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少女と焔  作者: 在川まこ
少女と相棒
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11

 斡旋ギルドで必要以上に時間を浪費してしまったため、全ての用事を済ませ、宿へと辿り着いた時には、すっかり日が暮れていた。

 部屋に荷物を置いたエクレールは旅装を解き、外へと出る。二人――正確には、一人と一振りの剣――が泊まることにした宿は格安だが、料理屋が併設されていないため、外へと夕飯を食べに行く必要があった。買出し中に、評判を聞いた酒場へと真直ぐに向かう。

 宿から五分程歩いて着いた酒場は、ちょうど夕飯時ということもあって、旅行客や近所の住人で、だいぶ混雑していた。一日の疲れを癒そうと、酒を片手に談笑する人々を尻目に、エクレールは一人テーブルへと着く。

 テーブルの位置は出口に近い、店内の隅っこだったが、少女は、ここでも噂され、周りから注目されていた。

「うーん、さすが料理が評判の酒場……種類も豊富で何を食べていいのか迷うなあ」

 ほう、と幸せそうに溜め息を吐いたエクレールは、騎士見習いの少年のような格好をしていた。腰には、イグニースを帯刀したままであり、相変わらず年齢と性別には見合わない格好をしている。

 目立つ黄金色の髪の毛は、先程のイグニースの忠告を受け、紐で一括りにしてまとめ上げ、適当に布を巻いて隠していた。だが、それでも美しい顔と華奢な肢体、なにより存在感は隠しきれるものではなく。街道を歩いていた時と違い、周囲の気配を感じ取っていた少女は、注視されることに溜め息を吐く。それ以上は注目を浴びないよう、イグニースに話しかけもせず、大人しくしていた。

 だが、それも、料理が運ばれてくるまでの十数分だけのことであった。

 目の前のテーブルに所狭しと並べられた料理から、温かな湯気が立ち上り、エクレールは歓喜の表情を浮かべて震えた。

 香草を詰め込み直火でこんがりと焼き上げた兎肉、豆類と腸詰肉に胡椒を効かせたあっさりとした味付けの汁物、炒めた豚挽き肉と玉葱を詰め込んだパイ、燻製や塩漬けした川魚、新鮮な果物をふんだんに使ったタルト、その他ありとあらゆる、この地方の名物料理が、ざっと十人前。店員たちが、厨房とテーブルを何回も往復して運んできた。

 先程から様子を窺っていた周囲の人間は、美貌の少女が一人座っているテーブルと、運ばれてくる料理を交互に見やり、己の目を疑っていた。普通ならば余程の大食漢でなければ完食できない量だが、少女はあれを一人で食べるのだろうか。後から連れがくる気配もないのだ。

 目の前の料理に夢中な少女は、そんな店内の驚愕をさっぱりと無視していたが。

「いっただーきまーす!!」

 エクレールは満面の笑みを浮かべ、温かい食事へと手をつけた。一口目をゆっくりと噛み締めた後は、まるで獣のような速さで食事を平らげていく。

 その食事量に反し、見た目はいっそ綺麗と云えるぐらいの所作であったが、ひっきりなしに料理を口元へ運ぶ手の動きと、咀嚼する速度が、異常に速いため余計に人の目を引いた。店内に軽い混乱を与えつつ、テーブルの上に載っていた食事は、瞬く間にエクレールの胃へと消えていく。

 数分後、運ばれてきた時よりも短時間で一粒残さず食べきったエクレールは、満足そうな表情で椅子に座っていた。店内の者たちは、エクレールの食べっぷりに度肝を抜かれていたようだが、それぞれの料理や話に夢中になっているのだろう。先程までよりも注目している目線は減っていた。

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