲームキャラであることを……


 「…ゲームのキャラクターなどと、信じたくはありません。それでも、わたくしが思い出したゲーム設定と、現実での状況はあまりにそっくりで、偶然とは思えませんわ。それに…この前世の記憶を、単なる偶然として片付けるには、色々と詳細な部分まで似すぎております。そしてわたくしもまた、そうなのですね…」


令嬢は思わずギュッと、眉を寄せる。転生したこと自体に後悔はなくとも、流石に転生した先が乙女ゲー世界で、自分がゲームキャラになったと知れば、一体どうしてこうなったのかと、神様にでも問い質したいぐらいだ。


然も、自分が生まれ変わった人物は、モブキャラなどではなかった。今の自分が単なるちょい役でもなく、ヒロインでもなかったと言えば、大抵の者達がそういうことかと、想像し得ることだろう。そして、その想像は合っているぞと、認めることにもならざるを得ない状況に。


そうしたことから、前世の記憶が幻だったとは、絶対に思えない。…否、絶対に思いたくないと、言うべきだろうか?…過去の記憶の中には、()()()()()()()()誰よりも愛おしい、そういう存在がいた幸せを、思い出せたのだから……


 「…あの子は今、何処にいらっしゃるのかしらね…。もし…あの子も此処に来ていらしたら、わたくしはどれだけ嬉しいことやら。それでももし、あの子がわたくしと同じく、ゲームのキャラクターとなって苦しむなど、それだけは絶対に嫌ですのよ。来世でももっと、幸せになっていただきたいのです。できれば裏表のない、優しい相手と……」





 

   ****************************






 王立学園に入学した日。如何やらわたくしは、迷子になったようです。王宮の庭と同じくらいに広い校庭(?)を、王女様並びにトキリバァール様達が、ウロウロ彷徨うわたくしを、偶然にも発見し助けてくださいました。


そんなわたくし達の姿を、誰かが見ていらしたようでして、あっという間に学園内で噂になりましたわ。その噂話には、王女様もご一緒だったという部分が省かれ、護衛のトキリバァール様とリョルジュ様が、わたくしと仲睦まじげであった、という中見に掏り替えられていたのです。


 「仲良くも何も、わたくしは迷子になっただけですし、王女殿下がおられましたのよ。トキリバァール様とリョルジュ様は、王女殿下の護衛もなさっておられて、わたしくと会うお暇などございませんわよ。」


噂を知った同じクラスの皆さまが、真実かどうかを確認しようと、わたくしに直接訊きに来られます。ですから、わたくしは実際に起きた真実のみ、皆さまにお伝えした次第です。皆さまの殆どが、興味半分面白半分という雰囲気でして、噂の半分は信じておられないご様子でしたが。


 「全ては根拠のない、出鱈目な噂話でしてよ。迷子のわたくしを助けてくださったのは、紛れもなく王女殿下でしたのに…」

 「…やはり、そうですの。王女様の護衛をなさるはずのお2人が、不用意に王女殿下のお傍を離れるなど、有り得ないことだとは思いましたが…」


王女殿下もいらしたと告白をすれば、クラスの皆さまからもご理解を得られたようです。王女殿下の護衛として、お2人は殿下と共に行動なさることを、学園でも多くの生徒達がご存じのことなのでしょう。王女様がお2人とご一緒だったことに、納得してくださったようでして。


幸いにもわたくしと同学年に、王族も公爵家のご子息方もおられず、クラスの中では侯爵家のわたくしが、一番身分の高い位置におります。お陰様でわたくしを卑下なさる方は、クラスの中にはおられなくて。これらを機にして、クラスの皆さまと仲良くなれましたのよ。クラスの皆さまは、とても気の良いお方ばかりですから、学園に通うのは楽しくて。あの頃に戻った如く、懐かしい思い出を胸に抱き……


従来のわたくしのまま成長していましたら、これほどはっきりした物言いを避け続けて、きちんと否定することもなかったと、自分でも屡々思いましてよ。カノン様と初めてお会いしてから、徐々に自信を持てば持つほどに、図太くなっていく気も致しますわ、残念なことに。


今のわたくしには何も、怯む理由などないのです。悪役令嬢を怖がるなど、絶対に有り得ないことなのでしてよ。今のわたくしは、以前のわたくしではございませんけれども、決められた設定通りに生きるのは、今のわたくしには到底無理ですわ。過去でどうあっただろうと、今はこれが…()()()()()()()()


 「…カミーナ様側の者達に絡まれたと、お聞き致しましたわ。本当に大変でしたわね…」

 「…ふふっ、意外と大丈夫でしたのよ。偶然にも王女殿下が、間に入ってくださる形で、お助けしてくださったので…」


すっかり親しくなった友人達が、心配してくださっていたようです。カミーナ様に目をつけられ、彼女の取り巻き令嬢達に利用された、過去のわたくしも今は…過去と決別し、貴族令嬢らしく明確な拒否を、返せるようになりましたわ。


カミーナ様と取り巻き令嬢達は、自分達より身分の下の者、自分達より能力を低いと見下す相手には、自らの立場を優位に利用なさって、威張ったり虐めたりなさるのです。かくいうわたくしも、カノン様達と出会う以前に、カミーナ様の取り巻きとして強引に引き入れた、被害者の1人でしたのよ。


カミーナ様達に噂の件で絡まれた時、丁度通りかかられた王女殿下は、護衛もおられない状況にも拘らず、わたくしを助けようとなさいました。カミーナ様達は何故か強気な姿勢を崩さず、王女殿下を見下しておられるようでしたわ。後から護衛の彼らが合流なさったことで、結局…形勢は逆転致しましたけれど。


 「…王女殿下は、気さくなお方だと評判ですが、本当のようですわね?…それでは後から、リョルジュ様が駆け付けられたのですね?」

 「……ええ、そうですわ…」


王女殿下の護衛はお2方ですのに、リョルジュ様の名を出されたのかと、怪訝な顔を致しますわたくしに。友人達は意味ありげに微笑みながら、何を期待なさっておられるのかしら……


 「()()()()()()、芯が強い人なのだな。」


ふとその時、リョルジュ様のお言葉を、思い出しましたわ。実は…あの後、彼には何度か助けていただいておりまして、個人的な会話を交わす仲になりましたのよ。学園内は勿論のこと、学園外でカノン様達にお会いした時にも、いつも彼の方からお声をかけてくださって、とても嬉しく思いつつ。


人気者の彼とはこれ以上、私的な関係で仲良くなりますのは、いけないことと分かりながらも、彼の人柄を知れば知るほどに、諦められなくなりそうで…。いつか彼の隣に立ちたいと、彼の傍にいたいという想いが、()()()()()()()で……

 前編・後編共に、同じ人物視点となります。敢えて誰とは、筆者からは伏せさせていただきますが、誰かなのかはバレバレでしょうね……


自国の王女を見下すカミーナ達は、ある意味では凄いかも…。本文に出てくる悪役令嬢が、カミーナ達に繋がるのかどうかは、まだ今は…内緒です。次章で判明していくことに、なるかと。



※第四章『乙女ゲームが始まる直前編』は、残すは番外編のみとなり、あと数話となりそうです。番外編が終了次第、第四章を終了致します。その後は、第五章を開始する予定ですので、暫くお待ち願いたいと思います。


※『運命の転生劇 ~乙女ゲームの世界へようこそ~』は、暫らく休載とさせていただくつもりです。休載後に、第五章を開始する予定です。

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