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彼女の日記1
3月14日
またこの季節がやってきた。この日付を見たとき、何となく寂しい気持ちになるのは私だけだろうか。別れという言葉の印象を強く受けながらも、何かに解放されたような晴れ晴れしい気持ち。まるで巣立ちの雛のような気持ち。今まで硬く閉ざされていた季節が、一気に緩んでいく感覚。春はすでに、流れ出す一歩手前まで来ている。そんな季節の狭間で、彼は息を吹き返した。
3月28日
あれから2週間が経った。意識不明の重体で運ばれてきた彼は、奇跡的に目を開いた。彼の瞼はそれまでピクリとも動かず、プラスチックでできた剥製では無いかと疑うほどに、生物から遠ざかった様子で密かに息をしていた。それがどうだ、ある日急に目を開けたのだからびっくりだ。死にかけの主人公が息を吹き返すシーンなんてよくあるだろうが、あんな衝撃まだまだ甘い。ああいうシーンにはちゃんと台本があって、みんなびっくりしているけれどやっぱりお芝居なのだ。1人の男性の起床に振り回される病院内の様子は、ある意味滑稽である。