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第3話 少年と少年

 人族(ヒューマン)が住む村、フランは大陸の西端にある、とても辺鄙(へんぴ)な村だ。

 村の東にそそり立つルボルグ山は、村に恵みをもたらす。村人たちは、それを得て生活していた。

 村から出るには、この山の山頂を経由するか、大きく迂回しなければならない。

 山を越えた先にも、待っているのは深い深い森だ。

 栄えた都市にでも行こうものなら、大人の足でも五日はかかるだろう。



 銀髪の森守族(エルフ)との、一歩通行の化かし合いを制した二人の少年は、調子の戻った足でさっそうと山道を駆け上っていた。

 先の勝負で得たものは〈命〉、そういっても過言はないだろう。失ったものは花以下の烙印を押されたこと。要は〈兄としての威厳〉といったところか。

 密に生茂る草木を軽々と避けながら、奥へ奥へと足を進める。


「キミはよくあんな嘘を思いついたね。人格を疑うよ」


 ジルバードは、意地の悪い笑みを浮かべ、カイトを貶した。


「どの口がその減らず口を叩くんだい?」


「キミにはこの口が見えないのかい? これは視力の方も疑うべきかな」


 ジルバードという男には弱みを見せてはいけない。

 過去から得た教訓だ。

 人を裏切っておいて。さらには助けてもらった上に、これだ。

 とはいえ、後々シュトラに問い詰められたら、と考えるだけでも、気持ちが滅入る。

 話題を変えるべく、以前から気になっていた疑問を投げかける、


「なあ、シュトラのあれって――魔法じゃないのかな?」

「認めたくない」 


 ジルバードは即答した。先ほどの薄ら気味の悪い笑みはすっかり消え、真剣な表情を浮かべている。


「元々、人族(ヒューマン)以外の種族は魔法を使えていたんだよ」


 その話は何回も聞いたよ。そう、何年も。

 顎に手を当て考え込むジルバードの横で、ため息を一つ挟む。


「はいはい。大昔に、だろ? で、どうして今は使えないのさ」

魔力(マナ)が足りないのさ」


 まな? 聞き覚えは……ある。何回も。そう、何年も。


「えーっと……まなってなーに?」


 今度はジルバードが深いため息を吐いた。


「いいかい、よく聞きなよ。人は動くためには食事を取らないといけないだろう?」


 首を二回ほど縦に振り、相槌で答える。

 さも分かりきった顔で、だ。


「魔法も同じさ。魔力(マナ)とは、人でいう、ご飯みたいなものかな。魔力(マナ)は空気中に含まれていて、今こうして吸っている空気にも入っているよ」


「なら、誰でも魔法は使えるんじゃないのか?」


「だから……質が足りないんだよ。圧倒的にね」


 圧倒的を強調して言うと、風にうねった髪をなびかせながら、ジルバードは人差し指を立てる。


「……質?」

「量、といった方が分かりやすいかな。こーんな小さなクルの実ひとつで、満足に働けるかい?」


 ジルバードは人差し指と親指で小さな丸を作った。

 無理だ。全然足りない……。


「肉が……食べたい」


 きょとんとした顔を浮かべたジルバードは、次の瞬間には、あっはっはと笑った。


「キミは素直だね。吸って取り込んだ魔力(マナ)は、吐いたら同じ分だけ出て行ってしまうんだよ」


 つまりは、魔法が使えた時代には空気に含む魔力(マナ)の量が今より多く、それによって魔法を使えていた。

 食い溜めは出来ないってことか。

 それならーー。


「周囲から、たくさんまなを集められたら、魔法を使うことはできないかな?」


 ジルバードは急に立ち止まり、釣られてカイトも足を止めた。

 まじまじと見つめてくるジルバードに、思わず首を傾げる。


「いや、たまに驚くほど鋭い時があるね」

「じゃあーー」

「無理だね!」


 言葉を遮りジルバードは言い切った。


「考えて見てくれ、キミ程度が思いつくことくらい、当然僕にも思いつく」


 ――ホントにこいつは何様なんだ!


 込み上げてくる苛々をぐっと堪えて、ジルバードの続きの言葉を待つ。

 眉間には、しわが寄っていたかもしれない。


「仮に魔力(マナ)が集められるとしたら何で集めるんだい?」

「――超頑張って息を吸う」


 真面目に答えた。即答にしては、だ。

 それを聞いてがっくりと肩を落とすジルバード。


「なんでこう、キミといるとため息ばかり出るのか不思議でしょうがないね! いいかい、もし集めるとしたら、それにも魔法が必要なんだよ」


「ジルが敬愛してこよなく愛する魔法が?」


「全くキミは……。僕は真面目な話をしているというのに」


 集めて魔法を使うにしても、結局は元になる魔力(マナ)が無いと使えない。だからーーシュトラのことは認めたくない、と付け加えて言った。

 とはいえシュトラが常日頃行っている事は魔法以外のなにものでもないだろう。


 普段から多くの本を読み、研究家のように探求を続けるジルバードに分からないことなど、到底カイトには分かるはずもなく。

 「そろそろ向かおう」と急かすことしか出来なかった。


 ジルバードはふっふっふっ、と突然不気味に笑い出した。


「なぁ、キミと僕でどちらが早く着くか、競争をしないかい?」


 目が丸くなった。

 足の速さなら、十中八九カイトが勝つ。しかも、ジルバードの着ている服は、つんつるてんの黒ローブだ。

 ジルバードに勝機はあるのか?

 

 ――いーや、ないね!


 そう結論づけると、短く「いいよ」と返す。

 

「折角だからキミのために、僕が敬愛してこよなく愛する魔法を使ってあげようじゃないか」


 早口で言うと不敵な笑みを上げ、ジルバードはローブの中から一冊の本を取り出す。先ほどの本とは別の本である。

 いったい何冊持ち歩いてるんだ、と思ったがジルバードの愚行をそっと見守る。

 本の一ページを破り、四つ折りにするとカイトの背後に回り、それを落ちないように服の隙間に挟み込んだ。


「キミに『風よりも速く、雷の如く走れる魔法』を仕込んだからね。僕は負けるかもしれないな」


「そんなすごい魔法なら自分に使った方が……」


「馬鹿を言うな。キミが自分で体験しないと理解できないだろう」

 

 ――人族(ヒューマン)は大昔から魔法が使えないんじゃなかったのか……。


 ため息を吐いた一瞬の隙に、ジルバードが走り出した。

 

「あっ?! ずるいぞ!」


「キミはとっておきの魔法を使っているんだ。これくらい当然のハンデだろう」


 高らかに笑い声を響かせるジルバードを追うように走り出した。

 雷の如く速く……。

 否、風の如く速く……。

 否、もちろん普段通りの速さである。



 先に目的地――ルボルグ山中腹――に着いたのは予想通り、カイトだった。

 中腹は、西から登っていくと野原が広がり、東側に進むにつれ地面は荒れ果て、土が剥き出しになっている。

 しまいには、一角だけえぐりとられたように、断崖絶壁になっていた――戦争の名残である。


 カイト達の採りに来た花は、この断崖絶壁に咲いているのだが……体とは正直である。

 全力疾走後の疲れた体は、優雅に揺れる、天然の絨毯に誘い込まれた。

 息を切らせ、大の字に寝そべり空を仰ぐ。日差しは眩しく、空は青く、雲は陽気に浮かんでいた。


 少しばかり遅れて到着したジルバードも、同じく寝そべり空を仰いだ。

 うねった髪を汗で濡らし、太陽の光の眩しさに半目を開き、酸素の足りてない体で途切れ途切れに口を動かした。


「ど、どうだい? 僕の、魔法は、凄かっただろう」


 完全な負け惜しみである。

 だが、体のいいジルバードのことだ。負けることは分かっていたのだろう。


 今回の対決では勝利したところで大した利点はない。どちらが足が早いか、それだけだった。

 詰まるところ、カイトに軍配が上がる勝負を持ちかけ、魔法の凄さを理解させようとしていたのだ。

 実際には使えてないが……。

 

 ――なんて腹の黒い男だ。


 とは思ったものの、全力で走った試し、言い合いになるのも億劫だ。


「凄かった、凄かった」


 投げやりに返した言葉だったか、ジルバードも疲れていたのだろう。

 

「当り前さ」


 と短く返しただけだった。


 呼吸がある程度整った後、立ち上がり、東を眺めたカイトは疲れも吹き飛んだ――その光景に。


 辺り一面に見渡すかぎり広がる大森林。風が吹くと踊るように木々がなびき、釣られて舞う鳥たち。

 気が付くとジルバードも横に立ち並んでいた。


「いつ見てもここからの景色は圧巻だね」


「ああ。そしてこの森の向こうにあるんだな。《グランバール王国》が」


 心の底から湧き上がる感情を胸に、まだ見ぬ世界を見据えて、カイトとジルバードは目を輝かせた。


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