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「うーん、どう言ったら、これでも腕が立つって信用してもらえるのかなあ……イグを見せるわけには……いやダメか……あ、そうだ、これ見てもらえばいいかな」
エクレールはカリダに聞こえないよう、ぶつぶつと呟きながら、自身の荷物を漁る。
肩から掛けていた鞄の底から取り出したのは、小さな手帳だった。
「はい、カリダさん、これで一応私の腕を分かってもらえると思います」
「これって――……?」
少女の手から受け取った手帳には、表に斡旋ギルドの象徴である箒の紋章旗が描かれている。それは、ギルドから紹介された依頼の内容を書き込むものだった。
手渡された手帳を最初はパラパラと捲っていたカリダだったが、読み進めていくうちに、頁を捲る速度が遅くなる。記載されていた内容を全て読み終えた彼女は、半信半疑といった表情で手帳の照合をした。
斡旋ギルドを介さずに、個人で仕事を契約しようとする冒険者は、まれに偽造した手帳を依頼主へ見せたりする。精巧に作られた偽物や、本物の手帳に自身で虚偽の内容を書き込んだものならば、大抵の依頼主は騙されてしまう。
だが、斡旋ギルドでは、そのような偽物は簡単に見破ることができる。なぜなら、本物の手帳の場合、ギルドでしか精製できない特殊な紙とインクで依頼内容と達成状況を書き込んでいるからだ。
そのため、でたらめな内容を市販のインクを使って書き込んだならば、斡旋所の受付で偽りの経歴であることが露見してしまうのだ。
エクレールが差し出した手帳は、本体も本物であり、きちんとギルド特有の紙とインクが全頁に使われていることをカリダは確認して、驚愕した。
書かれている情報の全てが紛れもない本物であることが分かっていても、にわかには信じられず、再度手帳を開き、頁を往復してしまう。
最後まで読み終えると、その内容の凄まじさにカリダの手は震え、手帳がカウンターへと滑り落ちていった。
エクレールが遂行した依頼は、かるく百件を超えていた。数だけでもありえないものだったが、その内容はおよそ十代の少女が一人で達成できるものではなかった。
「牢から脱獄した凶悪犯や有名な賞金首の捕縛に、山賊に襲われた商隊の護衛、攫われた少女の救出と盗賊団の壊滅、大型の魔物討伐……こんなに……まさか……ありえない……」
思わず呟いたカリダは、目の前の少女をまじまじと見つめた。自分よりも華奢な美しい少女がやり遂げた事実が信じられず、落とした手帳を手に取り、何度もエクレールの顔と見比べる。
並んでいた仕事は、全てが特級。歴戦の冒険者でも達成が難しいものばかり。特筆すべきは、その依頼のどれもが、驚くべき短期間で完遂されており、しかも死人を出すことなく、完璧な状態で成し遂げられたこと。
「これで、私の腕を信じてもらえましたか?」
エクレールは自身を指さしながら、カウンターのカリダへとにっこりと笑った。