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運命の転生劇 ~乙女ゲームの世界へようこそ~  作者: 無乃海
第四幕 『乙女ゲームの始まる直前』編
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85話 貴方の王子となる条件

 今回も、婚約者視点が続いています。乙女ゲームの裏側が、見えてくる…?


 「前世での乙女の基準は、何も未婚者に限るものではございません。心が清らかで無垢な『乙女心』を、持つ方々もおられます。未婚や既婚に関係なく。純真な心は目に見えぬものではなく、()()()()()()()()でもありませんもの。」

 「異世界に済む者達は、そういう広い解釈ができるのか…」


我が国では未だ貞操概念が強く、特に未婚女性の純潔さを重く見る。純潔でなければ不埒とされ、不当な扱いを受けることもあった。相手が婚約者ならば未だしも、正式に婚約した相手でなければ、浮気と見做される。身分の高い貴族令嬢ならば、婚姻すらも厳しくなるだろう。例え令嬢が望まぬ、明確な原因があれど。原因がどうあれ、全ては結果次第であったから。


カノンの前世世界と我が国では、乙女に関する解釈が異なるようだ。未婚女性で清らかな身体の持ち主、我が国ではそれだけの意味しかない。一方、前世の世界での乙女には、明確な基準があるようでないと、言えるかもしれない。


 「1人の女性が様々な異性と出逢い、共に力を合わせ問題を解決し、その過程で恋を意識していく、というシュミレーションゲームの1つが、乙女ゲームという女性向けのゲームでしたわ。ゲームをする女性は、ゲームのヒロインと一体となり、様々な異性達と疑似恋愛をする、それが乙女ゲームの醍醐味なのです。世の女性達からも、圧倒的な支持を得ておりました。」


心が綺麗な乙女心を持つ女性達が、乙女ゲームなるものを遊技すると、僕は謝った解釈をしていたようだ。乙女ゲームと呼ぶぐらいなので、乙女しか遊技できないものだと、勘違いをした。しかしそれは、()()()()()()()()()ようだな。


 「時に男性も『乙女』と呼ぶと聞いたが、実に興味深い世界だね?」

 「…えっ?!…一体、何方(どなた)が仰いましたの?…その言葉もその意味も、全く別の類なのですが…」

 「…ああ、エイジから聞いたんだ。その様子だとあまり良い意味では、なさそうだね…。それよりも、はっきりしたことがある。前世だろうと今の世界だろうと、乙女や聖女という言葉は、カノンの為にあると知らされたことだよ…」


我が国では、無垢な魂の持ち主は男性なら聖者、女性なら聖女と呼ばれる。聖者や聖女の多くは、教団と呼ばれる宗教団体に所属し、その教団が運営する教会で聖職者として、身を置いた。彼らは主に祝福を与える側で、布教活動の傍ら信徒の拠り所となり、罪深い者を正しき道に導く。


誰が何と言おうとカノンは、無垢で高潔な魂を持っている。大切で愛しい僕の婚約者は、乙女や聖女と呼ぶに最も似つかわしい、女性だと思う。彼女には誰も叶わない美しさがあると、神に誓って宣言しよう。


 「…トキ様、それは大それたことですわ。わたくしは特に何も持ち合わせておりませんし、神への冒涜になり兼ねますわ…」

 「カノンは真面目に、考え過ぎだよ。この世界から魔法が消え、今は誰も魔法が使えず、聖女だからと何かしらの力さえ、持たないのだから。今は、単なる宗教でしかない。」


女神アマテラス神の名に肖り、無垢な心を「アマテラス神の如く…」と、表現することもある。後にカノンが教えてくれたが、彼女の前世である日本国でも、天照大御神という女神の信仰が、あるそうだ。単なる偶然か若しくは、神の悪戯か?


神の怒りを買う恐れがあると、カノンは本気で僕を心配したようだった。聖職者達に特別な力も見られず、今の世に神は存在していないと、囁かれている。しかし、僕は知っていた。()()()()()()()()、常に人間であると……


 「それでゲームの中では、どういう流れで進んでいくのかな?」

 「女性が美男子(イケメン)に時めくのは、何時の時代も当然の摂理のようですわ。様々なタイプの攻略対象の1人と、共に困難を乗り越えながら、恋を知っていくのです。」


我が国を基にしたゲームは、『時流』という人物が作ったものだ。過去の自分に都合の悪い人物達を、何らかの役割に就かせ登場させた。逆に僕やカノンは、登場させないようにして。これが何を意図するか、まだ僕には分からない。しかし現世世界と、彼女の前世世界とは他に何か、繋がりがある気がした。


実在のシャンデリー王国と登場人物達が、今後ゲーム通り動くかどうか知らないけれど、過去の世界の『時流』がどうしたいのか、何故か僕には確信めいたものを、感じていたのである。






    ****************************






 「身分の低い女性ほど、身分差のある恋愛に憧れるようで、少女や成人女性など未婚・既婚に拘わらず、ゲームの主人公(ヒロイン)に成り切り、素敵な男性と恋ができるという、それが乙女ゲームの最大の利点です。特に女性は、()()()()()()()()という存在に、憧れるものでしてよ。」


単に乙女が遊技するゲームと思いきや、特に年齢や性別の制限もなく、誰にでも遊戯する資格があるそうだ。時には男性もゲームの虜となるほど、国民達には絶大な人気を誇るのだとか…。


ゲームを買えない貧しい家庭の者、乙女ゲームに興味のない者など、花南音の世界でもそういう者達がおり、誰もが遊ぶというわけではないらしい。中にはゲーム中毒者と呼ばれるほど、自分が夢中になりすぎた結果、周りの家族や友人を巻き込む者も、いるのだとか。乙女ゲームとは、()に恐ろしき遊技だな……


 「女性達の多くが自国の王族、若しくは他国の王族に憧れ、将来王妃になりたいという夢を持つのは、我が国でもよくあることだよ。異世界である日本は、身分制度が存在しないのでは?…それとも、他国の王子や貴族との婚姻を、期待しているということかな?」

 「いいえ、そういうことではありません。国の数が多くとも、王族制ではない国が多く、実在なさる王子様よりも、会社経営者など自由の利く人物が、モテておりました。特に日本は一夫一妻制で、一夫多妻を嫌う女性が多いのですわ。一般的に前世の女性が求める王子様とは、単に王族を指す言葉ではなく、自らの理想の相手を指すものです。それに…花南音の想い人は、トキ君でしたもの…」


王制ではない国での王子とは、別の意味で使われているようだ。自分だけの理想の王子様という言葉は、男性にとって実に嬉しい表現と言える。我が国のように本物の王子がいる国では、王子という身分が()()()()()()()()()を、公爵令息で高位貴族である僕は、身に染みて理解しているつもりだ。


…なるほど、そういう意味か…。君は前世で僕に、恋をしてくれていたの?…過去も現在も未来も、君は僕だけのお姫様だったけれど、僕は貴方だけの王子でありたいとも思う。今も貴方は僕を理想の異性だと、思ってくれるのだろうか?


ゲームのような世界は、我が国では有り得ないことだが、異世界では有り得ることらしい。あまりの文化の違いに、僕も理解が追い付かない。それでも僕が生きている今の世界は、絶対に…ゲームなどではない。もしかしてカノン達以外の転生者の中に、実在の登場人物をゲーム通りに操る、悪意のある者がいるかもしれないと、不意にそんな危機感も感じた。


 「僕にとってカノンは、僕だけの大切なお姫様だよ。誰よりも何よりも愛くるしい存在である君は、僕の自慢の婚約者だ。カノンは今の僕を、どう思う?…君の理想の王子に、なれたのだろうか?」

 「……っ!?………ええっと、それは…………」


僕はカノンのどんな姿だろうと、受け入れるつもりだったが、できれば彼女も僕だけを見てほしい。今までも僕は彼女に、何度も愛の告白をしてきた。しかし、貴族特有の遠回しな表現では、彼女を振り向かせることができずにいる。それでもやっと僕にも、春が訪れたと言うべきなのかな?


くるくる変わる彼女の愛らしい瞳が、僕の言葉に反応したように、一瞬大きく見開いた。僕を見上げてくる彼女の顔が、見る見るうちに赤く染まる。まるでトマトが熟す如く、真っ赤になった。彼女の反応につられて、僕まで赤くなりそうだ。


 「……はい。わたくしにとってトキ様は、唯1人の王子様です…」

 「……っ!?………カノン……」


何時(いつ)もと異なる歯切れの悪い口調も、恥ずかしげに応じる様子も、全てが新鮮な光景に思えた。一見して不愛想に見える、普段の彼女の姿は高位貴族令嬢らしくて、品性も立ち振る舞いも全てが美しく、彼女らしいと好ましく思う一方で、今のように恥じらう初々しさのある姿も、何とも言えぬほど愛らしく。


…いや、寧ろ…可愛すぎて困るぐらいだ。婚約者である僕以外の異性に、今みたいに愛らしすぎるカノンを、知られたくないと思う。それ以前に、あまりに愛らしい彼女の姿に、これから僕は…通り耐えられるのだろうか?…普段は冷静沈着な僕であれ、これまで通りに振る舞えるだろうか?…はあ〜。僕は君を前にした途端に、只の変哲もない人間になってしまう。………ん?……今、カノンは何と…?!


僕の問いに彼女は、すんなり(こた)えてくれる。今まで何度もスルーされ、僕はつい受け流しそうになった。当初はあまりに都合が良過ぎて、夢でも見ているのかと思うぐらいには。だけど、これは夢ではないと、漸く気付いた。


 「…僕の想いが漸く君に通じたのだと、そう思っても良いのだろうか?」

 「ええ、トキ様。わたくしももう何も知らぬ、子供ではございませんわ。前世の貴方を思い出しましたから、貴方への気持ちも一緒に、思い出したのです…」

 「…はははっ。なるほど、そういう理由(わけ)か。如何やら異世界でも、僕が時流だった時、花南音に振り回されたのかな?」

 「…そういう意地悪なところ、前世と同じですわ。本当に貴方らしくて…」


()も懐かし気に、今の僕に過去の世界の僕を、()()()()()彼女。僕は複雑な気分になりつつ、彼女と再び出逢えた運命に、心から感謝する。その一方では、これから起こり得る運命に、僕は挑む覚悟を決めたのであった。


…カノンのいない世界など、僕は要らない。僕は君さえずっと、傍にいてくれるのなら、幸せなんだよ。

 トキ達の学園での日常編ですが、今回はカノンとのやり取りが、中心になりました。乙女ゲーが抑々どういうものか、というところから説明する流れに……


さて、第四幕の本編はこれで終了とし、次回から暫くの間は、番外編を投稿しようと思います。その後は愈々、第五幕のゲーム開始の章と、なる予定です。第五幕開始の前に、暫しの休憩を取りたいと考えています。第五幕に入る前に一度、きちんと整理をしたいので……

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