ⅦーⅠ
ブックマーク並びに評価をして下さり、本当に有難う御座います。
※呪いのかけ方変えました。
唯の真水
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『サイレイの実のエキス5g』と『リーリフの葉二枚を細かくちぎった物』、そして『マンドラゴラの花の蜜10㎖』を入れた真水
此処最近、不運なことが続いている。
気の所為だと言われればその程度だけど、それでも今までなかったことが続いているのは確か。
朝有り得ない寝坊したり、パンにカビが生えていた所為で朝ご飯を食べれなかったり、急な雨に降られたり、本の貸し出しを間違えたりと、私にしてみれば有り得ないことばかりだった。
前の夜は夜更かしなどせずに眠ったし、パンだって数日前に買ったばかりで消費期限などもっと後。
急な雨は仕方ないとしても本の貸し出しを間違えるなんて私にしてみれば前代未聞。
体調が悪い訳でもないし、寝不足な訳でもない。
しかも、リーラを抱っこしたり近くにいるとその不幸がピタリと止む。
気の所為かと思ったけど、散歩している時にリーラが急に走り出してくれなかったら、私は馬車に水溜まりの水を引っ掛けられていただろうし、リーラが歩くのを嫌がって立ち止まってくれていなければ、角から走って出て来た人にぶつかって怪我をしていたかもしれない。
他にもリーラといた時にだけ防げた不幸があるのだけど、本来ならこんなこと有り得ない。
本が大好きで司書にまでなった私がこんな間違いを犯す訳がない。
「で、これは絶対に何かしら殿下絡みで呪われているとしか考えられないのですが」
「うん、なんでそんな風な思考になっちゃったのか不思議だなぁ」
「仕方ありません。此処最近起きた厄介事と言えば殿下のこと以外に考えられないのですが」
「相変わらずの辛辣だけど・・・・・・・・その言葉をもっと別の意味で言って欲しかったなぁ」
「何か言いました?」
「イヤ、ナニモ・・・・・」
「それに、何時の間にか入れた覚えもないタトゥーみたいなものまで出てるんです」
そう言って私は殿下に自分の手の甲を見せた。
其処には数日前までには確実になかった筈の痣というには鮮明で、まるでタトゥーのようなものが浮かび上がっている。
気付いたのだって起きた時にふと目に入ったからで、入れた覚えなど微塵もない。
それに・・・・・。
「それにこのタトゥーみたい痣、何処かで見たことあるなって思ったので調べてみたら、おそらく『呪いの刻印』と呼ばれるものです」
「それって、数十年前に使用禁止となったあの?」
「はい。まぁ、私は魔導師ではないので本物かどうかは分からないんですけど、一番似ているものがそれで」
呪いの刻印とはとある魔女が生み出したという呪いの一種。
その魔女は既に故人だが、彼女が生み出したとされる魔法や呪術の数々は今でも使用されているものも多い。
ラグレイチ王国の公爵令嬢として生まれた彼女は高い魔力を保有しており、黒髪に赤眼で生まれ、それはそれは優秀な魔法使いだったらしい。
その功績から『魔女』の称号を授かったほど。
彼女が創り出した魔法や装置はとても優れたものが多かった半面、不可抗力というか、生み出す過程で呪いなども同時に生み出してしまったらしい。
その一つが呪いの刻印。
呪う相手の髪を三本用意し、ガラスの器に『サイレイの実のエキス5g』と『リーリフの葉二枚を細かくちぎった物』、そして『マンドラゴラの花の蜜10㎖』を真水に入れ、その上に髪を浮かべる。
指定の魔方陣を書き、その上にその器を置く。
そして呪いたい相手名前を言いながら自分の血を三滴入れれば儀式は完了。
成功していれば呪いたい相手の体の何処かに刻印が表れている。
呪いの期限は三週間で、その間相手には不幸が降りかかる。
最初は本当に小さい不運から始まり、日が経つ毎にその人の命に関わるような禍にまで発展する。
呪いを解く方法は呪い返しをするか、呪いを掛けている張本人を探し出し、呪いを解かせること。
この二つ以外にない。
何時リーラにも危険があるかも分からない為、早く解いてしまいたいのが本音。
何故巻き込み事故で私が呪わなければいけないのでしょうか。
こんなことで死ぬような目に合いたくありません。
それに早く解いて貰わないと周りにも迷惑がかかる。
「という訳で、責任取って下さい」
「うん、分かったよ。僕と結婚し」
「しませんよ」
「でも責任って」
「あの、何を勘違いされているかは分かりませんが、責任を取るというのは王宮の魔導師を紹介して欲しいんです。それで殿下から私に掛けられた呪いを解いて貰いたいのです」
「あ、そういう」
「それ以外にありません」
私は殿下に約束を取り付け、次の休みの日に見て貰うことになった。
でも真逆。
「真逆、見てくれる方が王宮魔導師長様とは思いません」
「いや~、本来は別の者に見て貰う予定だったんだけど、僕が殿下が見初めた子に合ってみたくって、無理矢理変わって貰ったんだよ。でも、変わって貰って正解だったね」
「それって如何いうこと?」
「これは確かに彼女の言う通り呪いの刻印だけど、これを早々呪い返し出来る人はいないってこと。本当によく出来てるねぇ。成功も成功。大成功だよ。相手は相当執念深い人なんだろうね。すっごーい」
「感心している場合じゃないでしょ。君になら解けるんだろ?」
「勿論。この僕を誰だと思ってるの?この国一の魔導師だよ?この呪いを生み出した魔女様には劣るけど、こんな呪いなんてちょちょいのちょいだよ」
「だったら早く解いてあげて」
「う〜ん。解いてあげたいのは山々なんだけどねぇ」
「如何かされたのですか?」
「うん、それがね、この呪いを解く為には一寸厄介な工程があるんだ」
「厄介な工程?」
「うん。この呪いは何かを媒体にして発動するんだ。今回の媒介は十中八九儀式に使われたであろう君の髪と術者の血が入った真水。だからその媒体を探し出して解呪するしかないんだ」
「.....他に方法は?」
「今の処安全な解呪方法はこれだけ」
「安全なってことは危険な方もあると?」
「うん。それはね、そのまま期限まで過ごす。そしたら綺麗さっぱり呪いは解ける。死ぬ確率は非常に高いけど。それに、抑々この呪いは呪いでもなんでもないんだよ」
魔導師長様曰く、呪いの刻印は元々呪いでもなんでもなく、唯の試練だったそうだ。
あまり知られていない話だが、呪いの刻印の本来の名前は『試しの刻印』。
その名の通り、かけた相手の精神力、身体能力の向上が目的で、修行目的に造られたものらしい。
魔女の友人が己を鍛えるべく魔女に頼み込んで造って貰ったそうで、媒介式にしたのも「これ以上は駄目だ」と魔女が判断した際にその友人を助ける為の救済処置。
本来通りの使い方をすればなんの問題もないが、それを逆手に取り悪用する者が増えた為、使用禁止となったそうだ。
しかし、ラグレイチ王国では兵の鍛錬の一環として志願した者だけが出来る特別なものとなっているらしいが、遣る者は大抵お調子者か生粋の脳筋ぐらいだそうだ。
「とまぁこんな感じな訳。だから、術者を見つけ出して媒介を手に入れ、解呪をしないことには如何にもなんないってこと。呪い返しも一つの手なんだけど、相手が呪い返しを受けた時の対策をしていないとも限らないし、そうなれば呪い返しを返されたらまた此方に戻って来てイタチごっこの繰り返し。だったら早々に媒介を解呪した方が効率的だし、犯人だって捉えることが出来る」
「道は一つしかないようだね」
「はぁ......。なんでこんな面倒なことに........」
私は唯静かに誰にも邪魔されずに本達に囲まれて仕事をする生活をしたかっただけなのに........。
なんとか両親を説得し、あのシスコンド変態に悟られずにやっとの思いで遣って来て、天職に就いたというのに。
はぁ......。
「こうなれば殿下にはトコトンつき合ってもらいますからね」
私はそう言い、殿下を見ると、でんかはとても良い笑顔をしていた。
「勿論。君の命が脅かされているんだ。幾らでも協力するし、何時でも責任を取る心算でいるよ」
「否、責任云々はいいんで。本当に」
そんな二人の遣り取りを微笑ましそうに見る魔導師長の姿があったとかなかったとか。
此処まで読んで下さり、本当に有難う御座いました。
これからも頑張って投稿して行きますので、宜しくお願い致します。