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運命の転生劇 ~乙女ゲームの世界へようこそ~  作者: 無乃海
第四幕 『乙女ゲームの始まる直前』編
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81話 貴方に付き纏う暗い影

 カノン以外の全登場人物を、愛称で執筆するわけにもいかないので、本文中では人物名(日本では下の名前部分)を採用しています。


前回から新登場の令嬢も、今回再び現れ……?

 王家の血を引くナムバード家は、ラドクール家と()()()()()()()()、長年敵対しており相容れずにいた。ナムバード公爵の娘で、後妻の子でもある次女のカミーナは、今年で最高学年の3年生となった。


 「…彼こそが、わたくしの運命なのですわ!」


去年まで学園で最も高貴な者として、我が儘放題に育った彼女は、今まで思い通りにならぬことなど一度もなく、我慢することも一切なかった。そんな彼女が一目惚れをした、今年入学したばかりのとある人物に…。これは運命の出逢いだと、思い上がってしまう。


夢見る頃は疾うに過ぎ去れど、この世界は自分中心に回り、全ては自分の思い通りとなる。彼女の周囲が溺愛した結果が、この状況である。選りにも選って、彼女が一目惚れした相手は、ラドクール公爵令息トキリバァールであった。


 「叔父は王族でいた頃より、野心家であるようだ。父上…先代国王と、何かしら敵対していたと聞いている。先々代国王が切り捨てる形で、公爵家に叔父を婿入りさせている。()の王位継承時、王位を狙う動きがあるという噂も流れたが、証拠は何も出なくてな…」

 「部下を従える力も国王の器も、不十分だと聞いています。そんな大叔父を支持する者が、未だ居るとは思えませんが…」


現ナムバード公爵は現国王陛下の叔父で、先々代王妃の子が現国王で、先々代側妃の子がナムバード公爵であり、先代国王とは年の離れた義弟に当たる。また国王陛下の実妹・現ラドクール夫人とも、当然ながら叔父と姪となる。トキリバァールにとっても、大叔父に当たる人物だ。


 「叔父を傀儡にしようとした者もいたが、叔父の野心は傀儡を上回っていたようでな。仲間内で決裂し、自滅していったよ。ところが、叔父があの後妻を迎えて以降、後妻に操られ再び叔父の野心に火が付いた、という噂も聞こえてくる。後妻は叔父に劣らず、野心溢れた人物なのだろう。」

 「…なるほど。ナムバード家は皆、()()()()()()()ですね…」


トキリバァールはナムバード家内情を探る為、伯父である現国王に面会を申し出ていた。現国王もナムバード公爵を警戒し、国王の知る情報を教えてくれる。王家と血の繋がりがあるというのは、こういう時に色々と便利ではあるけれども、実際は王位継承権など面倒な問題も多く、トキリバァールは煩わしく思う。


 「こうして貴方とお会いできたのは、神様の思し召しかしら?…トキリバァール様も、そう思いませんこと?」


その後も学園で頻繁に絡まれ、トキリバァールは閉口している。相手が相手だけに無下にできず、彼にとっては苦痛でしかない。今日も授業の合間の移動中、彼女に声を掛けられた。カノンを巻き込まない為にも、下手に動くわけにいかず、溜息を()きたい気分であった。


カミーナの言動に迷惑だと感じるのは、彼だけではなかった。彼と常に行動を共にする、王女グロリアと騎士リョルジュの2人も、同類であろうか。グロリアはイラっとし、リョルジュは困惑気味である。トキリバァールとしても、期待させず無下にせずという状況下では、案外と対応が難しい。それを理解しながらも、カミーナに無視される側の王女の立場では、ムカつくのは当然の権利で……


 「…それは、どうかな?…では、僕達は急ぐから…」

 「…っ、お待ちください!…わたくしとお昼を、ご一緒しませんこと?」


さり気なく拒否しつつも断言もせず、最低限の挨拶以外はサッと流す。相手の返事を待たず、立ち去ろうとした。彼女の方から興味を失くすよう、仕向けながら…。ところが彼女は、非常に諦めが悪い様子を見せた。


 「…いい加減になさったら?…トキはわたくしにとっても、大切な友人の1人ですのよ。婚約者がおられる殿方を誘うなど、礼儀の欠ける失礼な行為です。」

 「…王女様が、()()()()()()()()()()では?…ふっ、大人げないわぁ~」


王族の血を引くカミーナは、常にそれを盾に驕り高ぶり、彼に婚約者が居ても居なくても、婚約者が誰だろうと気にしない。性悪で御頭(おつむ)も少々愚鈍な彼女は、王女さえ自らの下だと侮る。邪魔をした王女に、嫉妬は見っともないと鼻で笑う。


 「…カミーナ嬢。貴方は…王族と親戚関係だからと、王女のわたくしを見縊(みくび)っていらっしゃるようですが、本気で王家を敵に回すご覚悟はおありかしら?…貴方のお父上であられる現ナムバード公爵は、我が父上で現国王陛下がご即位の際、王位を乗っ取ろうとされたという噂まで、流れましたのよ。父上が単なる噂だとお気に留めず、特に処罰も与えられなかったとか…。ですがそれも、一度限りのことね。今後は単なる噂かどうか吟味した上、判断なさることとなるでしょう。」







    ****************************






 王女と公爵令嬢の何方(どちら)が、身分が上なのかと聞かれたならば、誰もが王女であると答えるだろう。自分が好意を寄せる殿方が、王女と共に行動していたとすれば、()ず王女に礼を尽くし、真っ先に挨拶を述べる、それが正しい行いと言えた。


実際にカミーナ嬢が取った行動は、王女が傍に居るかどうか以前に、また例え気付いていなかっただけだとしても、重大な過失とされる問題だ。それにも拘らずに、王女に対しての礼儀が()()()()()()()()上、王族である王女に対し非難を浴びせ、侮辱した。それだけで実際に、軽犯罪として罰することも、可能ではあった。


王女グロリアは今はまだ、罰を与える気はなかった。現国王の娘としてこの国の現状は、例えどんな小さな噂であっても、 (つぶさ) に耳に入ってくる。否…入ってくるというよりは、態と耳に入るように収集していると、言う方が正しいだろうか。


…流石はリアも、『王女様』に間違いないな。普段は男勝りで王女の規格に嵌らないとは言え、国の政治のこともしっかり理解している。まだ幼い王子殿下も聡明な少年だと思うが、リアも洞察力に優れている上、目先の利益に囚われずに未来を見据え、様々な方面の才気に恵まれた王女だよ。彼女を本気で敵に回せば、この王国では出世ができないだろうなあ…。


カミーナの言動にイラつく王女を、トキリバァールは横目で見やり、こっそりと心の中で思う。従姉弟(いとこ)で幼馴染でもあるグロリアを、男勝りだとか王女の企画に嵌らないとか、常日頃当人に告げつつ茶化してはいても、本音では王女として従姉弟として、また親しい幼馴染の親友としても、彼は尊重してきたつもりである。


 「…照れ臭いから、本音を告げるつもりはないけどね…」

 「…ん?…ああ、確かに…。尊敬はしてるけど、本人には言いたくないな…」


トキリバァールは本人に届かぬよう、小声とぼそり呟いた。但し、彼の直ぐ隣に立つリョルジュには聞こえたらしく、()()()()()()()()彼の言いたい事を理解した如く、リョルジュが()かさず返答をした。実際の話、リョルジュはちゃんと理解している。彼らの付き合いも、幼少期からという長期に渡っており、ある程度ツーカーの仲でもあったから。


リョルジュがポンコツになるのは、彼自身の家族に対しての愛情や、彼の異性に対する恋愛感情に関する、限定的なものに限られた感情のようだった。今はそれらの感情から外れており、グロリアに対しての感情も親愛以上ではなく、異性に向けるような恋愛感情は、全く持ち合わせていないようだ。


それは王女も同じで、トキリバァールに向ける感情が、家族愛に近しいと表現するならば、リョルジュに向ける感情は、親友に向ける友情に近しいと、表現できそうだ。要するに、この3人の間に恋愛感情はなく、友情しか芽生えていない。


 「王女様と恋仲になるとすれば、ラドクール公爵令息()しくは、サンドル侯爵令息の何方だろうな?」

 「サンドル侯爵令息には未だ婚約者が居ないが、ラドクール公爵令息には婚約者が居るはずだろ?…だったら…サンドル侯爵令息が、優位だろうな…」

 「いや、まだ分からないぞ。ラドクール公爵の婚約者は、未だ成人していないのだからな…」


このような噂話を流し、彼ら3人の関係を恋愛で結び付け、花南音達の現代世界の言葉で表現するところの、三角関係だの四角関係だのと囃し立て、面白可笑しく触れ回る者もいたりする。それを信じるか否かは、3人の言動次第でもあったが。


敢えて3人で行動することで、まだこの程度の噂で済んだが、もしこれが男女2人で行動しようものなら、恋人扱いをされることは間違いない。この上なく婚約者を溺愛するトキリバァールにとって、婚約者当人から浮気したと疑われたと同等に、論外の話であるけれど……


 「わたくしはトキのこともリョーのことも、独占などしておりません。これは王というよりも、()()()()()()()()()でもございますの。王女を守ってくれという、我が父上の個人的なお願いを、お2人は叶えてくださっているのです…」


現在、カミーナと対峙したグロリアに、後ろに立つ彼らの声は届かない。彼らが小声で呟く以前に、グロリアは正面に立つ敵に全神経を集中させ、王女としての威厳を示していたからだ。こんな時だからこそ、他のことなど如何(どう)でも良い。


 「………っ!!…………」


一方で、カミーナは王女の手厳しい忠告に、返す言葉を失う。その上、王女と共にする理由があると、国王陛下からの命ではないが、父親からの命であると明言されたのだから。うっかり反論したら、国王に異議を申し出たと同然になりそうで。


流石にそこまでは愚かではないようで、腐っても鯛なのだろう。貴族としての最低限の矜持を持つのか、それとも…単に自分達が不利になると悟ったか。何方かと言えば後者であるものの、今はそれで良いと判断し…


 「(いず)れ彼らを纏めて一掃できれば、其れで良いのです。シャンデリー王国国民達の未来を脅かす存在は、わたくしが許しませんことよっ!」


何も言い返せなくなったカミーナを放置する形で、彼らは踵を返してその場を後にする。イライラが未だ(とど)まらず、呟きつつ歩を進める王女である。

 前回の続きとなります。トキ達の学園での日常を、第三者視点で詳細に描いてみました。トキを狙う令嬢カミーナと、79話で登場した令嬢は、一応は別人の設定としています。カミーナと王女を妬む令嬢は、今後接点があるかも…。


カノンが在籍していない間、トキに横恋慕し毎日付き纏う、我が儘で自己中という新キャラ、カミーナ。前世の時流が作った乙女ゲーに、登場しているのか否かが、非常に気になりますが…。それに関しては、まだ秘密かな…?


今回、カノンの気持ちを代弁したような、タイトルになりました。好意を持てない以上に嫌悪していても、止めろとはっきり言えない状況は、どの世界でもあり得るようです。但し、この世界の貴族は、はっきり言える状況であるとしても、遠回しに表現せねばならないようで。貴族って、実に面倒ですよね……

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