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ⅦーⅡ

投稿遅れて申し訳御座いません。


ブックマーク並びに評価をして下さり、本当に有難う御座います。


――――― No,side ―――――




 その日、王宮のとある部屋に一人の女が呼び出された。

 その女は意気揚々とまるでスキップを踏み、鼻歌を口遊(くちずさ)みそうな程気分が良かった。

 三日前、急に王宮からそれも皇太子直々に女宛に手紙が届いた。

 内容は「話したいことがあるので、急ですまないが王宮へ来てくれないか?」とのことだった。

 何か少し何時もと父の雰囲気が違ったように思った女だが、それよりも嬉しさが勝り、直ぐに忘れてしまったようだった。

 女は案内人の兵により、皇太子のいる部屋へと案内される。

 女には妙な確信があった。

 自分が皇太子妃に選ばれたのだと。

 あの女狐に騙された振りをして自分の皇太子への愛を試しているのだと。

 絶対にそう思っていた。




 「此方で御座います」




 女が案内されて遣って来たのは一つの大きな扉の前。

 王宮にある応接室の一つだった。

 普通の部屋ではなく、応接室に案内されたことで女の確信は深くなった。

 王宮に客人が来た時に対応する部屋は二つある。

 一つは応接室。

 もう一つは客間。

 身分や内容によって使用用途が異なり、女の身分と内容によっても応接室が使われるのは確かだ。

 話の内容から察するに、応接室を使うのも当然だと。

 

 扉が開かれ、其処には皇太子と宰相がいた。

 皇太子はソファーに座り、宰相は傍に立っていた。




 「よく来てくれたね。どうぞ、座って」




 皇太子に促され女は皇太子の向かいに座る。

 女は顔に出さないように微笑んでいたが、その眼からは優越感が滲み出ている。

 女は確信していた。

 これから殿下は自分に婚約者になってくれるように仰るのだと。

 





































































 「君が、シェリーに『試しの刻印』否、『呪いの刻印』と言った方が分かり易いかな。兎に角、刻印を、呪いをかけたんだよね。・・・・・・・・・・・・・・・・アマンダ・ミーリッツ侯爵令嬢」




 女、基アマンダ嬢は驚きを隠せなかった。

 そのことは誰にもバレてはいない筈だったのだから。

 材料の調達も誰にもバレないようなルートを選び、運ばせたのだ。

 知っているものは私に忠実な者だし、バレる筈がと、女は思っていた。




「その顔は、何でバレたのかと困惑しているね。まぁ、結論としては僕の部下達が非常に優秀で、君は裏切られたからだよ」




「勿論、密告者は秘密だけど」と、皇太子は優しく微笑んだ。













――――― side,シェリー ―――――



不幸は留まることを知らず、悪化して行った。

ひったくりに会ったり、万引きと間違えられたり、挙句の果てには馬車に轢かれそうにもなった。

殿下に殿下関係で面倒な人物を探って貰っているものの、その数は結構多く、難航しているようだ。

魔導師長様に「術をかけた者の追跡は出来ないんですか?」と聞いてみたが、「物を媒介にしているから、出来ないねぇ」と言われてしまった。

はっきり言って私にはそんな時間も惜しい。

呪いは段々と強くなって行っているし、痣も広がって来ている。

唯人の私は三週間を過ぎる前に確実に死ぬ。

何処かの国のチート魔法使いじゃないのだから。




「で、捜査の方は何か進展でもあったのですか?」


「儀式に必要なものを購入している家があるか面倒な人達中心に探して行ったんだ。そしたら三人の令嬢が該当した」




そう云って殿下から渡された三つの冊子には三人の令嬢のことについての調査結果が書かれていた。


一人目はキャロルト伯爵家令嬢『レミーア・キャロルト』。

二人目はミッツ伯爵令嬢『ヴィアン・G・ミッツ』。

そして三人目は.....。




「アマンダ・ミーリッツ侯爵令嬢......」




殿下が頷いた。

ミーリッツ侯爵令嬢はこの間私に難くs.....おかしな敵対心を向けて来られた方で、良く覚えている。

薄々そんな気はしていたけれど、真逆此処で出て来るとは。




「この三人が痣が現れるまでの一ヶ月間の間で呪いの材料である『サイレイの実のエキス5g』、『リーリフの葉二枚』、『マンドラゴラの蜜10㎖』に値する量を買っていた唯一の者達です。普通の令嬢ならばこのような物は必要ないかと」


「ラインハルトの言う通り、普通の令嬢ならばこんな物必要ないよね。普通なら」




それもその筈。

『サイレイの実』は赤い小さな実で、小さい割のタンパク質が豊富。

北の寒い地域に多く分布している。

しかし、その実は生で食べると酷い苦味があり、調理しても中々苦味が抜けない為、現地の人も食べはしない。

けど、動物には好まれるらしく、何せタンパク質が豊富なので家畜の餌として重宝されている。

その上、実のエキスは気付けや風邪予防に強い効果もあるらしく、実からエキスを抽出し、苦味成分を極限まで抑えた物を一滴程ジュースや飲み物に垂らして使うらしい。

基本売ってある物もこの加工した液体で、実自体を求める者は精々家畜農家の人ぐらい。

現地の人は自分達の家に伝わる製法で作って保存しておくようだが、態々令嬢がする必要性はない。


次に『リーリフの葉』だが、これも令嬢が好んで買うものではない。

『リーリフ』と言う木になるこの葉は湿布薬として有名で、主に打ち身や腰痛や肩こり、捻挫や寝違えた時等に重宝される。

使い方は至って簡単で、葉を擂鉢でよくすり、すったものを清潔な布につけて痛い処に貼るだけ。

買うとすれば薬剤師ぐらいで、余っ程薬や薬草に興味のない令嬢でなければ普通は買わない。


最後に『マンドラゴラの花の蜜10㎖』だが、抑々買う者自体が珍しい。

『マンドラゴラ』はその花よりも根っこの方が重宝されており、健康志向派の人達が(こぞ)って買う品だ。

『マンドラゴラ』は長寿の妙薬として有名で、見た目は人のようで醜いが、その効果は絶大。

『マンドラゴラ』を食べ続けて貧血が治った、頭痛が治ったなんてものはよく聞く話。

薬学会でも広く研究がされている代物だけど、育て方が特殊な上、育成期間が長く、育ち難いのが特徴。

花も中々咲かないので、一時期その花が咲くのを見た者は幸せになれると言われた程。

花の蜜の方には特に目立った特徴はなく、効果としては一寸した毒ならば解毒出来る程度。

それも種類が限られている。

花は紫の花だが、観賞用と言うには些か弱い。

しかも根っこはあの醜さ。

令嬢が好んで育てるようなものでは何のは確か。

 



 「いや~、こんな偶然って存在するんだねぇ。真逆の三人。一人に絞れると思ったら同じ物を買っている人物がもう二人いるなんて。なんなの?最近の令嬢ってこんな普段滅多に使わないような物を買うの?三人共学院は卒業しているから家庭教師の授業でって訳でもないし、抑々そんなことするなんて聞いたことないし、っていうか僕男だから知らないけど。原料から自家精製するのが流行ってるの?それともシェリーにしたみたいに相手を呪うのが流行ってるの?最近の令嬢コワッ」


 「流石に其処までではないかと・・・・・・言い切れない処があるのが・・・・・」


 「この国の令嬢は物騒なんですね」


 「「ははは・・・・・・・・はぁ」」




 此処まで皇太子殿下と宰相閣下を悩ませられるとはこの国の令嬢は凄い。

 一周回って尊敬する。




 「にしても如何しましょうか。一応相手は貴族ですので下手を打てませんし、逆に此方が遣られます」


 「其処なんだよなぁ。はは、如何しよう」


 


 矢張り皇太子殿下でも貴族相手は慎重に動かざるを得ないらしい。

 心底面倒臭い。




 「仕方ないけど、『影』を使おう」

 

 「『影』ですか・・・・・」


 「あの・・・・その『影』というのは」


 「『影』とは王または皇太子のみが使える直属部隊のことです。王は王の『影』を、殿下は殿下の『影』をお持ちで、主に諜報部隊となっているのです」


 


 「このことは一部にしか知られてはいませんので、ご内密に」と閣下が言ったが、それは私に言ってもよかったのだろうか?

 ・・・・・・屹度信頼してくれていると信じていいのか?

 なんか、これ以上考えるのが怖くなった私は考えることを放棄した。














殿下はすぐさま『影』を使い情報を集めさせたようで、情報が集まった。

 その結果、呪いを発動したと思われる人物が分かった。

 分かったのだが・・・・・・・。




 「・・・・・・・・」


 「・・・・・・・・」


 「・・・・・・・・」




 殿下の執務室は静寂に包まれており、三人の誰一人として口を開こうとしない。

 まぁ、当たり前だ。

 その理由は・・・・・・・。




 「・・・・・・なんで一人にならないの?」




 術を使用したと思られる者は()()

 一人は言わずもがなアマンダ・ミーリッツ侯爵令嬢。

 そしてもう一人。




 「レミーア・キャロルト伯爵令嬢・・・・・ですか・・・・」




 報告書によると、アマンダ嬢とレミーア嬢の自室には明らかに何かを実験したような確実に何かを行った痕跡があったそうだ。

人毛と思われる毛も残されており、私の物かは分からないが色は同じ茶色だそうで、何かをしたのは確かだろうとのことだった。

 因みにもう一人の令嬢に関しては白だったらしい。

 なんでもサイレイの実は飼っている小鳥の餌として、リーリフの葉は一般的ではないが魚の臭みを取る為にも利用されることがある。

 ヴィアン嬢は令嬢にしては珍しく料理が趣味で、専用の調理場を持つ程の料理好き。

 一般的な臭みを取るハーブよりも香りが好みのようで、よく使うらしい。

 マンドラゴラの花については、唯料理のアクセントに欲しかったらしい。

 確かに飾るには寂しいが、そういうのなら映えるだろう。

 そういえば昔に読んだ本には、マンドラゴラの花に毒はないので花だけを採る為にマンドラゴラを栽培する地域もあるらしい。

 マンドラゴラは根っこは食べるに至るまでに育てるのがとても難しいが、花だけならば普通に草花を育てるのと同じように遣ればいいようで、花から蜜を採って食中毒予防にする処もあるらしい。

 




 「一人は完璧に白。残りの二人は限りなく黒に近いグレー・・・・ねぇ」


 「一体何方(どちら)が・・・・・・」




 二人とも言いはしないが、アマンダ嬢が犯人だと思っているようだ。

 彼女には前科があるし、何より私を憎んでいる。

 完全な逆恨みなのだけれど・・・・・・。




 「・・・・・・・・あれ?この人・・・」


 「?如何かしたの?」


 「いえ、あの・・・・」


 「?」


 「何かあるなら言ってみて?」


 「えっと・・・・この人、来ました」


 「「え?」」




私がそう言ってお二人に見せた報告書の人物は、レミーア嬢。

彼女は痣が現れた数日前にある本を借りていて、手続きをしたのが私なので、その名前は何となく覚えていたのだ。

勿論本の名前はしっかりと思えている。




「レミーア嬢は痣が現れる前に『薬学全集』と『作って分かる薬の調合』と『薬草の効果と使用用途〜薬師の先生が教えます!〜』そして『薬師試験問題集』の全四冊を借りておられます」


「.......本当にいたんだ.....薬師志望の令嬢って ....」


「その様ですね.....」
















「っていうことがあったのさ」と、殿下はそう締め括った。

アマンダ嬢の顔は蒼白になって行き、体は震えている。

そんなになるならば最初からしなければいいものを。




「因みにこのことは事前にアマンダ嬢のお父上であるミーリッツ侯爵殿にお知らせしてあります。この前の民選的な発言も全てです。侯爵殿は最初こそは貴女を庇っておいででしたが、貴女が犯した罪の数々を書面に纏め、お渡ししました。最後まで読まれると、「然るべき処罰を与えて欲しい」と仰られ、貴女の処遇は殿下がお決めになることとなりました。勿論、両陛下には既に了承を得ておりますので、無駄な抵抗はなさらない方が宜しいかと」




アマンダ嬢はもう、自分に逃げ場がないと分かったようだった。

先手先手を打たれ、自分の親にまで事が知られ、味方など誰一人としていない。

自分に忠実だと思っていた者達も信用出来ない。

後悔してももう遅いのだ。




「ふッ...ふふふッ....あはははははははッ!!」




アマンダ嬢は狂ったように笑い出した。

私達はその様子に咄嗟に身構える。




「あたくしが罪人?あたくしに罰を与える?あははははッ!そんなのおかしいわ!あたくしは悪くなどないんですもの!悪いのは其処にいる女、あたくしのクラウド様を奪ったその女狐が悪いんですのッ!あたくしはなぁんにも悪いことなどしてはいなくてよ。全てはあたくしとクラウド様との幸せの為ですわ!恋に障害は付き物と申しますけれど、そのような障害など排除すればいいだけですわ。そうよ。あたくしは唯排除しようとしただけ。其処の売女を排除し、クラウド様との幸せを手にしようとしただけですわ!幸せになろうとして何がいけないの!?あたくしはクラウド様を心から愛しているわ。あたくしにはクラウド様だけ。なのに其処の女はなんの努力もせずにクラウド様に愛され、あんなにも甘い言葉を囁かれているだなんて.....ッ!巫山戯るもの大概に」




「大概にするのは貴女です。アマンダ嬢」




声を発したのは私。

三人の視線が私に集まる。




「恋の為なら、幸せの為なら、愛の為なら何をしても許されると?例え人を殺めようが許されると?巫山戯るのも大概にしろとは此方の台詞です。失礼を承知で申し上げますが、その中に殿下のお気持ちなど一切入っていない以前に、アマンダ嬢は大変お(つむ)が弱....いえ、莫迦でいらっしゃいますね」


「!?平民風情が、このあたくしを愚弄する気!?」


「愚弄も何も真実ですので。と言うか、そのようなことは如何でも良いのです。貴女が大変愚かで、莫迦で、阿呆で、考えなしの兵六玉。その上これ程までに間抜けとは」


「はぁ!?」


「当たり前でしょう。もう一度、皇太子や王族の婚姻制度を見直してみては?」


「まぁ、そのような時間はもうないので私から説明させて頂きます」




そう言ったのは宰相閣下。

移動式黒板を持って来させ、其処に書き込んで行く。




「いいですか?この国の王族の婚姻制度という物は、基本恋愛制となっています。過去にとんでもない事件があったことが背景となっていますが、それは割愛させて頂きますね。......却説(さて)、王族は王子も王女も例外なく十八~二十三の誕生日が来るまでは自分の相手を自由に決めることが出来ます。しかし、二十三を過ぎても相手がいない場合は強制婚約となります。此処までは宜しいですね?」




三人共が頷く。




「強制婚約をする場合、きちんと条件が設けられています。幾つか条件があるのですが、その中の一つに『二十三までに婚約者がおらず、一方の片想いで両想いでない場合』があるのです」


「え!?そんなの聞いてないよ!?」




殿下。

貴方当事者でしょうが。

なんで知らないんですか?

驚いているのは、殿下とアマンダ嬢。

私と宰相閣下は知らなかった殿下に呆れていた。




「殿下は後で私と一緒にお勉強致しましょう。話を続けますと、アマンダ嬢。貴女はしなくても良い妨害をしてしまったということです。あのまま妨害などせずに大人しくしていれば一番皇太子妃に近い存在となれていたのです」




「婚約者となる者の身辺調査が行われるので、今回のことがなくても如何なるかは分からなかったと思いますが」という宰相閣下の言葉は事実を知り意気消沈し、抜け殻のような状態と化しているアマンダ嬢には聞こえていないのだろう。

本当に残念な人だ。

ちゃんと本を読んでいればこのようなことにならなかったものを。




「本当にあのままにしておけば良かったんですよ。そうすれば貴女は必然的に皇太子妃に一番近い位置に。そして、私の気持ちにも気付かせることはなかったのですから」


「え?」


「宰相閣下はお気付きのようでしたが......」


「あんなに分かり易ければ、誰でも気付くと思いますが。ああ、約一名は気付いていなかったようですね」




「アマンダ嬢は気付いていたのでしょう?」と宰相閣下が問いかけると、アマンダ嬢は小さくコクリと頷いた。




「何時からかクラウド様に向ける冷たい視線の中に甘い視線が交じるようになって来ていたのは分かっていたの。だから、気付いていないなら気付かない内にって思って......」




未だに殿下だけが事態を飲み込めていないらしく、オロオロとしている。

それでも時期国王か。

その情けなさにみていられなくなった私は殿下に近寄り、言った。




「私は恋愛的な意味で、クラウド様のことが好きですよ」




私の言葉を聞いたクラウド様は、そのまま涙を流して気絶し、倒れてしまった。

此処まで読んで下さり、本当に有難う御座います。

これからも頑張って投稿して行きますので、宜しくお願い致します。

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