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前に寄った村はあまりに貧しく、また諸事情から逃げるように出てきたため、補給できたのは水だけだった。そのため、保存食は底を尽き、ここ二、三日は、木の実や草の葉で飢えを凌ぐ有様だった。
少女は、一応目的はあるものの、割とふらふらと大変気ままに旅をしている。そのため、旅人で賑わう町に立ち寄ることが出来ず、十分な補給をすることができないまま旅を続けることが多々ある。
更には、路銀が乏しいのも、しっかりと補給できない要因の一つだった。少女は、行く先々で仕事を見つけて十分な金額を稼げばまた旅に出る、という暮らしをしている。そのため、余程大金を手にすることが出来る仕事を見つけない限り、一度で大量に食料や装備品を購入することができない。
必然的に、今のように、旅程の途中で食料が尽きそうなことは珍しくもなかった。
本格的に涙を浮かべ始めた少女へと、再びかかる呆れた声。
「情けない限りだな。木の実とはいえ、補給できただけマシだろう。ついこの間渡った砂漠地帯など、水すら飲めなかったではないか」
「うう、けどさあ……何か味のついたものが、いや味がついてなくたっていい、ちゃんとした食べ物を満腹になるまで食べたいってこの気持ち、分からないかなあ……」
「理解しているとも。今朝採っていた木の実は、栄養価が高い。熱量も十分だ。よって、ちゃんとした食べ物をお前はしっかりと摂取できている。何も問題はないだろう」
「……ちっがーう!! 食べられることと、食べて美味しいことは別物なんだよ!」
拳を突き上げ、熱く力説する少女へ、正反対の冷静な声が掛かる。
「なるほど。そういった、人間の果て無き欲求を満たすために、意味の無い嗜好品が生まれたのだろう。とりあえず、拳を下ろせ……みっともないにも程がある。何より、また目立っているぞ」
その言葉に少女は、突き上げた拳を慌てて戻す。そして、恨みがましい顔をして溜息を吐いた。
「いいよね……イグはご飯いらないから、この辛さが分からなくて」
少女は自身の腰から剣を抜き取ると、抗議の意を込めて揺さぶるようにしてから、目線の高さへと持ち上げた。
鞘に入ったままの剣は、紅い宝石が嵌っている柄の他は特に特徴のない、至って普通の剣であった。
けれど、一度その本性を知ったものは二度と忘れることはないだろう。なぜならば――
「不完全な生命体と一緒にしないでもらおうか。私の本体は剣だからな――」
そう、ぶっきらぼうな口調の声は、少女の目の前の剣から発せられていたのだった。