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ようやく到着した町――モンターナは、大勢の人で賑わっていた。
元々、モンターナ自体は山に囲まれただけの、主な特産品といえるようなものもない、特徴のない町だった。ここまで発展したきっかけは、十五年ほど前に温泉が湧いたことだった。
それに目を付けた商人たちが移り住み、旅行者向けの店や宿屋を始めたことで、元々、近くに大きな街道が通っているこの町は、宿場町として発展した。
更には、一年中温暖な気候と温泉を求めて、貴族たちが過ごす保養地としても整備されていった。
今では、単なる宿場町でなく、近隣の村や町から買い付けた商品の流通の地であり、このモンターナで揃わない物はないと云われているほどだ。ウェール領内で一、二を争う規模の町と謳っても過言ではない。
そのため、この近くを旅している者は補給のため、モンターナへと寄るのが一般的になっている。
エクレールとイグニースも例外ではなく、宿屋を予約すると、早速、町へと繰り出した。
「イグ、まずは軽く腹ごしら……」
「その前に買出しと仕事探しを済ませるんだな。この間もそうやって後回しにした結果、装備を補修する費用がなくなったろう?」
「う……はい……」
エクレールはあからさまにがっかりした表情を浮かべたが、イグニースの言うように路銀が心許なくなることを避けるため、冒険者や旅人たちが集まる斡旋ギルドへと足を向けた。
斡旋ギルドとは、仕事の仲介組織であり、国内の大きな町には必ず支部が置かれている。ギルドに登録すれば、その町の住人でなくとも簡単に仕事を紹介してもらうことができる。斡旋所内の掲示板には、失せ物探しなどの簡単な依頼から、専門職を必要とする難易度の高い依頼まで、様々な職が貼り出されており、訪れた人間は、自分に合ったものを選び、ギルドに仲介を依頼する。短期間で路銀を稼ぐには、最適の場所だ。
ちなみに予め行く支部の地図は、親切な宿屋の女将に書いてもらっている。そのため、迷うことなくギルドへと辿り着くことができた。
「――次の人、どうぞ……」
扉を開くと、柔らかな女性の声がカウンターから聞こえてきた。その珍しい状況に、エクレールは掲示板に向かうはずだった視線を、瞬時に声の聞こえてきた方向へと向けた。
荒くれ者が集まる斡旋ギルドでは、事が起きた時に対処できるように、腕に覚えがある壮年の男性が受付をしている所がほとんどだ。
しかしながら、モンターナの斡旋所では、エクレールよりも年嵩ではあるが、ずいぶんと若い女性が受付のカウンターに立っていた。短めに切り揃えられた緩く波打つ榛色の髪と、きびきびとした所作が、活動的な性質を覗わせる。
エクレールは、しばらく惚けたように見蕩れていたが、今しがたカウンターに向かっていた男を押し退けると、素早く女性の目の前へと移動した。順番待ちをしていた男は少女へ文句を言おうとしていたようだったが、気の弱い男だったのだろう。エクレールが憤怒に満ちた眼差しを向けると、すごすごと引き下がった。