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「ごめんなさい……カリダさんのお友達が亡くなっていたなんて……」
「こちらこそ、個人的な話をしてごめんなさい。でも、私はまだあの人が生きてるんじゃないかって思ってるの」
「……どうして?」
「遺体が見つかっていないから。それに、彼があの子を置いて先に逝ってしまうわけがないって……この目で彼の姿を確認するまでは、信じないってよく二人で話してるわ。もしかしたら魔物から逃げて、どこか道に迷ってしまったんじゃないかって、ただ帰るのが遅くなっているだけなんじゃないかって――」
とうとう涙を浮かべてしまったカリダに、エクレールは狼狽えたが、鞄から手巾を取り出し、カリダへと差し出した。
動揺しながらも、無意識に一連の動作を行うのは、さすが女好きなだけあるとイグニースは密かに感心する。
「ありがとう」
小さく礼を呟いて、カリダは手巾で零れる寸前だった涙をふき取った。
「悲しいことを思い出させて申し訳ごめんなさい……けど、ちょっと気になったことがあるんです……訊いてもいいですか?」
「いいわよ、仕事ですもの。泣いてた人間が言っても、説得力ないかもしれないけど」
目を赤くしながらも冗談を口にするカリダに、少女はほっとする。
「あの、遺体が見つかっていないってどういうことですか?」
エクレールの言葉に、カリダは少し考え込む表情になった。頬にほっそりとした指を添えて、口を開く。
「荷物は全て残されていたのだけど、どこにも彼の体が見つからなかったの。血痕はあったのだけど、他には何も残っていなかったのよ。まあ、彼だけでなくて、討伐に向かった他の人たちも同様に遺体が見つかっていないわ……ただ、遺体を残さないほど魔物が食べ尽したんじゃないかって言う人もいるけれどね」
「遺体が見つかっていない……おかしいな……人が主食の魔物はこの地方にいるはずがない……」
エクレールは首を傾げ、腕を組んだ。しばらく何かを考えるように虚空を睨んでいたが、一人頷くと、カリダへと視線を戻す。
「そんなに死者が出ているなら放っておけません……この仕事、お願いですから、私に任せてくれませんか?」
エクレールの申し出に、カリダは気が咎めたようだった。慌てて顔の前で手を振り、少女を説得しようと試みてくる。
「……その気持ちは嬉しいけれど……ねえ、エクレール、失礼なことを言ってしまうけど許してね。さっき説明したと思うけど、うちのギルドではこの依頼に関しては、誰にでも紹介できるわけじゃないのよ。最低限、五人以上のパーティーを組んでもらうようにしているし……それに見かけで判断してはいけないと思うけど、貴女は私よりも小さな女の子で、実力があるようにはとてもじゃないけど見えないから……ごめんなさいね」
歯切れ悪くも、きっぱりと固辞したカリダにエクレールは頭を掻く。
この見た目は、幼馴染が美しいと褒めてくれる以外は、いつだって不利益しか生まないなあ、と嘆息しながら。