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灰色の守護神~神は灰の中から蘇る~  作者: 八神 紫雲
第一章:敗北からの復活
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第三話:アッシュ・グレイビアード

今回はカイトデウスことアッシュ視点での話です。なかなか難しい。

 オークとゴブリンの魔石を拾い終わりようやく戦闘終了となった。レベルが上がるたびにこの音楽を聞かなきゃならないと思うと非常に憂鬱な気分になるなと思いながら周りを見渡す。そういえばさっきの娘達はどうしているだろう?目を凝らしてみると馬車の陰から老人の物であろう靴が見えた。あそこに隠れてるみたいだ。近づいていくと女性の声が聞こえてきた。


「おじいちゃん!しっかりして!おじいちゃん!」


 彼女は涙を流しながら老人の頭を布で押さえている。布からは血が滲みまだ止血できていないのがわかった。老人の顔は真っ青で今にも死んでしまいそうだ。しかしわかったからといって俺にはどうすることもできない。治療する道具も持っていないし薬もない。回復魔法もギフトの《光の魔力》が必要だ。今俺にあるのは《灰色の魔力》・・・・ん?こいつは対象を灰にする能力なんだよな・・・・ってことは・・・。俺は右手で持っていた刃こぼれ満載の剣で自分の左手の甲軽く切る。傷口からうっすら血がにじむのを確認すると剣を地面に突き刺し右手を左手の甲に向ける。


「対象を傷にして・・・・傷を・・・灰に還す・・・」


 頭の中でイメージを固め魔力を流す。すると右手が淡く灰色に光り、左手の傷が灰に変わっていく。灰は風に吹かれサラッと左手の甲から飛び、灰がなくなった左手の甲は傷がつく前の状態に戻っていた。


「よしいけるな。」


 この《灰色の魔力》・・・対象を決めてやるといろいろ応用が利くみたいだ。確認しながらも老人の前に座り女性に視線を向ける。彼女はこちらにようやく気が付いたのか涙でくちゃくちゃになった顔でこちらを見る。


「あ、あなたはさっきの・・・?」


「ちょっと手をどけてくれないかい?」


「え?で、でも・・・。」


「いいから・・・・今は信じて。」


 彼女は俺の言葉に戸惑いながらも老人から手を離す。それを確認して俺はすぐにさっきやったように老人に向け右手を突き出し《灰色の魔力》を老人に使う。傷口は灰に変わり先ほどまで真っ青だった老人の顔が若干だが血色がよくなったような顔になっていく。


「!!?・・・・お、おじいちゃん!?」


「流れた血は直ってないからまだ揺らさない方がいいよ?」


傷が治った老人を揺らそうとした彼女を制止させ、今度は彼女の左肩に向け《灰色の魔力》を使い彼女の傷を灰に変える。


「え・・・痛くない?あれ?傷が治ってる・・・回復魔法?」


「ん~まあ厳密に言うと違うんだけど・・・そういうことにししといて。」


 自分の傷がなくなったことにあっけにとられている彼女をなだめつつ、自分のズボンのポケットを漁る。今の彼女涙で顔が酷いことになってるしなにか・・・・お?ハンカチあった。なぜかポケットに入っていたハンカチを彼女に渡す。


「とりあえず涙拭いて?」


「はい・・・すいません」


ハンカチを受け取ると彼女はおもむろにそれを広げごしごしと顔を拭いた。・・・・以外と豪快な娘だ(汗

)。顔を拭き少し落ち着いたのだろう彼女を見る。葵色の瞳に金髪のショート・・・でも後ろ髪の一部だけは背中まで延びている。今は土埃などついて汚くなっているがもとはすごくきれいな髪なのだろうと思った。顔だちもかわいいというより綺麗って感じだ・・・・ん?耳が長い・・・えっと確かきれいなとんがりをした耳はエルフの特徴だったかな。ということは彼女はエルフか?でも老人の方は普通の耳だし口と顎の髭ははすごいがドワーフというわけでもなさそうだ。


「落ち着いた?」


「はい。あの・・・ありがとうございました。」


「たまたまだから気にしないでいいよ。」


 彼女が深々と頭を下げられたがこちらとしては成り行きの偶然だ。むしろそんな深々と頭を下げられたら扱いに困る。


「それでも祖父の傷を治してもらったのは事実ですし・・・何より魔物も退治たのもあなたです。だから・・・。」


「ああわかった、わかったから顔上げて。本当に偶然だったんだからさ。それよりもどうしてこんなところに?」


「は、はあ。」


 俺の言葉でようやく顔を上げた。


「私はシーナ。冒険者をしています。そこに寝ているのは祖父のガンツといいます。祖父は運び屋をしていて、この先の村に届け物の依頼を受け、私はその護衛の依頼を受けたのですが・・・途中でゴブリンたちに襲われて・・・・。」


「多勢に無勢でその老人が怪我をしてしまったってわけか。」


「いえ、先に怪我をしたのは私なんです・・・。祖父はそんな私を庇って・・・。」


 彼女の表情を暗くし顔を俯むかせる。この表情を俺は知っている。大切な者を守れなかった時の後悔、自分の力がもっとあればと思う口惜しさ。どれも第1の世界が崩壊する瞬間に俺がしていた顔だ。それは無意識だったのだろう、いつの間に俺は右手を彼女の頭に乗せ軽く撫でていた。


「・・・え?」


「今こうして2人生きてるんだからさ。次は守れるようになればいいと思うよ?」


「あ・・・・はぅぅ」


 みるみる彼女の頬が赤くなっていくのに気が付き、慌てて手を離す。いきなり頭撫でるのはさすがにまずかったか?


「ご、ごめん・・・」


「・・・名前・・・」


「え?何?」


「ぜ、ぜひ、お名前を教えてください。」


 急にグイッと顔を上げるとシーナは顔を近づけてきた。両手はぎゅっと握り拳を作り胸の前にもってきておりすでにその手は俺の胸に当たるぐらいの距離まで近づいていた。つまり顔はキスできるぐらいの距離まで近づいているのだ。


「ち、近い!近いから!」


「あ・・・ごごごごめんなさい!!」


 シーナは顔を真っ赤にして慌てて俺から離れる。俺も自分でもわかるぐらい顔真っ赤だし・・・って何この状態?・・・・でも名前か・・・・カイトデウスなんて名乗った日にはさすがに知ってる人もいるかもしれないし何より『創造神』たちに気が付かれる可能性もあるしな。灰色の魔力・・・・灰・・・・・よしこれならいいかな。


「俺は・・・・アッシュ。アッシュ・グレイビアード。いろいろなところを旅しているんだ。」


 うん我ながら無難な受け答えができたかな。


「アッシュさん・・・・旅人って・・・・すごく軽装ですけど今まで大丈夫だったんですか?」


 あれ?疑われてる?・・・えっと今の格好は・・・白のYシャツと黒のズボンに白のスニーカー・・・えっと・・・・これ確か4の世界の学生服ってやつの夏バージョンだ・・・。


「ええっとね・・・・ああ実はここに来る前に装備一式盗まれちゃってさぁ」


「え?あんなに強いのにですか?」


 おうふ・・・また地雷踏んじゃった。どうしようどうしよう変な汗出てきた。


「ああそれはね・・・・えっと・・・そうここらへんで野宿してたんだけど起きたら装備一式どこにもなくてさ・・・・たぶん盗まれたんだと・・・思う。」


「そうだったんですね・・・そんな大変な時に助けてくれたんですね・・・改めてありがとうございます。」


「ははは・・・いいよきにしないで。」


 ふぃぃ何とかなった。シーナが素直で純粋そうな娘でよかった。

 



 シーナとワチャワチャしていると老人・・・ガンツさんが目を覚ましたようでシーナはすぐに駆け寄り大事がないか確認していた。そこから今まであったことをシーナから聞いたガンツさんからも頭を下げられたが気にしないでくれといっておいた。しかしそうはいかないと何かお礼をさせてくれと言ってきたのでとりあえず馬車に乗せてもらい村まで連れていってもらうことにした。今は移動する馬車の中には俺とシーナが揺られ、ガンツさんは外の従者の席で手綱を引いている状態だ。移動中暇だったので、自分は遠くから来たということにしてシーナにしれっと世界のことを混ぜつつこの国のことについて聞いている最中だ。シーナからいろいろ分かったことをまとめると・・・。


① どうやら自分が第1の世界崩壊に巻き込まれてから時空計算するとこの第2の世界は自分が知っているころから100年ほど経過しているということ。


② 100年ぐらい前からこの世界の魔物が活発に暴れだしたらしく世界の1/3が魔物の勢力下となってしまったこと。


③ その魔物の活性化の原因とされている【赤い海】がこの100年じわじわと広がっているということ。


④ この人族の大陸【ウォーティア】にも魔物の侵攻があり多くの国が滅び今では大国である【シュバルベ王国】、【ブレイド帝国】、【オーブ教皇国】、【ガサラギ王国】の4つの国のみとなっていること。


⑤ その4大国は今非常に剣幕な状態で、特に【ブレイド帝国】と【ガサラギ王国】はすでに戦争中らしいということ。


⑥ それでも【シュバルベ王国】の現国王は人族同士での争いをよしとせず今は中立の立場をとっているということ。


⑦ その現国王は謎の病にかかり今は寝たきりの生活をしており、政を娘である第一王女がサポートしているということ。


 ぐらいだな。


「なるほど・・・・なんか大変なことになってるんだなこの大陸。」


「はい・・・でも。」


 シーナは一瞬だけ暗い顔をするがすぐに笑顔で答える。


「でも?」


「はい。今のシュバルベには勇者様がいらっしゃいますので大丈夫です!」


 この世界でもいやがったか。俺は明るい顔で希望に満ちた顔をしているシーナとは逆に表情を曇らせる。

勇者・・・第1の世界にも現れた『創造神』の操り人形・・・。その強大な力で人々に希望を与えているフリをして裏では国同士で争わせ国単体で魔物達と戦わせる。なぜそんなことをするのかと第1の世界の守りし者を通して聞いてみたことがあるが、「誰が一番に魔物を滅ぼせるかゲームをしている」と答えた者がいた。すべての勇者がそういうものでないにしても俺の中では勇者はあまりいいものではない存在となってしまったわけだ。


「勇者・・・ねぇ。」


「どうかなさいましたか?」


「いや・・・何でもないよ。」


 考え込んでいる俺を心配したのかシーナが顔を覗き込んでくるがなんでもないと突っぱねまた考え込む。そんな俺を見たか見てないかは知らないが外のガンツさんが話しかけてきた。


「なんか兄ちゃん訳ありかい?」


「いえそういうわけではないのですが・・・。」


「まあ勇者っつても1人の人間だからな。1人で国や世界を守れるなんてワシも思っちゃおらん。が・・・今のシュバリエは王様がああなっちまって国民の心の支えが必要だった・・・。そんなときにあの娘が・・・勇者が別の世界からやってきたのは国側としては好都合だったんだろうな。」


「まて・・・勇者は別の世界から来たのか?」


「ああ神の信託とやらで教会あった魔法陣から現れたらしいぜ。」


 別の世界からの勇者召喚・・・・また同じ方法でゲームしてるってことか。あのクソ神2人が全く・・・。勇者召喚にはいろいろとメリットがある。まず召喚する際、勇者に自分(神)が好きなギフトを2つまで与えることができる。

 次に元の世界では発動していなかったギフトが別の世界では発動する場合がある。例えば第4の世界で《炎の魔力》のギフトを持っていても第4の世界は魔力という概念すらない世界なので意味のない捨てギフトとなってしまうが、第2の世界に来れば魔力の概念があるため《炎の魔力》が使えるといった感じだ。

 そして最後に魂の強さによって召喚された場合の魔力値が上昇することだ。この魂の説明がまたややこしいんだが人間という器を100とするとその中に入れる魂と魔力は合わせて100しかない。つまり魂50、魔力50など振り分けがされている。この振り分けは生まれたときから決まっている。もちろんその100の器を大きくすることはできるのだが魔力の数値上昇はかなりの努力と修練、そして素質が必要だ。逆に魂は人の人生経験によって成長するため上げるのは結構簡単だ。

 本題に戻るが第3、第4の世界では魔力という概念がないためそこで暮らす人々は器100に対して魂100の状態だ。魂は成長しやすいためその2つの世界の人々の器はおのずと早く大きくなる。それを召喚するとき神はその人の大きくなった器に魂と魔力の振り分け行えるのだ。つまり魂20の魔力80などで召喚すればその世界でいきなりトップクラスの魔力の持ち主として活動できるのだ。

 むろんデメリットもある。魂の振り分けが少ないものは精神的にもろくなりすぐ挫折したり大きすぎる魔力を制御できなかったりで悪の道に走りやすくなってしまう。しかしそのデメリットは神が与えるギフトで中和できるから勇者となった人間はそこを気にしなくていい分強いわけだ。

 なぜ3と4の世界に魔力の概念がなかったり召喚という制度があるのか・・・正直俺もよくは知らない。主神様がこの4つの世界を作り1つの時空とする際、そういう設定にした・・・としかいいよがない。召喚の制度はたぶんだが神の手に余る状況が発生したときのための保険なんだろうなぐらいの感覚で管理してたからなぁ。


「かわいそうに・・・」


「ん?なんか言ったか?」


「いやぁ・・・その口ぶりだとこの国の勇者は女の子なんだろ?急に来て国の支えになってくれってのはかわいそうだと思っただけさ。」


 あとあの『創造神』のおもちゃになってるということも・・・。


「まあ・・・そうだわなぁ」


 ガンツさんは大きくため息をしながら答える。どうも彼も勇者にすべてを背負わせることはよく思っていないようだ。


「あーまあワシなんかが考えてもしゃーない。今は仕事をさっさと終わらせて帰るだけだ。・・・・

お?見えてきたぞ【クイの村】だ。」


そんなこんなでガンツさん達の目的地【クイの村】に到着したのだった。

 


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