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RPG  作者: やゆよ
17/18

彼の真実

みるちゃんの日記を閉じる。


まさか。とても信じられない。が、あっさりと信じてしまう自分もいる。

僕にはすがることのできる記憶が無い。あるのはちょっとした予知能力だけ。だけど、その予知能力があるということはやはり…印象的な出来事を伝って、去年までの記憶を少しずつ回復していたということだろうか。


僕には予知能力なんてなかった。僕が断片的に見ていたのは去年までの自分の目、確かにこの目で見た景色だったのだ。

そう思うと、自分はやはり被験体…逃げ出した3-Bは僕なのだろうか。いや、3-Bは逃げ出していない。僕自身なのだ。


この1年、去年と同じように記憶を失い、少しずつ回復し、それをデータとして提供し、また記憶を失う…嘘で固められた病室。まんまと騙されて、全てに騙されて、僕は今年も3-Bとしての役目を全うしたわけだ。データもみるちゃん、いや、3-Aから全て採取済み。僕の嫌いな脳の検査も、実験の経過観察だったのだ。


僕が信じていた外の世界はなんだったのだろうか。というか、僕はこのままだとまた記憶を失う。みるちゃんの日記は9年前のもの。つまり少なくとも10年間、僕は記憶を失って、思い出して、また失ってという無駄な時間を過ごしてきたわけだ。ベットの下から出てきた紙も、僕が書いたものなのかもしれない。


記憶が無いというのは、なんと無力なことだろう。過去から囚われずに自由に生きられる?馬鹿なことを。過去がないということは、永遠に既存の知識で生きなければならないということだ。何も学べない、積み重ねることもないまま、僕は一生無力な一年を送り続けるのだ…


「3-B!」


みるちゃんの声が響いた。


「みるちゃ…いや、3-A…

君はいつまでも僕を騙し続けるの?」


「3-B。記憶を保つことができれば、何の問題も無いんだ。君は1年しか記憶を保てない。少なくとも私が生きた5年間はそうだった。しかしどうだ?私のように、1年ずつ記憶を捨てていくならば、君は十分外の世界で生きられる。現に、こちらが契機を与えれば君は1年前の記憶を僅かだが再生できたじゃないか。3-B、諦めるな。一緒に病室に戻ろう。」


みるちゃんが近づいて手を引く。その手を、僕は強い力で振りほどいた。


「やめてくれ。僕には記憶保持なんてできない。本当に諦めるなと思っているなら、なぜ僕が目覚めた時にそれを話さなかった?君もこの病院の一部なのか?なにせ機械漬けだからな。君もこの病院の一部としての役割を果たしただけなんだろう?感情なんて無いんだ、君には。5年生きたって、記憶があったってそれじゃあ意味がないじゃないか…」


はっと気づいた。僕はショックでとんでもない言葉をみるちゃんに投げつけている。そしてこれは、去年と全くのデジャブだ。

腹が立ってきた。こんな激情の中でも、3-Aは病院に決められた3-Aとしての責務を全うしているのだ。僕の視界はもう涙でぐちゃぐちゃだ。


「なぜ騙し続けるんだ。君と外の世界で生きていくことだってできるかも知らないのに…!!」


僕は泣きながらぐらぐらする頭を抱えて、部屋を出た。どうして…どうして僕は…


「待って!みけ、

私は…私はいつか…君と好きな場所で暮らすんだ…ずっと前にそう話してくれただろう?いつか、君の記憶を残したまま、新しい年を迎えられると信じているから…!」


涙がこぼれた。どうして僕は。なぜみるちゃんは。もう全部どうでもいい。誰もが僕を騙している。どこで選択を間違えたのだろうか。目覚めた時から?いや、この病院に連れ込まれた時からそうだったのだ…どれだけ悲しんでも来年には何も残らない。また僕の記憶は消える。僕は屋上に向かって歩いていた。


目の前に、うろたえながら屋上に向かう自分の記憶が再生される。幻覚だ。これは予知なんかじゃない。確かに存在した1年前の僕なのだ。

重い鉄の扉を開ける。


夜だ。


生ぬるい風がぶわっと、一気に僕の形を残してすり抜ける。


夜は好きだ。今日が終わる。どんなにひどい1日でも必ず終わる。必ず終わるんだ…

大きな木。みるちゃんと歩いた夏祭りの記憶。みるちゃんの誕生日。溢れるばかりの星が流れ落ちる景色。どうして…どうして…


転落防止の塀に手をかける。サイレンが鳴り響く。


みるちゃん、ごめんね。


手に力を込め、熱い体をぐっと持ち上げた。病院の外の景色。この病院にいては永遠に見ることができないかもしれない。もういいのだ。僕はここから出て行く。


僕の瞳が、外の景色を捉える。


病院の外は、それはまるで星の海のようなこの町の夜景…


「えっ…?」


僕はあまりのショックで、手に込めた力がすり抜けてしまった。そのまま後ろへ、庭の中へ、真っ逆さまに落ちていく。


僕の瞳に一瞬映った景色は、真っ暗だった。


何一つない、ただの黒。

黒、黒、黒、黒、黒。


それはただの空っぽな空間だった。真っ黒な立方体の中にいる。病院の外の道すら存在しない。太陽も、星もない。病院から、座標のような白い線が伸びている…


混乱で目が回る。


これ…は…

どういう…こと…だ…?

プツン…


game over

▶︎はじめからやり直す

電源を切る

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