13
エクレールの言葉に、イグニースが応える。
「誰にも今まで見つからなかったか、お前が知らない可能性もあるのではないか?」
「そりゃあ、私が全ての魔物の情報を網羅できてる自信はないけどさあ……でも、出発前にここらの知識はある程度叩き込んできたもん」
「ふん、では過去に目撃されている事例は絶対にないと?」
「うーん、それこそ、千年前の記録とかを見返したらあるかもしれないけど……でもさあ、前人未到の地域があった昔ならイザ知らず、ここまで開墾が進んだ土地で凶悪な魔物が生息している情報が最近になるまで全く出てこなかったのは、おかしいよね」
「そうだな……他には?」
更に眉間の皺を深く刻みつつ、エクレールは続ける。
「あと気になったのは、旅人はともかく、討伐隊がそんなに簡単に魔物にやられるかってことかなあ……」
「ざっと見た限りでは相応のメンバーだったしな」
「そうなんだよね、メンバーの経歴を確認したら、かなりの手練ばっかりだった。だからこそ、腑に落ちないよ……なんで歴戦の冒険者たちが、しかも五人以上のパーティーを組んでいるにも関わらずあっさり魔物にやられてしまったのか……それほどまでに強い魔物だったか、それとも別の要因があったのか――」
一旦、言葉を切ったエクレールは、喋り疲れたように果実酒を少し口に含んだ。そのまま、しばらくの間、黙り込む。
次に話すことを言い淀んでいるようだった。
「……それから、魔物の特性には直接関係ないかもしれないけど……冒険者の中でも何人かその場に倒れてた人が保護されてたじゃない? それが、魔術師だとか、剣士でも魔術使いだとか、魔力を持っているって経歴書に書いてある人ばかりだった……ただの偶然かもしれないけれど……なんか意図的な気もして、気持ち悪いんだよねえ――うん、ひとまず、こんな感じ」
少女は一人頷きつつ、卓上に残っていた果実酒の残りを一気に煽る。喉を通る爽快感とは裏腹に頭の中は疑問符でもやもやとしていた。
どうにも据わりの悪い推測に、自信が持てなかったエクレールは、恐る恐るイグニースに伺いを立てる。
「イグは他に気付いたことあった?」
「概ね、お前と同じだな」
「……うう、イグと一緒ってことは、この魔物退治、やっぱ一筋縄じゃいかないかあ」
エクレールは頭を抱えるようにしてテーブルへと突っ伏した。ちなみに数分で完食した料理の皿は、綺麗に下げられているから倒れこんでも安心なのは確認済みだ。
「まあ、あくまでお前と私の推論だけどな。裏付けるためにも、情報を集めるか。ギルドに入ってきた情報以外にも、市民の間で情報が廻っている可能性もあるだろう」
「うん……嫌な勘を覆してくれるような情報が集まることを期待するよ……じゃあ、さっさと始めますか。情報収集に必要な術はっと……」
エクレールは溜め息を吐くと、そのまま、真剣な表情を一瞬浮かべ、目を閉じた。腰に刷いたイグニースへと手をやり、しっかりと握り締めながら。