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フェアリーキス大賞3への応募作品です。

この世界には四つの大国と幾つかの小国で成り立っている。

大国の一つは『ヒュードリッヒ帝国』。

二つ目は『ラグレイチ王国』。

三つ目は『イウォーラ王国』。

最後には此処『ラインツ皇国』。


私は『シェリア・ファランド』。

ラインツ国立図書館にて司書をしております。

此処に勤めて未だ一年ですが、毎日様々な人達が此処で本を借りたり、返したり、読んだりしています。

下は平民から、上は官僚の方等、身分もそれぞれです。


却説(さて)、そんな私ですが、今絶賛悩んでいることがあります。

それは........。




「やあ、シェリー。久しぶりだね。元気だった?今日も可愛いね」




こうやって口説かれていること。

別に口説かれるだけなら構いません。

邪魔だなと、愛称で呼ぶの許した覚えないんだけどなぁと思うけど、本当にそれだけなら百歩譲って構いません。

けれどこの人の場合、そうも行きません。

何故ならこの人は・・・・・・。




「昨日も此処でお会いしましたし、元気でなければ仕事していません。それに、そういうお世辞は他の方になさって下さい..................皇太子殿下」




「相変わらずつれないね。でも其処も可愛いけど」と云っている、金色の髪に赤い瞳をしたこのお方は、ラインツ皇国第一皇子であり、皇太子でもある『クラウド・フィア・ラインツ』殿下。

何故私が口説かれる羽目になっているのかと云うと、約半年前に溯る。





私は本の整理をしていました。

返却された本を棚に戻して行くのが仕事なのですが、利用者の中には、読んだ本を元のあった処に戻してくれない人もいる為、戻しながら整頓をして行っています。

そんな時、棚の上の方に間違って入っているものがあったので取ろうとしたのですが、私の身長ではギリギリ届かず。

近くに足場もないので頑張って取ろうとしていた処、横から手が伸びて来て、私が取ろうとしていた本が取られました。

誰だと思って顔を向けると其処にいたのは仕立ての良い服を着た、金髪赤眼の男性。




「これかな、君が取ろうとしていたのは」


「....!そ、そうです!」


「はい」


「あ、有難う御座います!」


「どういたしまして。.......ところで君は此処の司書さんかな?」


「は、はい。そうですが.....」


「じゃあ、———って本、何処にあるかな?」


「———ですね。此方です」




そう云って案内しようとしたら、吃驚したような顔をされました。




「えっと、如何かされましたか?」


「....ッ、ああ、すまないね。()()で調べると思っていたから。君は此処にある本の位置を把握しているのかい?」




司書が館内の図書を探す際は『図書情報』というの魔道具の『索引』を使って探します。

図書データには三つの項目があり、『貸出』、『返却』、『索引』。

効果は名前通りです。

 お伝えし忘れていましたが、この世界には魔法があります。

 属性は、土、火、水、闇、そして光。

 魔道具は魔力を持つものなら誰でも使える道具。




「はい。一々探しているのが面倒臭いというのもあるんですが、探している方に一秒での早く本の元へ案内したくて」


「.......」




「案内しますね」と云って本の処に案内する。

私はどうも、本のことになると記憶力が何故か非常に良くなり、どの本が何処にあり、貸出されているかも判る。


私は男の人を案内して本を渡して、其処で別れた。

それで終わればよかったものの、それだけで収まらなかったので、こんなことになっている訳で。

何故かこの人は次の日から私を口説き、事ある毎にプレゼンをして来るようになった。

その会話の中でこの人がこの国の皇太子殿下と知った時は本当に驚いた。

「そんな人なら婚約者の一人や二人いるのでは?」と聞いたら。




「婚約者はいないよ。皇子は成人する十八から五年の間に自分で相手を決めるんだ。若し決められなかったら、強制婚約だけどね。それに、いたとしたら此処で君を口説いてなんていないよ」




と言われてしまった。

 皇太子は今二十二歳。

 強制婚約は来年。

 自分で決めるの基準が判らないけど。

身分のことを言っても。




「それなら気にしなくていいよ。何処かの貴族に養子に入ればいいだけだし、最悪押し通すから」




止めて欲しい、切実に。

貴族の養子になんてなりたくないし、それ以前に皇子と婚約なんてする心算(つもり)など毛頭ないです。

 面倒なことになるのは確実。

 私はただ此処で、司書をしながら穏やかに暮らしていたいだけです。

 

 ・・・・・・そして今に至ります。


 


 「本当に君は、何時になったら僕の想いに答えてくれるのかなぁ?」


 「答えが欲しいのでしたら他の人の処へ、どうぞ」


 「まぁ、そんな処もとても素敵だよ。硬派な方が落とし甲斐があるし、なにより誠実だ」


 「誠実なのには自信がありますが、殿下は軽は・・・・・周りに蝶が沢山いそうですね」


 「そんなつれないことを言わないでくれ。僕にとっての蝶は君だけだよ。あれらは唯の蛾だ。それに今、軽薄って言わなかっ」


 「言ってません」


 「・・・・・・」


 「言ってません」




 私はそんなこと一言も言ってません(不敬罪になるのは嫌だ)。

 断じて言ってません(絶対に嫌だ)。


 


 「・・・・・そう、ならいいんだけど。君にそんな風に言われたら落ち込むところだったよ」


 「殿下は軽薄ですね(大袈裟です)」


 「・・・・・・・・本音と建前が逆だよ」










 ・・・・・・・・あ。




「・・・・・・出てましたか?」


 「うん。完璧に反対だったね」

 

 「それは失礼致しました」




 ・・・・・遣ってしまった。

 これは不敬罪になるのでしょうか。

 なるでしょうね。

 皇太子に対して「軽薄だ」なんて云ってしまったのですから。




 「君が想像してることはなんとなく分かるけど、気にしなくていいよ。周りに人はいないし、言葉を聞いたのも僕だけ。それに、好きな人から言われたことを不敬だなんだって言わないよ。にしても、謝り方が軽いね」


 「大変申し訳ありませんでした。皇太子殿下の寛大なる配慮に感謝致します」


 「そんなに硬くならなくていいんだよ。僕と君の仲じゃないか」


 「・・・・・失礼ながら、私と殿下の間には上下関係はあれど、それほど親しい間柄ではないかと。それに、軽いと云われたので硬くしてみました」


 「相変わらず酷いねぇ。もう半年経つんだから、そろそろ僕に心を開いてくれてもいいんじゃないかなぁ」


 「そんなことよりも、公務の方は如何されたのですか?また宰相様からお叱りを受けますよ」




 「そんなことって・・・」と苦笑いしているこの皇太子様には前科があります。

 未だ殿下が此処に、と言うか私の元に通い詰め出した頃のこと。

 毎日のように来ては、何時間も居座り続ける殿下に公務は大丈夫なのかと聞きましたが、「気にしなくていいよ」と言われていました。

 すると其処へ来られたのはこの国の宰相である『ラインハルト・ルーデンバルク』閣下。

 「女性の元へ足繁く通うのは結構ですが、公務をほっぽり出さないで下さい。それでも貴方、皇太子ですか(意訳)」と閣下が言い、引き摺られて連れて行かれました。

 それ以来、何時間も居座ることはなくなりましたが、一日の内一時間は必ず来られるようになりました。

 私としては来なくて結構なのですが。




 「大丈夫だよ。ちゃんと今やらなくちゃいけないものは全部終わらしたし、宰相も文句は言えないよ。僕にとって君とこうしている時間は憂鬱な日々の唯一の癒しなんだ。宰相に言われたよ。ちゃんとしてくれたら何も言わないし、それに作業効率が前にも増して良いから、全然構わないって。寧ろ行けとも言われたよ。いっそのこと君とさっさと結婚して子供作れって」




 「応援してくれるみたいだけど、デリカシーないよね」と笑う殿下に、私は眩暈を覚えた。

 宰相閣下、貴方とんでもないことを言ってくれましたね。

 あの堅物宰相なら反対してくれるかもと少し期待していましたが、そんなことよりも世継ぎを優先なんですね。

 分かるからこそ頭が痛い。

 貴族にとってお家繁栄が第一とされ、最も大切にされているのが後継ぎです。

 跡を継ぐ者がいなければ繁栄どころの話ではありません。

 養子を取るのも一つの策ですが、後継ぎ問題により潰れた家など星の数ほどあります。

 王家ともなればなおのこと。

 過去には時期王をめぐり内乱が起こった国もあったほど。

 現王が次期王を決めたとしても、それを良しとしない者は必ずいるもので。

 暗殺なんてこともザラにあります。

 なので、王子は早々に家が釣り合っている令嬢と婚約を結ぶものなのですが、この国は他国とは違います。

 先ほど言ったように、期限付きですが婚約者を選べます。


 四代前の王までは強制婚約だったそうですが、四代前の王が恋愛結婚を推奨したため、このような制度になったそうです。

 なんでも皇太子だった頃に、惚れた令嬢と共に駆け落ちしようとしたとかなんとか。

 皇太子は皆行動派なのでしょうか?

 

 


 「で、僕と婚約してくれない?」


 「・・・・一気に話が飛びましたね。思考回路大丈夫ですか?」


 「うん、まったくもって問題ないよ。けど、僕が許した途端一気に口が悪くなったね」

 

 「それで大丈夫と言えてる時点で大丈夫ではないので頭か心もお医者さんへ行って下さい。口は悪くなっていません。少し正直になっただけです」


 「それは本当に嬉しいよ!少しは僕に心を開いてくれたってことだよね!」


 「いいえ、まったく開いておりません。寧ろ遠ざかっています」


 


 「酷いよぉ」という皇子は残念そうというより、楽しそうだ。

 


 それからも一時間が経つまで殿下は私に色々語り掛けて来ました。

 貴族に対する愚痴だったり、公務で行った処だったり。

 私に対する口説きが一番多かったのですが。

 

 

 一時間が経ち、王子は非常に名残惜しそうな、捨てられた子犬のような顔をしてしぶしぶ公務へ戻られて行きました。

 却説(さて)、早く仕事を終わらして、買ったばかりの新刊を紅茶でも飲みながら読み耽るとしましょう。

読んでいただき、有難う御座いました。

これからも頑張って行きますので、宜しくお願い致します。

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