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少女と焔  作者: 在川まこ
少女と相棒
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 魔術系統でいえば、イグニースの有する魔術のほとんどが補助魔術だが、それらは自身の身体能力を高める、精神系の魔術に相当する。元々、物理的に働きかける攻撃魔術が得意なエクレールにとって、それらは彼女の最も不得意な分野に該当した。

 発動した結果が目に見えない術は、自身の中で細部までイメージすることが大事であり、微細な調整を必要とする。そういった働きを理解するも、元来大雑把な性格の少女は、とことん精神系の術を覚えるのに向いていなかった。

 そのため、イグニースから術を教わる際に、エクレールはもう一度、魔法理論から根本的に勉強し直す羽目になり、匙を投げたくなったのは一度や二度ではない。

 結果として剣を使っての戦いにも、諜報にも役立つ術ばかりだったため、今では徹底的に叩き込んでくれたイグニースに感謝しているが。

「ええと、“魔物”、“山”、“冒険者”……辺りで情報を絞ればいいかな」

 再び目を閉じたエクレールは、聞こえてくる情報を限定した。“天の声を聞く”術は、単に聴力を高めるだけでなく、情報を選別することこそが本領だ。自身の聞きたい言葉を唱えることで、その言葉に関する情報を勝手に取捨選択することができる。

『知ってるか、魔物を討伐しに行った冒険者たちは、馬まで残さず食われたんだろ。いやー、恐ろしいなあ』

『身の丈が人間の倍以上あるって話だぜ。そんな魔物、本当に退治できるのかねえ』

『山向こうに行きたいが、魔物が退治されない限り、道は封鎖するそうじゃないか。困ったもんだよ』

 幾つもの情報が集まってくるが、今知っているものと大差ないものや、単なる噂話ばかりでエクレールは落胆する。

 どちらの術も一定時間の効果しかないため、そろそろ術をかけ直す必要があるな、とエクレールは集中状態を解こうとした。その瞬間、新たな会話が飛び込んでくる。

「――なんだって……」

 たった今聞こえてきた話に、エクレールは思わず声を漏らした。

 それは通常ならば、有り得ない事象。

 だが、更に術を解かずに集中すると、他の客たち数人も、同様の噂をしていることが分かった。

 いまいち信憑性が低いとしても、イグニースへと報告すべきだろうとエクレールは一度目を閉じてから、ゆっくりと開いた。それに伴い、発動していた魔術がゆっくりと沈静化する。

「イグ……もし聞こえてきた話が本当で、私の推測が正しかったら……この魔物退治は、かなりの大物の魔物が関わってるかもしれない……ううん……でも……」

「何を聞いた?詳しく話してみろ」

 面白そうに尋ねてくるイグニースに、エクレールは術によって聞くことができた情報を全て話す。最後に聞いた会話以外を。

「――……て、感じで、ここまでの話は、大してギルドで聞いてきたのと変わんない」

「そうだな……だが、かなり大物の魔物だと言っただろう。何か特定できる話を聞いたのか?」

「さっすが、イグ! 分かってる!!」

 我が意を得たりとばかりに、エクレールは笑みを深める。

 思わず声が高くなり、慌ててエクレールは身を縮めたが、幸いにも店内の注目を集めることはなかった。

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