ⅧーIV
ブックマーク並びに評価をして下さり、本当に有難う御座います。
「あの、勝手に殺さないでくれませんか?」
私の声が会議室に響き渡った。
会議室にいた人達の視線が一気に此方に集まる。
「勝手に入って来て申し訳ありませんでした。私がシェリア・ファランドですが......これは一体?」
「なんで生きてるの?死んだんじゃ......」
「クラウド様はそんなに私のことを殺したいのですか?」
私がそう問うと思いっきり首を横に振る。
「な、何故貴様が生きているだ.....。私の部下が殺した筈ではッ!!」
「その部下って俺達のことかな?公爵サマ」
私の後ろから出て来たのは二人の男。
赤い髪にオレンジの瞳をした結構な美丈夫と青い髪に緑の瞳の赤髪より体格のいい美丈夫。
屋敷で私達の前に立ち塞がった二人だった。
「貴様ら、命令した筈だぞ!正午になったらその女を殺せと!何故未だ生きているのだ!」
「だって、俺達アンタの部下じゃないし。従う理由なくない?目的もとうに果たせてるし。あ、給料はいらないよ。あんな汚い金より綺麗な金で飲む酒の方が美味いから」
「私達の主人は唯一人。サーランド様だけだ」
「そうそう!アンタの所で雇われてやってたのは唯の潜入捜査だし。アンタさぁ、ウチの国で密輸やってるでしょ?アレほんとに困るんだよねぇ。コッチの主犯は押さえられたんだけど、何せアンタは他国の公爵。コッチからじゃ手が出せない。だから此処の国の王様に許可取ってさせて貰ってたんだよ。勿論取引はしたけど、コッチにも利益があったからね。で、いざやって見たら唯の流れ者で自分に従順だと思ってくれたアンタは色んな所に俺らを連れてってくれた」
「おかげで犯罪の証拠を押さえられた。礼を言う」
「こんな奴に礼なんていう必要なんてないよ。レクスは真面目だなぁ」
「お前が不真面目なだけだ、マイル」
叫んでいた公爵?は床に膝を着いてしまった。
その後、公爵?は兵に連行され、マリリア嬢とメイドは一旦屋敷に返された。
そして私とクラウド様とレクスとマイル、陛下が別室でことの次第を話すことになった。
「で、話して下さいますよね?陛下」
「あ、ああ」
潜入捜査のことはクラウド様に全く知らされていなかったらしく、一寸怒っているらしい。
陛下曰く、ある日陛下宛に書簡が送られて来たらしい。
「コッチの国とそっちの国の人が手を取って密輸貿易してるみたいだから、潜入させて?(意訳)」という内容で、簡単に言えば合同捜査しませんか?というものだった。
これに陛下は即OKの手紙を出し、捜査が始まったのはいいのだが何分機密だったのでクラウド様に言うのが遅くなり、言う前にこの事態に陥ってしまったらしい。
「本当にすまんかった。言うのを忘れてた訳では決してないんだ!」
「忘れてたんですね.....」
「(ビクッ!)」
「まぁ、そんなことより、本当に無事でよかった。シェリー」
「クラウド様.......」
嗚呼、やっと帰って来れたんだと思った。
あの暗くて狭い処からやっと.......。
「でもさぁ、何でこんな所にいんの?」
「え?」
マイルの声に反応したのは誰だったのだろうか?
私は口を真一文字に結んでスンっと真顔になった。
「なんのことだい?」
「え、だって.....」
「シェリーちゃんは此処かしら!?」
マイルの声を遮り、声を上げて入って来たのは一人の女性。
しかしその顔は見知った顔だった。
「アイリーナ様?」
其処にいたのはルルシアーナ氏の刺繍本をお借りになったアイリーナ様だった。
アイリーナ様は私を見るやいなや早足で此方に向かって来て、私を抱き締めた。
「嗚呼、本当によかったわ!何処も怪我してない?気分は?大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
アイリーナ様は私にペタペタ触り、怪我がないことを確認すると泣きそうなというか既に泣いていたのだけど、再び抱き締めて来た。
「そう言えば、毒で体が動かないって聞いたけど.....」
「それなら私が持っている解毒剤で解毒済みです。何せあの薬は私が調合したものですから」
そう、私は動けなかったのだけどレクスに解毒してもらったので動けている。
「人体を動けなくするためだけのものなので後遺症は勿論、その後も何不自由ありませんよ」と続ける。
それを聞いたアイリーナ様は顔を青くし再度大丈夫かと聞いてきたが、大丈夫なことを伝え、なんとか落ち着いてもらった。
「あの、それより何故此処にアイリーナ様が?」
「え、シェリー知らなかったのかい?」
「何をですか?」
「はぁ....母上」
「うふふふふ」
母上?
クラウド様の?
お母様?
ってことは.....?
「お妃様?」
「大正解!」
「でも姓が.....旧姓ですか」
アイリーナ様はニッコリと微笑む。
こんなの聞いてない。
確かに何処かの奥様かなとは思っていた。
でも、一国の国母だったなんて......。
「お忍びみたいで楽しかったわ」とのほほんと言っているが、みたいじゃなくて、実際そうだと思う。
「で、正式に婚約は何時するの?」
「母上、話が飛び過ぎです。それにシェリーは平民。先ずは王家に見合うだけの家柄に養子として受け入れてもらうのがさきで....」
「一寸待った!え、婚約ってなんのこと?全く聞いてないんだけど!ちょ、説明してよ、シェリアライナ様!」
あーあ、言っちゃった.....。
「シェリア...ライナ......様?」
「あら、クラウド。貴方まさかこの子が誰なのか知らなかったの?この子は平民ではなくて......イウォーラ王国の第一王女、『シェリアライナ・ミア・イウォーライナ』姫よ?」
あーあ、バレちゃった。
クラウド様は驚き、固まってしまった。
それもそう、誰も平民が一国の王女だなんて分かる訳がない。
仕方がない。
「申し遅れました。わたくしはイウォーラ王国第一王女、シェリアライナ・ミア・イウォーライナです」
カーテシーをしてお辞儀をする。
「じゃあ、彼らの主人のサーランドって」
「はい。私の実兄、『サーランド・レオ・イウォーライナ』です」
「やっぱりか......。サーランドのことはよく知ってるよ。この国に留学しに来たこともあったし、というか、妹がいるのは知ってたけど、彼奴会わせてくれなくて......。可愛い可愛いしか言わないから容姿も分からないし.....。でも、『ファランド』って」
「それは母の旧姓です」
「でも、イウォーラ王国の王族の方達は皆琥珀の瞳だって有名の筈よ?」
その通り。
イウォーラの王族はそのほとんどが金の髪に琥珀の瞳なのだ。
「僕にしてみれば正直、琥珀も黄色も変わらないっていうか....。サーランドに言ったら笑われたけど」
うん、ライド兄さんなら笑うと思う。
あの人はそういう人だから。
「それにシェリーは金髪じゃなかったから」
「あ、それは隔世遺伝です。私の祖母が茶髪で......。だから分かり難いですが金交じりの茶髪ですね」
「僕に色彩能力を求めないでくれないかな?」
「そういえば貴方、美術の先生すら匙を投げた程の画伯でしたものね」
「あれは酷かったなぁ」
「煩いですよ......」
「そんなことはいいですから、早く説明して下さいよ!」
あ、マルクのこと忘れていた。
私は二人に何故こんなことになっているのかを伝える。
図書館に勤めていてクラウド様と出会い、求婚され、断っていたけど絆されたことや今の自分の想い。
両親にはきちんと報告する心算であることも。
「それならいいですけど、きちんと報告して下さいよね。コッチだってそれ相応の準備ってものがあるんですから」
「それは分かってますよ」
「準備って?」
「ライド兄さんのです」
「ああ〜」
私が婚約するとなったらライド兄さんが黙ってはいない。
私が家を出る時だってどれだけ苦労したことか.....。
二人はライド兄さんの直属の部下だから被害が一番行く。
その後、報告を終えた私達は解散し、私は置いて来てしまったリーラをクラウド様から受け取った。
聞くと、実はリーラは聖獣フェンリルの幼獣だったらしい。
本で聖獣の姿は見たことがあったけれど、幼獣は見たことがなかったので分からなかった。
私は早速手紙で両親に好きな人が出来たので婚約をしたい旨と相手がラインツ皇国の皇太子である旨を伝えた。
返事には今直ぐ詳しい事情を聴きたいから帰って来て欲しいと書かれていた為、一時帰国した。
クラウド様と私とリーラとでの帰国となった。
レクスとマルクは一足先に帰国していたためだ。
帰国し、両親と再会を済ませた私は詳しく話した。
結果、勿論許可を得ることが出来た。
しかし此処からが問題だった。
本来なら他国へ視察へ行っている筈のライド兄さんが何処から話を聞き付けて来たのか戻って来てしまったからだ。
ライド兄さんは錯乱状態で、真面に話が出来る状態ではなく、後日改めて話をすることにした。
それにしても何時もなら非力なのに、レクスにマルクにマリアまでがライド兄さんを抑えていたのにそれでもそれを引き摺ってまで来たのだ。
一体何処にそんな力があったというのだろうか。
王宮から出て馬車に乗ろうとしている時ですらライド兄さんが喚く声が聞こえて来て、思わず笑ってしまった。
クラウド様は苦虫を噛み潰したように笑っていたけど。
それからも色々あったのだけど、今日、私はこの晴れた日にクラウド様と結婚する。
此処までお読み頂き、本当に有難う御座いました。
これからも頑張って投稿して行きますの、で宜しく。お願いたします。