彼の日記5
10月10日
今日、お医者さんの医務資料を見ちゃったんだ。偶然だよ。でもちょっと悪いことしちゃったかな。
今日も脳の検査があったんだ。それでお医者さんと話してたんだけれど、途中で病室にサイレンが鳴り響いた。きっと夏休みの時みたいに、誰かが屋上の塀に触っちゃったんだと思う。
サイレンが鳴るとお医者さんは駆けつけなきゃダメみたいで、すぐ戻ると言って出て行っちゃった。そしたらふっと、紙が落ちてくる気配がして、僕は机の上の紙を見たんだ。案の定、一枚の紙がひらひら机から落ちてきた。それでちょっと不思議な資料を見つけたんだ。
恐らく昔の患者名簿を切り取ったものだと思う。そこには「12月 記憶障害部門患者名簿」と書いてあって、M-1-Aからずらっと、番号と説明が並んでいた。
M-3-A 記憶障害:精神的ショックによる記憶障害。5年保持 記録継続中
M-3-B 記憶障害:逃亡のため次回検査に延期。
M-3-C 記憶障害:精神的ショックによる記憶障害。10年保持 記録継続中
M-3-D 記憶障害:精神的ショックによる記憶障害。記憶置換検査 記録継続中
医師の来る予感に気付いて急いで戻したものの、ちょっと不思議で怖かったよ。
どうやら僕たちがいるのは病院の中の記憶障害の部門で、みるちゃんはM-3-A。5年保持って何だろう。この前目覚めてから5年間記憶を持っていると言っていたから、そのことだろうか。記録継続中っていうのはなんのことだろう。5年間の記憶を覚えて、捨てて。それを何年も繰り返してるってことかな。
M-3-Dの話は隣の部屋から聞こえてきたから、隣もこの部屋みたいに2人部屋だとするとM-3-Cもその部屋にいると考えるのが普通だろう。
だとすると、M-3-Bがいた場所は僕のベットじゃないかな。M-3-Bがなぜか逃亡して、僕はその空きになったベットで治療を受けていることになる。どうしてM-3-Bは逃亡したんだろう。なんだかもやもやしたまま1日が終わりそうだ。
10月15日
今日、みるちゃんにさりげなく、僕が来る前このベットで寝ていた人について聞いてみた。どうしてそんなこと知りたいの?と聞かれたけれど、この前の資料のことは言うと怒られる気がして、なんとなく濁しておいた。みるちゃんごめんね。
みるちゃんによると、病院側から個人の話について関係の無い人にはあまり口出さないように言われているそうだ。だけど僕を自分のベットまで呼び寄せて小さな声で教えてくれた。
「みけの前の人は私たちと同じように記憶障害で入院していたの。でも、記憶を取り戻したから退院した。私たちの間で目覚める前の記憶を取り戻したのは彼だけだ。」
って。
僕はすかさずどうやって記憶を取り戻したの?と聞いてみたけど、それはわからないと言われた。僕は彼に会うことができれば、もしかすると僕は記憶を取り戻すことができるんじゃ無いかと思った。昔の資料を医者が持ってるなら、もっと資料を見ればきっとどんな人かもわかるはず。これからは彼について調べてみようと思う。