第六話:炎の魔力
翌日、日の出とともに俺とシーナは村の入り口へと向かった。入り口にはもう既に村長であるジニンさんと馬に乗った青年、あとなぜかガンツさんが俺たちを待っていた。
「おう、アッシュ。待ってたぜ。」
「ガンツさん?どうしたんです?」
「いやな、陽動行くのに手ぶらで行かせるわけにはいかないと思ってな。昨日のうちに村を回って今使ってない装備をいろいろ借りてきた。」
ガンツさんの足元には剣、槍、斧の武器が数本ずつと防具が数種類並べてある。
「こん中から好きなもの借りていっていいってよ。なあジニンじいさん?」
「うむ。我々ができるのはこんなことぐらいだ・・・さあ好きな装備を使ってくれ。」
「ありがとうございます。・・・じゃあ遠慮なく使わせてもらいます。」
確かに装備があった方が便利だが持っていきすぎるとスピードがなくなるからなぁ。ここは軽装で最低限がベストと判断し、そこから装備を見せてもらい考えた結果、皮の胸当てと皮の籠手、それに片手剣を2本借りていくことにした。防具に関してはこれが動きやすく最低限大事な場所をガードしてくると判断したため。武器に関しては槍や長剣では森の中では振り回しにくく斧では逆にリーチが短すぎるので消去法で片手剣にした。この鉄でできた片手剣はシュバルベ王国の人々がよく使うスタンダードな剣らしくガンツさんが用意した武器でも一番多くそろえていたものだ。両刃で少し分厚く作られた剣は相手を切断するというよりは叩き潰すことに特化しているような作りで確かにこれなら技量がなくても力任せに相手を潰すことができる。しかしそういった作りの剣は刃こぼれや破損が多い。ので予備としてもう一振り持っていくことにした。ちなみに今選んだ装備はシーナが森で襲われていた時と同じ装備内容だ。そのシーナはといえばその装備の上からリアさんお手製の真っ赤なローブを羽織っている。
「あの・・・シーナ・・・。」
「はいなんです?」
「そのローブ・・・目立ちすぎない?」
「はい!陽動なので派手目の物を作ってもらいました!目立ってこっちに気を引きます!」
「・・・・。」
気合十分なのはいいけど・・・囮じゃなくて陽動なんだよ?大丈夫かなこの娘?
まあ気にしてもしょうがない。とりあえずジニンさんとガンツさんにお礼を言い、これからの流れをザラッと説明した。まず自分とシーナが先に早馬が通る道を進み魔物がいないかを確認、いた場合はそこでは倒さずに逃走。なるべく村や早馬から引き離す。引き離した後は森の中央に向け移動、魔物の総数を調査し依頼書に書いてある数より多ければその数だけ討伐してから村に戻るという流れだ。早馬は俺たちが出て1時間後に出発してもらうことにした。シーナが同行することを今日初めて聞いたガンツさんは止めようとしたがシーナに一睨みされるとそそくさとジニンさんの後ろに隠れてしまった。小さな声で孫が反抗期だとぼやいているあたり相当な孫好きで孫には甘々なおじいちゃんなんだなガンツさん・・・。
「それじゃあガンツさん、村長。いってきます。」
「気を付けるんだよ。」
「アッシュ!シーナが怪我させるなよ!!怪我して帰ってきたら承知しないからな!」
「おじいちゃん!!」
「うひい!?・・・ジニンじいさん、孫がにらんでくる・・・。」
「まあまあ・・・シーナも気を付けていってくるんだよ?」
「はい。」
「よしシーナいこう。」
この森、【クイの森】はとても広大だが迷うことが少ないらしい。その理由はいくつかあるらしいのだが一番の理由は人間が村々を繋ぐため開拓し、馬車が通れるほどの一本道を作ったからだ。その道の部分だけは森の木々達に視界ふさがれることも足元の根に移動を邪魔されることなく進むことができる。しかし逆に言えば視界がよすぎて狙われやすい場所でもある。現にガンツさんとシーナはこの道を進んでいる途中ゴブリン達に襲撃されている。左右は森なので襲う側は隠れやすく襲われる側は隠れいたものを発見することは困難な道だ。普段なら動物がたまに出てくるだけなので平和な道なのだが今は魔物がいるため絶好の狩場となってしまっているのだ。そこを今俺とシーナは歩いている。シーナは緊張と警戒からかどこかぎこちなく、あたりを見回しながら歩いている。
「シーナ。もうちょっと肩の力抜いた方がいいよ?じゃないといざって時動けないからさ。」
「はい・・・でも・・・。」
「大丈夫。今俺の眼で周りを見てるからリラックスしてていいよ。いたら教えるから。」
「逆にアッシュさん落ち着きすぎじゃないですか?」
「そう?ん~こういうのは慣れだからね。・・・あ、ほら俺旅してるだろ?その途中いろいろあったからさぁ。」
「慣れ・・・ですか。」
「まあシーナも冒険者やってくならそのうち慣れてくるよ。」
「そういうものなんですか?」
「うんそういうものなの。」
彼女に足りないものはいろいろあれど一番は場慣れしてないことだな。こればっかりは経験を積まなきゃどうしようもないが・・・この陽動でちょっとは慣れてもらえるように少し手を考えるかな。
30分ほど歩くと《神の眼》に反応があった。200m先、右の木々の間にゴブリンが五匹。息を殺し潜んでいるところを見るとこいつらの目的は偵察ではなく襲撃だな。それに魔力の感じから暴走状態らしいな。
「シーナストップ。」
「!?・・・い、いましたか?」
「あぁ・・・まだこっちには気が付いていない。」
「どうしましょう・・・。」
「ん~よしあいつらに群れまで連れていってもらおう。」
「え!?でもどうやって・・・?」
「大丈夫。君のギフト《炎の魔力》を使えば何とかなるよ。」
「でも魔力なんて使ったこと・・・。」
「それも問題ないよ。今から教えるから・・・要はイメージすることが大事なんだ。」
「イメージ?」
「そう。この世界の人間は大なり小なり魔力が体を循環している。血管を通る血液みたいにね・・・そうだな今回はそれを右手に集中させてみよう。」
「循環?・・・血管??」
ああそうか。この世界は魔法や魔法薬が支流で医学はあまり発展してないんだったな。血管が何かわかればイメージしやすいんだけどな。仕方がない実際感じてっもらった方が早いか。
「シーナ。ちょっと手だしてみて?」
「手・・・ですから?」
「いいからいいから」
よくわかってないシーナの左手を右手で掴みシーナの左側へと移動する。さあできるも八卦できないも八卦だな。俺は右手に魔力を集中させシーナの左手を通して彼女の体に魔力を流し始めた。最初シーナは体をびくっと震わせ困惑していたようだがしばらくするとおとなしくなり顔を惚けさせている。
「暖かい・・・これが・・・ですか?」
「そうこれが魔力を循環させるってことだよ。今は《リンクス》っていう魔法で君の魔力を循環させて君がわかりやすいようにしているんだ。・・・あ、これたぶん君の国の魔法学とは全然教え方が違うからもし今後魔法覚えるならちゃんとした人に教えてもらってね?」
「はい・・・それでこれからどうしたら・・・?」
「この循環している魔力を右手に集めてごらん?」
「こう・・・ですか?」
シーナは右手を前に突き出し目を閉じる。すると彼女の右手から淡い赤色の光が漏れだした。
「そう、呑み込みが早くて助かる。じゃあそれを右手の前で球体にするイメージをしてごらん?」
「・・・はい。」
「その球体の中には炎が詰まっているんだ・・・熱くて唸ってて・・・触っただけでやけどしそうな炎・・・それを君の球体が抑え込んでいるんだ。」
「球体・・・炎・・・抑える。」
シーナの右手の魔力は赤い半透明な球体へと姿を変え、そしてその中には燃え盛る炎が現れる。この娘・・・呑み込みが早すぎる・・・才能の塊かもしれない。
「よし・・・その球体をあそこの大きな木に向けて放つイメージを・・・当たれば球体が破裂して炎が噴き出すイメージを忘れずにね。」
「炎が噴き出す・・・木に向けて・・・放つ!!」
シーナが目を開け木を目視した直後に球体は木に向かって飛んで行った。球体は200m先の木に直撃し炎を噴き出させた。炎は一瞬で木全体へと燃え広がりその根元に隠れていたゴブリンたちを襲う。悲鳴にも似た声がが聞こえたあとすぐに火だるまになったゴブリン3匹が道に飛び出てきた。火だるまになったゴブリンたちは転がりまわり火を消そうとしている。残りの2匹のゴブリン達もすぐに道に出てきて火のついたゴブリンたちを消化しようと砂をかけ始める。
「成功だ!行くぞシーナ!!」
「は、はい!」
ここからはスピード勝負だ。俺はシーナの手を放し腰の剣を引き抜き走り出した。狙いを火だるまのゴブリン1匹に定め加速。間合いに入ったと同時に剣を横薙ぎに振るいそのゴブリンの首を切り飛ばす。一瞬のことに混乱するゴブリン達を横目に俺は残り2匹の火だるまゴブリンの首も刈り取る。残されたのは呆然とこちらを見ている無傷のゴブリン2匹だけとなった。
「さあ逃げないとお前らもこうなるぞ!!」
俺は剣をゴブリンへと向け溢れんばかりの殺気を放ってみせる。ゴブリンたちは眼が赤から濁った白に変わり正気を取り戻したか混乱したのかわわからないが一斉に逃げ出していった。
「よし後は追いつかない程度に追いかけて群れの場所まで案内させる。シーナ!俺から離れるなよ!」
「はい!」