ⅧーⅠ
ブックマーク並びに評価をして下さり、本当に有難う御座います。
誤字報告があり、直させて頂きました。
ご報告下さり、本当に有難う御座います。
誤字脱字や内容の矛盾がないようにして行きますが、若しもの時はどうぞ宜しくお願い致します。
クラウド様に想いを伝えて、倒れられてから数日経った。
あの後、倒れたクラウド様は医師に「疲れから来る過労ですね。二三日休めば大丈夫ですよ」と診断され、三日間はベッドの住人となったらしい。
私の呪いは魔導師長様によりきちんと解呪され、立て続けに来るありえない不幸はなくなった。
アマンダ嬢は侯爵令嬢という地位を剥奪されることは免れたものの侯爵家からは実質的に勘当。
遠方の国のとある貴族の後妻として嫁ぐことが決まった。
アマンダ嬢の父であるミーリッツ侯爵はアマンダ嬢に対する「然るべき処罰」を望んだ為、この件の責任を問われはしなかったが、当主を引退。
次の当主は侯爵の妹君の子供が継ぐこととなった。
侯爵には男の子供がおらずアマンダ嬢の夫となる者が次期当主にしようとしていたらしく、この一件により他国の侯爵家に嫁いだ妹君の次男を次の当主とすることになったのだ。
私には穏やかな日々が戻って来た。
本と向き合うだけの日々が。
最初の頃ならこんなにも素晴らしいことはなかっただろう。
シスコンの兄もあーだこーだ言う周りもいない。
両親にあれこれ言われる必要もない。
素晴らしい、本当に素晴らしい日々。
しかし、何時の間にか私の中に入り込んで来た存在。
クラウド・フィア・ラインツ。
この国の皇太子殿下。
平民である私とは身分も何もかもが違う人。
初めて出会って、口説かれて、それが鬱陶しかった筈なのに今ではすっかり絆されて。
恋とは本当によく分からない。
幾ら本を読んでも対処法が書いてある訳もなく。
恋愛小説を読んでも、自分が読む分には楽しめるが、状況が全く違う為参考になんてならなくて。
「如何したらいいんだろう?ねぇ、リーラ。って言っても分かる訳ないよね.....」
あれからクラウド様には一度もお会いしていない。
何時もなら図書館に押しかけて来るのに、一度も来ていない。
偶に来られる宰相閣下は「今少し忙しいんですよ」と聞いてもいないのに言って来るので、有難いのは有難いけど、小恥ずかしい。
毎日の日課のリーラの散歩はそんなモヤモヤした日だろうと遣らなければならない。
散歩を怠ると犬のストレスや運動不足に繋がり、健康に悪い。
リーラにリードの付いた犬用のハーネスを着け、糞を持って帰る為の袋とスコップを持って、散歩に出かける。
王都には犬用のドッグランもあり、其処で遊んで、買い物をして帰るのが何時もの散歩コース。
買い物をしなくていい日は少しのんびりとしながら家路に着く。
今日も買い物をしなくていい日だった。
食材や消耗品はあるので、ゆっくり出来る。
「?如何かしたの?」
リーラが急に立ち止まった。
ドッグランからの帰りで、帰る前にはきちんと水分補給をしており、ドッグランからは差ほど離れていないので疲れたとかはない筈なのだが。
と思っていたら、リーラは「ヴゥゥゥ」唸り始めた。
「....リーラ?」
「ワンワンワン!!」と吠える始末。
何が何だか分からない。
リーラが吠え始めた理由も、何に吠えているのかも。
私はリーラが一体何に吠えているのかが分からない。
この時間帯の此処は周りに人がいない。
買い物をする時の道とは違うから。
混乱する中、私はいきなり後から口を塞がれ、意識が遠のき、視界が闇に包まれた。
唯、リーラが吠える声だけが聞こえていた......。
ーーーーNo sideーーーー
同時刻、王宮のとある執務室。
其処には大量の書類に埋もれている一人の男がいた。
名前をクラウド・フィア・ラインツ。
此処ラインツ皇国の第一皇子にして次期国王の皇太子。
もうすぐ二十三歳となる現在二十二歳成人男性。
二十三歳に強制婚約をさせられる前になんとか自力で愛する人を見つけ出し、この度目出度く両思いであると分かった現在幸せ絶頂期であるこの男はとてつもなく暗かった。
それもその筈。
男が愛するシェリア・ファランドに会えていないのである。
『シェリア呪われ事件』の後、三日間の療養を終え、待っていたのは愛する人。
ではなく、大量の書類。
幾ら仕方がなかったとはいえ、皇太子でないと出来ない仕事が山積み状態だったのだ。
シェリアに会いに行けない程に。
有能であるクラウドであっても捌いても捌いても減らない書類。
おかげでストレスは溜まり、イライラしていた。
皇太子としてのあの爽やかな笑顔はとうに消え、あるのは何処ぞのヤのつく自営業のような眼光に、表情が消えた顔。
まるで別人だった。
「失礼します。殿下、次の書類です」
「.........チッ」
「舌打ちをなさらないで下さい。.....気持ちは分からないでもないですが」
「ねぇ、ラインハルト。なんなの?この国の貴族共は揃いも揃って暇なのか?下らない自分の利益にしかならない法案ばかり持って来やがって。それさえなければこの山は半分なんだよクソが。オマケに自分の娘を妃に望むご機嫌伺いの手紙ばっかり寄越しやがって。巫山戯んじゃねぇ」
「言葉が乱れていますよ。シェリアさんが見たら百年の恋も冷めてしまいます」
「シェリーの前でこんなことしない。彼女は僕の癒しそのものだからね。ってそれより!やっぱりあれってそういう意味だよね!?あの時は感動し過ぎて倒れちゃって、ちゃんと確認出来てないけど、シェリーも僕のことを好きってことでいいんだよね!?」
「それはシェリアさん自身に確認して下さい。この書類を片したら言っていいですから」
「え、ホントに!?遣る、遣ります!」
そう言うとクラウドは速攻で書類を片して行く。
何時もそうだといいのにと宰相が思っていると、何やら扉の外が騒がしい。
何事かと思い、扉を開けると其処に丁度走っている兵がいた。
「何事ですか」
「あ、宰相閣下。それが王宮に犬が入り込んで来まして」
「犬が?」
「はい...。何でも真っ白で紫色の瞳を持った、額に模様のあるリードの付いたハーネスを着けている犬で、何処から迷い込んだのか王宮内を走り回っているようで」
騒ぎがさっきよりも大きくというよりは此方へ近づいているようで、「そっちに行ったぞ!」、「コラ待て!」という声がよく聞こえる。
報告した兵も其方へ行った。
「さっきから何なの?騒がしいけど」
クラウドにも騒ぎが聞こえたようで、執務室から出て来た。
「王宮内に犬が迷い込んだようです」
「犬?」
「ええ。リードの付いたハーネスを着けていらようなので、おそらく散歩中に何らかの形で逃げ出したのかと」
「ふーん」
クラウドと宰相は執務室に戻ろうとした時、此方へ白いものが遣って来るのが見えた。
騒ぎの中心となっている犬で、走って来たかと思えばそのままクラウドに飛びかかり、押し倒してしまった。
「いてて」と倒された衝撃で頭を打ったクラウドが目を開けると眼の前には犬の顔。
真っ白で紫色の瞳を持った額に模様のある犬。
大きさは中型犬ぐらい。
犬は自分の額をクラウドの額に押し当てた。
すると次の瞬間、クラウドの脳にある映像が流れ込んで来た。
暗くて冷たい場所。
自分一人だけで伏せている。
屹度路地裏なのだろう。
『此処ね.....』
声が聞こえる。
とても優しい、聞いたことのある声。
『............何これ』
何故か自分のことだと分かった。
『却説、如何しましょうか.....』
そう言った声の主は自分を抱き上げた。
とても心地が良かった。
腕の中だろうか。
とても、温かい。
映像が変わり、場所はお風呂場だろう。
声の主が自分を洗ってくれている。
『で、拾って来てしまいました......』
主はそう言うものの、洗ってくれる手付きはとても優しくて気持ちいい。
洗い終わり、また映像が変わった。
声の主は名前を付けてくれた。
紫の瞳と同じ名前。
『お前の名前は今日から『リーラ』だよ』
その時、声の主の顔がはっきりと見えた。
シェリアだった。
また映像が変わった。
何故か今日のことだと分かる。
今日は散歩をしていた。
分からないけど、買い物をしない時の散歩コースだと分かった。
ドッグランで遊んだ後、休憩してから家に帰る途中だった。
不気味な気配が自分達の周りを囲んだ。
リーラは唸り、吠えた。
何かがいる。
シェリアに、自分の主に危害を加えんとする者達の気配だ。
シェリアは困惑しているようだった。
そうこうしている内に、シェリアが何者かに気絶させられ拐われた。
誰かは分からない。
でも、主に危害を加えられたことだけは分かった。
リーラはそいつらに立ち向かった。
けど、犬のリーラには適うだけの力がなかった。
自分の目の前でシェリアが、主が拐われ、兎に角何とかしなくてはという思いが強かった。
でも、誰を頼ったらいいのかが分からなかった。
リーラには人間は怖いものということが根底にあった為、下手な人には頼れなかった。
そんな時、リーラはふと思い出した。
拾われた時には既にシェリアに着いていた匂いを。
シェリアを守るかのように纏わり着いていた匂い。
リーラには何故かこの匂いの持ち主ならばという思いがあった。
探した。
あの匂いの持ち主を。
主を助けてくれるかもしれないその匂いの持ち主を。
そして見つけた。
其処は王城で、何人もの人間が自分を捕まえようとしたが、そんなことに付き合っている暇はリーラにはなかった。
追っ手を交わし続け、匂いを辿る。
やっと見つけた。
リーラは飛び付いた。
「あ、やっと起きましたか」
クラウドが眼を覚ますと其処は執務室で、自分はカウチの上で寝かされていた。
カウチの傍には白い犬がいて、伏せている。
寝ていた時に見た映像が本当ならば、シェリアは拐われたことになる。
「ラインハルト」
「何ですか?」
「シェリーが拐われた」
「そうですかシェリアさんがって、何を言っているんですか?」
「この子が、リーラが教えてくれた」
クラウドがリーラを撫でる。
「寝ている間に夢を見たんだ。リーラがシェリーの飼い犬で、今日散歩中に何者かにシェリーが拐われたと」
「それはおそらく『夢見』ですね。精霊や聖獣が人に何かを伝える時に見せるものと言われています。その模様を何処かで見たことがあると思っていたんですけど、思い出しました。その子は唯の犬ではありません。聖獣フェンリルの幼獣です。昔に一度見たことがありますが、フェンリルの幼獣は毛が白く、額に模様を持っているんです。成獣となると模様が変わり、文献にあるような模様になるので、シェリアさんも気付かなかったんでしょうね。それに名前付けされているところを見ると、シェリアさんが契約者のようですね」
「でも、拐った者に対抗しようとしていたが、返り討ちにあってたよ?」
「幼獣の時は成獣のように力も強くなく、魔法も使えませんからねぇ」
クラウドはリーラは自分にかけてくれたのだと分かった。
リーラの主であるシェリアを助けてくれる者だと信じて。
「ラインハルト」
「分かっていますよ。シェリアさんを誘拐した者に関しては殿下の記憶だけが頼りです」
「ああ。誘拐したのは..........叔父上だ」
「........サルードワイズ公爵ですか」
サルードワイズ公爵はクラウドの叔父にあたる人物だ。
王位継承権争いでクラウドの父、現国王陛下に負け、サルードワイズ公爵家に婿入りした元王族。
自己肯定感が強く目下の者には差別的な為、前国王の決定により、クラウドの父が国王となり弟であるサルードワイズ公爵は婿入りという形で納まったかのように見えたが、サルードワイズ公爵は未だに王の椅子に固執している。
クラウドが幼少の頃は何度も暗殺されかけ、暗殺者を仕向けたのはサルードワイズ公爵ではないかと言われている。
しかし決定的な証拠がない。
クラウドが王としての才覚を顕にし始めると、暗殺はなくなり、その代わり自分の娘を妃にと何度も打診されている。
ラインツ皇国では従兄妹姉弟同士の婚姻は認められておらずありえないのだが、何度も法律改正を求められており、両陛下共々頭を悩ませる種の一つでもあった。
血が近しいと欠陥を持った子供が生まれて来ることは医学的にも立証されている為、ラインツ皇国では婚姻を認められてはいないのだ。
だからこそ、婚約者筆頭にアマンダ嬢の名前が上がっていたのだが、そのアマンダ嬢は他国に嫁ぐ予定。
しかも平民であるシェリアが婚約者筆頭となった。
二人とも両想いな上、両陛下も乗り気。
シェリアは正式な書面こそないが実質的なクラウドの婚約者となった。
それに対し一番困るのは何とか自分の娘を皇太子妃、行く行くは王妃にしたいサルードワイズ公爵。
他にも困る家はあるのだが、確実な証拠があった。
「シェリーを連れ去った男達には見覚えがあった。サルードワイズ公爵に付き添っている従者がいた」
リーラが対抗した時に被っていたローブのフードが脱げ、顔が見えたのだ。
その顔は紛れもなく、サルードワイズ公爵の従者の一人だった。
クラウドは『影』を使い、シェリアが何処に連れ去られたのか。
そしてサルードワイズ公爵が遣ったという証拠を見つけ出すように命じた。
皇太子であるクラウドや宰相であるラインハルトは動けない。
契約しているリーラならば見つけ出せると思うが、その前に確実な証拠を見つけ出さないことには逃げられるのがオチだ。
クラウドはリーラやラインハルトと共に待つしかなかった。
此処まで読んで下さり、本当に有難う御座いました。
これからも頑張って投稿して行きますので、宜しくお願い致します。