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仕事が見つからなければ食事にありつけないのは元より、これからの旅に支障が出てしまう。紹介できないと言われたが、明日からの生活を考え、エクレールはカリダに食い下がった。
「職歴は短いですけど、私、体力と剣には自信があります! 難しい案件でもいいから紹介してもらえないですか?」
必死なエクレールの様子に、カリダは綴じ本へと再び目を落とした。少女には無理だろうと思いつつも、そこに書かれている案件を読み上げる。
「そうねえ……今リストに上がっているのは、賃金は高いけれど、危険が伴うものばかりだから。“ロア山の魔物討伐”、“逃亡した賞金首の捕縛”、それから、“ルーモへ向かう商隊の護衛”――どれも、特級のランク付けがされている依頼よ。貴女はずいぶん旅慣れしているみたいだけど……さすがに、無理でしょう?」
「なんだ、それなら全部やったことあります。むしろ、その類の荒事は、得意分野」
路銀を稼げないかと狼狽していたエクレールは、聞いた内容に安心したように笑う。
だが、カリダは反対に顔を曇らせた。
「得意といっても貴女は一人なのよね? 今回依頼されている魔物はかなり厄介な相手みたいだから、一人じゃ絶対に無理よ。今までに旅人だけでなく、退治に行った冒険者たちが何人も行方知れずになっていて、無事に帰って来られた人はいない。危険だからって魔物が現れるっていう隣町のウィアと繋がっている街道の一部を封鎖しているぐらいよ。さっさと討伐してもらいたいのだけれど、死んでしまう可能性が高い案件をそう簡単に任せられるわけではなくて……うちも、ある程度名が売れている人で、退治する実力に見合う人にしか、この仕事は斡旋していないの」
それでも誰も討伐できずに、命を落としてしまっているのだけど――そう眉を顰めてカリダは付け足す。その声音には、なぜか魔物に対する憤りや恐怖だけではなく、哀情が浮かんでいた。
エクレールはカリダの悲痛そうな様子に気付き、首を傾げる。
「その魔物は、カリダさんにとって、なにか……」
指摘した瞬間、強張ったカリダの表情に、エクレールは自身が失敗したことを悟る。
「……すみません、不躾でしたね」
触れてはいけない話題だったのだろう。初対面の人間に対して事情を訊くなど、失礼なことだったと反省する。
だが、カリダは仕方ないように小さく溜め息を吐くと、首を振った。
「――別に話しても構わないわ。実は、最初に魔物に襲われたのが、妹の婚約者なのよ。あの子の婚約者は、幼馴染だったから、よく三人で遊んだものだったわ……」
目を細め、寂しそうに微笑むカリダに、エクレールは余計に落ち込んだ。