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ブックマークして頂き、本当に有難う御座います。


誤字脱字や内容の矛盾には気を付けておりますが、若し見かけられた際にはお声掛けのほどを宜しくお願い致します。

 「貴女がわたくしの婚約者であるクラウド様を誑かした女狐ねッ!」




 本当にこういうの止めて欲しいです。




 何時かは来ると思っていました。

 本当は来て欲しくなど、小指の爪の垢ほども思ってはいなかったのですが・・・・・。


 事の発端はおそらく数日前でしょう。

 あの時殿下がフラグなど立てなければ、こんなことにはならなかった筈です。







 「おそらくだけど、数日中に君の処に厄介事が遣って来ると思うよ」


 「・・・・・・なんですかその嫌な予言は」


 「いやね、此処最近ある侯爵令嬢が僕のことを自分の婚約者だと・・・」


 「まぁ!それは善う御座いました。おめでとう御座います。遂にご結婚なさるんですね!でしたらこんな処になどいらっしゃらず、さっさとご婚約者である侯爵令嬢様の元へ行って下さいまし」


 「触れ回っているみたいで・・・・って、そんなに良い笑顔で僕を追い出そうとするなんて君ぐらいだし、婚約者じゃないからね。僕に婚約者なんていないし、するとしても君だから」


 「・・・・それは残念で御座います」


 「そんなあからさまに落ち込まなくても・・・・・」




 「兎に角、此方でも対処するけど、若し何かあったら直ぐに逃げてね。相手は見れば絶対に分かると思うから」とおっしゃっていましたが、そんな危険性があるのなら、こんな処に足繁く通わず、さっさと対処なさればいいものを。

 まぁ、相手が侯爵令嬢である以上、迂闊に手出しは出来ないということでしょう。

 嗚呼、本当に嫌な社会ね。

 貴族社会は。

 それに・・・・・。




 「私は()()平民です。其方の痴情の(もつ)れに私を巻き込まないで下さい。はっきり申し上げますと、非常に迷惑です」


 「こればかりは本当に申し訳ないと思ってるよ・・・・・。だけど、誤解を生む様な表現は止めてくれるかな?別に痴情の縺れとかそんなんじゃないから。僕も不本意ながら巻き込まれてるだけだから」


 「当事者が何を言いますか。私にまでもお噂は届いておりますよ。殿下はとても勤勉で頭が善く、その優しさと慈悲深さで数多の人を虜にして来た天性の人(たら)し。しかし、その甘いルックスと声で数多の女性を陥落し落として来た天性の女誑しでもあると」


 「前半の賛辞は有難う。とても嬉しいよ。けど、後半は誤解だから。幼少期から僕の周りには、僕が望むと望まざるとに関わらず、何時も頼みもしないのに女性が寄って来るんだ。唯純粋にだけならまだいいよ。でも彼女達は明らかな欲望を持って遣って来る。自分が王妃に、国母になりたい。もっと善い暮らしがしたいっていう具合にね」




 「本当にいい迷惑だよ」そう言った殿下の顔には呆れの色が伺えます。

 屹度、もう既に怒りを通り越しているのでしょう。

 矢張り、醜い貴族は醜いです。

 権力を持っているが故に、貴族は遣ることが平民のそれよりも汚い。

 けれど、確かに善い人もいます。

 



 「そんな人間関係みたいなものに辟易していた僕は嫌になって、とある夜会を飛び出したんだ。其処である女の子に出会ったんだけど、っと、もうこんな時間か。君といると楽しくて時間が早く過ぎて行くように感じるよ」


 「私は殿下といると時間が長く感じます」


 「そ、そうかい」


 「・・・・・何照れてるんですか」


 「い、いや、なんでもないよ。気にしないで」


 「はぁ」




 「じゃあ、またね」と言って殿下は出て行かれました。

 まぁ、私は仕事中は図書館から出ないので絡まれることもないと思われますし、何かあっても此処には人が確実にいますので、何もない・・・・・・・・・・・筈でした。


 何時もなら図書館の本の整理と利用者さん達の案内等で業務は終了するのですが、今日は宰相閣下の元へ本を届けに行くことになったのです。

 なんでも、予約していた本が図書館へ返却されたのですが、此処最近忙しく取りに行く時間がないとのこと。

 なので、私が届けに行くことになったのです。


 こういうことはよくあり、足や身体の不自由な方等がよく利用される図書館の制度で、『魔導式遠距離固定型通信機』と言う通称『魔通信』を使って図書館へ連絡し、図書館普及の本のカタログから選んだ本を頼みます。

 そして、図書館にあれば即日配達します。

 この制度により、本を気軽に読めることにより、利用者が増えたことは図書館司書として、大変喜ばしいことです。 

 

 却説(さて)、私は今王宮にいます。

 理由は勿論、宰相閣下に本を届ける為です。

 「閣下の邸宅へではなくて?」とお思いになられるかと思いますが、本が急遽必要になったとのことで直接お渡しに向かっているのです。

 本来ならば、場所が王宮ということで館長が行く筈だったのですが、館長はギックリ腰の為療養中。

 副館長は出張中により不在。

 三人目に偉い人は恐縮してしまい、使い物にならず。

 なので一番所作が綺麗で、皇太子殿下に臆せずズバズバ言える精神が図太い人物であるらしい私が行くことになったのです。

 なにか解せません。

 

 まぁ、そんなこんなで宰相様がいる執務室へ向かっている最中なのですが、前から何処かの令嬢が歩いて来たのです。

 私は彼女より身分が低いので端へ避け、頭を下げる為に寄ろうとしました。

 そんな私の顔を見るなり令嬢は顔を真っ赤にして、最初の言葉を放ったのです。




 「貴女がわたくしの婚約者であるクラウド様を誑かした女狐ねッ!」




 そんなことを言われましても私は誑かした覚えはありませんし、なによりその皇太子殿下から唯今絶賛誑かされ中なのですが。

 まぁ、そんなこと言えませんが。




 「なんか言いなさいよ!」


 「申し訳ありませんが、私は平民ゆえ無学なので貴女様のことを存じ上げておりません。宜しければお名前をお伺いしても宜しいでしょうか?」


 「ふんッ!あたくしのことを知らないだなんてこれだから平民は。でも、あたくしは優しいので教えて差し上げるわ。あたくしはミーリッツ侯爵家が長女・『アマンダ・ミーリッツ』よ。覚えておきなさい」


 「ご配慮頂き、誠に有難う御座います。ミーリッツ侯爵令嬢様」


 「構わないわ。で、貴女がクラウド様を誑かしたの?」


 「いいえ。それは私では御座いません」


 「ふんッ!嘘を言っても無駄よ。ちゃんと証拠があるんだから!」




 証拠・・・・証拠ですか・・・・・。




 「と、言いますと?」


 「しらばっくれる心算?!全部分かってるんだから!クラウド様が貴女の元へ足繁く通っていることも、クラウド様が貴女に甘い言葉を吐いていることも!貴女がクラウド様を誑かしたんでしょ!!」




 「でなきゃ、クラウド様が貴女みたいな薄汚れた平民風情の元へ通うなんてある筈ないわ!」と喚き散らすミーリッツ侯爵令嬢。

 言いがかりも甚だしいですね。

 だからあまり殿下と関わり合いになりたくなかったんです。

 殿下自身は鬱陶しい以外は無害で、優しい人なのは分かりますが、問題はその周りなのです。

 はぁ。




 「お言葉ですが、ミーリッツ侯爵令嬢様。私は皇太子殿下を誑かした覚えなどありませんし、抑々私にそのようなことをする理由がありません」


 「そんなの幾らだって言えるわ。理由なんて王妃になりたいからでしょ。それに平民のくせに此処にいるなんて・・・・・身の丈も知らないし、愚かにも程があるわ!」




 






 「いえ、愚かなのは貴方ですよ。ミーリッツ侯爵令嬢」




 

 ミーリッツ侯爵令嬢の後ろから歩いて来たのは、宰相のラインハルト・ルーデンバルク閣下。

 



 「指定の時間になっても本が届けられていないので如何したのかと見に来てみれば、何を遣っているのですか。シェリアさん」


 「申し訳御座いません。ミーリッツ侯爵令嬢様が話し掛けて来られて。私は平民ですので無碍にも出来ず・・・・・」


 「こ、これは、ルーデンバルク宰相閣下。ご機嫌麗しゅう御座います。あたくしはこの者が貴族でないのに王宮に出入りしているのが気になり、注意していたのですわ」


 「ほぉう、貴族でない者が王宮に出入り・・・・・ですか。では、あそこにいる兵は殆どが貴族ではない平民ですが、それは一体どう説明されるお心算で?」




 そう言って閣下が指した先にいたのは、城を守っている衛兵。

 衛兵の中には貴族の者もいるが、その大半が平民で構成されている。

 



 「確かに、基本王宮に平民が入ることは出来ません。しかし、此処に用がある者は誰でも入れます。そして此処で仕事をしている平民など、はっきり言って貴族よりも多い。ミーリッツ侯爵令嬢はそんな彼らに対し、全員出て行けと、そういう風におっしゃるのですか?」


 「い、いえ、あたくしは、そんな心算では・・・・ッ!」


 「では、一体どんな心算でそのような民選主義的なことをおっしゃるのですか?この国においてそういう思想は忌避されている筈なのですが・・・・・・。あ、それと彼女、シェリアさんは私が頼んでいた本を届けに来て下さっただけですよ。それに、皇太子殿下を誑かしてなどおりません。寧ろ彼女はされている側だということをお忘れなきように。ああ、それともう一つ」


 「な、何で御座いましょう」


 「――――――――――――――――」


 「・・・・ッ!!」


 「それではシェリアさん、行きましょう。ミーリッツ侯爵令嬢では」




 閣下が侯爵令嬢に何を言ったのか分かりませんが、侯爵令嬢は顔を真っ青にし、その場に立ち尽くしていた。

 私は閣下を追います。

 少し歩くと着いたのは、私が行こうとしていた宰相閣下の執務室。




 「本は其処の机に置いておいて下さい。しかし、先程は災難でしたね。あ、此処には私と貴女だけなので遠慮なく言って下さって結構ですよ」


 「では、お言葉に甘えて。はい、本当に災難でした。妙な言いがかりはつけられるし、罵倒されるしで、散々です。しかし、未だこの国にあのような民選的思考の方がいらっしゃったのが一番の驚きです」


 「それは面目もありません。あの侯爵令嬢は親に甘やかされて育った方で、頭の中が殿下とは違う意味で年中常春なのです。自分の仕出かしたことの重大さを理解されておられません」




 「困ったものです」と苦笑されている閣下に、私はあるものを差し出します。

 



 「閣下、此方を」


 「これは・・・・」


 「少しは利があるやもしれません故、どうぞご活用下さい」


 「なんと・・・・・心遣い痛み入ります。ですが、宜しいのですか?」


 「ええ。私よりも閣下の方が有意義に活用出来ますでしょう?それに、先程助けて頂いたお礼でもあります」


 「・・・・・確かに受け取らせて頂きました」


 「では、失礼致します」


 「あ、一ついいですか?」




 私が出て行こうとした矢先、閣下に呼び止められました。

 



 「何か」


 「いえ、貴女の幸せを願っていますよ」


 「?よく分かりませんが、願って下さっているのなら、殿下の暴走をお止めになってから申して下さいませ。失礼致します」


 


 私は今度こそ、閣下の執務室から帰りました。

 図書館までの帰路では行きのような面倒事に巻き込まれることなく帰れたので、良かったです。



 次の日も殿下は相も変わらず図書館にお出でになり、私の元へやって来られました。




 「シェリー!宰相から聞いたよ?!大丈夫だった?!」


 「図書館内ではお静かになさって下さい、殿下」


 「ご、ごめんね。で、如何なの?」


 「はい。殿下がらみの厄介事から宰相閣下が助けて下さり、宰相閣下のおかげで掠り傷一つなく帰れました」




 殿下の方からなにやら「グサッ、グサッ」という音が聞こえて来ました。

 その殿下は、如何やら結構なダメージを受けているようです。

 自業自得です。




 「・・・・・・・うぅ。そ、そんなに、『殿下がらみの厄介事』と『宰相閣下のおかげ』を強調しなくても・・・・・・」


 「事実ですから。それに」


 「それに?」


 「殿下がしっかりと対処しなかったおかげで、このような事態になっているのです。私や閣下が運良く助けて下さったから良かったものの、他の方や助けがなかった場合、一体如何なさっていたのですか。殿下が要らぬ責任を取らされる処だったのですよ。御身がこの国にとって尊いことをもっと自覚なさって下さい」


 「・・・・・・・」


 「何かおっしゃって下さい」




 私が言いたいことを言い終わると、殿下は私の見つめてポーっとしている。

 その頬は少し赤らんでおり、目も少し潤んでいる。




 「殿下?」


 「・・・・・・・好き」


 「・・・・・・・はい?」


 「好き。シェリーが好き。大好き。愛してる」


 「い、いい一体如何されたのですかッ」


 「嗚呼、やっぱりシェリー、君のことが好きだ。そんなに僕のことを思ってくれているなんて・・・・・もう、好きが溢れて止まらないんだけど!」


 「止めて下さいッ。溢れさせないでッ。それに別に殿下のことを思って言った訳じゃ・・・・ッ」


 


 既に壊れかけている殿下はもっと壊れてしまったようで。

 何を言っても、「好き」、「大好き」、「愛してる」、「嬉しい」、「可愛い」しか言わなくなってしまいました。

 はぁ。





























































































































 ―――――――――――――別の何処か。




 「あの女狐、宰相閣下の前でこのあたくしによくも恥をかかせたわね!覚えておきなさい。クラウド様の眼を覚まさせて差し上げて、絶対に復讐してやるんだけらッ!!」



 

 ・・・・・・・・・・何処かで一人の女が彼女に対して天高く吠えた。

 未だ誰も知らなかった。

 女ですら知らなかった。

 この後に巻き起こることを。

 唯一知っていたのは、――――――――――だけ。





此処までお読み頂き、有難う御座いました。

これからも頑張って投稿して行きますので、宜しくお願い致します。

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