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運命の転生劇 ~乙女ゲームの世界へようこそ~  作者: 無乃海
第四幕 『乙女ゲームの始まる直前』編
106/117

84話 過去も今も未来も僕は…

 主人公の婚約者がメインの回です。


今回、前回の続きではありません。また話の時期も、曖昧な状況にしています。

 あれから1年以上もの間、ほぼ毎日のようにナムバード公爵令嬢が、ところ構わずに追い回すかの如く、僕に付き纏ってきた。王立学園の男子生徒達が暮らす寮には、流石に押し掛けて来られないようだが……


特別の事情でもない限り、教師・男子生徒・女子生徒と分かれて、ほぼ全員の生徒が入寮していた。寮内では1人につき1部屋を与えられるものの、身分や寄付金で部屋の条件が変わる。因みに最も好条件であろう僕の部屋は、自室での調理も可能な上、侍従や侍女の部屋も用意されており、至れり尽くせりであった。


 「学園の寮生活は、どうですの?…わたくしも一度は寮で、過ごしてみたいのでしてよ。」

 「…いや、王女が羨むほどお気楽では、ないからね…」


第一王女のグロリアは何故か、寮生活に憧れを抱いているけれど、王族が寮生活をすることになれば、警備の点で色々と問題が出てくるであろう。王族を警護するには、護衛の人数を大幅に増員せねばならない。またそれ以前に、学園が雇う護衛達の実力は、王族専属の護衛達の実力には、遥かに及ばない。だからと言って、単に増員すれば良いという、問題でもなかった。


王立学園は貴族子息達が通う学校で、平等を謳い文句に掲げながらも、身分を最も重視していた。但し例外ではあるが、愛人である庶民との間の子息は、貴族が引き取るという確証の上で、学園への通学を許可されることとなる。


入寮後は特別な理由のない限り、外出を許可しないと規定された。外出届けを出せば許可が下りるものの、家に帰省する時間は全くなかった。我が国の主要都市ではあれど、中心街を外れた奥まった場所に、学園があった所為で。何故此処に建てたかは、今も謎だけど。


現在学園に通う王族は、僕と同い年の従兄妹(いとこ)・グロリアだけである。彼女は昔から男勝りな性格で、王女に生まれたのが間違いかのように、常日頃から僕に張り合った。幼少期には共に少年騎士に混ざり、剣を振るってお転婆ぶりを発揮する。


 「ゲーム開始時点での王女殿下は、隣国第一皇子の皇太子殿下に嫁ぎ、その後に起きたクーデターにより、皇太子殿下と共に行方不明になられています。そうした設定のみで出番もなく、名もないモブキャラでした。またソーラル殿下は何故か、トキ様と同い年でクラスメイトでしたわ。」

 「…隣国のクーデター?…リアは行方不明で、ソーと僕が同い年…?」


カノンが語る前世の『乙女ゲーム』とやらは、僕にはチンプンカンプンだ。彼女の前世にいたらしき『僕』は、過去の世界をある程度覚えていたのか、シャンデリー王国を舞台にしたゲームを、作ったようである。現実通りの設定でありながらも、敢えて()()()()()()()()()世界を、創り上げていた。


前世で彼女の幼馴染であった『時流(ときる)』は、未来の異世界に転生した『僕』であるのだと、彼女が本気で信じていることに驚く。外見も名前も、全く知らない別人としか思えぬのに。偶々、似た愛称であったとしても……


 「単なる勘ですわ。前世でもわたくしの勘は、よく当たりましたのよ。」


単なる勘で納得できるものでもないが、実は…僕には心当たりがある。成人の儀を迎えた当日、カノン達とも相容れない古い記憶が、過去に封印されたはずの思い出と共に、鮮明に蘇ってきたからだ。とある理由に依って繰り返す選択を、僕自ら受け入れたのだと。


カノンの前世で存在した『僕』が、本当に僕の未来の姿であるならば、当然ながら何かと足搔いていたはずだ。明らかに何かしらの意図を持ち、乙女ゲームを作製していることだろう。この現実世界で()()()()()()()()を、全て把握した上で。


 「ルーバイン皇国皇太子との婚姻は、以前から打診されていた。リアが学園卒業後に、婚姻するという話も出ていたが…。クーデターではなくて革命が、皇国では実際に起きているそうだ。今は婚姻そのものが、白紙に戻っているけれど…」


一般的に16〜18歳という年齢は、我が国の女性の適齢期でもある。ゲーム同様にリアが他国に嫁ぐ、その可能性は非常に高い。我が国の隣国の1つ、ルーバイン皇国で革命が起きた。こんな不安定な情勢にある国に、王女を大切に想われる両陛下が、嫁がせるわけもない。


 「…革命?…トキ君は設定を敢えて、そうなさったのかしら…?」

 「…ああ、そうだろうね。君と同じ記憶のない僕に、断言できないが。何かしらの意図は、あるだろうね…」

 「…貴方と同い年であられる、ゲームのソーラル殿下の正体は、男装のリア様という可能性も、()()()()()()()()()()()ね?」

 「…………」


カノンの推測通り、『僕』が係わっていたならば、十分にあり得る。現実のリアならやり兼ねないと、知っていたとしたらやはり、そうなのだろうと……





 

   ****************************






 第一王子ソーラル・シャンデリーは、グロリアの年の離れた弟で、僕のもう1人の従兄弟(いとこ)だ。愛称である「ソー」は僕も含めた、親しい間柄の者だけが使う呼び名で、一般的には「王子殿下」と呼ばれていた。我が国の第一王位継承者で、王太子候補でもある。因みにカノンの弟ラルクも、現在8歳で同い年である。


年相応以上に聡明で、物心がつく頃には天才と言わしめた彼を、誰もが正に次の王太子であると、期待する。王家に未だ反抗的な態度を取るのは、ナムバード公爵ぐらいではなかろうか。それもそのはずで……


今後男児の孫に恵まれた場合、孫を王太子に押し上げようと、野心を捨て切れずにいるようだ。僕達兄妹の王位継承権が上である以上、次世代へと交代しようとも、彼の孫が王太子になる可能性は、ないに等しい。彼のたった1人の嫡男は、既婚した際に公爵家と縁を切り、王位継承権を放棄した。自ら放棄した以上、他の王族が存在する限りは、無理な話だと言えるだろう。


ナムバード公爵の後妻が嫡男を追い出したも同然で、父との親子関係に亀裂が生じたようだ。同じく長女も他家に嫁ぐと同時に、公爵家と縁を切ったと聞く。その結果、後妻の娘のカミーナが婿養子を取り、公爵家を継ぐことになりそうだ。


 「今はまだ公に出来ぬが、カミーナ嬢が幼い頃に王宮で、とある問題を起こしている。その一件を問題としない代わりに、彼女の王位継承権を剥奪するという条件を、ナムバード公爵も渋々了承したことがあった。」

 「……はい?…彼女は一体、()()()()()()()のです?…父上もご存じで?」

 「王女殿下の私物を強請った挙句、殿下に断られ破壊しようとした。国王陛下が父から娘への贈り物(プレゼント)として、贈呈された物を。幸いにも、無事だったが…」

 「……肝心のカミーナ嬢は、特に罰を受けなかったのですか…?」

 「陛下が寧ろ喜んで、合意なさったようだからな…」

 「…………」


ナムバード家からの縁談話と、カミーナ嬢のしつこさに辟易する僕に、敢えて父は王室の秘匿した情報を、教えてくれる。抑々が壊れても大丈夫だったのか、リアが必要としなかったのか。国王から贈られた王女の私物を強請り、その上王族の私物を壊そうとしたのだから、十分罪に問えるだろう。


如何やら陛下は、他に思惑があっての合意らしい。あの伯父上のことだからこれを機に、交換条件を出したと思われる。幼い娘に罪を償わせるより、ナムバード公爵家が持つ王位継承権を、全て没収する形で。


 「トキ様とわたくし、それに親友のリナは何故か、ゲームには登場しておりませんが、ゲームに登場なさる他の人物達は、名前も家柄も現実と一致しております。幼馴染のサンドル侯爵子息ご兄弟も、親友のアリー様も、貴方の妹君のユイ様も、そして前世の親友の『アオーリャ』様も、同じく親友の彼氏の『ノリック』様も、ゲームの登場人物達なのですわ。」


驚くべきことに…僕が良く知る友人達は、ゲームの登場人物でもあった。同じ前世のカノンの知り合いという2人に、僕は未だ面識がない。今の仲良しである親友が悪役と知れば、彼女が悲しむと危惧したのか。それに…例えゲームでも、彼女が僕以外の()()()()()()()()()()、僕が彼女以外の異性を口説くのも、それだけは絶対に許せないと、今の『僕』も言い切れた。


 「…確かに、『僕』らしいかな…」

 「因みに、エイジは攻略不可なサポートキャラ、リョー様は攻略対象になりましてよ。アリー様とユイ様、アオーリャ様はヒロインを虐める、悪役令嬢なのです。ヒロインが辿るルート次第で、断罪など悲惨な結末もございまして…」

 「…サポートキャラ?…攻略対象?…悪役令嬢?!…ちょっと待って、何が何やら理解が追い付かない。まさか断罪などの悲惨な結末が、現実でもあるなどと言わないよね…?」

 「…さあ。わたくしは何も存じません。前世の貴方は肝心なお話は、何も教えてくださらなくて…。わたくしの勘ではございますが、過去のしがらみを取り去ろうと、なさったのではないでしょうか。実際に起きる出来事ではなく、人生の選択次第では起き得たという、可能性の問題ではございますが…。未来のわたくしへ彼が唯一残された、何らかのメッセージではないかと、今更ながらに存じます。過去の彼と今の貴方が重なりますほど、実感が湧いてきましてよ。貴方とわたくしが揃って登場させない状況は、あまりにも不自然すぎる設定ですもの…」


ゲームに関する以外も、前世の事情は複雑だ。理解する以前に、話についていくのがやっとで。過去を弄れば、未来が()()()()()()()()()()()()状況に、彼女を巻き込みたくなかったのか。『僕』らしいと思えど、不安がより強く募ってくる。


 「…うん。カノンが感じている通り、僕も不自然だと思うよ。いくら僕達が登場しない状況とはいえ、断罪も有り得る危険なゲーム上で、僕達の大切な人達に本来とは別の役割を与え、登場させている時点でね…。単なるゲームと、侮れないようだよ。()の乙女ゲームとやらを作った張本人が、他ならぬ『僕』自身であるとするならば、殊更厄介だな…」

 トキ達の学園での日常編、続きです。今回、トキ視点となりました。


ストーリーの途中で、急に別人の会話に切り替わりますが、何方かと言えば入学以降から今までの出来事を、トキが振り返りつつ語るという、形式を取りました。


あともう少しの間、トキがメインとなる予定です。乙女ゲーの情報が、ポロポロと出てくるかも。

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